第15章

根津權現裏(第16話)

焚書刊行会

小説

1,932文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 これはまたよくじつのことだ。
 わたしからかじんせいがしたとおもったので、ときめた。すると、
「おい、きないか。」とこえが、はっきりわたしみみについてきた。ると、それはおかなのだ。おかは、わたしいりぐちのところにったっているのだ。
「うるさいなあ。なんだよ。」
 わたしはこうって、またかいきをっかけて、とこがえりをした。
 わたしさくおかのところからえると、ゆうはんってきて、それから、かれからりてきた「ぶんがく」をってみた。だがみなつまらないものばかりだった。これとって、んでようとおもうようなものは、ほとんどひとつもなかったとってもいくらいだった。それから、わたしはまた、みさしていたシェンキーウィツの「にんこう」をってんでみた。
 わたしときは、だい十一しようからみだしたのだが、それをんでいると、わたしにはるいるいたるはかいしばかりがえてきて、こころやみつめたくなってきた。わたしには、ウラデックのちえたようなこうふくは、そうだにすることがなかった。せいけんかいさ、しゆへんきようさ、そして、ようにんしんずることのないてんでは、わたしくまでアンテックにている。そうおもってわたしぶんをかえりみたときには、くにもかれないようなちになってきた。
 またわたしは、よると、ぶんあしのことがになってならなかった。わたし二十四ねんかんは、ひんびようとにりなされたうえを、なみだとでりかためられていた。だからわたしには、きよういくらしいきよういくあたえられていなかった。とってもかった。はんたいわたしにはまずしきものとうぜんわなければならない、さいしっのみが、ぶんくわえられていた。おそらくはこんも、それがいやがうえにもくわえられてくだろう。そして、それからうまれるとくために、しまいにわたしは、にくかれほねきざまれて、なくなってかなければならないかもれない。しかしそれまでは、わたしじんぶんしんそこなってはならない。さいさいまで、わたしぶんぶんまもってかなければならない。それにしてもひつようなのはけんこうだ。たいうち、どの一てんもおろそかにしてはならない。こうおもえばおもうほど、わたしのろわれたようなあしのことがになってならなかった。の一てんでは、アンテックのぐうせいかつも、なおわたしにはうらやましかった。だからわたしは、「にんこう」のだい十三しようみおえたときには、ぬまてんして、はいかんりようようしているおおおもいだした。そして、かれのところへわたしわたしさびしさをうったえて、がみいたりした。がしかし、わたしこころはそれにって、すこしもなぐさめられはしなかった。はんたいわたしは、とにかくかれしっかんなやまされながらも、てんりようようぶんだとおもうと、にまたかなりのしっおぼえた。
 するとこんは、しよせてくるむれわずらわしさにえられなくなってきた。それからわたしは、そんりよう(※レンタル)をつるして、なかでんっこんで、つぎだい十四しようからみはじめた。そして、つぎだい十五しようおわりから、だい十六しようぜんんでいるうちに、わたしはまた、どんなにさびしくあじないおもいにめられたかれない。それがせずして、わたしこころおかほういていった。そうだ、いまごろきっおかは、それこそいちぶつおおうなくしてどうよう姿たいをしたかのおんなきいだきながら、けやすきよるなさをなげいているだろうとおもうと、わたしゆるようなせいしようどうおぼえた。そして、それを滿たすしゆだんとしていくからぜんほうほういられたかれない。ときわたしに、わたしちえたほこりがなかったなら、わたしやすんじて、いやしいほうほうったに相違ちがいない。
 わたしで、いったんせたけて、ふたたび「にんこう」のぺーじうえそそいだ。わたしだい十七しようから、おわりのだい二十三しようまでの七しようんだが、かんおおうたときには、わたしむねさくばくのもののようになってきた。とうのはほかでもない。じんせいこうふくしやたるウラデックのゆうじんたるオストリンスキイが、ねんこいって、あいたるヘレナじんけっこんしたばかりか、わたしはそれまでは、こうぐうてんにおいて、わたしぶんしんのようにおもっていたアンテックまで、ぜんウラデックのこいびとだったおんなて、これもけっこんしてしまったからだ。
 わたしはそれをみおえたときには、もうそとすずめこえきこえていた。こえがまたわたしに、とおむかしおもいださせてきた。それは、わたしごとごとこつずいえんのうするつうえられなくなって、あるときは、むしぜっそくするのやすきをおもいながら、ひたすらときけいをのみっていたとうのことだ。それをおもいだしたときには、とにかくわたしは、つうからのがれていることをおもって、それにってわずかぶんなぐさめることがた。だからわたしは、おかおこされるまでには、まだいくかんてはいなかった。おこされたので、わたしはうれしくなかったのだ。

2020年9月29日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第16話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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