駅はいつもスプラッタ

応募作品

lantan2015

小説

2,380文字

日常光景から見える日本という国の社会は既に破滅しています。

急ブレーキと衝突音が響く。
先頭車両に居るものは慣れたもんだ。
「お客様にお知らせします。ただいま人身事故が発生しました」
この路線は中武東上線。巣鴨から高崎に行く路線だ。日本最悪の人身事故率を誇る。東京と上州を結ぶから「東上」なのだ。中武とは「武」蔵国の真ん「中」を走るから中武である。
中武東上線は約10日に1回は人身事故が起きると言ってよい。
なのに高架化もホームドア設置も普及しない実に香ばしい路線だ。
このため、僕たちのようなある種の趣味の持ち主にはたまらない路線になった。
非常用ドアコックを車掌が操作し5両目から乗客が駅に降りる。
そして先頭車両の乗客は一斉にスマホやカメラを取り出す。
バラバラになった死体を写すためだ。足、手、内臓……。
すべてバラバラだ。先頭車両のフロントガラスが割れている。
「たまんないぜ」
おもわず俺は下半身にテントを張った。ブルーシートが掛けられているがそんなものはおかまいなし。自撮り棒でブルーシートを乗り越える。
これがブラック企業に勤める者たちの唯一の趣味である。
俺たちは毎日が戦場になったせいで「人間」を失った。
だが、それが何だというのだ?
嘘くさいホラー映画よりも素晴らしいものが見れるじゃないか。
駅前には巨大パチンコ店にサラ金に飲み屋のテナント。そして塾や予備校だらけの光景。車内には債務整理や墓地、パチンコ、課金制ゲーム、サラ金の広告だらけ。
これが中武東上線だ。弱者が死んでも自己責任なのだ。
それどころか死体を見るのがショーという路線。
先頭車両の乗客が喉を鳴らす。まるで獣の声だ。
23区を出て埼玉県に入ると一見平和そうなニュータウンが広がる沿線だ。しかしこの路線は「死」が広がっている。幸せな家族の光景なんぞ仮の姿に決まってる。
都市型限界過疎、孤独死、ギャンブル中毒、ゲーム中毒、学歴厨、DV、ワーキングプアー、住宅ローン破産、離婚、超高齢化、引きこもり、ニート、主婦売春、生活保護。全員とは言わないがこれが中武東上線に住む者の真の姿だ。ゆえにメンタルクリニックも駅前に多い。そしてメンタルクリニック・精神病院は高確率で役に立たない。
俺たちは今日も「死」と戯れる。今日も異世界に旅立った勇者を祝福するために。
(あ、忘れてた)
「あ、部長?今日も人身事故で遅れます」
(さて撮影再開)
今日の獲物はすばらしい。首がもげている。あまりのすばらしさに下半身を濡らす者も居る。恐怖で漏れているのではない。あまりにもうれしくて漏れているのだ。
今日も中武東上線死期駅は「平常運転」だ。本当は四季駅だが沿線の住民はこう呼ぶ。人身事故件数日本ワーストのこの駅をこう呼ぶのだ。
「死期駅」と。
ちなみに四季駅周辺は露出狂認知件数も日本一だ。すでに精神的に追い詰められている者が多数住む最寄り駅である。
そして死期を悟った人間は死を選ぶ。ゆえに死期駅。
駅に貼られているいのちの電話のポスターが破られている。当たり前だ。
我々は知っている。
この絶望国家日本で唯一解決する手段は「死」だということを。
獲物を撮り終えた者が次々駅のトイレに向かう。
なぜなのかはもう説明不要だろう。俺も当然トイレに向かう。
それが日常だ。

俺は便器に向かって快楽に任せピストン運動を行った。臨界点に達すると呻きながら俺は失われた魚をトイレで吐いた。

男性トイレは様々な呻き声が響きむんとした匂いに覆われていた。それは間違いなく人間の絶望の声であった。俺は人間が発する絶望の声を堪能する。俺は思わず三日月の笑みを浮かべた。そして俺はティッシュで魚を処理しトイレを後にした。

 

(とりあえず俺はまだ死なない)

 

そう、俺は刹那的快楽を知ったからだ。
快楽に飽きた時、その時に俺は死を選ぶ可能性が高い。
死期を、悟るのだ。
死ぬのはもう怖くない。死体ならもう毎日のように見ている。あれはたぶん近未来の自分の姿である可能性が高い。
この路線は生命保険会社の支店も多い。そういうことだ。

やがてこの駅にもホームドアが設置された。無駄な抵抗である。

今度は踏切で自殺を選ぶのだ。「死期駅」の郊外側は複々線区間が終わり複線区間となる。複線区間は踏切だらけとなる。

ゆえに今度は踏切が自殺の名所となった。

鉄道会社はこんどは高架化事業を始めたが事業費があまりない中武は高架化事業に消極的だ。当分これからも踏切自殺が続くであろう。

バカだなって思う。人口減少社会で人口は郊外から減るのだ。なので高架化とホームドア全駅設置と最高時速130km/h高速運転と踏切廃止の4条件は今や必須条件だ。筑波急行電鉄はそうやって地域をよみがえらせた。そうでもしないと遠郊外から人は消滅し、地方に戻り高齢者ばかりの「限界ニュータウン」となる。要するに自治体も鉄道会社も沿線住民を救う事なんて考えないのである。65歳以上の老人が50%を超える限界ニュータウン街などこの沿線ではザラだ。住み替えが全く行われていないのだ。

DVで苦しむ子が多いのなら空き家を児童擁護施設として自治体が買い上げればいいだけの話である。どいつもこいつも目先の事しか考えてねえ。少子化で苦しんでいるのに公立保育園の新設に反対運動が起きる。

