暗黒竜の渇望

lantan2015

小説

222,381文字

光と闇が交錯する古代ペルシャ。絶望のあまり闇への渇望を抱く者が多かった。闇の者となって光を破滅するべきか。それとも光を信じるべきか。ペルシャの大地は闇色に染まるのか?それとも……。
「王書」をもとに繰り広げられるダークファンタジー、ここに誕生!
変身描写は必見!
【この作品は共著者を探しています、どうかこの作品を『文芸』にさせてください】

第一部

 

そこは古代ペルシャ。常に光の神と闇の神が戦う場――

人々は病におののき、飢えに苦しみ、神への怒りとあきらめと反逆と背徳にふけっていた。暗黒神アーリマンが着々と闇に世界を変える、そんな場所であった。そこには光の神アフラとその一族の救いはまだ来なかった。

やがて絶望から暗黒色に大地が染まって行く。

 

その時代に一人の子がうまれた。

―その子は奴隷の生まれの子であった。

もちろん移動の自由もなく、賦役義務がある最下層階級の事だ。

賦役とういう形で労働しただけではなかった。男も女も対価に満たないものは……身体を売ったのだ。

俺の名は覚えてない。親に毎日のように殴られ、親に陵辱されたあとに8歳で間引きされ売られていった。母は黒死病で死んだ。

街には神への赦しを請うために自らむちを打つもの、暴力、陵辱、売春が当たり前の光景であった。そこの街の奴隷として連れてこられたのだ。

そこでは働くだけでなく、鎖につながれたまま体の世話をさせられていたのだった。

やがて俺の精神は壊れていく……

 

最近の俺は奇声を昼間から上げ、髪をむしり取り、奇行に苦しんでいた。夜の勤め以外、こうして牢の中にいる。

 

第一章

 

1.絶望の時代

 

―闇の中で―

 

漆黒の闇の中でおどろおどろしい不気味な声が広がった。

「おばばよ、今回、闇に返す者は決まったのか」

「ははっ。世は絶望と狂気がひろがっておりますゆえ、多数おられます。容易かと」

「魔は元々人なのだからな。墜天(ついてん)したものにとって闇の者が増えることは望ましい。わが友人が増えるのは喜ばしい限り」

「魔が増えれば裁きの時も近い。そのときが我々の解放の日なのだ」

魔が増えれば裁きの時に共に戦いに挑む戦友が増える。これこそが真の目的であり、人間を闇の落とす目的でもあるのだ。

「存じております」

「お前もそうじゃった。山に捨てられすべてに絶望していたときに我と出会い闇の命を吹き込んだのだからな。もっともこうして人の姿も取れるが」

「闇の者として開放されたときが、至福の時でございまする」

「わかっておろうが、完全に絶望しているものでないと闇の者として生きることは出来ない。変化せずに肉片となってしまう。まあ、人間の肉は美味じゃが」

「それもよろしゅう」

闇の中から赤き目が光り、共にくくくとせせわらう声が響く。

「まずおばばよ。その水晶で占い、探し出すのだ」

おばばは黒い玉に呪文を唱えると突然玉が光だした。

水晶に光が当たり、少年の顔が映りだす

「みつけました。それでは、さっそく行動へ」

もっともその前に闇の者として人の肉を喰らいのですがよろしゅうて?」

「よかろう。充分楽しんでくるがよい」

 

すると突然闇から突然突風が吹きおばばのみの姿が浮かんだ。

そこは洞窟であった。闇の主は闇に同化したままだった。

おばばの体が光りだし、ローブが透明に透けて体にとりこまれていった。次にみるみる老婆の目が赤に染まったかと思うとぞわっと全身に黒い獣毛がはえてくる。手足や背骨が禍々しく歪んだ。顎がせり出す。どうっと前に手をひざをつき、肉が溶岩のように流れ、膨張し、ととうとう四肢で歩くのにふさわしい姿となった。巨大な狼の姿になっていった。

狼は遠吠えすると涎をたらしながら洞窟を抜け草原を駆け抜ける……。

 

「期待しておるぞ。闇の魔女マーサよ」

闇の中で主がそう答えた。

 

2.人間をやめし者の救い

 

そこに救いの手を差し伸べたものがいた。牢の中から突然闇の渦が巻き上がり老婆が闇の渦から現れる。

「お前はこのままじゃと精神は死ぬじゃろ」

「お前はだれだ!」

「何、わたしは人の心を読むことが出来るのじゃよ。この背徳の塔と呼ばれるものを視察しにきただけじゃ」

「ところで、お前、このままだと本当に人間を失うぞ」

「それでもいい。俺は……」

「人間を辞めたいんじゃな……?」

「どうしてそれを……」

「そなたは心の病でどの道人を意識することが出来なくなる。そうじゃろう、少年」

「そこでじゃ、どうせ人を辞めるのならこの籠に入って牢を出て、抜け出してみないか……?」

「この憎い人全て殺すのじゃ」

「人を辞め、人を殺すのじゃよ」

「おばさん冗談を……」

「冗談などではない」

「真の神と契約し、真の姿となれば新しい命として生まれ変わる」

「そなた、人を辞める勇気はあるのか……」

「ただしそれには憎しみが必要じゃ。それも並の憎しみではない。世界そのものを憎む強い憎しみがないとその神と同化できぬ。そして強き苦痛があるじゃろう……」

「もうどうでもいい。闇であってもそれが安らぎなら。人が人の意識であるうちに闇に帰りたい。たとえそこがアーリマンの世であっても」

「本当じゃな?」

無言でうなずく俺。

「そなたは賢明な判断をした。今すぐに死に至るその苦しみを開放する。待っておれ……」

 

すると、そのおばばの指から突然赤き霧がはきだされた……。

その霧を不意に吸ってしまい、気を失う。

老婆は少年が倒れるのを見ると籠に少年を入れた。次に何か呪文を唱えた。

「人間をやめると気が楽になるのにのお」

するとあっという間に全身に黒い獣毛が生え、肉が溶岩のごとく流れ、狼の姿に戻った。狼は籠を背負い牢の排気口から跳躍し、あっという間に抜け出していく。

 

3.契約

 

少年が気がついたときには魔の者達が集まる集会の輪の中にいた。

その中には獣人もいれば三つ首の獣、鳥の翼を持つものなどさまざまな魔がいた。

その輪の中心には直立したドラゴンともグリフォンともとれる悪魔の姿があった。2本の角と長い顎鬚をはやし、コウモリの翼、足にはロバの蹄。黒き鱗と獣の毛が混じる体躯。

おどろおどろしい声が響いた。

「わが名はザリチュ。この世を破壊でもって永遠の安らぎを世界に与えしもの」

床から闇の煙の渦が突然表れると地面から例のおばばがあらわれた。魔のものは意にかえさない。同族なのだろうか。

おばばはザリチュに頭を下げると、俺に向かい、言った。

「ぬしの言葉にまちがいはないのじゃな?」

「本当に人を捨てるのじゃな?」

「本当の憎しみと絶望がなければ魔と闇にはなれん。それでもいいのじゃな」

「いまさら引き返してもそれはむりじゃ」

「もし、失敗すればお前は我がぬしをくう」

最後はしわがれ声になっていた。すでに骨音を鳴らしながら口の構造が変わりつつあった。言い終えるとおばばは黒い獣毛がぞわぞわ生え、肉が溶岩のごとく流れ、溶岩が歓喜のあまりのたうち回るとおばばは前脚で支えきれなくなり暗黒の大地ににどうとのめりこんだ。

おばばは身をよじり頭を振りかぶりながらときおり長い舌を出しながらふしゃうふしゅると嬉しそうに音を出す。顎が前に迫り出し歯と爪が徐々に伸び手足と背中を禍々しく歪ませながら狼の姿になっていく。おばばも魔の一員であった。変化を終えると狼はふふう、ふうと得意げに呼吸をする。

 

だがとまどいつつも意思に変わりはなかった。むしろおばばの変化に感動と渇望を覚えた。

 

「ああ」

 

「俺はいきていても充分闇だ」

 

「……ザリチュ様、素質充分にございまする」

「よし、ではわが鱗を」

そういうとザリチュは自分の体の鱗のかけらを自らの手で剥ぎ、魔女に手渡した。魔女はその黒き鱗を少年に渡した。

手に収まるほどの大きさであるその鱗は透き通るほどの透明な黒い色をしていた。

魔女は呪文を唱え、最後に鱗を持った手に向かって褐を放った

―眠りし闇と暗黒に目覚めを!

そういうと鱗がみるみる漆黒に染まった……同時に体中が沸騰したように熱くなる。

 

誰かが語りかけてくる――
(憎しめ、憎いだろう。すべてに憎しみを抱くのだ。そして憎しみの対象を破壊するのだ)
(ああ、言われなくてもわかってるぜ)
声にそう答えた。
すると少年に突然の変化が訪れた。目をむき破裂しそうな勢いで心臓が脈打ち、頭が締まるように痛い。あまりの痛さに白目を剥く。
血が沸騰したかのような熱さで体中が熱くなり、喘ぐ。
やがて全身から黒き霧が噴出し漆黒の空へと勢いよく昇っていく。
全身の皮膚が黒く染まっていく。
魔の者達がかたずを飲んで見守る。
突如躯に異変がおき…………全身の痛みに耐えかね、空中で咆哮する。それは苦痛の呻きだけではなく歓喜の呻きでもあった。
肉が流れ、服がちぎれ、己の体が脈打ちながら膨れていく。黒き皮膚は漆黒の鱗に変っていった。背中から瘤が2つ突然生まれたかと思うと爆発するかのように飛び出た。
それは数多の生き物を切り裂くこともできる翼であった。少年だった者は絶望の羽音を嬉しそうに鳴らす。
己の顔に無数の瘤が生じるとやがて瘤は軽快な音を出しながら変化する。瘤が瘤を産み肉が流れる。壮絶な痛みが襲う。痛みで意識が飲み込まれそうだ。
(まだだ。まだ俺は人間に復讐を果たしていない。)
そう思うと今度は己の顔に瘤が生じなくなり代わりにゆっくりゆっくりと口が裂け、牙が伸び、鼻先が硬く尖った。意識を保つことに成功した。
口が耳元まで裂け終わると顎は徐々に前顎と後顎が交互に迫り出す。こめかみから漆黒の禍々しきねじれた角が新たに生え漆黒の鉤爪も両手両足から生えててくる。瞳は濃き赤色に変わって目を光せた。
竜は己の躰が闇の福音で満たされたことを証明するべく、拳を握り力を入れると尾が漆黒の体液をまき散らしながら生えて行った。己の躰から己の尾へ闇の福音の力が流れて行く……尾が太くなるたびに竜はうれしそうに尾を揺らす。
尾の成長が止まると最後に背びれと尾びれが黒い血しぶきを上げながら生えていった。竜は握りしめた拳を解いた。
変化が終ったときは闇の主にふさわしい竜となっていた。咆哮が谺する!

 

「おお!成功だ」沸きかえる洞窟内。闇がまた誕生した。

そなたは世の闇にいつでも溶け込める闇の竜となった。我に近い姿は憎しみと闇への憧れが強い証拠。で、そなたどうするのだ?

 

―当然じゃないか。人間どもを殺しにいくのさ

 

咆哮で俺は答えた。

 

心の声が主であるザリチュに聞こえたのかザリチュは王者の笑みを浮かべながらこう答えた。

 

「ならば行け!そして人の命を1人残らず握りつぶし、闇に返すのじゃ」

 

咆哮とともに竜は村の方向へと翼を広げ飛んでいく……

 

4.実行

 

まず、街に着くまで挨拶代わりとして家家に炎を吐いた。みるみるうちに炎の渦となっていく。竜の姿になってからというもの、炎を吐くごとに飢餓感が増していく。体力を消耗するのだ。あまりの飢餓感に人間を見ると食欲が沸いた。農民を鍵爪の手で人間をさらい、ほおばり、咀嚼し、血を飲み干し味を堪能する。

闇の草原に大きな咀嚼の音が谺する。

 

街に着き、さらに空から炎を撒き散らした。

街に駐留する兵がようやくやってきた。炎を吐くと倒れる兵士達。

だが、甘くみていた。巨大ボウガンの矢がささる。街に兵士の悲鳴が谺した。

「今だ!怪物を討て!」兵士長が命令した。用意されたのは巨大な投石器だった。しかし、ここからが地獄の始まりであった。部隊を尾でなぎ倒し、投石器を破壊した。壁に叩きつけられ、部隊の半分が絶命した。半死している兵士の一人を無造作につかんだ。なじみがある。街の入り口で奴隷達に石を投げつけた門兵だった。

兵士は剣を俺の手に突き立てる。しかし鱗に守られた手は浅い傷しかつけられなかった。あまりの憎しみで俺はぐっと腕に力を込めた。

ぐしゃり、と果物が砕ける音がして兵士の動きが止まった。手にはどろりと血があふれだす。特攻してきた兵士を爪でなぎ倒す。血しぶきが飛んだ。街のものどもが逃げる。兵も。娼婦も奴隷も賄賂を要求していた役人も。

 

―すべてを壊す。逃すものか

 

舌の位置を変え、おもいっきり空気を吸い、吐いた。紫色の煙が街に充満する。それは毒であった。街の人々が眠りこける。それは神経を冒す毒であったのだ。街の人々が眠りこける。

 

「くっくっくっくっ」

紫色の煙を何度も吐き続けさらに翼で空に舞い上がりながら人々に炎を吐き続け、地上に降り立っては爪でなぎ倒し、飢えをしのぐために爪と腕で掬い上げ、牙で食い殺した。

 

さらに街の外に出た人間どもも空に舞い上がりながら紫の煙を吐き、

俺は……それをひとつひとつ踏み潰した。

 

竜はいろいろな能力を持っていることを実感した。これが闇の力……。

 

「これが闇の力だあ!」

思わず人間の言葉をしゃべった。

 

しゃべれる。

俺はしゃべれるのだ。

 

人間の心も知性ももっているではないか。俺は進化したのだ。これが本当の俺なのだ。

 

俺は歓喜の咆哮を何度もあげた。

 

その後竜は街の建物をひとつ残らず破壊し、夜があけても破壊を繰り広げた。

 

夕闇が迫り、再び洞窟に帰った。

 

5.闇に生きて

 

洞窟に帰ってきた直後、闇から現れしザリチュは帰ってきた俺を褒め称えた。

「よくやった。新しき闇の者よ。闇の竜は闇の者でも最強の証。そなたなら将来暗黒竜王アーリマンの一部となれるであろうぞ」

「ありがたき幸せ」

「ところでお前の名を決めなければならぬ。そうじゃタルウィという名はどうだ。我らダエーワ族にとって優秀な闇の炎竜という意味じゃ」

「ありがたくいただきます」

 

こうして新しい闇が誕生したのであった。

 

第二章

 

1.闇の安らぎ

 

闇の者は闇があれば暗黒の宇宙でさえも自由にどこへでも行ける。それは精神体でもあり、肉体でもあった。闇にとろけさせる時が至福の時であった。闇の者が闇そのものになり同化するときは、闇はこれ以上の絶望を与えることはない。闇の中にいれば喜怒哀楽も何もない。それはすべての平和。すべての安息も約束され、もはやそこには不幸はなかった。魂はこの世界では生きない。死にもしない。永遠に存在し、あり続ける。

 

それが最高神アーリマンの究極の世界であり、求める世界であった。それが人間をはじめとする全ての生き物の福音であることを求め続けた。

 

この世は常に戦いに満ちた修羅であった。修羅ならば闇であるほうがよいではないか。人間、希望を持ってはいけないのだ。新たな光と希望は人間を不幸にし、また魔の大好物となるだけ。

 

闇のものは闇からこの世の闇に出るとき、喜怒哀楽を復活させる。ただし、闇であるものの本能からか憎悪が先行しがちであるが……。

 

タルウィのその1人である……。

 

―闇との友情

 

ザリチュは魔になったばかりのタルウィに実戦を教えることとした。

 

「人の作りし矢がささるようではいずれ命を落とす。そこでお前に実戦を教える」

それ以来、洞窟の魔で特訓が始まった。

タルウィは「返り討ちにしてくれる」と言い、不気味な咆哮を上げ、翼をたためかせ突進していく。

だが、爪ははじかれ逆にザリチュの爪が翼を切り裂く。

次に、尾で打ち付けられ、動かないところに炎を浴びせられた。

最後に死の眠りの息を喰らうタルウィ。

 

……こうして何度も瀕死になっては闇のしずくでもって元に戻った。それは死をも覚悟しての特訓。特訓の最後にはザリチュが瀕死を負うことも少なく無かった。

洞窟に不気味な咆哮や笑い声、断末魔は幾度も無く響き渡る。

闇の者どもは笑みを浮かべながら見ているだけである。

闇の者にとって破壊と殺戮は悦楽であり、歓喜であった。歓喜のもとで闇の力を高めていく。

 

タルウィは特訓により鋭利な方法による爪で切り裂く方法、翼の展開、効率的に尾でなぎ倒す方法、不気味な咆哮を上げる方法など。牙で人間を破滅させる方法。

やがてその身で炎のみならず高温の熱風を撒き散らすことも出来るようになった。

 

さらに2匹は時折特訓の成果を人間界に出ては遊戯感覚で実戦し、様々な被造物を破滅させ、植物を滅ぼし、砂漠に戻した。タルウィが持つ人々を眠らせる息は実は毒草をも生み出す息であることをザリチュに特訓で身をもって教わった。2匹はときおり砂漠で特訓の成果を試すべく死の息を撒き散らした。

 

タルウィとザリチュは砂漠を始め毒草を成長させ、さらに人々を絶望においやることに成功した。2人の間には次第に友情が生まれていた。

 

全てを破壊した土地をタルウィとザリチュはそこを「平和」と呼んだ。そこにはもう人間も闇のものどもの戦乱も何もなかった。

 

人や家畜を食い殺しては成長し、とうとうザリチュの体躯はより禍々しくねじれた角が生え、黒き鍵爪がさらに伸び、背には青ががった黒いせびれが次々生えてきた。暗黒竜は環境により変化する生き物でもあるのだ。

 

―くくっ。あのころのザリチュに戻りつつあるな。それでこそわが本望―

タルウィがゆがんだ笑みを浮かべた。

―これで再び友と交われる。闇の悦楽が楽しめるな……。

 

ザリチュは「闇」と「死」の友人たるその笑みを不思議がることはなかった。闇のものにとって惨酷とは糧にしかならなかった。たとえそれが背徳や企みであろうとも。

 

砂漠化と破壊の功績は闇の世界中に轟き、暗黒竜王に認められた。タルウィはいまやとうとう師であり友ともいえるザリチュと同じ7大大魔になる閲覧式を控えていた。初めて7大大魔の長である暗黒竜王アーリマンを見ることがとうとうできるのである。

 

