面接室、

途中の人間(第19話)

siina megumi

小説

5,015文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

 

デンとイワデラが電話で話している。

 

デン「お前さ、あのサクラ大戦とかいうゲームやった? メチャクチャ面白いよ」

イワデラは待っていたとばかりにニヤけながらため息をつく。

「何番をやったの?」

デン「何番? あの、ps4のやつだけど」

「新サクラからやったのか。まぁあれもよかったよ。ネットを見ると評判は微妙だけどね。もともとサクラ大戦自体が奇跡的な作品なんだから、続編をつくってくれるだけで感謝なんだから。しかもⅤみたいにワケわからんこともやらなかったしね。十分だよあれは」

デン「やっぱお前やってるんだな」

「当たり前だろ!!! お前1と3もやっとけ。ps2で出てるから。どうせドリキャスは持ってないんだろ?」

デン「ドリキャス? あ、ドリームキャスト?w 持ってるわけねぇだろw」

「1と3はやっとけ。特に3は絶対。だから1やって3だな」

デン「1はもうアマゾンで頼んだw 3もいいのか。わかったよやっとくよ。他のはどうなの」

「Ⅴは後でいい」

デン「そうか」

「サクラ大戦は本当にいいんだよ。お前がこの喜びに気づいてくれて嬉しいよ俺は」

デン「なんだそれ」

「サクラ大戦が好きな人が増えるってことは世界がどんどんサクラ色になるってことなんだよ」

デン「好きっていうほどでもないけどなまだ」

「また誰か自殺させようとしてるのか?」

デン「ん?」

イワデラと話しているときにはデンもそこまで神経を張りつめない。急に話の矛先が変わったのでデンは一瞬良く分からなかった。

デン「面白いんだよ」

含みを込めて、しかしはっきりとデンは言った。

「・・・・・・サクラ大戦よりも?」

そのとんちんかんな質問に笑いつつも、

デン「少なくとも新サクラ大戦と同じくらい面白い」

「・・・人の人生には口出さないけどな、お前が今の自分に満足してるのかどうか、俺は気になるんだよ」

デン「お母さんの隣が俺の居場所なわけだな」

イワデラは思わず笑ってしまったが、

「いや、あの人はそんな並な人間じゃないだろ。どうなってるんだお前とナデカって?」

デン「自殺させてる同士だな」

「そういうことじゃなくてさ。関係性というか」

デン「あれはあらゆる人間を自殺させなきゃ気が済まないってだけだからな。あいつが先導してかき回して、俺は面白いからついて行ってるってだけだ。ああ、だからその意味じゃ、俺はあの人のアクセサリみたいなもんかもね」

 

 

 

典型的な圧迫面接をやればいいのだろうか? どうもそれではいけないのではないだろうか? まだ面接は始まっていないが、ナデカは面接室で一人考えていた。抑圧的にいったところで、ショウの心に線を引かせて終わるだけだろう。それはむしろ悪しき結果だ。寝ぼけたように生きるあのショウを自殺させるには、ショウから未来を徹底的に奪わなくてはならない。ショウの人格を否定するように罵詈雑言を浴びせるのは、むしろショウに開き直りの契機を与えることにならないだろうか。今になって、ナデカにそんな危惧がうまれた。ショウは開き直ってキレて面接室を出て行くかもしれない。ルリエのような安定した高飛車さを持たないショウでは、そのような経験はむしろ心の誇りになってしまう。自慢話の一つとして片付けられてしまいかねない。

思うにショウは呑気さと余裕さを武器に来る。この一部上場企業にそういうスタイルで来ることの正否はさておき、自殺しない処世術としてこの場合は手強い。その場だけとはいえ、快活さをひっさげてくる人間を強引にでなく如何にして否認すればいいか。ショウの寝ぼけたようなところを如何にして押し潰せばいいか。

末、ナデカはショウを体験入社させることに決めた。ナデカが思うに、ショウは端から入社する気がない。面接を落とされたという「自負」を欲しがっている節がある。なので『人格』という曖昧なポイントで落とすのではなく、もっと素朴なところでコケにしたほうがより追い詰められるだろうと考えた。

 

