帰り道、

途中の人間(第24話)

siina megumi

小説

1,223文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

 

デンがいつだったか言っていた。『どうも他の場所に自分が居る気がする。絶対に会うことは出来ないんだけど、考えられないほどの遠くに、むしろ本当の自分が居る気がする。なんで考えられないものが今の俺に影響を与えてるんだろう。これ何か分かる?』

その言葉をナデカは妙に重く受け止めていた。そして傍に居るその少年を異様に思ったりした。

 

・・・

 

あの風景を思うと足を動かすことが出来ない。ショウとは無縁であることが明らかにされてしまったあの風景。電車に座り、見渡しても高層ビルしかないという風景。

昼が完全に終わろうとしていた。意識することをやめ始めた夕暮れにショウは歩くしかなかった。

ゴミ処理場から部屋に。

意識して認識することの出来るものは、本当に夕暮れくらいしかなかった。

帰りながら、ショウは帰りたいと強く感じていた。このままどれだけ歩いても帰りつくことは出来ないように思われた。どうもショウは、自分の部屋を上手くイメージすることが出来ない。ギターがあるはずだが、部屋の何処に置いてあるのかさえちゃんと思い出せなかった。

帰りたいのは部屋ではないのだ。ショウがふと帰りたいと思ったとき、なぜかふと想像に上がったのはあの面接室だった。ショウはあの面接室に帰りたかったのだろうか。帰るということが、あの面接室を指しているのだろうか。あの面接室は別に、ショウの理想だったというわけではない。確かに居心地は良かった。あの快さはなぜだろう。確かに自分が居るべき場所だという感じが、不思議にした。会社に、では決してない。あの面接室にだった。確かに、この帰り道をどれだけ歩いても、あの面接室には絶対にたどり着かない。

赤信号でとまった。そのまま赤信号のままならどれほど良かっただろうか。

それはしばらく赤のままだ。

そこにはナデカが居ることに気付いた。ショウが気づいたことに、ナデカも気づいたようだった。

ナデカ「なぜ適当に済ませられないんですか? 自分のことを」

ショウは何も答えず赤信号を注視している。

ナデカ「こだわってるんでしょ? 産まれて来たことと死んで行くことに。でもショウが実のところ探しているのはその中間」

「僕が何を探しているって?」

ナデカ「わたしを探していたんでしょ?」

「あなたは馬鹿なんですか?」

ナデカ「わたしはかつて果てしない人々を自殺させてきたし、ショウもまたそのひとり。そして未来にもあまたの人々が、自殺をわたしのせいにして自殺していく。わたしをこの世に残してね」

ショウが何か言おうとしたが、ナデカはさえぎって続けた。

ナデカ「ショウが居なくなっても、その痕跡は何処にも残らない。ショウの自殺は誰にも影響を与えない。そしてわたしには、次の自殺者がいる」

「どこに?」

ショウは本当にかろうじてそう言い落とした。

ナデカ「信号変わったよ」

ナデカの言い方は優しかった。どこからどのようにやってきた優しさの感情なのか、ショウには全く分からなかった。

2020年7月26日公開

作品集『途中の人間』最新話 (全24話)

© 2020 siina megumi

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