全てのダエーワが暗黒竜王の姿を見られるわけではない。闇の中の闇であり相当の魔力の闇の力でないと配下になるどころか閲覧すらままならないのが現状だった。

 

ザリチュが言った。

「タルウィ、そろそろアーリマン様がお見えになる。闇の間で待っている。今日はお前を大魔にする日だ。失礼のないようにな。それから今日からお前を大魔タルウィと呼ぶ。大魔としてふさわしい者となって闇の者を増やし、闇の者を率い、闇の福音をもたらすようこころがけよ」

 

―この日を待っていたのだ。タルウィがタルウィに戻り、わが友愛となる日を。

 

2.閲覧式

 

「おお、暗黒竜王子が見えるぞ」

魔たちがざわめいた。

それはアジ・ダハーカと呼ばれた竜であった。俺と同じ暗黒竜で三口、三頭、六眼をそなえ、尾は再び三つに岐がる。美しきも惨酷な多頭竜にして暗黒竜であった。

「なんでもアーリマン様の体からじきじき生まれたらしい」

「千の術を扱い傷口からは蛇、トカゲ、蠍などが出るらしい」

「アーリマン様の化身であるとか」

「なんでも人間どもの世を滅ぼす最終兵力であるらしい」

 

「静かに!お見えになった」ザリチュが言った。

 

闇がゼリー状にゆがみ、そこから現れたのは巨大な暗黒の大蛇であった。

 

「父上、ご機嫌うるわしゅう」アジ・ダハーカの三つ頭が下がった。

 

「皆のものよ。今日は1つの魔であったものが要職につく大魔の在任式である。努力に努力を重ねた魔は名誉と栄光を手にすることが出来ることを証明した。この者に続くことが出来るよう、努力にはげむがよい」

 

澄んだおどろどどろしい声が響いた。

「これで不在だった大魔の1人が就任する。タルウィをここへ!」

 

「主よ、ありがたき幸せ」タルウィは主の前でひざまつく。

 

暗黒の大蛇はそれを聞くと呪文を唱え、さらに闇のしずくを落とした。しずくが落ちたタルウィの額には小さな紋章が浮かんだ。

 

暗黒竜王が宣言した。「新しい大魔に栄光あれ!」

 

―闇の間で歓声が響いた。

 

魔にはただの黒のゼリーにしか見えなかった。それでも圧倒的闇の前で暗黒竜王という希望に歓喜したのであった。

タルウィは王がゼリー状の闇ではなく、やはり美しきも惨酷な巨大な暗黒の大蛇である姿を見ることが出来るようになった。大魔となったのだ。

 

3.光を求める者

 

闇と絶望と砂漠が支配する大地、ペルシャ。その小国に1人の王がいた。とはいえ手には鍬を持ち、畑を耕していた。相次ぐ人間同士の戦乱、増え続ける魔族の襲撃で王族や王といえども生き残るためには数少ない人間とともに食糧確保に努めなければならなかった。昼にはいつ魔や他の民族の襲撃に備えるために剣を振るった。彼の名はカーグ。王とはいえまだ13歳である。仕事が終ると光の神であるアフラマズダ神に祈るのが日課であった。

「このへんはまだ大河ユーフラテスに近い。光の恵みもある。アフラ様のおかげだ」

実際、魔物の力も弱かった。しかし、魔はここまでせまって来ていたのだ。

アフラ神の祠は岩を削って松明に火をともし、光を賛美する。その他に水の神、契約の神、薬の神などさまざまな天使や精霊を祭っていた。

彼は幼いころに両親を殺された。両親は決して褒めるべき存在ではなかった。重税を課し、麻薬にふけり、俺にも暴力を振るい、城下町には風俗街を作り、アフラ神ではなく、イシュタルという女神を祭り、売春税を取っていたのだった。産業もなにもない砂漠で病者や魔族からのがれる人々が集まる逃れの街と化してしまった以上、信仰も半ば捨てて商業で生き延びなくてはならなかった。

 

ある日、暗黒の竜に突然襲われ、従者とともに地下通路を通って逃げ延びた。国は滅びたのだ。闇に取り付かれたような街であったがために当然の結末とも言えようが、それでも親を殺され国を滅ぼされた恨みは大きかった。まだ8歳の時の出来事であった。

 

以来、放浪の旅を数年し、大河に近い土地を見つけそこに小さな村を作った。そこを勝手に王国となのっていたが法も税もかつての王国のものを使っていた。信仰を大切にし、王族と一般人の区別もすべて無くした。そうせざるを得なかったともいえるが――。

王政といっても現実には共和制であり、かつ規模は村そのものでしかなかった。

合議されたものをただ承認するだけであった。しかし民はつつましくとも幸せであった。だが、王族に対する恨みから王族を尊敬するものなど誰も居なかった。村人全員がよそよそしかった。

 

しかし、ここにも悲劇が起こった。

魔族の襲撃であった。

 

4.襲撃

 

獣人や竜人、鳥人……様々な魔が一挙に攻めてくる!

門を閉じ、矢で迎撃するが鳥人の剣によってあえなく倒れる。

 

ひたすら逃げるカーグ。無理もない。13歳なのだ。

横目で冷ややかに見る村人達。

逃げた先はアフラ神の祠であった。

 

次々と切り殺されていく人間達。

同じ祠の別室たる石の門を閉じる人々。だが、そこには何もない。飢え死にも時間の問題だった。

 

アフラ神の祠の石の門を閉じ、鍵をかける。しかし、なぜか祠に魔物は来なかった。そこに突然声が聞こえる。

 

―そなたの正義は本物か。

 

「貴方はだれですか?」

 

―誰でもよい。それよりも民を救い、光を取り戻し、命ある者が光の中で暮らしたい、その思う気持ちは本当か?お前が毎日祈っておるその願いは本物か

 

「本当です。俺の両親のように悪に落ちれば滅びます。闇は命を失う場です。そこに未来などないのです。俺がほしいのは未来と光です」

 

―ならば、この剣を受け取るがよい

 

突然アフラ神の像から光る剣が出てきたではないか。

 

―我は正義の神。違いは闇を払いのける事のみ。絶対の神などではない。それどころか、その剣も含めて使い道を誤ればこの世は正義と正義を振りかざす者同士の戦乱の世になる。ゆえにこのペルシャではそれを避けたいのだ。お前には人間の希望のためにその剣を振るうことが出来るか?

 

―少年の脳裏に蘇る悪徳の街、そして竜に滅ぼされ、両親が殺されていく様

 

―俺はそんな絶望で生きていたくない。

 

「ああ、俺は希望のために剣を振るう!」

 

―よくぞ言った。正義を振りかざすだけでは闇の側の思う壺だ。我も別の世界で同じ過ちを犯した。もう二度とそのような光景は見たくない。受けとるがよい。修羅剣を……

 

その剣は光り輝いていた。柄の絵が三面六臂の人の像であったペルシャでは見かけない不思議な像だ。

 

―その剣は闇の中に同化している魔をもあぶり出す剣だ。お前の宿敵の居場所も見つけられようぞ。

 

「神よ、俺は希望のために戦います!」

 

5.闇を打ち払え!

 

石の門を開け、剣を掲げながら火が放たれた村の中で魔物の一群に攻め入る王。

 

なんと剣から光から出るではないか。

 

「ぐぎゃあああ!」断末魔が響く。なんと次々消滅していく。

 

だがそこに鳥人が急降下して剣を振り下ろす。

 

間一髪でよける。そして鳥人にも光を浴びせた。

 

なんとどんどん溶けるようにして消えていくではないか。

 

次々魔に剣を振り下ろしては消えていく魔物たち。

 

「撤退だ、一旦引くぞ!」

あちこちで撤退の声が聞こえた。

 

6.追放 ―そして新たな旅立ち

 

村人達は翌朝石の門から出て行き、この村の有様を見て、絶望し、肉親の死を嘆き悲しみ、墓を作って行った。

 

突然武装した兵が王の周りを囲む

「王よ、議長からお話がある、来るのだ」

俺は仕方なく村長の家に行った。そこに王座があるはずだが、そこには別の人間が座っていた。

 

「お前は王でありながら真っ先に祠に逃げた」

「議長違います、俺はその後魔物と戦い……」

「嘘を言うな!魔物は単純にこの祠が苦手だから立ち去っただけなのだ。誰もお前の戦いなど見ておらん!」

「閣議での決定にて今日付けでお前をこの国から追放する!」

「命があるだけでも感謝するんだな」別の議員――村人が言った。

出て行け! 出て行け! 村人が次々に言い放つ。

石を投げるもの、罵声を浴びせる者、剣を振るう者もいた。

 

議長は言った。「神に祈ることしか出来ぬものよ、この村を立ち去るのだ」

 

カーグは荷物を持って出発した。村の光景がどんどん遠くなっていく。

 

―人間の正義とはそんなものだぞ。どうだ、闇の中に行ったほうが楽であろう。それでも我を信じ、光を世にあまねく照らすのか?

 

カーグは言った。また旅が始まるだけさ。行こう!親の敵を討ちに。そして世に光を!

 

―俺はお前を選んだことを誇りに思うぞ

 

それは希望を探求する旅のはずなのに絶望の出発であった

 

第三章

 

1.旅の中で

 

旅の途中、銀で作られた王家のメダルを売った。俺はもう追放されたのだ。無意味なものだった。こんなメダルなど、もう見たくも無かった。そのお金で代わりに馬を買った。移動距離が大幅に増えた。太陽が出ていれば、馬に乗りながら砂漠の中で修羅剣をかざした。すると一筋の光が見え、その仇敵の方向を示す。俺は馬を駆けながら砂漠を突き進む。

 

悲惨な過去を忘れるべく、道中の村では酒場で魔物狩りの案件を見つけては修羅剣で退治する。そのお金で宿代と武器防具の代金、食料費を確保できた。

闇のものどもを光に消し去り、血祭りにあげた。暗き悦びがふつふつを湧き上がる。だが、剣の威力はどんどん衰えていった。

道中で次々と魔物を退治し、とうとう名声は国中に広がった。だが、人間を信用できなかった。人に愛されたことなど無かったからだ。親ですら俺は暴力の道具であった。それでも光を信じる俺とはなんだろう……俺は光に操られているだけなのではないか? 本当に光を信じていいのか? なぜ死なないのだ。

 

……やろうと思えば俺を感謝してくれる村や街に定住することも出来た。だが、それは仇敵を討ってからだ。いや、出来なかったのはまた追放されるのが怖かったからかもしれない。

それでも神を信じているのか、ある村の祠では神官に寄付もした。アフラ神の加護で生きているのだから、当然だ。だが、神官は寄付を拒否した。

 

「今のそなたから受け取ることは出来ない」

 

「神官様、なぜです!」

 

「今のそなたは光を復讐の道具にしようとしておる。アフラの教えとはそのようなものではない。このままだとアフラと修羅剣はそなたから離れてしまうぞ。正義と正義の衝突はこの世に戦乱と闇を生んでしまう。それは絶望じゃ。そなたの今の戦いは希望の旅などではない」

 

「ではどうすれば」

 

「己の復讐のためにするのではなく、人のために義務として戦うのでもなく、自分がして欲しかったことを他人に分け与えなさい。それが本当の光。今のそなたは魔物退治という大義名分で動いているだけ。そうではない。心から苦しんでいるもののために、これ以上自分のような者を出さないために戦うのです」

 

「ここにアフラ神だけではなく、ミスラ神も祭っておる。ミスラは武勇の神だけではない。本来は契約と救済の神。一人で背負い込むことはない。弱いことは罪でも恥でもない。弱いことを隠し、偽善を振りまくことが罪なのだ」

 

―ミスラ神 それは終末の世に救済をもたらすアフラの僕(ヤサダ)

 

俺は、ミスラに助けを求めた。光を復讐の道具にしていること、そして人間を信じられない自分がいること。そのことが許せない自分がいること―

 

―そなたの願いしかと聞き入れた。そなたはそなたのままで良いのじゃ。自分を信じ、自分を守り、自分のために泣くのじゃ。そのために我は契約する。

 

どことなく声が聞こえた。祈りを終え、眼を開ける。

 

「ふむ。いい顔になった。もう一度ここで精神を修養するがよい」

 

―俺は数ヶ月この村の祠で羊皮紙の巻物を読み漁り、修養し、かつ生きているうちに手紙を書いた。

王子として仇敵を倒した後にやらねばならぬことを。そしてこの世への願いを。

今までの絶望の心も正直に。

 

それは遺書でもあった。

 

数ヵ月後、村から再び離れて行く途中、光の筋が少しずつ太くなりかつ青い光が輝いた。剣は完全に蘇っていた。それだけではなく仇敵である暗黒竜が近くにいることが分かった。

だが彼にはその前によるべき場所があった。光の示す方向からそれ、故郷に向かったのだった。

 

そこはただの廃墟であった。骸骨と瓦礫の山だけが残されていた。女神像が無残にも打ち砕かれ、奴隷牢は鎖に繋がれたまま焼け爛れたと思われる骸骨が多数あった。置き去りにされたのだ。近隣の村から来ては郊外に墓地を作り、出来うる限り埋葬した。場合によってはかつてあった王宮で夜を明かすこともあった。このとき14の齢を数えていた。北にはアルボルズ山脈が見えていた。光の筋はそこを指していた。仇敵はもう目の前だった。

 

2.故郷の想い

 

―そこは闇の洞窟

「タルウィよ、厄介なことに例の光の剣士がお前の故郷に来ているぞ」

ザリチュが言った。

行く先々で自分が破壊した街の人間を魔族にした者を光に帰しているという。

もちろん報告で知っていたが、そのスピードは計り知れないものだった。普通の魔ではとても手に負えないとのことだった。

「大魔タルウィ、自分が大魔ならば、自分の友がやられている姿をみすみす見逃すでない」

「師よ、必ずや因縁の地にて光を滅ぼして見せます」

「期待しておるぞ」

だがタルウィが想っていたのはその場所であった。様々な場所を滅ぼしてはきたが、その土地にだけは近づきたくも無かった。人間時代の無残な想いが蘇るからだ。だが、俺情をはさんでいる余裕などなかった。闇の力が弱まり、光の力が強まっている。人々が再びアフラの神々を信仰している。

やむを得なかった。

夜になり次第、タルウィはその者の前に現れることにした。

 

3.対決

 

―俺は目の前の仇敵から逃げているのだろうか。

 

今日も故郷の王宮の跡地に泊まることとした。瓦礫の山であったが、地下はまだ使えそうな場所があった。調理人がよく使っていた簡易ベッドもあった。簡易ベッドを直してそこを寝床にした。売れそうなものを探しては近所の村で換金した。換金した物で食料を買い、調理室で料理をして食った。こうして幾日もわたって王宮にある亡骸を集めては王族の墓所で埋葬した。

 

あれほど憎い両親とその一族。それでも兄弟や友人や従者が俺をかばい、守ってくれていた。その者たちのためにもせめてもの報いをしなければ……

砂漠の真ん中にある廃墟に夜の闇が迫る。

 

そこに突然声が谺した。

 

「アフラの加護を受けた剣士はどこだ!姿を見せよ!」

 

あわてて地下から1階に昇ると、突然瓦礫の廃墟から炎の業火が見えた。

 

慌てて地下に戻ると鎧を纏い、剣を握りしめる。

盾が使い物にならななかった。王城内の盾はどれも錆びていた。

 

―仕方ない。

 

竜の前に立った。

 

―この竜は、まさか…

 

4.光の化身

 

「お前か!アフラの加護を受けた剣士とは。ここで死んでもらう!」

 

飛翔しながら王宮跡地に業火を撒き散らすタルウィ。

 

あわてて王宮内に逃げ込むカーグ。

 

それを爪と尾で破壊しながら進んでいくタルウィ。

 

「逃げるだけが能なのか。これでも喰らえ」

 

舌の位置を変えると熱風を撒き散らした。

 

タルウィとはアヴェスター語で「熱」を意味する。熱の大魔なのだ。

 

体中が焼け付くように熱い!

 

逃げ回ることを止め、竜の目の前に躍り出た。

 

「俺の名はカーグ!無きカーグ藩王国の王子だ!」

 

修羅剣を出し、光を浴びせる。

「うぐうううう」

苦しんでいるが普通の魔と違い苦しんでいるだけだ……。

 

どれどころか、光をはね返したではないか!

 

「お前がここの元王子か。俺はかつてここの奴隷。この世ですでに呻き苦しみ、地獄の思いをした人間だ。闇によって安らぎと福音を受けた奴隷の子なのよ」

「王族よ、報いと恨みをここで喰らい、死ぬがよい!」

 

まず尾で壁に叩きつけると、瀕死のカーグに業火を浴びせ、さらに爪でなぎ倒した……。

 

全身が焼けただれ、血しぶきが上がり、絶叫が谺した……。

 

見えない……光景が急速に見えなくなっている。すでに光景が白黒となっていた。

 

死ぬのか……。

 

ずしん、ずしん、と足音が近づいてくる。そして記憶を失っていった。

 

ゆっくりとカーグをゆっくりと持ち上げ握り締めた。

 

「弱い。弱すぎる。これが闇の者どもを苦しめた者。そしてここの王子なのか?俺はこんな奴らに苦しめられたのか……」

 

「俺は親に暴力を振るわされ、奴隷として売られ、絶望を味わった。性的な屈辱まで受けた。王族のお前に何がわかる?」

「苦しかろう?闇になればその苦しみも楽になろうぞ。我も闇になり楽になった。この地、今は安息と平和の地ではないか。大魔の赦しを請えば、お前を魔にすることが出来る。お前のその能力は惜しい。お前も人間に裏切られてきたのだろう。人間をこれ以上かばう必要はあるまい?」

だがしかし、突然修羅剣が輝きだし、呻き苦しんだ。手からカーグを落とす。

 

「うぐううう。あくまで抵抗する気か。ならば、お前を殺すまで」

 

しかし様子がいつもと違っていた。カーグを光の衣が包む。

その光は剣から発せられたものだった。

 

光の爆発が終るとそこには武装した三面六臂の光につつまれた剣士がいた。

 

―我はアフラの化身。闇の者よ、闇に誘惑された心弱きものよ、本来戻るべき闇に帰るのだ。

 

そういうと三面六臂の腕にそれぞれに光の剣、弓をもっている。

四方がすみずみまで見渡せる。そして義憤の形相。

 

「いやああああ!」闇暗黒竜につっこみ剣を次々ふるう。業火も熱の息もすべて光には勝てなかった。

 

1つの面は竜を見据え、竜のわき腹につきさし、1つの面は弓を放ち、竜の眼を光の矢で仕留める。

 

―咆哮が谺した。

 

咆哮がてら片目を失った暗黒竜が語ってくる。

 

「何が正義の神だ。知っておるぞ。その昔正義の名でもって世を戦乱に落としいれ、暗黒の大地に変え、あげくこの死の大地ペルシャに追放された神ではないか。アーリマン様と同じ暗黒神が何を言う!」

 

―その通りだ。だからこそ、この大地で同じ過ちを犯したくはない。だからこそ、お前は闇に帰るのだ。この大地を暗黒にはさせない。

 

さらに1つの面が見据え、跳躍して暗黒竜の首を一気にはねた。

 

血しぶきが飛び散る。

いや、血しぶきだけではなかった。闇の煙がとんどん出て行くではないか。

 

声が響いた。

―こやつの体を借りたのが失敗。また違う体を借りねば―

 

待て!