女性が、面接室からわざとらしく泣きながら出て来た。バカらしさを共有しようとして奈央の方を見たが、奈央は隣で滑稽に背筋を伸ばして、頭を動かさず眼だけで女の子を見ていた。ショウはいよいよ馬鹿らしくなった。ここにきて、むしろ爽快なほどに気が楽だった。ショウは軽く崩して座り、自分の脚首を重ねた。面接室から出て来た年寄りに、奈央はびたっと頭を下げた。ショウは微笑みを貼り付けたまま居た。奈央はもう、ショウと他人のフリをしているようだった。ショウはそれが面白くて奈央に話しかける。

「緊張してるの? こんなことで?」

奈央よりも自分の方が優れている点を見つけたというふうな感じでショウは続ける。

「緊張しなくていいのになー」

奈央は身体のある場所にぐっと力を入れていた。要はその部分に密かに八つ当たりをしているのだった。それこそが奈央の社会に対する唯一の抵抗の手段だった。

 

ナデカが二人の前を通ると、ショウは如何にも会社の面接官と知り合いだという感じを他の人に見せびらかすかのようにヘラヘラとしたが、奈央は如何にも会社とプライベートは別だと理解しているという感じをアピールするかのように無駄に生真面目に挨拶をした。とりあえずナデカは奈央流に、会社ではプライベートとは違いますよという態度で、

ナデカ「ああ、よろしく。しばらくしたら呼ぶから、入ってきてね」

ショウは一人でニヤニヤしている。他人行儀なナデカが面白いのだろう。ナデカは言ってみた。

ナデカ「・・・どうした?」

奈央が怖気づくように「はい!」と背筋をのけぞらせたが、

ナデカ「あなたには言ってない」

奈央は諦めたように唇を舐めたりしながらショウの方を向いている。

ショウは小声で「どうした?」と復唱した。ナデカの他人行儀な感じを馬鹿にするように真似したのだった。ナデカは少し驚いたような表情を二人に見せた。ナデカは単調に、呆れたようにでも怒ったようにでもなく、

ナデカ「まぁ別にいいけどね」

奈央は何もしていなかった。

 

二人いっぺんに面接室に入れた。奈央はいろいろと作法的なものをやっていたが、とりあえず二人とも座った。話す前に、ナデカに電話が来る。

ナデカ「はい」

デン『失礼いたしますー。わたくし・・・・・・課のデンと申しますがー。内線通じておりますでしょうかー』

ナデカ「はいはい、ナデカです。今ですか? いえいえ、大丈夫ですよ」

ナデカは二人を眺めている。奈央は待ち時間も試されているんだと単純に解釈したが、ショウはそこに何か別次元のものがあるのを感じた。

デン『今面接中だよね? 何? ショウ入社させることにしたって?』

やけに嬉しそうな語調だった。

ナデカ「そうですねー、一応、まぁそういう形にはなっておりますがー」

デン『大丈夫なのかねぇ~? ホントにあんたの術中に置いておけるの? それで行くんなら早いとこ具体的なミスさせないと』

ナデカ「そうなんですよ。やはりあなたに商談に来ていただかないと。新人が粗相をしなければ良いのですが。本当に」

デン『・・・おー。それはいいな。じゃあしばらくしたら俺が別人になっていくから。そしたらもう自殺するんじゃない? 知らんけど。まぁ一応俺はもう一段階用意しておくよ? 使わないならそれでいいし』

ナデカ「そうですね。よろしくお願いします」

デン『そう言えばさ、ショウをバンドに入れさせるとかいう話はどうなったの? もうナシ?』

ナデカ「あーあれはですねー・・・。やはり逃げ道になると言いますか・・・。口実になってしまうと思うんですよね・・・。なので・・・」

デン『あ、じゃあそれを俺が使っていい? 奈央のダンスの方も一緒に。恋人にさせる話もまだ着地点無いよね? そこらへんもひっくるめて。あとでアンタにも出演してもらうけど』

ナデカ「よろしいですか? 申し訳ありません。お願いいたします」

デン『じゃあ何か言って。そのまま切るから』

ナデカ「本当に、すいませんウチの者が・・・あっ」

通話は切れた。ナデカは、思わず、といった感じで舌打ちを零した。歯痒さでしたという感じだった。ため息を深くしながら書類を見た。それで、眼差しだけ上げると、半泣きで背筋を伸ばしている奈央と、関係がないという態度を貫いているショウと目が合う。

