第35章

根津權現裏(第36話)

焚書刊行会

小説

1,898文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

「どうしたんだ。たいへんなこととうのは。」
 わたしは、わたしとこうえきなおったのをながらこうったのだ。がしかし、そうってからも、やはりおかしばらしゃくりあげていたが、やがて、
ぼくみやったんだ。」とったかとおもうと、またこえあらわしてきはじめた。
みやったって、どうしたんだい。」と、わたしあとっかけてこううと、おかはそれにはなんともこたえなかった。わたしぎばやに、
「だって、きみのように、いてばかりいちゃわからないじゃないか。いいげん此方こっちてきたまえ。そして、くわしくわけかしたまえなあ。」とうと、かれうちきやんできた。そして、みずでもいたようになっているふちからほおのあたりを、てのひらってきながら、
ぼくみやかんしている、ふたかいかい使つかったことを、しらにしゃべっちゃったんだ。ところで、しらがそれを、ごろもんだいにしようとしているんだ。これがもんだいになればみやそっこくふたかいかんさなきゃならないんだ。そればかりじゃない。そうなればかれは、の一ために、しやかいからほうむられてしまうんだ。……」とうのだ。それをはなしていると、またおかあにびこんできた。
ふたかいってのはなにじゃいね。なにをしてるかいやいね。ほれに、しらちゅうひとは、なにをしてるひとやいね。」とうのもきこんだ調ちようなのだ。わたしは、かれために、えてせつめいをしてやった。
 ふたかいうのは、どもきよういくをしているかいで、かいから、かいかんざっとして、まいつきふた」とうのをしていること。みやかいかんも、かんちよううようなにいて、べてのことをつかさどっていること。おかみやしようかいで、ざっへんしゆうをしていたのだとうことをいてやった。
 またしらうのは、みやゆうじんで、わたしも一ったことがあるが、ひくい、ふとったまるでいもむしのようなおとこだとうこと。おとこみやたちどうていだいぶんたのだが、まだこうとうがっこうにいただいから、がくりっこうしてだいがくをもえたのだとうこともあきらかにしてやった。そして、これはおかからいたのだが、しらがまだだいがくにいるころから、げんざいつとめているこうぶんかんじよけていたらしいとうこと。ひとつはかんけいからだろうが、かれがっこうえると、ちようみやふたかいからしている「ふた」にかんけいしたり、なかしよてんからている、「しんざっ」のへんしゆうをやっているように、かれもまたこうぶんかんからている「しんけんきゆう」のへんしゆうをやっていることや、みやしんがくかいしんじんとしてこうひようあるように、しらもまたざいとしておおいぜんしよくぼうされているひとだとうことをもわたしくことをわすれなかった。
 それから、それにちなんで、ふたかんけいをもわたしあきらかにしてやった。──みやしらとは、りゆうならびたたずとうのか、ひようめんはとにかく、うらめんにおいては、じんきようきんひらいてかたりあうとふうなどのないばかりか、にはだんおそろしいあんとうがつづけられているのだそうだ。そして、ことのおこりは、みやほうにあるらしいのだ。それだけみやにんげんちいさくているのだ。みやは、びんぼうにんていは、いっしようめるものぎやく使されて、わらなければならないものだとふうけんらしいのだ。しようには、かれきよくしらけいべつけんしているのだそうだが、ゆうとするところは、一にしらかれちがってがくりっこうにんげんだとてんにあるらしいのだ。つまり、しらは、さんなく、したがってぶんさらがくたず、一にそれをにんあおいでしゆうがくしたにんげんだとてんにあるらしいのだ。それもだいがくそつぎようは、のうで、こんきやくしぬいでもいれば、おそらくはみやだってそうまであい憎ぞうはいせきしなかっただろうが、いっぽうはそれとははんたいに、そつぎようしようしよにするがさいりよくって、だいがくえてきたぶんたちどうとうに、しくはそれをもりようしようとふうだから、かれゆるしがたいものおもったのだろう。けっみやは、しらつに、さいしっぐに、ざんぼうをもってするのだそうだ。ところで、かべみみありのげんふるいが、それがしかしらわかってきたところから、あとしらけんって、きようちゆうひそかに、かれたいするせんとうじゆんつとめているのだそうだとうことを、わたしさいいてやった。
「なるほど、そうわけかいね。ええ、わかりましたわいね。」
 それがおわると、おかあにはこうって、にもかんえられぬようなふうだったが、あとをついで、
「ほいからどうなったいね。」と、またうながしてくるのだ。これは、わたしあいもそうだったが、かれなんのことはない、それはものねだりするときどものようなふうなのだ。
 それから、わたしはまたあとをつづけた。

2020年10月19日公開

作品集『根津權現裏』第36話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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