 

その声に答えたのか代わりに首の部分だけまだ動くではないか。

「お前に俺の苦しみがわかるか」

 

暗黒竜がまだ生きている。

 

「ああ、わかるさ。光の剣士が答える。こいつだって親に暴力を振るわれ、絶望の中で生きてきた。人間にも裏切られ、それでも人間を信じ、希望を捨てず、苦難の道をあえて選んだ」

 

「俺のような闇と安息を求めるものはあとを絶たないぞ。正義は絶対か?」

「正義と正義のぶつかり合いは闇の世界に繋がるのだぞ。それに俺を殺しても大魔タルウィは別の人間の体を使うだけだ。光と闇の戦いが延々と続くだけなのだぞ」

 

「正義を愛や慈悲のために使えばいい。いずれ愛や慈悲を説く教えが世界中に広がる。お前は生まれるのが早すぎただけなのだ」

アフラの化身としてカーグは答える。

 

ふっ、愛。そんなもので残忍で罪そのものである人が救われるものか―

 

闇の力を失ってしまった暗黒竜の首はとうとう事切れてしまった。

 

しかし、気がついた。俺も同じであることに……。

 

―神よ本当ですか。神は追放されし暗黒の神なのですか。それでもなおこの死の大地に光をもたらそうというのですか。

カーグが自分の体の内にいる神に問う。

 

―本当だ。俺は妻を陵辱された。その神に戦いを何度も挑み、戦乱の世にしてしまった。あげくにこの砂漠の大地に追放されたのだ。この地では俺のような思いをさせたくない。その一心で死の大地を光の大地にしようとした。

神の正体を知ってお前はつらくないのか。お前を操っていたのに等しいのだぞ。

 

―なぜならカーグ、すまぬ。お前は肉体としてのお前はすでに死んでいた。お前の肉体を借りて暗黒の者を倒すしかなかった。すまない。俺は一部とはいえこの体から離れていかねばならない。俺自身のもとに――

 

―そうすればお前も魂としても冥界に行く。もちろん光の世界に。

 

―神よ、俺と同じです。正義の名の下に戦乱に明け暮れたのは俺も同じです。それでも闇の安らぎではなく、自分の意思で主に従い、そして主に命を捧げました。ですがこれは自分の意思です。

 

―主よ、最後にわがままを聞いてはもらえないでしょうか。俺は王族の墓標の前で俺から離れて欲しいのです。みんなと同じ場所で眠りたいのです。

 

―よかろう。お前にはさんざん苦労をかけた。

 

王族の墓標の前で光が解き放たれる。そして光が消えると、墓の前に眠っていたのは三面六臂の光の異形の戦士などではなく、焼け爛れた剣士の満身創痍の姿であった。

 

第四章

 

1.新たなる闇への渇望

 

―古代ペルシャ。常に光の神と闇の神が戦う場―

人々は病におののき、飢えに苦しみ、神への怒りとあきらめと反逆と背徳にふけっていた。しかし、絶望と闇は光の戦士によって再び光の大地に戻りつつあった。しかし、そんな光を再びもたらした戦士は光へと戻ってしまった。闇がその隙を狙うべく闇の逆襲が始まったのだった。

 

 

―ザリチュよ、また友が光に倒されたのか?また友愛を求める日々はやり直しだな。

 

ふふっ笑う声が響く。どことなく闇の洞窟に声が響いた。暗黒竜王子の声であった。

 

―はっ、もちろんタルウィは生きております。私とともに。闇の煙が我の体躯に戻って来たことで確信しました。また私は完全に絶望している闇を渇望している人間に鱗としてタルウィを与えるのみでございまする。闇を渇望する者が世に途絶えない限り、我は闇に戻すまで―

―我はまた人間の本来の姿である美しき姿に変わる、肉が流れる変貌が見たいのでございまする。竜王子殿。

 

そう言いながらザリチュは洞窟で啜り泣きのような暗い嗤を続ける。洞窟内に悲鳴のような声がいつまでも響き渡った。ザリチュにとってタルウィとは大魔の能力を受け継ぐ称号にすぎない。闇の者にとって名とは称号にすぎない。また闇の種を植え付け肉を変貌させ復活させればいいだけのこと。それはザリチュを始め大魔にとっても同じことである。

 

―狂気と絶望は我らの糧。その笑いも狂気の糧。我はその糧を食む。

 

「戻っていたのか、マーサ」

 

ザリチュが言うや否や闇の洞窟の床からさらに濃い闇の渦が地面からふきだし、マーサが姿を現した。

 

マーサが竜王子に謁見し、間を置いて発言した。

 

「竜王子様、提案がございます。今回の光の側の神の復興は脅威です。そこで、我も戦力として絶望した者を探すのみならず、我に力と祝福を与えいただけないでしょうか?もちろん新たなるタルウィも探し出してみせます。」

 

「ほお、そなた、狼からさらに強き闇の主へとなりたいと?」

 

―はい。

 

「よかろう。だが死の苦痛を乗り越え、さらなる新たな命になるのだぞ。いいのか?もうその仮初めの姿たる魔女の姿、すなわち人の姿は取れんぞ」

 

―覚悟の上です。

 

闇が新たな蠢きを開始した。

 

「ふむ。ザリチュ、どう思う」

 

「我は人間のみならず闇が美しき姿に変わる、肉が流れる変貌も見たいのでございまする。それはまこと至福と悦楽のひととき」

 

「くっくっくっくっくっくっくっ」今度のザリチュは短く笑いをこらえながら答えた。

 

「ならば、マーサ、この鱗を受け取るがよい。そして狼の姿になった後に我がその鱗の力を引き出すことにする」

「ただ、命をも落とすかもしれぬぞ。覚悟はいいのか?肉片になれば我がいただく」

 

「もうこの狼の姿を飽きたところでございます。もっと強き力でもって人間を恐怖に陥らせ、闇の福音を与えたいのでございます」

 

「よくいった。マーサ」

 

そういうといつもの通りに全身に黒い獣毛が生え、肉が溶岩のごとく流れ、狼の姿に戻った……この姿も最後となる。

 

アジ・ダハーカが自らの爪で腕を切り、肉を抉り取り、鱗にしたたせ、さらに肉を鱗の上に載せた。

 

「受け取るがいい。マーサ」

 

そういうと黒き血にまみれた黒き肉が載っている鱗を、暗黒竜王子たるアジ・ダハーカがマーサに手渡しする。黒き血にまみれた漆黒の鱗はさらに暗黒の度合いを深めていた。

 

鱗が渡るのを確認すると、暗黒の空間に三口、三頭、六眼がマーサ見据え、6つの腕と手が魔法陣をそれぞれ描いていく。最後に呪文を放った。

 

―眠りし闇と暗黒に目覚めを!

 

―これでかつては人を闇に陥れた側が今度はより強き闇へと変る。どんな姿となるのやら……ザリチュが希望を膨らまれながらもしかめっ面をする。

 

やはり狼に突然の変化が訪れた。目をむき破裂しそうな勢いで心臓が脈打ち、頭が締まるように痛い。いつもは傍目からみているが、いざ自分がとなるとやはり苦しい。

 

光景が暗黒の闇に包まれる。

 

―失敗か……? だがそれも本望。闇のものどもに食われ、闇の一部になるだけ。死を予感したマーサはさまざまな回想が走馬灯のごとく目に浮かんだ。

―――――――――――――――――――――――――――

元々はただの農夫であった。夫と子はたくさん生まれた。だが飢饉と疫病が一家を襲い、さらに戦乱が子ども達を奪っていった。帰ってきたのは「戦死」の知らせだった。

さらに異国の軍隊が一家を蹂躙していった。飢餓に苦しむ北方の遊牧民族であった。遊牧民族は移動先で逆襲されないよう全ての人間を虐殺する。ゆえに親の居ない間に軍隊はもてあそぶかのように惨殺していった。

夫婦しかいなくなってしまった彼らは生き延びるため農業をなんでもこなした。だがマーサは過労で倒れてしまった。

そこへさらなる不幸が訪れた。夫がどんどん変わり果ててしまったのだ。どんどん記憶を失い、ありもしない妖精を見ただの、アフラのお告げが聞こえると喚きだしたのだ。あまりの絶望で気が狂ったのだ。

マーサは必死だった。体に負担のない気分を安定される眠り薬である煎じ薬を夫に飲ませ、さらには病気に苦しむ人々のために薬草を近所や遠くの街に売ったのだった。

評判はよかった。マーサはやがて魔女として生業をたてることにした。占いや恋の相談にまで応じた。だがしかし、それは危険な行為であった。あらぬ噂がたちまち広がった。

 

―あそこのうちが呪いかかっているのは魔女が呪い殺したからだ。

 

―薬草を煎じるために人間を食い殺しているらしい

 

―闇のものどもを呼び寄せて疫病をはやらせばあいつの商売は上々じゃないか。闇と結託しているのよ。

 

―そうだ。本当は疫病もあいつの仕業にちげいねえ。治せる薬を知っているのなら、病を広がせる薬もしっているはず―

 

やがて疫病と戦乱の成れの果てで集団狂気と化した村人はマーサ夫妻を襲った。

マーサは裏口からかろうじて逃げたが深い傷を負った。夫は暴徒に殺され、死んだ。

悲鳴を聞くが、家を振り向くことなく山へと逃げ込む。さらに山を登ると遠くから煙と火が見えた。火が放たれたのだった。

 

あてもなく焦点のあわぬ瞳をもった老婆は山奥の洞窟にいつのまにかいた。闇の中で死をと思っていたのだ。そこに闇の者がいた。

 

―すべてに絶望した者よ。そなたはその傷でいずれ死ぬ。薬草も役にたちまい。だが、絶望という薬を飲めば安楽になろうぞ。それだけでない、あやつらに鉄槌を下すこともできる。どうじゃ、逆にあやつらを殺戮したくはないか、魔女よ。そなたは魔女という時点で人と対立する存在。ならばふさわしいのは闇。

 

暗黒の竜が洞窟にいたのだった。ザリチュであった。

 

すべてを憎しんでいたマーサ。これ以上の狂気を味わいたくないため闇を、鱗を受け容れた。望む姿を思い描いていた。気が付けば狼になっていた。すぐさま山を降り、その晩、村人を全員くいつくし、家をすべて破壊した。赤子もすべて喰らい尽くした。

 

それ以来ザリチュに従いながら自分と同じ苦しみを持つ人間に救いの手を差し伸べることにした。これこそが幸福なのだと。全てが虚無である闇にとろけさせる時が至福の時であった。

 

―闇の中でとろけさせ、安やぎを得ることによって死への誘いという狂気を抑えていたマーサ。―その闇の世が危ない

 

―ならば私がさらに強きものとなり、人間を殺し、喰らいつくすまで。この忌まわしい仮初めの魔女の姿なぞもういらぬ。破壊と闇こそが福音!

 

―――――――――――――――――――――――――――

そう決断したとたん、血が沸騰したかのような熱さで体中が熱くなり、喘ぐ。

やがて全身から黒き霧が噴出し漆黒の空へと勢いよく昇っていく。

手に持っていたはずの鱗は狼の掌に吸い込まれていった。

突如躯に異変がおき………全身の痛みに耐えかね、咆哮する。

血や肉や骨は闇の煙で沸騰し、呻きの声をあげている。新たな命の誕生の歓喜の呻き。

肉が流れ、脈打ちながら膨れていく。己の鎧でもあった毛皮が床に血とともに落ちていった。肉の塊となった身体の内側から新たに生まれた肉と骨と筋肉が膨れ、溶岩のごとく血肉がゆっくりと溶け、胴体を変形すべく血肉が流れ出す。骨も禍々しくゆがみ、膨れるたびに全身からすさまじい骨音が鳴り響く。骨はやがて鋼管よりも強き輪状の骨格となったところで音が止んだ。

背中にも変化が現れ、背びれのような突起が突き出ていった。背中から闇よりも黒き猛禽の翼が黒き血をからめながら新たに生えてくる。足だった部分は最後尾となり二股にわかれる。2つの手には鱗が生えやがて鱗は全身を纏うように広がった。さらに鋭き爪が曲がりながら伸びていき、より黒き色へと変わった。血肉の膨張のリズムがようやく止まると巨大な黒の大蛇と化していた。

頭部のみはかつての狼の容貌を維持していた。だがその狼の姿もより強き姿へと変貌する。髪が逆立ちざわざわと音を立てる。口はより裂け、耳はさらに尖った。さらに前頭部から鋭き角が黒き血をからめながら突く……

 

変化が終ったときは闇の主にふさわしい大蛇となった。

大蛇のかん高い咆哮が谺する

 

いつも傍から変化を見ていたがこれほどまでに自分を解放するとはなんたる快感。なんたる悦楽。湧き上がる憎悪と力、そして飢餓。ああ、これだ。思い出したぞ。これがかつて闇を受け容れた時の悦楽―

 

暗黒竜王子が笑いをこらえながら「気分はどうかな?」と問いかけた。

 

「闇の生き物がさらに闇を深めるのは至福でございまする」

 

漲る力が新しい命に答えているかのようだ。

 

「今日からそなたはマーサではない。私が命名しよう。そなたは今日から『ヴィシャップ』と名乗るのだ。闇の大蛇という意味だ」

 

「ありがたき幸せ」

 

「そこでだ、今回この死の暗黒の大地ペルシャではなく、アフラ神の支配の及ばぬ北の大地にいってもらいたい」

 

「そこで思う存分殺戮できるわけじゃな」

 

狼大蛇がうれしそうに答える。

 

「そうだ。そなたの因縁の遊牧民族を抹殺し、闇の世とするのじゃ」

 

その言葉を聞いたとたん、大蛇が喜びを含む憤怒へと変っていき、全身を震わせた。

 

「そうだ。兄妹よ。今日からそなたはこのアジ・ダハーカの血肉を受け継いだ兄妹。そしてそなたの目を通して世を見ることができる。いわば化身でもあるのよ……」

 

―もっともそなたの自我を保ったままで我がそなたの眼を使わせてもらうがな……

 

「くっくっくっくっくっくっくっ」なんと言う至福。なんという快楽。なんという惨酷。ザリチュは笑い続けた。

 

「北の大地に行き、そこで魔の王となり闇にそめるのだ、ヴィシャップ」

 

「ははっ」

 

それは新たな惨劇の始まりであった。

 

2.北への侵略

 

闇は闇である限りどこへでも行ける。ヴィシャップはさっそく夕闇にアルボルズ山脈の洞窟で闇の中へとろけさせ、西のアララト山の洞窟に移動した。南側は相変わらず光が強き世界だった。だが、光の弱い北方はアフラの信仰もなく、人々の行き交いも巨大な山脈のせいでほとんどなかった。

アララト山の洞窟の奥深くで空間が揺らぎ、闇がゼリー状になりそこに狼の頭を頂くヴィシャップが姿を現した。ヴィシャップは運動さながらに手を握ったり開けたりした。

力が漲っている。それだけでは無かった。魔女時代ですら修得できなかった闇の魔法を千も操ることができるようになったのだ。アジ・ダハーカの化身となった代償として、であるが……

洞窟で出て、巨体を蛇行しながら山を下るとそこは大草原であった。遊牧民が次々行き交う壮大な空間である。

―わかっておるな。ここを惨劇の場にして、闇と絶望の大地にするのだ……ヴィシャップよ。

ヴィシャップにアジ・ダハーカの思念が頭に語りかけてくる。

 

―もちろんでございまする。

自己の目を通して主が我の思念に語りかけている。試されているのだ。

我が本当の闇かどうかを……

―さっそく近隣の村を殲滅いたしましょう。狼の時よりも惨酷に、大量に。

 

―そなたの体は我が瞑想すればお前の目を通してお前の目の光景をみることができる。惨劇は我の糧となるよう期待しておるぞ。

 

―言うまでもない。復讐の時さ―

 

そういうと翼を広げ、下にある村に業火の炎を浴びせた。突然の襲撃に戸惑う村人達。

 

次に破滅に導く爪を裂いた。容易に鉄の剣が折れ、鎧を切り裂いた。横真っ二つに分かれる遊牧民の戦士。

 

次に右の指で魔法陣を描き、雷を浴びせた。炎がさらに広がり、焼け焦げた夫婦の姿が見えた。左で魔法陣を描くと氷の矢が次々村人を刺していく。

 

特攻していく騎馬兵を尾でなぎ倒し、落馬していく兵。

瀕死の兵に大蛇の尾がからみつく。尾をからめ引き締めるとにぶい音が響きやがて兵士は動かなくなった。

村が全滅し、残ったのは死体と燃えさかる廃屋だけであった。

 

次の村で同じことを繰り返した。次の村ではさらに牙の威力を試し、村人を突き刺した。流れ行く毒液。やはり炎を吐きすぎると飢餓感が襲った。さっそく食事をすませ、獲物を歯牙にかけ、血を堪能した。右の指で魔法陣を描き村人を石化させた。出来上がった石造を見て、すぐさまヴィシャップは尾で石造を叩き割った。

 

―つまらん。そうだ。いいことを思いついたぞ。かつてのタルウィのように破滅と破壊だけをせず……ははっ。人間にはもっと深い絶望を味わせてやろう。

 

そういうと飛翔し、さらに次の村を襲った。

 

襲ったあとに家家に炎を撒き散らした後、村長の村に行き、尾で村長の家を破壊し、そこにいた村長を握り締めてこう言い放った。

 

「先々の村のようになりたくなければ降伏せよ。命まではとらん。ただし、条件がある」

 

村長が握りしめられたまま掌にあわててひざまつく。さらに懇願するようにかすれた声で言った。「何でも従います!! 村人の者だけはお助けください」「してその条件とは?」

 

ゆがんだ笑みを浮かべながら答える暗黒の大蛇がそこにいた。

「それはな、全て力のある者に服従することと、全ての自由を認めること、そして魔のものどもの支配に甘んじることの3つじゃ。何、簡単じゃ。力こそ全てという世じゃ」

 

「このようにな」

 

そういうと尾で支柱なぎ倒し、家を破壊した。壊れたことによって納戸に隠れている青年が見つかってしまった。それを左手でつかむと右手でつかんでいた村長をそっけなく投げた。鈍い音が床に響く。

 

「よく見ておるのじゃ、村長。これが力が全ての世じゃ」

 

―われとて闇空間そのものになる時のみ命は永遠に維持されるが、肉を得た姿でこの世に居る限り、それは永遠ではない。ならばここで人と交わり、我の腹を孕ませておくとするか。人間に殺された分の命をここでな―

 

舌の位置を変え、青年に紫の煙をかける。青年の身体はしびれたまま無抵抗な状態となり、床に倒れる。大蛇はさらに桃色の煙を吹きかけた。青年は恍惚に浸る。

 

次に、爪で青年の服を器用に切り裂く。さらに暗黒の大蛇は手足の鍵爪を引っ込めた。その代わり、引っ込めた爪からは大量のゼリー状の油が生じた。

「大切なものを傷つけてはいかぬからの」そう言うと、その油を指でそっと丁寧に青年の全身を塗り上げた。

 

―その後、大蛇は人間には思いもよらぬおぞましき行動に出た!