ナデカ「はいはい、えーっと、面接ね」

ナデカは語尾を上げ、目頭を押さえながら言う。

ナデカ「・・・じゃあまずお名前をどうぞ」

奈央は直ぐにあれこれと喋りだした。熱意を見せるためにそうしている感じが伝わった。覚えていることを暗唱している感じだった。まったく噛み合っていなかった。ときどきつまずいた。「御社は」とか「志望動機は」とかいう言葉を、泣きそうになるのを堪えながら無理矢理使っていた。明らかにナデカは聞いていなかった。するとショウが、

「今電話してたの誰ですか?」

ナデカは驚いたがその様は見せない。机を普通に叩いて大きな声で言う。

ナデカ「あなたに何かその話が関係あるの!!?」

直ぐに言い返さないと負けた感じになるので、ショウも大声で、

「なんで怒ってるんですかいきなり!」

ナデカ「あなたが煽ったからでしょ! 今の通話が少しでもポジティヴな会話に聞こえた? ばかにしてるでしょ?」

「今の電話僕にも関係ありますよね?」

ナデカ「・・・。何言ってるの?」

「面接とか会社とか関係ない人が居るんですよね?」

ナデカはふざけたように微笑んで、

ナデカ「よほど逃げたいんだね」

「は? 何からですか?」

ナデカ「自分からでしょ」

ショウは黙ってしまった。

 

「逃げたいですね出来ることなら」

長く考えてから、震えた声で毅然としてショウは言った。

「出来ないとしても逃げ続けます」

ナデカ「じゃあ、逃げ続けて、辿り着いたのがここ?」

ショウは我に返ったような、驚くべき表情をした。

 

「で!!」

と奈央は続けようとする。

ナデカ「あなたは入社させておくから、今すぐ帰って」

「はい!・・・」

奈央は何も聞き返したりせず、恥ずかしいものを持っているかのようにそそくさと出て行く。鞄を掴もうとしても上手く掴めず、落としたりしていた。マイナス何十度の部屋から出ようとしているかのようだった。奈央が出てから、ナデカは少し嘲笑した。ショウも少し嘲笑していた。ナデカとショウは、同じ部分に対して嘲笑したのだった。

ナデカ「それじゃあショウさん、いくつか質問をしますね」

ナデカはそう言って、続けた。

ナデカ「今までの人生で何をしていましたか?」

「僕ですか? 産まれて来たことに動揺していただけでした」

ナデカ「じゃあ産まれてから、『逃れようもない出来事』というのは、体験したことがないんですね?」

「ありません。あなただってないでしょう?」

ナデカ「もちろん。じゃあ違う質問をしますね。何か一つ、断定できることを言ってください。なんでもいいです」

「断定?」

ナデカ「うん。あなた自身に関することでもいいですし、もっと一般的なことでもいいです」

ショウは直ぐに答えた。

「それは、僕がいつか自殺するということですね」

ナデカ「うん?」

「・・・すいません、取り消していいですか?」

ナデカ「じゃあ、質問の答えはなんですか?」

「ありません。だから、この世の全ては暫定的です」

ナデカ「・・・」

ナデカは衝撃に打たれたように黙ってから、

ナデカ「そう」

親が子に失望するような、妙な哀しさのある言い方だった。なんでそんな言い方をするのか、ショウは全く分からない。自分は一体、何をやってしまったのだろうか。

「いつもそんな質問をしてるんですか?」

ナデカ「え? ・・・まぁ」

「無様ですね」

ナデカは何も言い返せなかった。ショウに対して何か返せる言葉というのは、この世の何処にもないとも思った。

「じゃあ、最後に、わたしも質問していいですか?」

そんなことは想定もしていなかったので、ナデカはしばらく微動だに出来ずにいた。

ナデカは何も答えない。ショウは構わず質問する。

「なんでこの世界はゲームの世界じゃないんですか?」

そんな観念的な質問をするということは、もうショウは、自分の人生の異変に気づいているようだった。しかし、ナデカには意外な質問だった。ショウが求めているのは、むしろ実体感の方だとばかり思っていたから。

ナデカ「ゲームだけど。わたしにとっては」

ナデカはすんなりと答えた。やはりショウを見ている。だがその眼はさっきとは違う。

2020年6月16日公開

作品集『途中の人間』第19話 (全24話)

© 2020 siina megumi

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