第43章

根津權現裏(第44話)

焚書刊行会

小説

1,891文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 いや、それはすこちがっている。はそれから、わたしたちだれうとなく、うえこうえんでもひとまわりしてこようかとうのでもって、つれってそとたのだ。
 それからわたしたちは、だんさかしたまっぐに、なかさきちようからおなじくはつちようとおって、おなじくちやまちへきたときだった。おかはこれから、はいってみようといだしたから、かろうとうのでもって、わたしかれについて、あちこちとひとまわりしてきた。あいだわたしたちのしたことはとえば、それはせずして、わたしたちふたまずしいうえたんしあったことだった。
いまに、ひやくまとまったかねがあれば、ぼくなにも、こんなくるしいおもいをしなくってもいんだ。──けいにはいらない。ひやくえんもありゃたくさんだ。そうしたら、ゆっくりごとくちつけられるんだがなあ。」
 これはおかだ。
まったかねしいなあ。ぼくくらかるからないが、ゆっくりおちいて、あしりようるだけのかねしいや。それこそ、きみいぐさじゃないが、ぼくあしのことをかんがえると、きてるそらがないよ。」
 これはわたしだ。
まったくだ。」
 おかは、どうかんえられぬように、かんふかくこうったあとへ、
「とって、かねはいてはなしさ。とってるうちにも、もんだいこくこくせまってくるしさ。こうときなんだろう。にんげんどろぼうをするになるなあ。」とけくわえた。
「あるいはしからんだ。ぼくはそうおもうよ。──にんげんかねひつようせまられてきて、しかかねられないあいには、それはゆるしがたいことだとはりながらも、いませっとうはたらきさえすれば、くらかのかねにすることがて、ゆうなんかんりぬけることがるとなると、ぜんそうおこりうるものに相違ちがいないとおもうよ。つまり、それはおそろしいことだ。てはいけないことだとりながらも、いまいくらかのかねがあれば、ぶんいのちにもかかわろうとだいもんだいをも、みごとかいけつすることがるんだとうようなあいのぞむと、にんげんさいしゆだんとして、おうりようもとより、せっとうでもごうとうでも、やりかねないものだとおもうなあ。」とってくるうちに、ふとわたしあたまへ、みやのことがおもいだされてきた。そして、わたしはひとりでに、ぶんかおのほてってくるのが、はっきりかんじられた。
 ──わたしいまいままで、にんからたくされかんしていたかねを、みだりにしようしているらしいみやのことをいやしみ憎にくんでいた。それが、なるゆうもとしようされたのか、じんそれにいてのどうげんいんかんがえずに、ただいたずらにけっのみをて、それをなんひんせきしていた。それがへきてはずかしくなってきた。
 いやしくも、にんからかんたくされていたきんせんを、えてわたくしためしようして退けるとうのには、にはわたしたちだいしやそうぞうぜっした、しんせっぱくさがなければならない。はたしてかれにも、そうったじようがあったとすれば、それはいまわたしたちかたりあったけんからして、ふかとがむべきもんだいではない。すくなくともわたしにあってはまさにそうだ。げんざいわたしが、りにもみやこう憎にくむことがるとすれば、それはまだわたしに、かれほどしかかねひつようかんずるかいもなく、しくは、せっぱくさをもおぼえるあいがなかったからだ。だから、ただの一って、かれしゆうものおもい、はんたいぶんこうもののようにもうしんしているあわれさが、ひしひしとわたしめてきた。
 で、わたしのことを、ときおかかたろうかとおもった。がしかし、えぬなにものかにさまたげられて、それをくちにのぼすわけにはかなかった。かたなくわたしは、
「ああ、それにつけても、かねしさよだ。ぼくいまひろうと、それでもって今日きようはこれから、かでいっぱいむんだがなあ。」とついまたつかぬことをってしまった。
 るとは、まっぐにけばいん殿でんざかほうになり、みぎまわれば、おんがくがっこううらどおりになるところだった。わたしまわって、ずっとこうえんほうけようとすると、おかは、
「もう、からひきっかえそうよ。──こうえんまわったってつまらないや。」とって、ちどまってしまった。
「じゃ、かえろうか。」
 わたしはまた、ぐとかれていしたがって、もときたほうかかとかえしたが、これはおそらくは、わたしかねでもしゆうとくしたら、かでさけでもうことにしようとったことから、かれにわかしんおこしたものなのだろう。──いんしゆうことから、かれふさのことをおもいだしたに相違ちがいない。ふさのことをおもいだすと、ふさしよざいと、こうえんまわりをしてのとが、せずして、あいぞめばしじよううことになっているてんおもいたったところから、じようかいこうまんいちごとをおそれて、かくてきあんぜんみちってかえろうとうことにおもいついたのだろう。わたしには、どうやらそうおもわれてならなかった。

2020年10月27日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第44話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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