 

やがて青年が発する人間の声とは思えぬ悲鳴が村中に轟く。その光景を見ていた村長が胸を抑えながら泡をふ吹きけいれんを起こしながら倒れ、やがて動かぬものとなった。絶えられぬ光景であったのだ。

大蛇は己が行っている作業を縦長の瞳孔を通して冷徹に青年を見つめている。だが大蛇も己の欲望に負け、知らず知らずゆっくりゆっくりとゆがんだ三日月の笑みを牙を覗かせながら浮かべはじめる・・・悦楽の波動を受けるたびに己の爪が元の長さに戻り始める。

やがて大蛇の歓喜の声が村中に響いた。青年はその声を聞き、思わず狂気と絶望の叫びを吐いた。青年が出した狂気の絶望はすべて暗黒の大蛇が我が物とした。

――まだだ。まだ足りぬ。我が受けた絶望はこんなものではない!

さらにそれだけでは飽き足らずヴィシャップは巨大な己の体を何度も何度も上下左右にゆさぶり、青年が持つ絶望を何度も吐き出させた。その絶望をさらにゆっくりと堪能する。最後に長き沈黙の後、己に突き刺さった剣をゆっくりとゆっくりと余韻に浸りながら惜しみつつ抜いた。食事は終わった。

 

事を終ると裸の青年を大事そうに大蛇が床に置いた。青年は大蛇の血を大量に浴びていた。毒の血を浴びた青年の体に異変が起こる。まず体中の幾筋もの赤黒い血管が浮かびあがった。血管の筋は四肢にひろがり、やがて全身に広がる。やがて自我を失った身体がびくびく痙攣を起こし始める。痙攣が次第に大きくなりながら、青年の体がさらにみるみる赤みがかった皮膚に変っていく……

やがて痙攣が突然止み、息絶えた。だが次の瞬間、目の瞳孔が縦長に変った目をかっと見開いた。だが、自我は無いようだ。

 

「お前の役目は終った。……にしても、くくく、なかなかであったぞ」

自らの唇を2つに割れた舌で舐めながら大蛇が述べた。

「すまぬ。言い忘れたの青年よ。実は我の血は人間にとって猛毒。我の血に少しでも触れるだけで普通の人間は死ぬのだ。だがお前のためにと思っての、お前を魔物とすることとした。我の油には人間には我の毒と同調して免疫が生まれ、魔物として変化するのじゃ。お前はたった今新たな命を得たのだ。そのままの姿で生き恥をかきながら生きるかはおぬしの選択にまかせる。何せ「自由」じゃからの。もっとも絶望が苦しいのなら、心までこの我の鱗で完全なる闇に染めてもよいぞ。お前はなんせこの子の父なのだからな……」

 

―だが、青年は放心状態のまま火が放たれた村を出た。

 

―ふっ、そのまま野に生き、野垂れ死にを選ぶか?それも魔物にして人の心の選択。絶望よの。その絶望も我の糧とするか――

 

―くっくっくっくっ。見ているだけで糧となるわ。ヴィシャップよ。悦楽も味わせてもらったわ。

―分かっていると思うが、そなたはその国の王となりながら我に従うのじゃ。さらなる快楽と力を与えようぞ―

 

―当然でございまする。大魔が集まるときはよろこんで行きまする。

 

……これ以後、後にアルメニアと呼ばれる大地は魔の支配下に置かれた。

ペルシャから大量に魔のものどもがおしよせ人間を支配下に置き、人間を奴隷としたのだ。力こそ全て。力なきものは何されても服従することとなった。

こうしてさらに人と魔との間に竜人や獣人も生まれ、魔となるものも増えた。

 

ヴィシャップは奴隷となった人間に宮殿を作らせた。闇の力で守らせた宮殿は強固であった。6角ある城にはそれぞれ魔法陣が描かれ、さらに全体に魔法陣が描かれた。

 

ヴィシャップは魔の希望の星と呼ばれ、その国の女王となった。今や光の国となったペルシャから逃れてきた魔が次々と移住し、混血した半魔ともいえる竜人や獣人、鳥人などが一大都市を形成した。

 

―やがて子を産んだ。それは上半分が人間、下が暗黒の大蛇であった。「アジ・ラーフラ」と命名された。将来の王となる子であった。ヴィシャップは惜しみなく愛を注いだ。

 

正面から人間社会を攻めることが失敗した魔の奇策とは、内部から人間の血を薄め、魔に染め上げ、人口を増やすことであった。

 

半魔と純粋な魔の差別は「自由」の名のもとに絶対的に禁じたため、暗黒の都市は急激に拡大した。

 

こうしてアルメニアは暗黒の大地と化したのであった。

 

第五章

 

1.絶望の子

 

広大な遊牧民が行き交う北の大地。そこに1人の青年が倒れていた―

 

遊牧民が拾い上げたのだ。

 

遊牧民達は魔の侵攻に怯え、ある部族は冬に凍土となるより北の大地に、ある者は西に、ある部族は東の砂漠に、そしてこの部族は西南である小アジアクルド地方を目指す部族であった。

 

一週間以上眠り続けたがテントの中でようやく目が覚めた。

 

―だが、自分の名前を思い出すことも出来なかった。

 

何もかも忘れていたのだった。「記憶喪失」という奴だった。

 

身につけている指輪などから自分はスキタイ族出身であることがわかった。同じ部族だからこそ遊牧民は助けたのだ。

 

幼稚帰りしていた青年がそこにはいた。ゆえに子ども達と一緒に遊び、手伝い、文字を再び習い、祝いの歌や民族の歴史を再び学んだ。スキタイ族らは青年の瞳の事を含め奇異の目で見ていた。

それでも青年は少しずつ人間らしさを回復しながら下働きにいそしんだ。名を忘れたため彼には名が与えられた。「アルトゥス」と名づけられた。部族ではありふれた名であった。

 

彼らは小アジアクルドに入った。そこは侮蔑と差別の温床であった。すでに同じ遊牧民が難民として流れてきたのだった。ペルシャ帝国の北端だった国境の町はさんざん侵略してきた遊牧民を信用できず、帝国軍が押し返すこととなった。また戦争がおき、全く相手にならない遊牧民は逃げるように北に逃げ延びた。

遊牧民族達は後方の補給路を絶たれると死を意味した。ゆえに戦争は残虐な行為を起こさざるを得なかった。それが生き延びる知恵であった。それが他の国から憎悪の目で見られていた。今度は迫害された民となったのだ。

 

一方でその移動力と交易力に諸国頼らざるを得ず、はるか東の竜の国とやらの交易品、西は哲学の国々と呼ばれた工芸品まで扱うことができた。だからこそ遊牧民を複雑な目で見る民族が多かった。

 

押し返された部族は仕方なく帝国から外れた草原にテントを作り、やがて移住した。だが、危険であった。魔のものが侵略してきた。暗黒の大地アルメニアに近いからだ。

 

2.石の剣

 

「魔軍がせめてきたぞー」

 

見張りの騎馬兵が大声で本隊に報告してきた。騎馬隊の後ろには多数の竜人や鳥人、獣人がいる!

弓矢を放ち、石弓で石を投石する。さらに筒のようなものから火炎を出し、自らも火炎を吐くではないか。騎馬隊の得意とするところは移動力である。次々と軍を引き離す。移動力の遅い幌馬車が壊滅していく。

 

「アルトゥス!俺の後ろに乗れ!」

 

仲間の声だった。さっそく馬に乗りしがみつき壊れた幌馬車から離れる。

だが、甘かった。空から奇襲があったのだ。鳥人が空から弓矢を放ち、さらに鋭いくちばしで襲い、剣を振り下ろす。

 

「なにを、もっと走るんだ!」

 

だが絶望的だった。次々倒れる騎馬兵たち。

 

「アルトゥス、わが部族の最強の剣が納められている場所が北ペルシャ高原の丘にある。かつて遊牧民とペルシャ人の交流が盛んだった時代に異教の神に我々の神の杖を収めた『石の剣』がそこに収められいる。そこにいって剣を引き抜け」

 

「この剣は人間であって人間でないものにしか引き抜けない。だからと言って魔や半魔では引き抜けない。ゆえに部族の長はお前を拾うことにした」

 

「何言ってるんだ!俺は人間だ」

 

「すまねえ。説明してる暇はねえんだ。俺があいつらを引き寄せる間に逃げろ」

 

「この馬はお前にやる。さあ!早く逃げるんだ!」

 

そういうと名も知らない騎馬兵が去っていくではないか。

 

「俺の名はガウ。緑の騎馬兵よ!」

 

全身緑の装飾に軽装備された騎士がそう答えた。そういうと竜人部隊に突進していく!おとりになるつもりなのだ。

 

アルトゥスは後ろをふりむかず、必死に馬を走らせた。

 

3.救いを求め

 

草原を一頭の馬が駆け巡る。アルトゥスであった。

 

羊皮紙の地図に印がついてある場に向かっていった。そこは山を抜けペルシャ帝国の中にあった。山を上り下っていく。難行であった。何度も崖から落ちそうになった。下山できるころになった時はすでに冬となっていた。あと一歩遅かったら凍死していただろう。

 

その地図の印はミスラと言う名の神を祭る寺院の中にあった。

 

―ミスラ神 それは終末の世に救済をもたらすアフラの僕(ヤサダ)

 

私は神官に事情を話し、説明を聞いた。

 

ミスラの持っているものは剣ではなく、杖であること。竜の血を引いた人間が杖を引き抜くことが出来ること。そしてその杖は持ち主の意思によって剣になることの3つが主要な説明であった。

 

だが剣を引き抜くことは神官に止められた。

「そなたは正義の心はもっていようとも、力も意思も弱い。ここで修養するがよかろう。かつて数年前にもそなたのような剣士が尋ねてきた。アフラの加護を受けたのにも関わらず、復讐心だけで暗黒の竜に戦いを挑んだ勇者じゃ」

 

「その勇者様とは今は一体?」

 

竜を殺したが、自分も傷を負って死んだのじゃよ。もともとは小さな王国の王子じゃった。だが復讐の心だけでは倒すことは出来ぬ。逆に闇の誘惑に取り込まれてしまう。そこでアフラだけではなく、友愛と救済の教えであるミスラの教えを勇者は学んだのじゃ。

そういうと神官は衣服の袋から透明な小さな水晶を持ち出し、呪文を唱えた。するとみるみる水晶が黒くなっていく。

 

(なんてことじゃ。魔と交わっている。いや、だからミスラの杖は引き抜けるのかもしれぬ。しかし、本人にそれを言うのはあまりに酷じゃ。神官長としてそれはできぬ……)

 

「そなたこのままでは闇に堕ちてしまうじゃろ」淡々と述べる神官。

 

「そんな!なんですって!」

 

「だからこそ、この杖は人間であって人間でないものにしか引き抜けない。じゃが、正しい心の持ち主しか抜けんよう封印がされておる。そなたミスラの試練を受けるつもりはあるかの?」

 

「もちろんです。わが部族と民族の復興のために」

 

「ならばまず、そなたの前に試練を受けた勇者の手紙を読むがいい。そしてその心を受け継ぐことじゃ。試練はそれからじゃ」

 

俺は1年半も寺院で修養した。

 

まずスキタイ族は文字を持たなかったので文字を修得した。石版に文字を加工するのはアルトゥスにとって外国語であったたため苦難の連続あった。次に神官らから武術を修得した。戦国の世であったため暗殺術も中には含まれていた。神官らはこうして異端や敵対者を殺していたのだった。ゾロアスター教神官がマギ(魔術師=学者)といわれるゆえんである。

さらにゾロアスター教の基礎理念を勉強し、いよいよその勇者が書いた羊皮紙を見ることとなった。

その羊皮紙に書かれている内容は壮絶であった。

 

退廃にふけっていた王国の隙をついて闇の竜に国が倒されたこと、王国の民族が東方に移動したこと、村を作った野にもかかわらず闇のものどもに攻められたこと。それを撃退したのに追放されたことであった。そこで光の力を手にしたのにも関わらず光の力を復讐の道具として使ったこと、それを悔やんだこと、それを悔い改め再び王政復古のためたった1人で闇の竜に立ち向かう決意で文章は終っていた。最後にこう記述を残して……。

 

「我死せり後、この危機が再び訪れたときに危機に対応すべきものが読むべし。カーグ14歳」

 

なんとカーグは今年で30歳となるアルトゥスの半分以下の年齢であった。子どもがこんな悲壮な運命を背負って戦っていたなんて―

 

驚きと自分の人生の後悔を改めて思った。

 

絶望に立ち向かった14歳―! 俺は中年になってまで子ども帰りをして何をやっているのだろうか。

 

……それ以来剣術と文字の修得、異教であったゾロアスター教とアフラの教え、そしてミスラの教えを学んだ。月日は経ち、季節は繰り返し、さらに季節は春となっていた。

 

神官の許しが降り、いよいよミスラ像の杖を引き抜く時が来た。最大の試練の時だった。

 

4.聖杖伝説

 

ミスラ像の前に立つアルトゥス。

 

その石の杖を引き抜こうとした時に声が聞こえた。

 

―そなたは竜の血を引くのじゃな。

 

「なぜ私は竜の血を引いているのですか?ミスラ様?」

 

―それを知るとそなたは正気を保てなくなるぞ。しかし、いずれ知るときが来よう。じゃが、そなたは人間だ。その竜の力を正しく使うことをここに誓うか?

 

「誓います」

 

―ならばそなたに祝福と契約を授けよう。我は武勇と契約と太陽と救いの神ミスラ。救いを求めるものが居る限り祝福を与えん!

 

像が光りだす。声が聞こえなくと、いともも簡単に神官や戦士たちが誰も引き抜くことが出来なかった石の杖を引き抜くことができた。

 

その杖は石で作られたものであるにもかかわらず軽かった。

だが試しに他の神官達が持とうとするとすさまじく重く、持ち上げることすら困難であった。

 

―気がつくと手の甲に痣があった。紋章であった。これが契約の証―

 

さらに杖から光が輝くではないか。これがカーグという王子が持つ剣と同じ効力を持つのであろうか―

 

「その杖はまだ本当の力を出してはおらぬ。本来の姿は剣なのじゃ。ミスラは裁きの神でもある。救いや祝福を求める姿には杖を、裁きの時には光を出すのじゃ」

 

「暗黒の者に裁きを与えるのじゃ。そなたの力で」

 

「ただし、その杖を剣にするには修羅剣が必要じゃ。カーグ藩王国の墓標に突き刺さっている。その修羅剣の光をミスラの杖に当てるのじゃ。さすれば石の中から剣が出るじゃろう」

 

「暗黒の者に立ち向かう前にカーグ藩王国に向かうのじゃ」

 

「神官様、いろいろお世話になりました」

 

いろいろな指導者に頭を下げ、馬とともに去っていくアルトゥス。

 

姿が見えなくなると神官たちの笑みが消え、神官長に神官達が詰め寄った。

 

「アルトゥス本人に言わなくてよろしいのですか?彼は暗黒竜と交わった者であること、その血をもらい受けてしまった半魔であるということを。彼はもう人間ではないのです。いつ暗黒竜になるかわからないのですよ?そのような人物にいくら杖が扱えるからと言ってなぜ貴重な杖を与えるのです!」

 

しかし、神官長はいった。

 

「よいのじゃ。ミスラの杖に選ばれたということは暗黒には堕ちることはない。万が一堕ちることがったら杖がアルトゥスを罰するじゃろう。ヴァルナ神がな。」

 

「わかっております。しかし、魔となったものに渡すことがいいのかと説いているのです!」

 

「彼は魔には堕ちぬ。わしは彼が敵対国である遊牧民族にミスラの教えが伝わり、光を取り戻してくれればよい。人が滅びようとしているのに敵国も民族も関係なかろう。それだけじゃ」

 

そういうや否やいきなり後ろからドン!と背中を突かれた。背中に赤い染みが広がる……。

 

「なぜじゃ……ミスラの教えは万国の教えのはず。暗黒の者こそ、罪を背負うものこそ、救うべき者のはず……」

 

「貴方は国家に反逆したのです。もっともアルトゥスは後で利用いたします。その杖が剣になったところでマルダース王国に奉納していただきます。じきに兵もそちらに向かうことでしょう。そのほうがカーグ藩王国にとっても幸せでしょう。」

 

仮面をかぶった神官が淡々と語る。暗殺術であった。

 

さらに突き刺された刃は臓物を抉り出し、参道に肉片を撒き散らす。他の神官の刃も次々神官長の体に突き刺さる。

 

「そなたらはミスラ神の……前で……罪を犯すのか……」

 

そういうと神官長は事切れた。

 

第六章

 

1.修羅剣との出会い

 

カーグ藩王国は魔のものどもが集うとされた北にはアルボルズ山脈が見える位置にいる小国である。アルトゥスは母国アルメニアに帰る前に石の杖を光の剣とする修羅剣があるカーグ藩王国の墓地に行くためだ。

カーグ藩王国は人々がようやく城も街も再建している段階であった。いまだにいたるところに竜の爪あとや尾によって破壊されたあとがあり、暗黒竜の恐ろしさが伝わった。城の中も見事に壊れ、大工が必死に復興活動にいそしんでいる。城の厩に馬を置くと従者が王の謁見室を案内してくれた。とはいえそこは天井が崩れたただの空間であった。

俺は王に謁見した。王はもうカーグ一族直系ではなく、隣のマルダース王国から政略結婚で結ばれた姫の子であった。この国もじきに隣のマルダース王国と合併するという。といっても両国ともに魔の侵略よって滅亡寸前という中での併合であるらしかった。ここは光の神々から最も遠い暗黒に近い地域なのだ。王は大神官の親書を見るや否や警戒心を解き、さっそく墓所に案内した。

そこに「カーグ14世ここに眠る」と刻まれた石があり、あのカーグ少年が眠っている。そしてそこに刺さっている剣があった。私は自分の持っていたミスラの杖をかざした。

 

だが、何もおきなかった……・

 

「ふむ、何かが足りないのか、ただの言い伝えかもしれませぬ。勇者よ、今日はこのあばら家としか言えませんが、この城に泊まっていただけないでしょうか。遊牧民族との貿易は国を強くします。我々はむしろ遊牧民の王と貿易協定を結びたくむしろ貴方に親書をお渡ししたいのです」

 

破壊された城でつつましい宴会が開かれた。

 

そこで王に遊牧民族の王国が暗黒の大蛇に滅ぼされたことなどを伝えた。王は酷く嘆き悲しんだ。そこに突然藩王国を束ねるペルシャ帝国の軍が城に迫ってきた。城は突然のことで大混乱に陥った。

 

軍の大将が城に入り宴会の席に乱入した。

 

「ペルシャ帝国の反逆者アルトゥスを出すのだ!」

 

2.ミスラの剣

 

宴会の席を逃げ惑うアルトゥス。厨房を潜り抜け、多数ある部屋を出るとそこは昼に訪れたカーグ14世の墓だった。だが、兵たちが追いつく。

 

「これは好都合。さあ、貴様の持っているその石の杖をここで剣にするのだ」

 

周り中剣や槍に囲まれたアルトゥス。仕方なく従った。その中には見覚えのある顔があった。なんと武装した兵の中にミスラ神殿の神官ではないか!