 

(狂ってる)

 

(この国は、狂ってる)

 

不動産営業マンの俺こと高橋和幸はこの国の滅びゆく光景を見ながら今日も不動産を売る。

 

派遣社員の身分で。普通免許と宅建免許だけを武器に。そう俺もロスジェネ世代だ。大卒40代職歴なし。あるのは非正規のキャリアだけ。

 

俺はいつ死んでもいいように準備は整えてる。結婚もしてないし、子供もいない。

 

俺は踏切にさしかかった。遮断機が降りる。死への誘惑がこみあげてくる。

 

「あ、魚……」

 

踏切横の側溝には小さな魚がいた。

2020年9月7日公開

© 2020 lantan2015

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ホラー

"駅はいつもスプラッタ"へのコメント 23

  • 投稿者 | 2020-09-08 06:04

    これですこれ。これが私が理想としていた破滅派の姿です。最高です。破滅派人間大サーカスです。

    • 投稿者 | 2020-09-08 07:31

      本当にありがとうございます。これからも「破滅した日本」を描きます。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-08 16:06

    ド直球ですね。こういうのを包み隠さず表すところは寧ろ好感が持てるくらいです。

    • 投稿者 | 2020-09-08 17:17

      本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-24 18:58

    「当分これからも踏切自殺が続くであろう。バカだなって思う」とあり、そのあとに自殺防止策を述べられていますが、「俺」の立場からすると、人身事故への遭遇は快楽を得られるのだから、そんな策を考えたりするのかなと疑問に思いました。ラストの「小さな魚」は死へといざなうものなのか、あるいは生に引き戻すものなのか、何を表しているのかなと思いました。

  • 投稿者 | 2020-09-24 21:14

    ご感想ありがとうございます。最後は本当に読者様の解釈にゆだねております。

    著者
  • 投稿者 | 2020-09-24 22:17

    トイレで快楽のために射出されたり、踏切横に捨てられて?いる魚は死の象徴でしょうか。「俺」の関心が様々な社会問題へ向けられますが、一つに絞って徹底的にディスるのもありかと思います。

    • 投稿者 | 2020-09-24 22:29

      最後の魚とは、筆者の立場からはあえて言えないのです。「俺」は派遣フリーターの身分とは言え宅建士免許を持つ不動産営業マンです。なので「俺」はとっても複雑な気持ちを持っています。もちろん、1つに絞って徹底的にディスるのもありですが、その場合主人公の職業を変える必要があります。
      大変貴重なご意見ありがとうございました。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-25 11:18

    社会風刺として読むとエグり方がエグくて良いと思います。
    ただ「まぼろしの魚」はどこへ行った? という読後感は拭えないです。
    読者丸投げでもいいですが、それならば魚じゃなくてもいいわけですし……

    • 投稿者 | 2020-09-25 19:12

      お世話になります。お読みいただきありがとうございます。精子って魚のように見えますよね。つまり、そういうことなんです。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-25 14:22

    やっぱあっち方面の私鉄沿線は病んでましたか

    • 投稿者 | 2020-09-25 19:13

      まあ1日も早く「人身事故地獄」を解消することを願います。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-25 22:08

    人の死を見て生をトイレに流す、逆の生き方をしてみたいものです。主人公が抱えているものがビンビン伝わってきました。

    • 投稿者 | 2020-09-25 22:16

      そうなんですよね。命がトイレに流れてしまってる。。。

      著者
  • 投稿者 | 2020-09-26 12:36

    自慰行為を「失われた魚」と表現しているので、魚とは生(性)の読み替えかと解釈しました。凄惨な死体を娯楽として消費するのは今に始まったことではありませんけど、通勤電車に乗って楽しむアイディアは面白いです。そういえば鉄道事故でレールに埋まって塊になった肉片のことを「サク」と呼ぶそうですね。

    駅名での遊びをもう少し広げてもらえたら嬉しかったです。
    死にたくなります⇒和乞う死⇒朝霞Die⇒死期⇒不死身野⇒三途の川越⇒川越死⇒浮世は霞ヶ関……違う話になっちゃいますね。すみません。

  • 投稿者 | 2020-09-26 14:26

    ご感想ありがとうございます。

    著者
  • 編集者 | 2020-09-26 15:12

    中武東上線の死期駅に馴染みがある(羅羅呆吐死期があった頃から)ので、その方面からも楽しめた。死期から乾齬穢までは乗換も無いので、死活問題だ。自殺は、まあ仕方ない。
    その魚、新種じゃ無いだろうか。

  • 投稿者 | 2020-09-26 15:36

    ありがとうございます。※※線(2線とも)を延伸するべきと考えます。

    著者
  • 投稿者 | 2020-09-26 18:41

    「不動産営業マンの俺こと高橋和幸」の普段の生活や人間関係についてもっと多くを知りたくなった。生活と意見の間の具体的なつながりが丁寧に描写されていれば、社会批評もより説得力が増すのかも。

  • 投稿者 | 2020-09-26 23:37

    ご感想ありがとうございます。がんばります。

    著者
  • 投稿者 | 2020-09-27 21:19

    しき駅にホームドアがついてしまったのは残念なことです。飛び込み自殺撮影隊によって破壊されて欲しいですね。

  • 投稿者 | 2020-09-28 18:10

    捨てられる精子を「失われた魚」と表現するのは、そう来たかと思いました。
    処刑を娯楽として楽しんでいた時代と何も変わっていないよなぁ。
    自殺を見ての熱狂ぶりと普段の陰鬱な厭世的な描写との差が好きです。

    • 投稿者 | 2020-09-28 19:44

      ご感想本当にありがとうございます。

      著者
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