ひんやり冷たくて、ズシリと重い

印度めだか

小説

754文字

ハートフルなショートショートです。

獲物を撃つ瞬間は、いつも呆気ない。

バキューンやBANGなんて派手な文字は、コイツに触れたこともない、真っ当な人生を歩んできたヤツが考えたに違いない。

ひんやり冷たくて、ズシリと重い。まるで死体みたいだなと、初めてコイツを手にした十二の俺は、笑えるほど詩的な勘違いをした。仕方がないよな。俺もまだガキだったし、クラスメイトの誰よりも真面目な子どもだったんだから。

初めて引き金を引いたあの夜、俺の耳には消えない音が刻まれた。コイツが響かせるのは、ドラマティックな効果音なんかじゃなく、乾いた事実だ。音が軽いから命が軽いのか、命が軽いから音が軽いのか。シーツに包まり残響に耳を傾けていたら、いつの間にか夜が明けていた。はじめての夜更かしだった。

あの日から、俺はコイツと幾千もの夜を歩んできた。今はもう僅かな震えも感じることはない。音も命も発した側から溶けて消えて、世界は何事もなく進んでいく。

路地裏に月光が差し込み、命乞いの幕が上がる。若い男は膝をつき、涙目で何かを叫ぶ。だが俺には何も聞こえない。必死の抵抗も意味をなさない。

 

キューーーーーーー!!

 

イルカ銃が、今夜も乾いた音を鳴らす。男の上半身がのけぞり、一瞬ピタリと停止。そのまま音もなくサラサラと崩壊。高周波マイクロドルフィン波が男のタンパク質を霧状に分解したのだ。

握りしめた生殖器から手を離し、イルカ銃をギターケースにしまう。それはどう見ても棺桶で、まるで死体みたいだなと、未だに思わずにはいられない。

だけどコイツは生きていて、ひんやり冷たくて、ズシリと重い。

帰り道、窓から聞き覚えのあるピアノの旋律が聞こえてきた。曲名を思い出そうとして、もう随分と前から耳が聞こえないことを思い出した。

あの夜、俺はただ、ピアノが欲しかっただけなんだ。

2020年7月24日公開

© 2020 印度めだか

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