 

「わが国がほしいのはその光の剣。これで暗黒の者を倒し、王権を強めるのよ」

 

「だましたな!神官長から全部最初から!」吐き捨てるように言うアルトゥス。

 

「ばかな。神官長は本気だったのよ。その剣の復活のためだけに。だが敵国の人間に渡す馬鹿がどこにいると言って全員切りつけたわ」

 

怒りがふつふつとこみあげるアルトゥス。剣を差し向けられながらカーグ14世の石の墓に刺さっている剣を引き上げようとした。

 

―光を求めるものよ、その怒りを正しきことに使うのだ。今剣の力を杖にさずけよう。そして本当の姿もお前に見せてやろう……。

 

声が聞こえたかと思うと、剣が突然輝きだし、剣を引き抜いた。それだけではなかった。持っている杖と共鳴し、杖の石が剥がれ落ち、つばが小さい光の剣となって変化した。

 

さらに光が爆発し、剣が己の体に吸い込まれていく。それは光の爆発。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」雄たけびが谺し、光の爆発がさらに膨れ上がる。

 

「ぐはあああああ。まぶしい!」周りを囲む兵士全員目がくらんだ……・

 

気がつくとそこには頭部は狼、胴体と尾は赤みがかった黄金の大蛇がそこにいた。

 

―これが俺の本当の姿!?俺は人間ではない? なぜだ!

 

そこに血の記憶が呼びかける・・・・・・しかし、まだ意味不明な内容であった。燃える村、黒き血を浴びる自分。

 

だが、記憶にひたっている場合ではなかった。兵士に囲まれていたのであった。たじろぐ自分。あわてて叫んだ。

 

「立ち去るがよい!」

 

轟くように己の声が発した。逃げ去る兵士達。

 

やがて墓標の周りにいる兵士がいなくなった。

 

―元の姿に戻りたい……。

そう思ったとたん、また光の爆発が起こった。もとの姿に戻った。服装ももとのままだ。

 

3.絶望の出発

 

逃げたのは兵士だけではなかった。

 

「竜が攻めてきたぞ」「滅びの時が来る!」

 

半狂乱、パニックに陥る城内。いや、城内だけではなかった。門兵を通じて城下町にまで伝わってしまった。

 

城内の兵士がいっせいにきりつけていく。

 

恐怖感か、全ての感情を失い奇声を上げる。

剣を光の剣で払いのけ、襲い掛かる兵士を返り討ちにして切りつけていくうちに、再び光の爆発が起こる。

 

再び黄金の大蛇となった。

 

宴会の席にいた王は玉座に逃げ椅子の下に隠れこむ。それを大臣達が引き上げてこういった。「あの者を招いた責任を取ってもらいます。王よ、あの者を追い出すのです」

 

王はおそるおそる前に出た。

 

「やめるのじゃ!皆のものよ」兵士に向かい、静止を命ずる王。

 

そしてアルトゥスに向かいこういった。

 

「アルトゥス、お前を国家反逆罪で追放処分とする。命があるだけでもありがたいと思え」

 

大蛇の姿とはいえ、人間の言葉が理解できるアルトゥスにとってそれは苦痛と屈辱の言葉であった。

 

―やむをえん。お前の大義は魔を討つこと。人間を討つことではない。ここを立ち去るのだ

 

「命に従うぞ、王よ」

 

そういうと背中から黄金の翼がばさっと音を立てて生えてきた。

 

アルトゥスは翼をはためかせ、闇夜の彼方へと飛んだ。

 

目には涙であふれながら。

 

―アルトゥス、これが人間の現実だ。ましてあの街は一度竜に滅ぼされた街なのだ。王国の人間も汲み取って欲しい。その絶望を救うものこそ勇者なのだぞ。そして真の姿になった理由を知ったとき、本物の王となることであろう。

 

王は飛び去っていく大蛇を見ながら腰をぬかし、倒れこんだ。腰から下には水があふれていた。それを見た大臣達は王に対し言った。

 

「貴方もです。貴方には王である資格はありません。そんな弱腰の王など必要ありません。貴方の子カーグ16世が王座につきます」

 

「所詮、俺は政略結婚で生まれた道具なのだな。魔とは権力欲にとり憑かれたお前達ではないのか? あやつが魔だったらとっくにこの街を攻撃してるわ! 魔とは人間でもあるのだ!」

 

「侮辱は許しません」

 

そういうと大臣の1人が王に手をかけた。クーデターであった。本当は大臣の衣装をまとった神官だったのだが。

 

―ふっ、これでこの国は弱体化した。直轄地にして我らの王子の領土とするか……。

 

急遽合併した王国には権力欲と闘争がいつ出てもおかしくなかった。騒乱はそのひきがねとなってしまったのだ。そのひきがねを大臣、いや大臣をも手玉にとり大臣の姿を取ったミスラ神官が利用したのだった。

 

王子はまだ16歳であった。自室に身を潜めていた。このとき、自身が急遽王になるとは、そして父が大臣に殺されたことをまだ知らなかった。

 

闇の中で口が裂けるような不気味なほくそ笑んでいる存在がいた。

 

―こいつは本物の闇の心の持ち主だ。こいつは闇に取り込めるぞ。

 

「くっくっくっくっくっくっくっ」

 

なんと言う至福。なんという快楽。なんとしても友を復活させねば――

 

絶望の思いと引き換えに念願の剣、いや黄金の大蛇の体を得たアルトゥスは飛び続けた。

 

涙をぬぐいながらアルトゥスは渾身の思いでアルボルズ山脈の西側を越える。幾日もたち、3日目の朝日が差し込むと懐かしい光景が飛び込んできた。故郷だ。暗黒の大蛇ヴィシャップに支配されし故郷に戻ってきたのだ。

 

―俺はなぜ大蛇なのだ。なぜ真の姿が大蛇なのだ。なぜ……。

 

ミスラの答えはなかった。しかし、血と剣の力によってアルトゥスはその答えを瞬時に知ってしまった。ただし、あまりに惨酷なその答えをミスラ神に対してすら言い出すことが出来なかった。

 

第七章

 

1.人の繋がりを知って……

 

アルボルズ山脈の西側を越えると、懐かしい光景が飛び込んできた。故郷だ。だが、その先にあったはずの故郷の草原は暗雲が多い、雷光がほとばしる。さらにその先に暗黒の城が聳え立つ。そこは暗黒の主に支配された大地であった。大地は瘴気を含み、毒みがかっている。人間は奴隷にされ働かされているがやがてこの毒にかかり帰らぬ者となる。人間と交わることで生まれた半魔か魔物以外住めぬ大地となった。その魔都の城に暗黒竜王ヴィシャップが支配する。なぜ俺は大蛇の姿となったのか、そしてかつての大地を取り戻せるのか?ミスラの剣の力で目覚めた大蛇は思いをはせた。

大蛇の姿になると普段遠くて見えぬものが見える。城下町にさまざまな魔や半魔が暮らしているのか、住宅が多数みえた。だが、魔の大群を要しているであろうこの国にたった1人で光の大蛇の姿といえども単独で攻め入るのは危険であった。

城下町を離れ人や魔がいないことを確認して瘴気の残る草原につくとまばゆい光を発してもとの姿に戻った。そこから歩いてなじみの近所の遊牧民の集落に向かった。だがそこはすでに滅ぼされた後だった……

 

仕方なく再び黄金の大蛇の姿となって大空で飛んでいく。北方にたしか村があった。だが冬には越冬できず、ここで固まって過ごすのである。だが、大蛇は寒さに弱くとてもたない。北への道は危険だった。そこで西に進路を変えた。その集落はさまざまな遊牧民が魔やペルシャ帝国から逃れて一大都市を形成していた。様々な言語が飛び交うバザールもあるという。さっそく近所の林に降り、元の姿に戻って街へと向かった。

そこはテント村だった。ろくに水の確保もできぬ状態で騎馬隊が水を運んでいる状態だった。衛生状態は最悪で幼児の死体がころがっておた。いつでも逃げ出せるように転々としている模様だった。そこに1人難民として入っていった。

 

情報を得るためだった。しかし、魔軍が再び攻めてきた。集落全員が終りを確信しながら戦士の踊りをはじめ、葉を吸い、熊の毛皮を着て狂戦士となる準備をしていた。特攻するつもりだったのだ。そこにアルトゥスは光の剣を持ち、1人で闘った。魔の軍は跡形もなく、光に消えていった。

 

歓声がわきおこり、絶望の村に希望の光が見えた。

 

騎馬民族はアルトゥスを先頭に河のある魔の村に攻め入った。光で消し去ったが、物陰に隠れて不意打ちする魔物が後を絶たなかった。友軍がどんどん死んでいく。しかし、アルトゥスの前に立ちはだかると逃げていった。勝てないことを知っていたのだ。この勝利の噂は騎馬民族中に広がり、アルトゥスの前にどんどん兵士が集まっていった。一大軍となった集団は次々魔軍を蹴散らしていった。希望が希望を呼び四散していた騎馬隊も集まっていった。たった1人の力で西側の土地を取り返した。空からの襲撃も、魔の矢であってもミスラの光の前には無力であった。

 

2.別れ

 

突然の光の戦士登場は魔物を混乱に陥れた。

かつての光の戦士カーグの再来と恐れ魔都は恐慌状態に陥った。

 

半魔をなぎ倒して我先とペルシャに逃げる者、闇へと溶けてペルシャに戻るもの、様々であった。魔の力は虚構であり、大軍であるのは虚実であった。だが混乱の後に静まり返ったヴィシャップは冷静にその光景を眺めていた。

 

「ふふふふ……。あの時の再来じゃのう。わしももう潮時かの」

 

「じゃが、我の家族を滅ぼした恨みはまだ晴れぬぞ」

 

そこに幼き半人半蛇であるアジ・ラーフラが出てきた。息子だった。

 

「ぼくも闘う!」

 

あまりに幼き声に戸惑いと悲しみの声を浮かべたヴィシャップは言った。

 

「そなたは齢4にすぎぬ。闘うことなどできやせぬ。この国ももう終りじゃ。せめて半魔のものどもを救い、後に王となるようがんばるのじゃ……」

 

「何を言っているかぼくにはわからないよ!」

 

そなたにこれを……。

 

それは黒い石版でこう書かれていた。

 

「魔と人の共存を求め、平和を求める者に王となる資格を与えん」

 

「お前にこれをさずける」

 

「よいか、絶対に人間を憎むではない。魔もじゃ。いつかこの光と闇との戦いは終りが来る。そなたはこの地を平和にすべく平和の教えを広めるのじゃ」

 

そういうと半魔の一群が母の後ろからずらりと並んだ。

 

「新たな王は私たちが守ります」

 

狼人、狐人、猫人、牛人……さまざまな武装兵がいた。

 

「さらばじゃ……わが息子よ。お前を死の国へと向かわせるわけにはいかぬ……」

 

「首謀者の正体は単なる光の戦士などではない。先日伝令から光の大蛇を見たという報告が幾度も無く着ておる。おそらく奴じゃ。我はこの種をまいた原因として始末せねばならぬ」

 

「息子ラーフラは北のカザンに向かわせよ!そこなら光の戦士も来ないであろう」

 

「なぜです?」

隊長である狼人が質問する。

 

「首謀者はそなたと同じ半魔だからじゃ。ただし、元人間じゃがな。絶望を教えたのにもかかわらず光の教えにかぶれたものよ。蛇なら凍土の大地なら普通越冬はできんはずじゃ。もっとも下半分のラーフラとて同じ。じゃが、半分は人じゃ。防寒対策さえすれば動かぬ状態になる事は無い」

 

「はあ」

 

「ゆけ、行くのじゃ。もう時間が無い。騎馬の大軍が迫ってきておるぞ」

 

「女王様、この短い時間、至福の時でした!」

 

半魔たちは人間との魔と交わったため、実質は2級市民扱いである。理念など建前であった。そしてラーフラ同様幼いものばかりであった。一番の年齢が行くものでも8歳であった。少年隊を急遽結成し、城から逃げ延びさせたのだ。

 

とうとう城にはヴィシャップ1人となった。

 

見せたくなかった。己の醜き姿の本性を。わが子に地獄を見せることは、いかに血に飢えた魔といえども出来なかったのだ。それは人間時代の心の名残か……

 

ヴィシャップは魔法陣の間に行き、魔法を唱えた。

 

魔法陣に黒き光の筋がいきわたる……

 

さらに呪を唱えるとアジ・ダハーカの声が聞こえる。

 

―主よ。力をお貸しください。迫り来る人間どもを1人残らず返り討ちにしてみせます。我の力を借りて主に悦楽の場面をお見せしたいのです。

 

―主の下に逃げた魔はおります。どうか再びこの地を攻める軍としてお使いください。我は最後の1人として戦う所存であります。

 

しばらくすると声が返ってきた。

 

―よかろう。約束する。そなたは自らの破滅と破壊を望むのだな?

―3度目の変化はもう命を永らえることはできん。数日後には肉の負担に耐え切れず、溶解して消えてしまうのだぞ。

 

―はっ、その通りでございます。それも運命。死は覚悟の上です。

 

―よかろう。ならば力を貸そう。思う存分殺戮するがよい

 

声が聞こえたかと思うとヴィシャップと魔法陣の周りには赤黒き血と闇の煙が充満する。背中の鱗には契約の証である紋章の痣が生じた。煙はやがて己の鼻腔に入り込んでいく。その直後、肩に瘤が生じ、やがて瘤が音たてて裂けた。肩から新たに大蛇の頭が血をからめながら生えてくる……。それは蛇であった。肩に生じた蛇は腹を食い破ると毒牙から黒き命の水を体内に注ぎ込む。すると母体が爆発するかのように体躯がさらに大きくなっていく。

毒の力によって体躯が大きくなったわき腹には次に4つの瘤が生じた。まもなく瘤が破裂し暗黒の鱗を纏った4本の腕がわき腹を突き破った。新しき4本の腕と指と爪も左右同時に生えながら成長し、伸びていく。

 

―すべてを破壊せよ

声が呼びかけてくる。

 

―ああ、言われなくてもわかっているさ。

 

呼びかけに答えるマーサ。呼びかけに答えるやいなや体中の骨音が鳴り響き、変化していく。

 

母体の血肉を二匹の蛇が吸い上げていく。肩に黒き血筋が広がり首より上の鱗は暗黒色よりもさらに濃い黒に変化した。

体躯はさらに黒き猛禽の翼が根元から落ち、代わりに暗黒色の蝙蝠の翼が生じた。新しき皮膜の翼をさっそく誇らしげに広げる自分がいた。

変化がようやく終った。その姿は三口、三頭、六眼をそなえ、尾は再び三つに引き裂れ、中央の首のみ狼竜の姿となっていた。それは紛れも無く暗黒竜王アジ・ダハーカの化身。

 

ヴィシャップはさっそく三頭の首をひねらせ6つの手を握り返し、力を測る。すると全身から闇の煙がじわりと昇り、己の身を隠した。

 

変化による痛みからも解放されて残されたのは快感と悦楽と憎悪であった。そして全身からはゼリー状の油が生じていた。すでに己の体が溶け始めていたのであった。

 

「実験は成功だ。ヴィシャップ。だが時間はない。その力ですべての被造物を破壊するのだ。それでは我はそなたが消えるまでそなたの化身として破壊の宴を楽しむとするかの。」

 

―くくく。ではこの実験成功の成果を人間の身体にも応用するかの。今度は人間の狂気と絶望に犯された脳漿でも堪能するか。

 

「主よ、感謝いたします。」ヴィシャップがいうやいなや城から飛び立つと三口から赤き光を充満させ、光を吐き出した。それは巨大な閃光であった。強大な力が城下町の周りを次々砂漠や巨大な穴へと変えていく。

 

―さて・・・それでは始めるとするか。殺戮の宴を。

 

そこにはわが子を想う母はすでにいなかった。暗黒の殺戮者がそこにいただけである。ヴィシャップは深淵なる絶望の帳を誇らしげに広げ、羽音を鳴らす。

 

3.決戦

 

あれが暗黒竜の城……。

 

大軍の騎馬隊が固唾を呑んだ。

 

その城には人柱にされたもの、石化された人間の首、ありとあらゆる毒草……。

様々な魔の彫刻。

 

醜悪で尊大な邪悪が集大成させればこうなるのであろうか。寄せ集めた悪の美の結晶でもあった。城下町にはだれもいなかった。彼らの井戸を見ると毒匂がただよい、緑の液体があった。

つるしてある肉には人間とおぼしきものがあった。丸焼きにされたものもある。

 

これが魔界……

 

そこに人間が喜びを感じさせるものを期待することが間違っていることはわかっていた。しかし、あまりのおぞましさに吐いた騎士がいた。

 

そこにおどろおどろしい声が響き渡る。

 

―偽善に満ちた人間よ、闇に消え去るがよい!

 

城を背景に翼をそなえた巨大な3首の暗黒竜が現れた……。

 

それぞれの口の口腔に赤き光を充満させ、瘴気が充満させる。

 

三口から巨大な光が放たれた。悲鳴を上げながら半狂乱に逃げ込む騎兵達。

 

「間に合え!」

ミスラの光をほとばしり全身を光に染め、光を爆発させた。

 

赤き光の一部を受け止め発散させた。だがほとんどの部隊は赤き光と共に消えていった。残されたのは光の大蛇の傍にいた小隊のみであった。

 

光の力を弱めてみると、そこに城下町の姿はもうなかった。代わりに焦土と化したクレーターがそこにはあった。

 

だが、……絶望的光景はそれだけではなかった。

 

「魔がもう一匹現れたぞ!」

 

なんと騎兵隊が自分に弓矢を放って来、さらに剣で己の体につきたてようとするではないか!

 

声が轟いた

 

―くかかかか。それがお前の守りたい人間の正体よ。我と交わりし者よ。

 

なんだって!?

 

いや……やっぱり……?

