第11章

根津權現裏(第12話)

焚書刊行会

小説

1,749文字

芝公園にて凍死体で発見されるという最期をむかえた「破滅型の私小説作家」藤澤淸造の代表的長編の電子化テキスト

 そうだ。おかふさってから、ふたつきあまりになる。かれかんにおいて、はじめておんなうものをったのだ。おんなのありがたさとうものをったのだ。うまれてはじめて、五おんなあいたいすることがたのだ。かれは、こいうもののうれしさたのしさとともに、またくるしさいたましさをったのだ。
 おかのふたつきあいだに、ふさと十五六かいっていたらしい。わたしいまはっきりかいすうおぼえていないが、なんでもかれは、ふさったつぎには、きっわたしのところへやってきて、
さくづきへいってきたよ。」とか、また、「うるさくふさのやつがやってきてよわっちゃったよ。昨日きのうぎからやってきて、れまでぐずぐずしてきやがった。」とかったふうほうこくしていったものだ。
 ところで、わたしっているかぎり、おかには、ふさがいには、これとってかぞえるほどのれんあいけんなるものは、ほとんどなかったとってもいくらいだった。すくなくとも、それらしくかたちづくったものは、ひとつもなかったとってもい。てんでは、かれはまさしく、こいはなされたにんげんひとだった。とうのにへいがあるなら、かれは、こいえんどおにんげんひとだった。
 おかふさるまでに、かれぶんたいしようとして、おもいをかけていたおんなは、それまでに二三にんはいた。そうだたしかに三にんはいた。ひとせんぞくちよういんばいだった。ひとは、わたしたちゆうじんこいびとだった。そして、いまひとは、かれしばら宿しゆくをしていたことのあるうちちようじよだった。だがこれは、三にんが三にんとも、みなあわびかたおもいで、せんぞくちよういんばいほかにしては、どうきんなどはおろか、それらしいことわさなければ、がみつうおうふくさえもないとったふうな、ないあいだがらぎなかった。ってみれば、それはみなほうもくてきをもって、トタンべい燐寸マッチりつけているのにもたとえたいような、あわれにもない、いちじようゆめぎなかった。
 それとうのもほかではない。かれびんぼうにんであり、だいおくびようものだったうえに、またいっそうだったからだ。
 はやはなしが、おかせんぞくちよういんばいのところへかよったのは、せいぜい五六かいくらいのものだった。これをかんいてえば、もののひとつきもすると、もうかれしんいんばいのことはわすれたようになっていた。えば、かれくらいんばいぶんっていようとも、もうそれじようかよいつめるりよくがなかったからだ。そして、にはまた、かれりゆうそうしゆはたらいていたからだ。
 これはさきにもちょっとったが、かれれんあいじようしゆしやであるとともに、またけっこんそんちようろんじやだった。つまりかれは、つねに、れんあいあとにくるけっこんこそまことけっこんであるとりきせつし、したがってけっこんもくてきとしないれんあいは、一だいざいあくでなければならないとうのがろんだった。それが、きつづきりよくさえなくなったかれむねに、いまさらのようになって、えあがってきたのだ。かれは、ろんはすいとのように、けどもけども、なおみやくみやくとしてきないれんはあっただろうが、とにかくいんばいとのこいだんねんしてしまったのだ。でなおわたしおくそくけくわえてけば、おとこおとこは、あいしろうとあいには、えずにんしんうことがになってまわるように、かれあいいんばいいんばいが、かならずとってもいくらいにっているびようどくおもい、それをおそれるこころが、やがてこいだんねんに、かなりあずかってちからあったものかもれない。だが、それはとにかく、ほかふたおんなうちひとかれゆうじんであり、とうあいたるおんなじようじんだったそれにさまたげられて、かれむねおもいを、あいつたえるひまあたえられずに、むなしくこいやみからやみほうむられてしまったのだ。そして、のこりのひとは、これもかれまずしさ、とぼしさからとどこおらした宿しゆくりようのことからして、一かたらいさえもないうちに、われるようにしててしまって、もうふたは、それかぎえいきゆうはなれてしまわなければならなくなったのだ。だからってみれば、えきっているかれこころへ、ぐうぜんむすびついてきたのがふさだったのだ。それはちようりつづくにっこうもとに、あえあえぎ、わずかめいたもっているくさへ、ぼんえすようになってりそそいでくる、しゆうのそれにもすべきものだったのだ。そして、おかふさったそもそものどうは、とあるばんに、わたしたちふさのいたづきしるみにいったときからはじまるのだ。

2020年9月25日公開 (初出 日本図書出版 大正11年発行 単行本

作品集『根津權現裏』第12話 (全60話)

© 2020 焚書刊行会

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