第38章

根津權現裏(第39話)

焚書刊行会

小説

3,356文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

とくは、ほいでもやっぱり、ぬとうのかいね。」
 へまたおかあにが、こうってさきいそがしてきた。かれちようこんやくったおんなとのけっこんとうたれるように、ことのけつまつまでかないうちは、いっこくゆうしていることがないのだろう。それをおもうとわたしは、いやおうなしにあとつづけねばならなかった。
「ええそうなんです。ぼくくら、ひつようなどはありやしないってもいても、いっこうとくさんはかないんです。どうでもぶんつみは、んでしまわなきゃあがなえないんだとうんです。」とって、わたしはしずかにかたりだした。で、わたしたまらなくなったところから、おかむかって、
きみがそううならかたがない。じゃんで退けるんだなあ。」とうと、こんは、
きみうように、そうたやすくねるくらいなら、なにぼくは、きみのところへそうだんにやってこないんだ。きみはくじようだ。きみひとのことだとおもって、そんなぶんかっなことばかりうんだ。」とって、あいかわらずきつづけるのだ。わたしはそれをみみにすると、れいしようべつとをどうかんじた。そして、いままできんばくされているなわかれたようなあんさをおぼえた。で、わたしは、
「だからぼくは、はなからひつようはないとってるじゃないか。どんなつまらないにんげんいのちでも、いまきみったようなもんだいために、うっちやってしまうのは、もったいなさぎるとうもんだ。だのにきみは、どうでもんで退けなければ、いわけがたないとうからぼくはそいじゃんじまいたまえとうんじゃないか。──これはひとこんけんのみでなく、べてのぶつは、かたとりあつかかたかんっては、またぜんぜんべっしゆかいしやくのつくものだ。ぼくきみこんけんにして、ぜんぜんもんだいとするにりないもんだいだとうのにきかえて、きみはそれを、ってあがなわなければならないほどだいもんだいだとうんだから、それならもうあらそがない。きみきみかいしやくしたがって、とおじっこうしたらいじゃないかとったまでなんだ。」とうと、おかきじゃくりながら、
「それならどうすればいんだ。ぼくはどうするんだ。」とって、おそろしくしようそうきわめてくるのだ。
「どうするもこうするもないだろうじゃないか。うえだんぜんみやとのかんけいって、きみきみどくりよくきていくよりほかみちがないじゃないか。つまりきみは、いっさいみやほうごとことわって、これからはほかに、あらたごとつけて、きてくようにするんだなあ。」とわたしうと、おかはそれにはなんともこたえずだまっていたから、わたしは「そうじゃないか。くらかんがえても、これがいに、みちほうもないじゃないか。」とおうとおもって、「そうじゃないか。」とことの、「そうじゃ」までをってくると、かれはそれをきあげるようにして、
「そうだ。じゃそうしよう。」とってきた。かれへきてはじめて、なんもんかいけつかぎさぐりあげたようなふうだった。それからかれは、
「そうだ。べてつみみやにあるんだ。ぼくはそれをてきはつしてやったんだ。かれにはいくぶんどくだが、しかしそれもこれも、いまになっちゃもうかたがない。かれすでゆるすべからざるはんざいしやなんだから、ぼくたちためにはばっしなきゃならない。ぼくはただ、とうぜんかれけなきゃならないしよばつほうほうさずけてやったまでなんだ。だれぬもんかだれころされたってぬもんか。みやぼくちを憎にくんで、ってかかってくるようなことがあれば、ときぼくも、ようしやなくかれざんさつして、あくたいするぜんしようしめしてやる。」とって、こんはそれまでとはまるでべつじんのようになってきた。──いままでごうきゆうしていたのは、だれだとったような調ちようになってきた。それをきすると、それはわたしぼうしていたことではあるが、しかし、わたしはいささかあっられてしまった。とうものは、あまりにへんきゆうげきだったからだ。だからわたしとき
「おい、いいげんにしろい。まるでかんわるいぬみたいに、ものかげおどかされてよ。さんざんえときやがって、よるけてから、『なんだやなぎかげか。』もないもんじゃないか。」とうと、流石さすがおかきまりわるげにしようしていた。それから、
「そりゃそうと、もうこうときまったら、うえみやのところへくのは、こんりんらくすんだなあ。ことわりをうなら、それはがみたくさんだ。またっていては、いやなことのありったけかされて、かいおもいをしなきゃならないおそれがあるから、そうしたまえな。」とうとおかは、
