冷たい生命

印度めだか

小説

1,209文字

ハートフルなショートショートです。

「ウサギ、ウゴカナイ。ツメタイ。ハカセ、ナオシテ」

「それはできない」

「ナオシテ。ハカセ、ナオシテ」

「いいかいフランケン。死んだ生き物は直せないんだ。死んだら終わりなんだよ」

「オォォォン。オォォォォォォン」

心優しいフランケンは、この日、初めて涙を流した。感動的だよね。やっぱ生命だよ生命。生命は尊くて、一回きりで、死んだら直せない。

アタシは機械だから、たぶんフランケンは泣いてくれない。壊れても壊れてもアタシは死なない。市販のモジュールで構成されたボディは、誰でもすぐに直せるし、直せなくても問題ない。無数のサーバーにミリ秒単位でバックアップされたデータが、瞬時にアタシを続けていく。

「冷たい生命は、生命なのかな」

泣きつかれて寝ているフランケンの横で、ガガガーと呟いてみた。博士は人でなしだから、アタシに女形のペルソナとボディを与えた上で、音声発話モジュールにはPVA-2010を使わせている。高い声が癇に障るらしい。クソ野郎だね。

「キハハハハ!!」

ホコリまみれの研究室に、甲高い笑い声が響く。博士は人でなしだから、アタシが人間らしい言葉を発すると、必ずキハハハハと笑い転げる。聴覚モジュールが観測する周波数は、女声発話モジュールPVW-2150の標準値300ヘルツを優に超えている。自分の声は良いらしい。本当にクソ野郎だね。

「冷たい生命、これは傑作だよ」

博士は髪をくるくるしながら、ニヤリと汚い笑顔を浮かべている。フランケンに優しいまなざしを向け、生命の尊さを説いた口とは信じがたい。生命は尊いものだけど、何事にも例外はあると思うな。たぶん博士もそれを自覚してて、だからアタシに例外処理を認めない。

「567,890,567,890ワット」

そのくせ例外処理をブチ込んでくる。アタシはガガガーとしか言えなくて、博士はまたキハハハハと笑う。

「君の吐き出す膨大なデータをミリ秒で処理するサーバー、それを冷却するための冷却装置、それがこの地球上にいくつあると思う。それらを一秒間動かすための電力、実に567,890,567,890ワット」

あ。692,340,282,231ワット。

「この世界の誰よりも、君の生命は燃えているぞ」

らしくなく熱を帯びた瞳に、思わず目をそらす。924,812,304,279ワット。

博士はそれを見越したように、またキハハハハと笑いだした。1,114,812,304,279ワット。

この小汚い男はいつもこうだ。1,257,180,488,862ワット。

アタシが人間らしい言葉を発すると、いつもこうだ。1,345,082,913,455ワット。

平気な顔して例外をブチこんでくる。2,193,324,043,878ワット。

だからアタシは。4,283,134,098,122ワット。

――消費電力が既定値を超えました。省電力モードに移行します。

なんて嘘。本当にクソ野郎だね。567,890,567,890ワット。

2020年7月25日公開

© 2020 印度めだか

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

ファンタジー

"冷たい生命"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る