 

ある程度覚悟していたアルトゥスだがショックは大きかった。

 

―あの者の血がそなたの体の一部となっていた。私は光の力で増幅させたのじゃ。体内に剣を納めた状態でミスラが思念を通じて答える。

 

―実は自分はすでに竜になって飛び立った時、ミスラの力によってヴィシャップ、いやマーサ時代の記憶が瞬時に蘇っていたのであったが。大蛇と交じったおぞましき夜の記憶も。

 

……。

 

「ああ、知ってたさ」

 

開き直った。

 

「ああ、そうさ。お前と交わったことも。その血のおかげでこうして龍になったことも。この忌まわしき『血』によってな!」

 

騎馬隊が騒然とする。

 

「我らの主が魔だったなんて!」

 

「なんてことだ、この世はもう終りだ」

 

「中から魔が取り込んでいたのだ。これは罠だったのだ」

 

―断じて違う!

 

騎馬隊に一喝した。

 

―愚かな人間よ、お前らから先に死ぬが良い

 

破壊の悦楽を求める竜が再び口腔から瘴気がこもった赤き光が充満し、放たれた。

 

恐慌状態に陥る騎馬隊。

 

それを光の渦を作り出し、再び発散させる。

 

騎馬隊を守ったのだった。

 

「どんな姿であろうと、俺は魔を滅ぼしに来た。信じてくれ。」

 

「いくぞヴィッシャップ!」

 

逆にこちらが口腔に光の渦を溜め込み、吐き出した

 

巨大な光の渦が一直線に暗黒竜に向かっていく。

 

それを今度は暗黒のバリアで跳ね返そうとする。

 

だが……。

 

光の力はどんどん強まっていった。

 

行け! 俺の思い。俺の希望! 光に帰るんだ。魔女マーサ。

 

知っていたのさ。血をもらい受けたときに人の血が混ざっていることを。絶望と悲しみの中に愛があったことを。その心を受け止められない自分がいたということも。

 

騎馬民族がそれを絶望と闇に変えてしまったことを――

 

だから光に返す義務があることを。この暗黒竜は人間の憎しみを反映した姿にすぎないということを。

 

―届け!俺の思い!

 

闇のバリアは耐え切れなくなり、光の筋を真っ向から浴びた暗黒竜。

 

やがて、言葉では言い表せない断末魔が大地に響き渡った。

 

光の筋がなくなると暗黒竜はそこにはもういなかった。城ごと光が消し去ってしまったのだ。

 

赤みがかった光の大蛇は力を失い、元の姿に戻った。だがそれ以降の記憶はなかった……。

 

4.希望の旅立ち

 

目がさめたのは一週間後だった。遊牧民のテントの中だった。

 

奇跡的に生き残った小隊の隊長がテントを作ったのだった。

 

「王よ、ご無事で。」

 

「俺を王だなんて呼ぶな」

 

「いいえ、王です。今は焦土と化した大地ですが、我々は遊牧民です。新たな肥沃な大地があればそこに移住すればいいのです」

 

俺は王になる資格なんてない。人間じゃないんだ……。

 

お願いします、王になってください。

 

いや、できぬ……いつまた俺に刃が来るか……満身創痍の姿で答えた。

 

―いや、待て、こうしよう

 

「赤の竜の旗を作ってくれ。そして私に従うことが出来るものだけ、西の肥沃な大地に移住しようではないか。1週間後、ここに決意を表明するものだけ来て欲しい」

 

「王……」

 

一週間後なんと大軍隊を失った直後にも関わらず騎馬隊が500人も集まった。

 

行くぞ、肥沃の大地、永遠の浄土を求めて!

 

こいのぼりのような吹き通しの竜の旗がなびいた。

 

騎馬隊は西に行けば行くほど大きくなったという。

 

彼らの目指すべきは最果ての浄土の島。浄土にたどり着き、平和な大地で安息の日々を送るためである。もう、殺戮も争いも飢えに苦しむ世界も、魔もない世界へ――

 

希望の赤竜の旗がなびき、草原を駆け巡る。

 

……だが、彼らに待ち受けていたのはさらなる闇の逆襲であったことをこの時はまだ誰も知らない。

 

第八章

 

アルボルズ山脈のはるか東の天空に城が聳え立っていた。天空人はそこを善見城といっていた。かつてここは天帝アフラ神が支配していた。しかし、地下の暗黒世界に蠢く鬼神らが光の憧れから、天への侵略を行なった。正義の神阿修羅族を血祭りにあげ、陵辱し、さらに怒り狂う阿修羅を蹴散らし、ついに負けてしまったアフラ神とアフラ神についた神々は砂漠の大地に堕とされ、天から追放された。天空ですら暗黒の主に支配された世であった。支配した後、当初は天空から闇の者として支配し、破壊と恐怖を与えた。しかし地上の人間は憎悪ではなく、鬼である神々を畏怖し、尊敬し、愛した。鬼たちは愛と尊厳を初めて知ったが、戸惑いつつも恐怖と破壊を与え続けた。しかし、やがて鬼たちは支配下に置いた人間を傷つけることをためらった。心の中にある虚ろなものが、やがて満たされていくのを知ったからである。鬼は「愛」を初めて知ったのである。それ以来、鬼の神通力で恵みを与えるようになったのである。

そうはいっても元は鬼。破壊と絶望と惨酷を心の底から求めることに変りがなかった。本性が破壊と人の血肉を求めさせるのだった。そこで支配下に置いた大地ではなく、追放された大地の暗黒世界を支配する魔王アンラ・マンユと組み、表向きは配下となり、追放した神々のいるアフラ神とその地上の人間をもてあそぶことにしたのであった。

 

―恐怖の天帝―天空の主の名をインドラという。

 

1.暗黒への渇望

 

半魔たちや魔たちの断末魔がこの天空にも聞こえる。そして元々人間だった魔の決死の声も…。

 

白きローブを纏い、艶かしい白き肌と白き長髪、金の瞳を持つ者が玉座に座る。帝釈天であった。

 

「また光と正義の名の下に破壊と死が生まれたな。のう、広目天よ。彼は我ら鬼と何が違うだろうか」

 

「はっ。また阿修羅族の力を借りて闇を征伐したものと思われます。この目でしかと確かめてございます」

 

「おぬしはもともと千里眼を持つ鬼(ヤクシャ)じゃからの……」

 

額に角を抱き、皮膚が緑色の広目天がそこにはいた。

 

「血がさわぐの。狩りに出るとするか……」

 

―よくみておれ。我々一族の誇らしき真の姿。

 

そういうと天空の空気が一瞬よどんだ。

 

「はああああああああああああああああああ!」

 

インドラの咆哮が響き渡る。

 

インドラの体から雷を含む黒き霧が光輝く天界に生じた。空気が積乱雲のごとくゆっくり渦巻くようにして闇の煙として集まっていく。闇は集結してとうとうインドラの姿は見えなくなった。

 

闇の煙はインドラを中心に渦巻きながらやがて鎧として具現化していく―

 

鎧があたかもインドラの体の一部のように姿を現す。それは全身暗黒の素材で出来た鎧であった。それだけではなかった。鎧から筋が浮かび上がり、やがてインドラの衣服のみならず己の血肉と一体となっていく。皮膚と鎧が融合し、どくどくと脈打つ。

 

兜と面頬も生じ、己の体と同調していった。

 

同調した鎧とともに筋肉が流れ、膨れながら成長していく。天空城に似つかわしくない骨と肉の鈍い音が谺した。

 

額の皮膚かがぶちりと裂けた。まず三つ目となる眼が一つ生じた。三つの眼は赤き色に染まる。鋭利な黒の角が、闇の兜の左右の割れ目をすり抜け赤き血を絡めながら生えてくる。同じく面頬の中央部の隙間から牙が次々と伸びていくのが見える。それはまぎれもなく鬼族の象徴。やがて面頬は兜と同調し、己の一部となった。

 

次に闇の煙が凝縮し、突然手に三叉矛が現れた。闇一色に染まった鬼にふさわしき毒々しき三叉矛の色。

 

変化が終るとそこには角を頂く長身の赤き目をもった暗黒の戦士がいた。

 

「それでははじめるとするか。阿修羅狩りを」

 

声がぐぐもっていた。体躯の変化により声帯も変化していたのであった。

 

そこには天空の支配者としての凛々しい姿はそこにはなかった。

 

「充分お楽しみください。インドラ様。」

 

「留守はたのんだぞ。夜叉王たる四天王達よ。それと天空城の主権代理は破壊神シヴァ……いや魔王サルワにゆだねる」

 

「はっ」

 

「ギリメカラ!」

 

そういうと魔法陣を空に描き、闇の象を召喚する。象に乗るやいなや下界へ消えていった。三日月のような笑みを浮かべた広目天を残して。

 

2.闇の中へ

 

―ぐはっ!まぶしい!

 

ヴィシャップを化身としていたため、光線のダメージは母体であるアジ・ダハーカをも襲った。ぜぜい、ぜい。三頭三口が悪態をつく。体中が光の筋による攻撃をあび、闇色が溶けて灰色になっている。細かい傷があちこちついていた。

ヴィシャップが消滅する直前に化身である契約を無理やり解除したため命を共に落とすことは免れた。身体と魔力への負担は相当なものであったが。

 

―まあ、よい。命を落とすことは免れた。そんなことより、逃げ帰った裏切り者どもは抹殺せねば―

 

このころのアルボルズ山の闇の洞窟は騒がしかった。次々闇から出てきた魔の者どもで溢れかえっていたためだ。アルメニアから帰ってきたのだ。魔だけでない、半魔もいた。安堵の声や悲鳴、子や親を探す声であふれかえっていた。

 

そんな光景に冷酷なおどろおどろしい声が響く

 

―そなた達を守る盟約はそなた達の主の死によって消えた。魔にあるまじき裏切り者には死あるのみ。

 

闇からゼリー状に浮かび上がった姿は翼を持つ三口、三頭、六眼の暗黒竜。

 

それぞれの口の口腔に赤き光を充満させ、瘴気が充満させる。

 

悲鳴と阿鼻叫喚が洞窟に響き渡る。

 

しかし、すぐに三口から巨大な光が放たれ、洞窟ごと全てを吹き飛ばした。魔も半魔も赤き光と共に消えていった。遠くにいたものも爆発の余波を浴び、肉片となった。

 

遠くには光が見える。洞窟の側面どころか天井の一部まで抉り取られた跡があった。山の一部をもえぐり取り光は天空まで届いていたのだった。

 

もちろん、深き洞窟に光は差し込むことはないが……。

 

静まり返る洞窟。

 

三頭、三口の顎が魔の肉片を貪り食う。肉を堪能していくうちに己の肉体が回復していく。魔の血や肉体は魔の者にとっては能力や魔力を与える薬にもなるのだ。ゆえに、魔物にとって己の骸を放置されるのは屈辱であり、逆に強き者の一部となるのはたとえ死という苦痛を味わったとしても光栄であるのだ。新たな強き命の一部となるからである。

 

食事を終え、己の肉体は元の暗黒色に戻り、肉体の傷も癒え、魔力も得た。

 

そこに突然皮肉めいたぐぐもった笑い声が聞こえた。散った鱗を拾う暗黒の武者が後ろにいた。

 

「食事はお済ですか?王子殿」

 

「ふっ、遊びでこの魔界に来よった者に指図を受けるつもりはないわ。天帝インドラ。そなたにふさわしきは闇ではなく、光であろう。そなたは味方などではなく、敵だわ」

 

「仲間割れしている場合か馬鹿者!その客人は我がまねいた」

 

声が洞窟内に響き渡る。

 

そこには暗黒の大蛇アンラマンユがいた。

 

「多忙のとこすまぬの。わしにとっては天空の主とかはどうでもよい。強きものが魔の世を支配してくれればそれでよい」

 

「このままでは魔は光の剣により滅ぼされます。私は光の者でもあるゆえ、滅ぼされることはありません。我にアルトゥス討伐を命じください」

 

「よかろう。早速とりかかってくれ。我らが滅びに向かう前に」

 

「はっ」

 

そういうと暗黒の戦士は闇に消えた。

 

「父上!なにゆえ天空の力を借りるのです。あやつに忠誠心などないことはわかっているはず!隙あればいつでも天空の善見城から攻め入ることも可能なのですぞ!なぜあやつが父の力を借りた大魔なのです!」

 

「我々はインドの神ごときに滅ぼされるほど軟じゃないわ」

一喝する王。

 

「いいか息子よ。利用できるものは何であっても利用する。力ある者こそが魔の正義。違うか?万一滅びを甘受するときは、その時よ。最後の審判を受けるときだ」

「最もそのまえに、最終兵器としてお前と融合して立ち向かうがな。その時はおそらく光も闇もない。ただの無の空間に戻るだけよ。暗黒と同じだけかもしれんがな。無と闇は親和性がある。ならばもう一度闇を作ればよいだけのこと」

 

―父は子すら道具としか見ていなかった。しかし、それが魔として本来あるべき姿なのだろう。三口、三頭、六眼の魔は身震いと歓喜と憎悪を同時に味わった。

 

3.討伐

 

遊牧民族は颯爽と大地を駆け巡る。

 

交易を行い、じぐざぐに西への道を目指すアルトゥスたち。

 

希望に満ちながら彼らは赤竜の旗をなびかせていた。

 

今日も野営をしてキャンプを張っていた。南には静かな黒き海が渚で小波の音が響く。

 

月が雲に隠れたところに深き闇の中に暗黒戦士が現れた。

 

正義の御旗を元に戦争を撒き散らす者どもを抹殺するために。

 

暗黒の鉾を空にかざす。

みるみるうちに暗黒の雲が集まりだした。

 

見張りのものがほら貝を吹き、野営中の人間が騒ぎとなった。が、それもつかの間だった。

 

「落ちよ、雷よ」

 

いっせいに巨大な黒き雷がテント村を襲った。

 

何十回も何百回も降り注ぐ。

 

「魔か!」

 

アルトゥスはすぐさま黄金の大蛇となり友軍を守る。だが、今の攻撃で三分の一を失った。肉が炭のことく焼け焦げ、死体が散らばるおぞましき光景が草原に広がる。

 

「出て来い魔よ。勝負せよ!」

 

アルトゥスは凛とした声で響かせる。

 

姿を現した魔は全身暗黒の鎧を着た素顔の見えぬ魔だった。

 

「お前か。半魔をおいやり。魔を殺戮した者は」

 

「たった1人だ、弓矢で打ちまくれ」

 

弓矢隊長が命令し、弓を放つ。

 

だが弓が空中で止まり、一斉に矢が戻ってくるではないか。

 

弓の雨に襲われる弓矢隊。またしても部隊が減った。

 

「雑魚はいらぬ。」

 

三叉鉾をかざし、今度は1人づつ鉾でなぎ倒し、突き刺す。

 

さらに上にかざすと暗黒の霧が噴出し、部隊を次々襲った。

 

霧を吸うだけで次々倒れる兵士たち。兵士は一箇所に集まり、大蛇が作り出す光のバリアに守られた。

 

大蛇が口腔を開き、巨大な光を暗黒騎士に浴びせる

 

「やったぞ!」

騎士隊が歓声をあげる。いままでこの光を浴びて無事だった魔はヴィシャップを含めていなかったからだ。

 

だが、光を浴びてもまったく意に返さないではないか。

 

ざわめく騎馬兵達。

 

暗黒戦士は咆哮を上げ、跳躍すると三叉鉾を光のバリアに突き刺した。

 

闇の鉾が光に障壁を粉々に打ち砕いた。

 

粉々になった光の粉が騎馬兵と大蛇に振りそそぐ。

 

「独善に死を」

 

再び上にかざし、暗黒の霧が噴きあげ、部隊を次々襲う。

 

次々に体に黒き斑点が浮き出し、黒きタールのごとき血を出しながら倒れる。それだけではなかった。目、耳、鼻、口から黒きものが吹き出すように液体が流れ出ているではないか。

 

黄金の大蛇も例外ではなかった。黄金色がどんどん薄れ、赤の色のみになっていく。

 

「お前は知っていたか。魔と人間が交わった街が理想に燃えていたことを。お前は自分の独善のためだけに魔も半魔も人も差別も争いもなく平和に暮らす理想を壊したことに。」

 

「なんのことだ」

 

大蛇の姿のままもだえ苦しむアルトゥス。その赤き体にも黒き斑点が次々浮かび上がっていく。

 

―いかん!引くんだ。死ぬぞ。アルトゥス。こやつは知っている。なにせ我々を天空から追放した鬼王じゃ。

 

―なんだってミスラ

 

急いで翼を開き、逃げるアルトゥス。

 

だが……黒き雷がアルトゥスを襲った。

 

感電し、失速して墜落する。苦しげな咆哮が大地にこだまする。草原に倒れこむ赤き大蛇。

 

「お前は魔というだけで大量に殺戮した。お前が出現した世界は正義と正義を振りかざす修羅の世界。その醜き姿が闇の象徴」

 

「ふざけたことを言うな。魔は人間をどれだけ殺戮したというんだ」

 

「そうとも。だからといって魔を殺害したらどうなる。その繰り返しではないか」

 

「魔のお前に言われたくない!」

 

暗黒騎士に炎を浴びせるアルトゥス。

 

だが、まるでその鎧は炎による傷を受けない。

 

―阿修羅族の竜よ、滅びるのだ

 

大地に咆哮を轟かせ、跳躍した暗黒騎士は大蛇鍵爪をかわし、見事わき腹を突き刺す。そこから闇のしみが一気に広がる。もだえくるしる咆哮。赤き大蛇は闇に消えゆく。残っていたのは光輝く剣。

 

「もらっておくぞ。我々暗黒の者がな」

 

―いや、待てよ。これは「戦利品」だ。善見城にもっていくとするか。救いの神ミスラともども。

 

―貴様、アスラ族のヤサダ(天使)が従うとでも思っているのか!

