第44章

根津權現裏(第45話)

焚書刊行会

小説

1,851文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 それからわたしたちは、て、はつちようこうばんのところまで、もときたみちってかえすと、からひだりれ、じまちようからあかじさかをおろして、おおどおりへてきた。そして、からがきちようはいって、ごんげんけいだいけて、うらもんのところでわかれたのだ。
 みちみちわたしたちは、またはなしもとへかえして、まずしいたがいうえたんしあった。またはなしが、わたしたちせいよくもんだいんで、には、わたしためさきが、おかためにはふさかぞえられもした。おかとき、──ふさかぞえられると、かれちがうおんなおんなたいして、いたこころかれるもののように、をひからしていた。ことにそれが、よこちようのあるところへくると、一だんはげしさをくわえるもののようだった。そして、ごんげんせいもんそばへきたころだった。おかこんせいかついて、わたしそうだんちかけてきた。
「こんなことをってはなんだが……、ほんとうは、ぼくくちからこんなことはきみにはえたじゃないんだが……」とかれまえきをして、「ぼくはこれからしばらく、すいしたいとおもうのだ。で、きみも、きみとおり、宿しゆくりをしているのが便べんなら、ぼくいっしよすいをしないか。もっとも、ぼくとうぶんしゆうにゆうも一ていしないから、そうなったらきみめいわくをかけちになるだろうとはおもうが、しばらくのところをきみまんして、ぼくたすけてくんないか。」とうのだ。──
ぼくいままでに、くらきみこまっているのをていても、なにひとつして、きみだすけをしようともしなかったが。そして、こんぼくが、きみちからりようとうんだから、ほんとうまないが、──こんなことはほんとうなら、ぼくくちからわれたじゃないんだが、とうぶんのところひとめんどうみてくんないか。たのむよ。きみ……」ともうのだった。
 まったわたしとき、なんだかこうおかからめられているようなちのしないこともなかった。それと、わたしがそれをよろこばなかったひとつのゆうは、くまでぶんまずしいことと、くまでぶんのうなことだった。じつわたしは、わたしいっせいかつさえもしようしかねていたさきだったから、しよくしゆうにゆうかれと、すくなくとも、ときはそうったかれとともに、きようどうせいかつはじめるとうことは、わたしにはとてないそうだんだった。だからほんらいならわたしは、一およばずそうそうだんきよぜつするのだった。がしかし、わたしないそうだんだとうことをじゆくしながらも、ときかれきゆうじようおもうと、そうそっなくそれを一しゆうしさるちにはなれなかった。それに、かれがそうったそうだんちかけてきたとったからとて、なにもそれが、今日きようからはじまるとか、はじめなければならないとかうのではなかったから、わたしさいのことはあとかたることにしても、おそくはないとおもったので、では、
いとも、そうしようじゃないか。」とって、かいだくしてしまった。
まないが、そうしようじゃないか。たのむよ。」
 おかは、いくぶんあんしんしたような調ちようで、こううのだ。
 わたしどうで、いざとたんへくれば、きよぜつしてしまうつもりだったから、それじようふかはなしれることはちゆうちよさせられた。──わたしだまっていた。
 やがてうらもんると、
「じゃ、しつけいするよ。」とおかうのだ。
「どうだい。ぼくのところへらないか。」
 わたしはまたで、こころにもないことをってしまった。だがおかは、
「ありがとう。いや、ぼくしつけいするよ。」とうのだ。──「ぼくいったん宿やどかえって、それから、ごとつけにけなきゃならないから。」とうのだ。わたしもそれにどうして、
こんけっして、どんなことがあっても、みやのところへくことだけはすんだなあ。さびしくなったら、なんどきでもかまわないから、ぼくのところへやってきたまえ。そうじゃないか。ぼくわせるときみいまなによりもさきに、あらたにごとつけなきゃならないにんげんだ。だからきみは、さいみやしらたちのところへってるひまなんぞないはずだ。それをわすれちゃけないぜ。」と、かたくまたそれをりかえして、わたしわかれてきたのだ。
 ちょっとことわっておかなければならないのは、わたしたちわたし宿やどて、なかひとまわりして、ごんげんうらわかれたことは、とくおかあにかたひつようのないことだけに、わたしわざめてかたらなかったことだ。くせわたしは、のことを、──おかが三かいわたしのところへやってきたときのことをかたっていたときには、いっさいのことをかたらなかっただけにけいと、それがつよわたしあたまへのぼってきて、どんなにわたしくるしめたかれなかった。──わたしときったわたしたい、──わかぎわったわたしたいおもいみたときには、おそろしくなってきた。

2020年10月28日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第45話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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