第41章

根津權現裏(第42話)

焚書刊行会

小説

2,421文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 で、しちの一けんみ、つぎわたしおかあいにしたみやじんぶつひようかたすると、れいっておかあには、
「ほいから、どうなったいね。」とうのだ。そして、「なんだらなやっちゃいね。みんなとくわるいがやがいね。そんならんことをしゃべってあるくから、しまいにゃそんなおもいをするようになるがやがいね。」ともって、ふかためいきもらしていた。がしかし、わたしはそれにはどうかんなかった。だからわたしは、
「いやぼくは、しゃべるのはまあいとします。ですが、それをそうったふうおおかんがえて、んで退けねばいわけがたないとうには、ぼくはんたいです。それくらいおそろしい、また、べらぼうはなしはありませんからね。」とうと、
「まあ、そうえばそんなもんやが、だいたいとくわるいわいね。そんなことをしゃべるなんてことは、──ほいから、どうなったいね。」と、なおかれは、のついたようになってさきうながすのだ。
「すると、よくじつです。またとくさんがやってきました。」とって、わたしかたりだした。──つぎも、かんぜんじつほとんどおなころで、もうかれこれしようだった。そして、くるとこれもぜんじつおなように、いきなりわたしとこなかもぐりこんできたものらしい。そして、とこなかで、おいおいとおとこきにいているのだから、わたしはまたおどろいてびおきたのだ。びおきるとつくえまえへきて、
「おい、どうしたんだよ。どうしてくんだよ。」とうと、おかは、
ぼくぬんだ。ぼくぬんだ。」とって、やはりもののいっぷんかんくらいいているのだ。わたしぜんじつけいけんからて、わたしだまって、かれくままにかせて、じっとそれをみていた。やがてかれは、こえして、しやくりあげてきたからわたしは、
いいげんにしろよ。そうきみのようにきたきゃ、にんのあるうちへでもいってくんだなあ。──きみはまだ、そんなくだらないことをかんがえていて、みやのところへもかないんだろう。」とうと、
ってきたんだ。ってきたんだ。」とかれうのだ。
「じゃ、それでもういじゃないか。なにくにはあたらないじゃないか。それにきみはどうしてぬとうんだい。」とうと、にかまたしくしくいていたが、やがて、
ぼく昨日きのうきみのところからかえると、ひとりでいろいろかんがえてみたんだ。──これからさきのこと。またいままでのことなどを。すると、ふかあななかへでもおっこったように、さびしくてさびしくてたまらなくなってくるんだ。わけても、みやのことが、になってになってたまらなくなってくるんだ。で、ぼくはとにかく、もう一あやまってようとおもって、それからぐに、みやのところへけてったんだ。……」とってきて、またしくしくくのだから、しさとったらないのだ。わたしは、くちへバットをくわえてだまっていた。やがてまたかれつづけるのだ。
「──ってみると、ちようみやかえっていたから、ぼくひくくして、あやまってみたんだ。だが、なんってあやまっても、かれいっこうゆるしてくれないんだ。しまいにはうるさいとって、さんざんぼくどくづくんだ。──『までいていたっておなことだ。きみきみかんがえがあってしたことなんだろうから、それでいじゃないか。もうかえってくれたまえ。』とって、しまいにはぼくを、いださんばかりなんだから、ぼくしいんだ。」とうのだ。いおわるとまた、しくしくきだした。わたしじつなさけなくなってきた。
「だからわないこっちゃないじゃないか。──昨日きのうぼくは、ぜっこうつうこくさえも、きみくちづからするのはせとったぐらいじゃないか。するときみは、それがいに、りたものをかえさなきゃならないとか、ざっちあわせがあるとうから、そいじゃかたがない。もう一ってきたまえとってると、きみはまたするにもここにいて、わざわざあやまりにくとうんだから、あきれかえって、ものがえないよ。──かんがえてみたまえ。なにわるいんだ。きみしかく、二も三しかえしてまで、あやまりにかなきゃならないほど、わるいことをしちゃいないじゃないか。きみわるいことをした、きみのしたことが、とくごくなことだとすればだ。それは一あやまりにけば、それでもうたくさんだ。ところできみは、昨日きのうもうあやまりにったんじゃないか。それをかれかないとうんじゃないか。そしたらもうすまでのはなしだ。のことは、昨日きのうぼくはあんなにくちっぱくしてまではなしたことじゃないか。きみは、ぜんぜんぼくどうかんしていて、そして、ぼくのところをると、もううらっくりかえしたように、ぶんからすすんでせんぽうけていって、あやまってくるんだから、ぼくきみにんげんわからなくなっちゃった。」
 わたしときこうってやったが、しかしなんだかまだしきりとりないちがした。ることならわたしは、もうすこしんらつなことをって、おもいきりかれとうしてやりたかった。おかはそれからもしばらしゃくりあげていたが、しまいに、
「じゃ、どうしたらいんだよ。ぼくは。」とうのだ。もうもんがただが、しかしそれがこうなにかものでもつけるような調ちようなのだから、わたしやけになって、
「どうもこうもないじゃないか……」とって、りつけてやった。
「だって、どうすればいんだ。それがぼくにはわからないんだ。」
 かれすこしおこつきながら、おなじことをりかえすのだ。だからわたしかれならって、おなじことをりかえしてやった。
「そんなれつなことにかまけているときじゃなかろうじゃないか。それよかきみは、一にちはやごとくちつけなきゃじゃないか。でなきゃ、こんはまた、しなきゃならなくなるじゃないか。」ともってやった。
 するとかれは、まるでそれがかくせいざいででもあったように、
「ああそうだ。じゃそうするよ。なるほどそうだ。までもこんなことにかまけているときじゃない……」とって、へいぜいかれかえってきた。それからまた、ぜんじつどうように、さかんにみやとうしていて、あっられているわたしだけをのこして、ぶんひとりすずしそうなかおをしてかえっていった。

2020年10月25日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本f

作品集『根津權現裏』第42話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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