「いや、ぼくももううのはいやだけれど、どうでももう一わなきゃいけないんだよ。」
 とばかり、わたしたてこときはなしてきた。
「どうしてわなきゃいけないんだ。」とわたしがそれをっかえすと、
「だって、彼奴きゃつからはりてるものもあるしさ。それにざっのことにいても、って、くわしくはなさなきゃわからないことがあるんだ。だからもう一だけって、きっぱりことわりもうつもりだ。」とこううのだ。なるほどいてみれば、それはもないことだったから、
「じゃそうしたまえ。そして、ったらもうけいなあやまりなんぞわずにきっぱりとことわりだけうんだなあ。」とうと、
「ああ、そうするよ。もううえ、──こっこうだんぜつしちゃってから、いまさらしやざいなんぞするひつようはないからなあ。」とって、ますます、えんあたるべからざるものになってきた。それからわたしは、
「そして、みやぜっこうすることになれば、それにみっせつかんけいのあるしらほうかんけいすんだなあ。るべくならそうするんだなあ。」とうと、
「そりゃわかってるよ。しらのところへは、ぼくはこれからってくるつもりだ。」とうのだ。そして、かれはいきなりぶんていたおりいで、
まないがきみぼくひとたのまれてくんないか。──これをひとれて、すこしでいから、ぼくさけってきてくんないか。」といだした。わたしはいろいろとそれにはんたいしたが、かれはなかなかかないのだ。──
「だって、きみいまこれから、しらのところへくんだってうじゃないか。ひとのところへくのに、さけなんぞんでくやつがあるもんか。だいれいにおいてくるとうもんだ。」とって、わたしはんたいしたのだが、かれかれで、
だいじようだよ。だってぼくは、あたまがむしゃくしゃしてたまらないんだ。ぼくはこんなときさけでもまなきゃ、ちがいにでもなりそうながするんだ。」とって、うるさくせつくのだ。それからかたなくなって、わたしはそれをきんじよしちっていった。そして、かえりにさけを五ごうだけってきた。するとかれは、ひやのままで、にあった。ちやわんそそいでっかけていたが、やがて、
「じゃ、ぼくはちょいとけてくるよ。」とって、ていったかとおもっていると、もなくがらがらと、こんくるまでもってかえってきた。
 わたしとき、ようやくとこかたして、かおあらってきて、たてるにしたがって、すこしずつではあるが、だんだんいたんでくるぶんあしのことをおもいみていた。へひよっこりおかはいってきたから、
「どうしたんだい。もうってきたのかい。とうと、
「ああ、ったんだが、だった。」とって、すわるがはやいか、またみのこりのさけちやわんそそいで、それをみながらそれそろえんをあげだした。──
ぼくかえりみて、ぎようてんじない。はんたいのめをるにつけても、やすこころのないものはみやだ。」とか、「ぼくはただたんに、てんかわってかれざいあくてきはつしてやったにぎないんだ。になんのつみがある。それを憎にくものは、ただあわれむべきざいにんかあるのみだ。」ともって、ひとりでもちになっていた。また、
彼奴きゃつが『しんざっ』の二がつごうと、六がつごうとにけいさいして、こうひようはくしたげん稿こうなるものは、ふたつがふたつとも、ぼくやくしてやったんじゃないか。そりゃ彼奴きゃつは、いくぶんやくていせいはしただろうよ。だが、そもそもそれをやくしたものはとえば、みなぼくじゃないか。それをこうがんにも彼奴きゃつは、ぶんいっはたらきかなんぞのようにこころてさ、おおきなつらをしてるから、ちゃんちゃらしくなるんだ。かもうえむら彼奴きゃつゆうじんがやってきて、『にんげんさいしよおくいて』のことをめると、彼奴きゃつとくとくとして、やくたいするしんべてるんだから、ぼくあわれになっちゃった。じつきみ彼奴きゃつくらいきようなやつもないからね。彼奴きゃつは、もっと憎にくむべき、ぼうくんしんじよういだいて、それでいっしようしとおそうとしているらしいんだからね。」ともって、くちきわめてみやのことをとうするのだ。

2020年10月22日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第39話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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