第16章

根津權現裏(第17話)

焚書刊行会

小説

3,013文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

きたまえきみ、もういくどきだとおもってるんだい。」
 わたしとこがえりをうつと、おかがこうって、またことをかけた。
「もういくどきだい。」
 わたしねむくて、もうくちにもなれなかった。それと、いったんきたがさいおかからはきっさいしやさいけんしやったときのように、ぜんからまでのことを、のこらずかされねばならないとおもうと、おもっただけでもうわたしは、にもきるのがいやだった。
「もうおちかくだぜ。きたまえなあ。」
 わたしはそうわれると、あたまなかで、「うそをつけ」とおもった。だい一これがちかくなら、こうまでわたしあたまおもくないはずだ。なんのことはない、わたしあたまは、まるで五月雨さみだれりこめられてでもいるようなふうなのだ。よしまた、それがおかとおり、ちようかんちかくであり、しくはぎであるとしてからが、なにふくそうきようそうをするようなおもいまでして、きるにはあたらないわけだ。だからわたしは、
かんにんしてくれ。ぼくねむいんだよ。」とって、やはりなかじっとしていた。だがおかは、そうったからとって、じゆうじゆんかえろうとはしないのだ。
きみ今日きようしよかんかないのかい。」とうのだ。わたしは、それにはなんともわずにだまっていた。するとおかがまた、
むらはかようこうするそうだなあ。今日きようよみうり(※しんぶん)をると……」といかけた。
「それがどうかしたのかい。」
 わたしすこしうるさくなってきたので、すこ調ちようとがらかして、こうってやった。
「いや、べつにどうもしないさ。」
 おかすこって、おどろいたらしかったが、かれはこうってちょっとことるとぐそれにかさねて、
「とにかくきみきたまえな。」とって、わたしほうへのしかかってきた。
 わたしきるものかとおもった。だがしかし、ときふと、こうしてぶんしとおすとして、それがなにほどぶんつよめるだろうかとおもうと、わたしはずかしくなってきた。わたしはそれもこれもしのんできようとおもった。
「じゃまないが、はずしてくんないか。」
 わたしはこうって、またとこがえりをして、おかほうをみた。おかは、
「なんだい……」といながら、っていた、ぬぐいせっけんばことを、まどぎわにあるつくえうえいて、わたしはずしてくれた。わたしは、むこがわの二ほんれてしまうと、からて、つくえまえへきてこしおろしなに、
「おい、なにか、今日きようぼくれないつもりなのかい。」とってやった。おかはそれをけて、
れないつもりかって、なんだい」とって、わたしほうってきた。
「だって、そうじゃないか。すっかり✕✕✕✕✕✕(※よごして)きたんだろう。」
じようだんってらあ。✕✕✕✕✕✕(※よごしたりくさくしたりなんて)してくるもんけえ。」
きみは✕✕✕✕(※よごす)はなくとも、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※ふたぶんあせやらしるやらをあらとすんだから)、ほうだって、ひとりでに✕✕✕✕✕✕✕(※きたなくなるよなあ)。」
「つまらないことをってらあ。」
まったく、つまらないことをしてきてくれたもんだ。だれたのみはしないのに。」
 わたしたちは、ついしくなって、しようった。
「それはそうと、もうくずわかれのちゃって、ふさつぼねは、──ふさつぼねすこへんだなあ。がわふさじようとしようか。もうかえっちゃったのかい。」
「ああ、かえっちゃったよ。いまあさはやく。」
「さぞおつかれでござんしたでしょう。」
「つまらないことばっかりってらあ。やくなよ。」
せつかくおおせだが、ぼくやくよ。まっくろぐろに。それこそ守宮やもりくろきみたいに。それがいやだとうなら、あまやかすなよ。」
べつやかせやしないじゃないか。」
とくべつねんりにやかさなくたって、つうじようやかせられちゃたまらないや。それにふさじようは、きみしゆっきんしてもいのかい。づきだってよるこうぎようだのに。」
「なんだい。つまらない。すっかりしばがかりだなあ。」
 こうってかれは、しきしまをつけた。それから、
「だってかたがないじゃないか。ようれば。」とうのだ。
「そりゃそうだが、ようようだから、ちょっとんでみたやつさ。とかくひとものは、ろうしようこまるよ。」
「それこそ、おおきなおだ。」
「なんだと。とうどうぼくは、かさぞうかい。ときにどうだい。ひとこうか。ぼつぼつはじめないか。」
なにをさ。」
「そうもったいをつけなくたっていじゃないか。さくからの一けんをさ。」
「つまらないことばかりってらあ。」
 こううとかれは、いきなりいしにでもられたときのように、さしうついてしまった。わたしわたしで、でまた、二ほんのバットをつけねばならなかった。──それへをつけて、くちくわえていると、いきなりかれは、
「だがおどろいたよ。あいつはたいへんしろものだぜ。」とうのだ。
「どうしたんだい。」
「どうしたも、こうしたもないが、おどろいたよ。」
「だって、わからないじゃないか。──どうしたんだい。──なにか。からだじゆうへ、いっぱいほりものでもしていたというのかい。」
「なあに。そんななんじゃないんだ。──あいつは、いろちがいなんだよ。✕✕✕✕✕、✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※だからひとばんじゆうおとこおれのほうがおかされっぱなしだったさ)。」
「なんだい。またをかけるのかい。とんだかちかちやまだ。」
「だって、ぼくおどろいたよ。それにあいつは、たいへんこうだ。」
「それをきみは、さくはじめてったのかい。」
「だって、そうだろうじゃないか。」
 わたしはまたここで、しようをしいられた。わたしは、かれにくらべていうなら、だれかこのに、こうならざるものがあろうかとおもった。どうにそのとき、あるこうけいが、わたしのところへうつってきた。──✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※そのこうけいとは、つぎのようなないようだ。しようねんだい、どこかのうちたんのなかでちいさなちようつけて、こっそりぬすては、れをだれかにとがめられないか、おくびようあんがっている、というものだ)。
 ところで、みるみるうちに、わたしというものが、にかせいねんはいってきているのである。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕。──✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕、✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕✕(※ゆめうつつか──せいねんわたしは、りよかんらしき一しつていた。ふすましのとなりからは、おとこおんなあやしいきようせいこえてきた。ふすましにそっとのぞいてみると、しようねんだいぬすんだおぼえのあるちようえがかれていたいんないようのものだった)。ときわたしあたまは、のようになっていた。
「ああ、もうたくさんだ。はなしは、いらでまくにしてくれ。」
 わたしは、おもわずこうって、みぎわたしめんぜんちふったものである。
「だって、きみがしゃべらしたんじゃないか。」
「だから、ぼくあやまってるじゃないか。」

2020年9月30日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第17話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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