 

「嫌でも従っていただきます。ミスラ。」

 

暗黒の者は剣を持ち去り、再び月が出た天空を悠々と飛んでいった。

 

―鬼族が支配する善見城に向かって

 

第九章

 

1.半魔

 

狼人、狐人、猫人、牛人、蛇人……さまざまな幼き武装兵は人間の里を避けながら北へ向かっていた。そのリーダーにわずか4歳の上半身人間、下半身が黒の蛇である半人半蛇の男の子がいた。袋を持ち、大事な石版をそこにしまっていた。

 

「滅んじゃったね。僕らの故郷」狼人ランタが答える。8歳だ。

 

「女王は決死の戦いで死んでいったんだ」狐人リンダが厳しい表情で言う。女の子で7歳。

 

「自分の事しか考えない魔は故郷に帰っちゃったけどね~」猫人ルネが茶々を入れる。同じく7歳の女の子

 

「なあ、西南には牛人が集うミノスという場所があるぜ?なんておいら達は北に行くの?」疲れる表情で答えたのは6歳の牛人レノン。

 

「本当に人と平和に過ごせるのかな……僕は……僕は……憎いという言葉以外……」アジ・ラーフラが答えた。

 

「わかんないよ……」ランタが答えた。

 

名目上のリーダーは石版を持つアジ・ラーフラだが、実質上のリーダーはランタだった。狼の牙と爪を活かして、人間が飼っていた夜の牧場にいる子羊などを襲って食べて飢えを凌ぐのがやっとだった。毛皮はアジ・ラーフラの毛布などにも使われた。

 

草原では騎馬隊に見つからないようにゆっくり歩き、騎馬隊が近づいたら地にふせた。

 

幸い半魔でも魔法は使えることが出来た。

といっても荷車に魔法をかけてゆっくり動き出すというものだが……いざとなったら荷車を置いて逃げた。彼らの嗅覚は人間の数百倍、視覚は数倍あったから容易だった。

1年目の冬は黒き海を経由した。幸い、雪が降らない。

 

だがそこには信じられない光景が広がっていた。

 

「見て!騎馬隊が多数死んでるよ!それも丸こげだ!」

 

それは半魔達の目から見ても悲惨な光景であった。焦土の中に炭と貸した人間達、病気で亡くなってそのまま腐っていく人。

 

魔にやられたのだ。

 

「ざまあみろ」牛人レノンが吐き捨てるように言う。

 

「そんなことよりこいつらの武器とか奪おうぜ!」ルネが現実的な提案をする。

 

使えるものは持ち去ることにした。剣や鎧はすでに持っていたがとぎ石などの剣を維持する道具、焼け残ったテント、貴金属、篭手などである。

 

―憎いのに……人間が憎いのに僕はこいつらに同情してる……なぜ?上半身が人間だから?僕の父親ってだれなの?本当に母親を置いていって逃げたの?僕はこいつらの血が流れてる……

 

「俺たちは半分人間なんだ。少しでもいいから弔おう」アジ・ラーフラが意外な提案をした。

 

「何でまたそういう余計な事を」レノンが反対した。

 

「2日でいい。少しでいいんだ」

 

「優しい子だこと」あきれるルネ

 

「まあ、僕も人間に受け容れてもらうには悪くない提案だと思う。墓碑にはあの石碑に書いてある言葉をそのまま入れて立ち去るぞ」

 

全員の埋葬は無理だったが、腐りかけていた死体から埋葬することにした。

 

2日どころか、1週間も埋葬作業を行なった。

 

だが遠くにいる騎馬隊をランタが見つけたので早々にその場を立ち去った。

 

北にある森を越冬を兼ねて、まっすぐ北へ進んでいった。

 

季節が夏になるころ、人間がカザンという場所にたどり着いた。

 

ここが「母が行きなさい」と言ってくれた場所……?何もないじゃないか。アジ・ラーフラは愕然とした。そこは小さな村が遠くに見え、あとは深き森が漠然とどこまでも広がっていただけであった。

 

2.発覚

 

アジ・ラーフラたちはカザン近郊で農家にいたずらをした。

 

近所の森に穴を堀り、そこををねぐらとした。そこから農作物を盗み、代わりに盗んだ貴金属を農家に置いたり、お詫びとして農作業を夜に手伝ったりした。

 

農家たちはやがて妖精のしわざととらえるようになった。

 

農家もテーブルの上にそっとパンなどを置いたりした。

 

やがて農民らはホブゴブリンと呼ぶことにした。幸福を呼ぶ鬼の意味であった。

 

やがて冬がやってきた。それは凍土であった。しかし冬が来てもかれらは凍死することはなかった。彼らが恵んでくれる食糧と牧場で殺した羊の皮と羽毛で凌いだのだ。アジ・ラーフラは下半身を特に気にしてが暖かい毛布が凍死を凌いだのだ。猫人ルネも同じで凍土では死んでしまう。防寒対策は重要だった。ルネが簡単な火の玉の呪文が使えたことも重要だった。暖を取ることが出来たのだ。たしかに凍土なら黄金の大蛇は攻めてくることが出来ない……。

 

だが、ある日の夜、農家の備蓄肉を盗もうとした時とうとう農民に見つかってしまった。ランタとレノンが魚の網をかぶせられ身動きできなくなる。とうとう捕まった。農民はその姿を見て唖然とした。

 

―魔だ!妖精なんかじゃない。こいつらは半魔だ!

 

彼らはランタとレノンを縛り上げ農家の広場に集まった。完全防寒した農民に囲まれた。

 

―南方で魔の侵略があったと聞いたが、こいつらはそのスパイに違いない。

 

―そうだ。今のうちに死刑にすべきだ

 

―待て!こいつら2匹のはずがない。もっといるはずだ。盗まれた食料の数が半端じゃない。もっと倍以上いるはずだ。

 

―ならば半死の状態にして、その後に仲間に案内するのはどうだ?

 

―それはいい案だ。

 

「この会話の内容のどっちが魔だ。俺たちの住む魔都はもう滅びた。人間よ!俺たちに居場所をくれ!」

 

―信用できるものか。まずは頭が牛の子からだ。見るからに悪魔そうじゃないか。

 

レノンに次々と剣の傷や鞭の傷が生まれる。悲鳴が深き森に響いた。

 

「今日はみんな遅いね」

 

織物をしているアジ・ラーフラが言う。

 

「何も無いといいのだけど」

 

ルネが食事の支度をしながら言った。

 

「今日も野菜鍋か。まあ、暖かくていいけどね」

 

「いつも途中でランタの駄洒落で寒くなるけどね」

 

「防寒対策はしているんだけどね……」

 

笑いあう2人。

 

暖かい会話がそこにはあった。だが、今日彼らは戻らない。

 

3.救済指令

 

善見城に持って行ったインドラはミスラの剣を床に置き、魔力を剣に放った。すると剣の呪縛が解けていった。そこにいたのはまごうことなき光の鎧をまとった光の神である。姿を見届けると、インドラは天帝の座についた。だが姿は暗黒戦士の姿のままだ。天空の光景としては異様な光景である。

 

「反逆者阿修羅族のミスラ、いや、弥勒よ。お前はこの世界の救い主でありながら阿修羅族につき、我々を迫害した。その罪は重い。逃げ延びたようだが無駄だったようだな。本来この場で打ち首だ。だが、お前にチャンスをやろう」

 

歯軋りするミスラ。

 

はるか北に魔の迫害から逃れた半魔がいる。

 

ヴィシャップの子らよ。

 

――!!

 

敵である種族を救って来い。

 

「そうすればお前を解放してやってもよい。東方では弥勒として善見城で活躍し、西方では『ミスラ』の名称のままとして活躍することを許してやってもいいぞ」

 

「お前はアンラマンユに従う魔王なのだろう。なぜ俺を殺さない」

 

「従う? あっはっはっはっはっ」

 

ぐぐもった声で高笑いするインドラ。

 

「あれはただの盟約よ。我が治める天界とその俗界にいる人間を傷つけるのをためらう代わりに、鬼の血が騒ぎ出したらお前らが治める阿修羅族の人間を貪り食い、切り殺すことにしたのよ。そこで、アンラマンユと盟約を結んだのさ……元の姿である闇の者に変化してな。ただの同盟関係よ。そこに上下関係などないわ。形の上では配下だがな……」

 

―お前はところで、闇のものまで救う気はないか。

 

なぜ闇を救う。俺は光の神だぞ。

 

あの者共を光にすればよいではないか。

 

我々は闇と飢えに苦しむ闇の者であったがゆえに光を欲した。

天を仰ぐインドラ。

 

だが、阿修羅族はそれを拒んだ。そこで全面戦争に打って出たのだ。

 

我々の欲したもうもの、それは「光」だ。

 

見よ、この天界を。光と豊かさに溢れているではないか。

 

「何も阿修羅の教義を壊せというのではない。半分光の子らである半魔を救え」

 

そういうとインドラが高等魔術の呪文を読み上げ、闇の煙を作り上げた。

 

凝縮して出来たのは闇の輪―

 

なんと、抵抗するミスラをあざ笑うかのように攻撃をすり抜け、ミスラの頭の上に収まった。

 

「『緊箍の輪』に闇の力を結集させた」

 

「貴様!どこまで侮辱するつもりか!」

 

「どうあがいても取れないのは知っているであろう。」

 

くぐもった声で笑う天帝。

 

「少しでも逆らえばお前の頭部は肉片となる。締め付けて言う事を聞かせることもできる。」

 

「もちろん、こやつは闇の力でもってお前の心も蝕んでいくぞ。しまいにはお前は緊箍の輪の力によって魔の姿となるのだ。」

 

またくぐもった声で高笑いするインドラ。

 

「そうなる前に死ぬことが出来るか?ミスラ。世の救済を目的としたお前には出来ぬよなあ……?」

 

今度は四天王が笑い出した。

 

「お前は仏教の『弥勒』としての使命を忘れ、阿修羅神側についた。その罪を今払え」

 

「半魔を救え。『弥勒』よ、行くのだ。北の大地に」

 

憎悪にゆがんだ顔のまま踵を返すミスラ。

 

そのまま『ミスラ』は天界を降りていった。……北の大地に向けて。

 

「できるかな……? 闇の者を救うことに……」

 

鬼王である周りの四天王らも薄ら笑いを浮かべていた。

 

それはインドラの新たな策謀であった。

 

第十章

 

1.彷徨

 

農民の剣と鞭がレノンに向かう。そのたびに悲鳴が深き森に響く。

 

「やめろう!やめるんだ~」「貴様らゆるさねえ!ぶっ殺す」柱に縛られたままガルルル……と威嚇しながら狼子ランタが叫んだ。その声はもはや悲鳴に近かった。

 

ミスラがカザン上空にたどり着いたのはそんな光景が繰り広がる光景であった。

 

―やめるのです。この者たちは福音をもたらすもの。魔なのではないのです。

 

声が響き、一帯に光の雨が注ぐ。

 

レノンの傷が癒えていく。

 

農民はただどよめきひざまずく。

 

「神だ」「神が降り立ったのだ」

 

ミスラはさらに言った。

 

「このものたちはそなたらを守る神である」

 

農民達がどよめく

 

農民の中の1人が言う

「そんなはずがない、全員皮膚が黒がかっています」

 

ミスラは持っている光の杖を振りかざすとレノンとランタに光の弾を浴びせた。すると黒みがかった光に光沢が含むようになった。

 

―このものたちは暗黒のものではなく、大地の子です。大地は黒と豊穣の証。暗黒とは違うものです。

 

農民達はさらにどよめいた

 

「なんてことだ俺たちは神の子を殺そうとしていたなんて」

 

「天罰が降り注ぐぞ」

 

しかし、ミスラは動じなかった。

 

このものたちに愛を注げば貴方達の罪は消えることでしょう。

レノン、ランタ。そなたらもです。

 

それは初めて人間と半魔が和解した瞬間であった。

 

2.守護神ジラントの誕生

 

レノン、ランタらは夜明けにアジ・ラーフラらがこもっている洞窟に戻った。

 

ミスラ神とともに。

 

あまりにも神々しいその姿にアジ・ラーフラもひざまずく。

 

―よしなさい。

 

そういうと下半身の蛇の体に光の杖を当てた。 さらにレノンにも光を浴びせる。

みるみるうちに黒の鱗に光沢が滾る。光がふくみがかった黒の鱗に変った。

 

―これで凍土でもすごせるようになるでしょう。もう外にでてもかまいません。

 

リンダとアジ・ラーフラが大喜びする。

 

外は晴れ渡っていた。

 

「なんともないよ、なんともないよ!」

 

蛇の体を使って大喜びするアジ・ラーフラ。

 

「アジ・ラーフラ、そなたにどうしても言いたいことがあります。」

 

全員が黙り、静かにミスラの話を聴いた。

 

それは想像を絶する話であった。

 

母に当るヴィシャップが元々人間であったこと。暗黒神の力を借りて魔になりさらに巨大な暗黒蛇になったこと。

 

暗黒蛇の姿で人間の男を犯したこと。

 

その結果生まれてきた子であったこと。

 

「やめろう!もう言うな!」ランタが叫ぶ。

 

ミスラが半月の笑みを浮かべながら言い続ける。

 

―ヴィシャップが女王になった後に半魔と魔と人間の共存社会を目指すも結局は人間を奴隷にしたこと。そして犯したはずの男は光の蛇となって打ち倒されたことに。

―そしてその力を与えたのは、我。

 

―それは人を救うためであった。

 

しかし、そなたの父アルトゥスは魔王インドラに討たれ、殺されたこと、ミスラ自身も虜囚の身となったことに。その贖罪としてここに来たということに。

 

「憎みなさい。憎しみを持てば光の子ではなく、再び暗黒に堕ちるでしょう。しかし、そなたの父も母も目指していたのは同じなのです。」

 

―平和と希望の世界を作るということにおいてな。

 

しかしそれは人間にとって、魔にとってでしかなかった。

 

「その希望の子がアジ・ラーフラ、「障害(ラーフラ)となる蛇(アジ)」の意よ、そなたの事なのだぞ。」

 

聞くや否やアジ・ラーフラが牙をむき飛び掛る。しかし簡単に手で払いのけられ返り討ちにあったアジ・ラーフラ。

 

その希望は我にとっても同じ……。

 

「ぐがああああああ!」

 

突然絶叫するミスラ。光の杖を落とし、光の杖が逆にミスラを脅かす。

 

もう持たない……まえにのめり、ひざまずきながら爪が鍵爪のごとく伸び始め、肌は不気味な紫へと変り、額からぷちりと太くねじれた角が一本伸びていく。

 

「これが我の罪の証よ……」

 

それはまぎれもなく鬼。鬼の姿であった。

 

「もう我は光の神なのではないのだ……お前達を救うのが最後だ……」

 

緊箍の輪によって闇の力が現れたのだ。

 

「そなたらと同じ半魔なのよ。世を救う者として我は阿修羅失格なのだ」

 

「そんな事ないわ!同じ痛みを味わう必要なんてない。!」そういうと光の弾を今度はリンダがミスラに浴びせた。

 

すると肌が紫から白へと変っていく。

 

「みんなも手伝って。もらった光の力を返す時よ!」

 

そういうと4匹の半魔……いや光の子らがミスラに光を浴びせる。角が再び額の中に戻り、鍵爪が収縮していく。元の姿に戻ったのだ。

 

「そなたら……。」

 

「へっ、同じ仲間が苦しんでいたら救うのが当たり前だね。借りは返したぜ」レノンが言い放つ。

 

涙で溢れかえるミスラ。ミスラはやがて無言のまま天へと戻っていく。

 

……その後アジ・ラーフラは土着の大蛇と知り合い、やがて子をもうける。

名をジラントと名づけた。平和の蛇の意であった。後にルーシと呼ばれる大地の平和の守護神として人々から愛されるようになった。ランタ、リンダ、レノンの子孫はそれぞれ「ピスハンド」と呼ばれる幸福のゴブリンと呼ばれるようになり人々から愛されるようになったという。

 

善見城に戻るとミスラはインドラに謁見をした。さすがにこの時の天帝インドラは神々しい光をまとった神であった。

 

「我はそなたらと同じ鬼族となり勤めを果たした」

 

「よかろう。輪を外してやる」

 

インドラがそういうと突然「パリン!」と音がして輪が粉々に飛び散った。

 

「約束どおり西方では光の神ミスラとして復帰してもよい。だが東方では善見城の下に属する天界に属し、「弥勒」として魔をも救え。ただし、ミスラとしてのお前に出会ったときは再び剣を交えて戦おうぞ。阿修羅族のミスラよ。その時は我も大魔となって戦おうぞ」

 

――ふっ、言われなくともそうするさ。

 

すぐさま踵を返すミスラがそこにはいた。

 

インドラの目論見どおり北方に光でありながら緩衝地域が誕生した。文字通りお互いの勢力にとって「障害(ラーフラ)」となるべく機能させたのだ。

 

3.光と闇の戦いは続く

 

闇の勢力の被害は甚大であった。光のものどもにことごとくやられてしまった。大魔たちも欠けている状態であった。

 

生き残った魔のものどもを洞窟に集めさせ王はこう言った。

「我はこれから人間の王を誘惑させ、人間の王国を中から乗っ取ることとする」どよめく魔たち。王が自ら謀略に出るのだ。

「ザリチュよ」

「はっ」

「そなたは神官を闇のものとし、神官の立場から王子を誘惑せよ」

「はっ」

「王子よ」

「はっ」

「わが息子よ、人間の王子を我の化身とし、己の傀儡とするのじゃ」

 

――この後「王書(シャー・ナーメ)」で有名なザッハーク王子の物語が展開される。しかしこの話は壮大であるため後の機会とすることとしよう

 

第一部 暗黒竜への渇望 終 ――第二部へと続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作品解説

 

この作品は古代ペルシャの宗教であるゾロアスター教をもとに書いたドラゴン小説です。闇と光の戦いを照らし合わせて書かれたものですが、完全にイコールではなく「空想世界のゾロアスター教」として解釈していただけたら幸いです。

 

1.古代ペルシャの宗教ゾロアスター教とは?

 

この宗教は始祖ゾロアスター(ザラスシュトラ)によって本格的にペルシャ全土に伝わった宗教で、最後の審判は善悪二元論など後のユダヤ教やキリスト教にも大きく影響を及ぼす偉大な宗教でした。サーサーン朝ペルシャ帝国がイスラム帝国の侵入によって滅ぼされ、一神教のイスラム教にほぼ全土が信仰を変えることになりましたが、いまでもイランでは信仰されている宗教です。拝火教という漢字がある通り、火を神聖視し、光を信仰する宗教です。

 

2.アフラマズダと阿修羅の関係

 

物語の最後に出てくる三面六臂のアフラ神とはみなさんが想像するとおり、日本で言う阿修羅のことです。

物語では「別の世界で追放された光の神」とあります。

これは主に仏教説話を基にして書いたものあります。その昔、阿修羅王はインドラに舎旨と呼ばれる娘を嫁がせようとしたところ陵辱されてしまったのです。正義を守る天帝阿修羅とその一族は残虐非道なインドラに怒り狂い力の神であったインドラ側に戦いを挑みます。しかし、インドラ神は力の神でありいくらやっても阿修羅は勝てませんでした。天は荒廃し、死者た多数出て、残虐を極めました。これを修羅場(しゅらじょう)といい、のちの「修羅場」の語源となりました。それどころか陵辱されたはずの舎旨はインドラを本気で愛してしまったのです。

こうしてとうとうインドラ側が完全に勝ち、とう利天と呼ばれる天空の城から阿修羅は追放され、天帝の地位を剥奪されます。

ヒンズー教と仏教では争いを続けさせ戦いの魔神となった阿修羅こそが悪だとしたのです。しかし仏教は後に八部衆の1人として仏の教えを知り、仏教を守護する役目を負います。興福寺の阿修羅像とは表向きは「仏の教えを始めて聞き、うれしさを表現している姿」であるとされています。とても戦いと血に飢えた神には見えません。物語では光明神で最高神である本来のアフラマズダにはないこうしたインド側の神である阿修羅の悲しみを反映させることにしたのです。

 

この話が造られた背景にはこういったものもありました。阿修羅王はゾロアスター教の最高神アスラ=マズダのことであり、光の神であったということは前出しました。アーリア族は民族移動時にペルシャ側に進んだ民族とインド亜大陸側に進んだから時に宗教対立があったのです。インドではそれがイラン側で信仰されている神アフラをやがて「悪魔(アスラ)」としたのです。善悪・光闇と二元対立する思考形態や天空を支配し、悪や違反者には罰則を加えるというアフラの神々は命豊かなインドでは受け容れることは出来なかったのです。

逆にイラン側はインド側の神テーヴァ(天)を「ダエーワ」(悪魔)としました。テーヴァ(天)側の呪法や暴風神などの信仰が受け容れられなかったのです。これはそのままギリシャに伝わり「ダエモン」に、そして英語の「デーモン」「デビル」となりました。ですから後に日本にも帝釈天として伝わる神であるインドラ神もゾロアスター教では7大ダエーワ(大魔)の1柱の神として「ヴェンディダート」(魔除書の意)と言う本にに記載されているのです。

 

ところで、みなさんは阿修羅王は実は大日如来の化身であるかもしれないという学説はご存知でしょうか?大日如来とは密教の最高神です。 密教とは空海が唐の時代に伝えた仏教です。インド末期においてはヒンズー教から迫害されていました。このためヒンズー教の呪術などを取り入れ、復興を果たそうとしたのですが、仏陀ですら『阿修羅』とされるほど衰退していました。西遊記で有名な玄奘はこの時代の経典を持ち帰り、さらに空海はそれを日本にもたらします。

実は大日如来の僕は明王が多く、明王は鬼である夜叉族、阿修羅族の出身が多いことからも大日如来の側面がうかがえるのです。 金剛夜叉明王なんて言うのは明王の特色を現している明王であると思います。

東大寺の大仏、大日如来と興福寺の阿修羅は同じ仏という説を今回は取り入れています。これは迫害されていたインド仏教側が逆に今まで鬼や悪魔とされていた神々を武勇の神として復興させ、迫害から仏教を守ってくれという願いでもあったようです。

阿修羅王=大日如来説が本当かどうかは学説的には議論の最中であるそうです。でも、ゾロアスター教の神が一旦悪魔として落とされたにも関わらず密教においてひそかに復権がなされたというのは魅力的でありまませんか?だからこそ、興福寺の阿修羅像はあんなおだやかな顔つきの少年像なのではないでしょうか。

 

3.ミスラと弥勒

 

ミスラという神は古い阿修羅族の神であり、ゾロアスター教の主神アフラマズダと同一にされていましたが、時代が移るにつれて裁きの神と契約を祝福する中級の神であり、天使でもある「ヤサダ」という位置に落ち着きます。この神は光明神でもあり、武勇の神でもあり、友情や友愛の神でもあり、やがては世を救済する神にまでなったのです。

インドに伝わったときにはなぜか「阿修羅族」とはされず、マイトレーヤという神になりました。この神様が仏教に伝わったときに弥勒菩薩となったのです。弥勒は仏陀の入滅後56億7千万年後の未来に姿を現し、多くの人々を救済することになっています。作品には主人公の心を祝福し、救済し、武勇を復活させるのはそういう神様だからなのです。

 

4.鬼としての帝釈天

 

皆さんは雪山童子というお話をご存知だろうか。雪山童子は釈尊の前世にあたる人物で求道者だった。衆生利益のために修行を重ねていたのだが、そんな雪山童子の姿に疑問を持っている神がいた。帝釈天であった。求道者は多少の困難が生じると逃げてしまうではないかといつも考えていた帝釈天は雪山童子に試練を与えるべく見るも恐ろしい羅刹に姿を変え、雪山童子が修行している近所の山で有名な仏の説法を大きな声で説いた。

雪山童子は恐ろしい羅刹に近づき、もっと説法を聞かせてくれと願ったが羅刹はもう餓死寸前で食うものがないという。「私が食べるものを持っていきます、続きを聞かせてください」と願ったが羅刹は「私が食うものは人間の血肉なのだ」と言った。「それならばすべての説法を聞き終えたあとに私をお食べください」と雪山童子は言ったという。すべての説法を終えた羅刹(帝釈天)はさっそく雪山童子の血肉を求めた。雪山童子はこのようなすばらしい説法を記録に残したいという願いを羅刹に言って羅刹は了承した。羅刹の説法を書き終えると崖から雪山童子は身を投げたという。羅刹は帝釈天の姿に戻り、雪山童子を空中で掬い上げ、認めたという。しかし、この話は帝釈天という存在がさらにいやらしい存在に見えないだろうか。少なくとも私にはそう思える。

まだある。仏教に帰依した鬼神らで12の方角と時間を守り、かつ薬師如来の12の大願を守る十二夜叉神将の1人に因達羅(インダラ)大将として巳の時と方角を守る大役を担っている。夜叉神将という名前の通り、鬼である。

まだある。三尸の虫(または「しょうけら」という妖怪)が庚申の日に寝ている間に天帝こと帝釈天に人間の悪事を報告し、報告を受けた人間は寿命を減らされるのです。このため庚申講といい、庚申の日は三尸の虫が出ないように徹夜するという習慣が江戸時代には確立しました。このように帝釈天として仏教に帰依してからも恐怖の天帝という性格は引き継いでいます。なお、しょうけらを退治するのは青面金剛夜叉明王という鬼神です。この「青」は釈迦の前世に関連しています。そうです、実は雪山童子なのです。

阿修羅族の娘を強姦したことといい、十二夜叉神将の1人であることといい、雪山童子の説話の事を総合的に判断し、私は「帝釈天の正体こそ恐怖で支配する天空の鬼王なのではないか」という結論に筆者は至りました。そこで本作でも帝釈天は配下の四天王と共に鬼という設定となっています。

なおインドラは日本では牛頭天王という病魔神とも習合します。後に改心し、逆に病魔を退治する神となり祇園神社の主神となります。この物語のインドラの角は牛頭天王の角の姿を参考にしています。

 

  1. ザリチュとタルウィという大魔について

 

ザリチュとは「ヴェンディダート」では「渇き」を意味する大魔で、タルウィは「熱」を意味する大魔です。この2つの魔は常に並び証されており、植物を滅ぼす悪神であり、毒草の創造者でもあるのです。本来は友人であって師弟と言う関係ではありません。

ゾロアスター教ではザリチュもタルウィも具体的な姿の解説はありません。そこを利用して今回ザリチュが世の中すべてに絶望した子を暗黒の闇に誘惑し、光の側に滅ぼされ一旦失った友人「タルウィ」として復活させ、闇の竜に変えさせるという設定にしたのです。

 

6.アーサー王伝説スキタイ起源説

 

「ナルト叙事詩」を見ると、アーサー王物語のかなりの部分は騎馬民族であるスキタイ族とかなり似ている部分が多いという。竜を信仰するという部分にも共通点が多い。そこで第二部の主人公をアルトゥスとし、アーサー王の起源となった人物として活躍させることにしたのです。ただし、スキタイ人はゾロアスター教もミスラも信仰はしておりません。ここは空想の部分です。

アーサー王は赤竜の旗を徴とし、自らも「アーサー・ペンドラゴン」と名乗ります。ペンドラゴンとは竜の頭という意味ですが、転じて王権、王の王という意味になります。ケルトの王アーサー王はウェールズでは国旗であり、民族の象徴であり、アーサー王の象徴でもあり、国土を守護する竜でもあります。今回、アルトゥスという遊牧民族の名は、そう、ケルトの王アーサー王の事だったのです。赤竜として遊牧民族を守る物語としたのにはそういった背景からヒントを得たものです。なお、緑の騎士「ガウ」とはもちろんアーサー王物語に登場する「ガウェイン」の事

 

 

第二部 暗黒竜の野望

 

ペルシャのある王国―急遽合併した王国で騒乱おきた。合併派でかつ院政をしいた神官が原因であった。王や王子をも手玉にとっていた実質の最高責任者であったミスラ神官が原因であった。国々のものはこう呼んでいた。ダエーワの化身、「ダエーワ・マグス」(邪悪な僧侶)と。

その神官も反合併派の暗殺の対象となり、追われる身となった。王位を継ぐのは第二王子とし、暗殺に暗殺を続けた神官は、逆賊として今度は暗殺される側となった。宮廷から王子とともに離れ、馬で逃げるも暗殺者からの追っ手が次々襲い掛かってくる。森の影から突如襲ってきた全身黒ずくめの暗殺者を刀で切り裂く。そこには傷だらけの満身創痍の姿だったマルダース国の王子がいた。

そばには国境でもある大河ユーフラテスが闇の中でときおり輝きながら雄大に流れていた。ここを超えれば死の国ジャムジード王国である。

 

第一章

 

「王子、まっていてください。今手当てを。」

 

―神官、お前は俺から全てを奪い去った。貴様のせいだ。いずれ殺してやる―

元王子はこのときそう心に誓ったのであった。

 

下克上の世であった。いつ攻め込まれるか、お家騒動がおきるか、異端審問で神官が暗殺されるといったことは全くの日常の世であった。もはやアフラの正義の教えは人々の心の中にはほとんどなかったといってよい。

 

城の屋上での出来事であった。

 

王子から目を離している隙に、突然巨大な鳥にむんずとつかまれた。いや、違う。竜であった。その姿は直立したドラゴンともグリフォンともとれる悪魔の姿があった。2本の角と長い顎鬚をはやし、コウモリの翼、足にはロバの蹄。黒き鱗と獣の毛が混じる体躯。

さらに近くにいた王子をも一方の手で捕まえる。

 

「お前が本物の闇の心の持ち主、通称「ダエーワ・マグス」だな。お前にはその名にふさわしき闇の処罰が待っている」

「くっくっくっくっくっくっくっ」これで友が復活できる―

 

暗黒の竜は、手に人をつかみながらペルシャの山へと目指した。

暗黒竜たちの逆襲と絶望の物語が再び始まったのだ。

 

1.野望の道具

 

たどり着いたのはペルシャの山の洞窟であった。皮肉な事に祖国に近かった。

 

「皮肉なものよ。逃れようとして逃げ延びたにも関わらず逆戻りとは。暗殺者どもの差し金かな。大魔も落ちたものよ」

 

せせ笑う神官。しかし、その後凍りつく声が響き渡る。

 

―貴様がダエーワ・マグスとその国の王子か

 

いうやいなや暗黒の大地から闇の煙が噴出し、見せたその姿は・・・魔王アンリマンユの最終兵器とも言われる王子ダハーカであった。

 

「我は光の神ミスラの神官なるぞ。暗黒に魂を奪われるものか!」

全身を震えながら声を発していた。相手は暗黒竜にして魔王子なのだ。

 

「ほお、果たしてそうかな・・・」

 

王子ダハーカは三口、三頭、六眼をぞれぞれ光らせ、口から不気味な黒き煙をゆっくり吐き出した。霧は2人を包み込み、2人はやがて見えなくなった。

 

2人は喘いだ。霧が鼻腔や口、肺の中にまで入り込んでいく。

やがて全身を痙攣させ、2人の瞳はやがて赤き炎の瞳を灯した。顔や手の肌の中で血管が蠢く。が、霧は恍惚の快感を覚える味であった。

魔王子は自ら発した濃き霧を通じて、自我を失った神官の心を弄る。

闇の霧を通して見たものとは・・・それは全てを奪われ 闇に追われし神官の姿であった。
平安と未来を求めるため力を求めた神官は、やがて謀略に溺れ、希望を拒むほど追い詰められた姿。 光と正義を求めるあまり悪とされたものに対する迫害、権力闘争、戦争。これが光の神の教えの結果であった。

 

虚無のごとしなれど 生への慈愛を持つ神官の姿。にもかかわらず、己が罪を重ねるたび深い悲しみを持つ神官の姿

やがて自分も刃を向けられる存在に成り果てた闘争の敗者。それが彼の姿であった。

闇の王は答える。

 

「そなたのために心へ潜り込んで分かったこと。それは我兄弟とそなたが同一の心を持ち、苦しみを持つ者であること。そなたが本来もとめているものは安隷。そして我々と同一の存在たる闇と共に闇の種族たる我々に安隷の世を創る。それがそなたの今の使命。 安息の光は闇にもある。そなたは安息を人に与えるべく生まれた神官なのだ。

光の神は闘争しか生まぬ。それは偽りの神、邪悪の神にすぎぬ。真の神は人に安隷と知恵と平穏を与えるもの。そして我がその神の子。

 

神官は煙を聞きながら、煙が与える恍惚に満足している様子であった。

―よしザリチュよ、ではそなたの鱗を

 

神官は目を剥きながら苦しげな声を出すだけであった。見えない力で声を封じられていたのであった。

ザリチュは己の鱗を抉り取る。闇の煙が噴出する鱗を手のひらに載せた。

そのまま神官を掌で貫き、鱗を埋め込んだ。掌を抜く。神官の体躯の変化はすぐに始まった。

 

暗黒の血肉を受け入れば受け入れるほど体は楽になる、狂気も安らいでいった。ならば我も自身へ祝福せねばならぬ。

―― 世に安零を

神官がそういって印を結ぶと神官の皮膚がどんどん黒ずんでいった。

―― 世に永遠の安らぎを

次に神官が印を結ぶと神官の皮膚がどんどん暗黒色の鱗に覆われていった。袖からうろこが見えてくる。

―― 修羅の世に永遠の安らぎを

次に神官が印を結ぶと神官の両足が膨れ上がり、下半身の衣服が千切れ飛びながら闇色の光沢を解き放つ鉤爪が両足共に伸びて行く――

―― 修羅の世に変える者へ鉄壁の守りを

次に神官が印を結ぶと神官の胴体が膨れ上がり上半身の衣服が千切れ飛びながら闇色の光沢の鱗がより強固なものになっていく。

―― 修羅の世に変える者へ死の制裁を

次に神官が印を結ぶと神官の両腕が膨れ上がり、衣服の切れ端を床に落としながら飛びながら闇色の光沢を解き放つ鉤爪が今度は両腕から伸びて行く。

―― 修羅の世を広める人間へ制裁を

次に神官が巨大な両腕と鉤爪を振るいながら印を結ぶと神官の腰からどんどん尾が膨張しながら伸びて行きようやく止まった。

―― 闇の福音を広める者へ祝福あれ

次に神官が巨大な両腕と鉤爪を振るいながら印を結ぶと背中に左右の瘤が出来、やがて瘤が破裂すると瘤だった場所から暗黒色の帳が下りた。翼であった。

―― 闇の福音を広める者へ栄光あれ

最後に神官が巨大な両腕を振るいながら印を結ぶと顎が突きだして巨大化し、暗黒竜にふさわしい顎となった。耳はとがりどんどん巨大化し、口は裂け、牙はどんどん伸びて行く。人間の風貌の名残がまだ残っていた顔自体も骨音を鳴らしながら膨張し、人間としての生と決別した。最後に闇の祝福を世に広める者にふさわしい青黒き角が2本額を割って伸びて行き、首が伸びて行った。神官は己の視線が高まるたびに己の視線だけでなく己の存在も神の領域へと高まって行く事を実感する。口腔は安零へと誘う闇の毒霧を放つたびに快感をともなっていた。そして今、神の領域に達したことを感じ取った。首の伸びが止まったのだ。

―― ふふっ、私は神官にして神になったのか。なんたる福音。

すべての己の躯の変化が終わった。こうして暗黒竜タルウィは再び誕生した。

 

変化を終えると、かつての少年が変化したときよりも一回り大きい暗黒竜がそこにはいた。

 

―ふむ、成功だな。彼も絶望感で一杯だったのだろう。

 

―どれ、闇に溶けてみよ

 

暗黒竜王子が命じると、竜の姿は溶けた。

 

―闇はこれ以上の絶望を与えることはなかった。闇の中にいれば喜怒哀楽も何もない。それはすべての平和。すべての安息も約束され、もはやそこには不幸はなかった。魂はこの世界では生きない。死にもしない。永遠に存在し、あり続ける。そこにほのかな闇の光が降り注いでいた。

 

神官よ、そなたの求めていた平穏を得られたのがわかるか。

 

闇にも光がある。暗黒の光は人々に安らぎを求めるのだ。

 

神官は快感であった。これ以上自分が傷つくことも、傷つかれることもない。闇はまさに福音。

 

―己の姿を見てみよ

 

そういうとアジ・ダハーカ空中で魔法陣を作り出し、鏡を出現させた。

 

それがお前の心と求める姿を現出させたものだ。神官よ、絶望と発狂かな。それとも至福の絶頂かな?

 

ほくそ笑みながら質問を投げかけるアジ・ダハーカ。

 

「・・・至福でございまする」

 

そう答えた。

 

―たった今お前は死んだ。しかし、闇の者として再び生を受けたのだ。神官よ、今日からタルウィと名乗るが良い。

 

―この者はいかがいたしましょう。

 

そこには痙攣したまま恍惚状態のまま立っている元王子であった。

 

―同じ者の封印は危険だ。私がこの者を暗黒するまで封印するとしよう

 

「王よ、直々においでなさったのですか」

 

今度はアンラ・マンユが魔法陣を描いた。王子の背中に痣が出来る。

 

そのうえで、アジ・ダハーカが自らの鍵爪で血肉をえぐり、そのまま元王子の胸に突き刺した。

 

血はあふれることなく、吸収されていく。やがてゆっくりと引き抜いた。

 

「このものどもには利用価値がある。元大魔にして裏切り者のジャムジード王の王国を滅ぼし、このザッハーク王子を王としようではないか。」

 

「父上、この者をわが獲物に?」暗黒竜王子が王に確認する。

 

―何、そのためにタルウィを復活させたのではないか。お前とともに2匹で死者の国、ジャムジード王国を滅ぼすのだ。魔は生きてこそ価値があることを、死の国のものどもに教えてやるのだ。同時に、彼らの国民をも解放してやるのだ。死ぬことができぬという呪いからな。

それに、王子に罪悪感を抱かせないためだ。ただし、今だけだがな。彼には三眼、三口、六眼の化身となったあとに死人の国に攻め入り、征服したうえで死人を魔軍に変えさせた上で終結させ、母国に攻め入るのだ。さすれば、我の天下。アフラ族はまたしてもこの地からも追放よ。

 

ザリチュよ、教育を頼むぞ。

 

はっ。王と王子に最敬礼する竜。

 

―それとこれを。

 

我々は自由。お前がミスラの教えに戻ることも許してやる。ただし、そのかりそめ姿でのみな・・・

 

ぐぐもった笑いが洞窟に響き渡る。

 

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2020年8月26日公開

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