手から力を(四)

手から力を(第4話)

海老川文香

小説

1,331文字

雄大は車の中で可笑しな虫を発見する!?

僕は仲良く話す家族をよそに、車の窓から外を見た。うちから海浜公園に行くには僕の住んでいる県で一番の繁華街を通らなければならない。今日はすれ違う車も行き交う人も特に多い。手が届きそうで、窓で遮られたその空間はまるで映画を見ている様に現実味がなかった。僕はぼーと外を眺めていた。
すると、僕が座っている後部座席の外の窓枠に何かが付いているのに気がついた。
ゴミかと思って顔を近づけると、小さな虫だった。お父さんは車をビュンビュンと休まずに飛ばすのに、その虫は閉じた羽を揺らしながら全く飛ばされそうにない。
まるで4本の足が窓枠のゴムの部分に接着剤でくっついているみたいだ。それに僕の感心を引いたのはそれだけではなかった。
自分で言うの何だけれど、僕は多くの虫を知っている。カブトムシやセミなどのメジャーなものから、皆んなが嫌がるハエやゴキブリなどの種類の虫まで幅広く把握している。
僕のことを虫博士と言う人もいるが、こんな虫は見たことがなかった。頭は真っ黒でお尻は蜜蜂の様に黒と黄色のしましま模様だ。
僕は思わず腰のウエストポーチから虫眼鏡を出して覗いてみた。
真っ黒な頭に両眼がトンボみたいに大きい。お尻はふさふさの毛で覆われている。僕は頭の中の知識を呼び起こしてみたが、目が右から左に動くだけで、なんの答えも降りてこなかった。
僕は仕方なく横に置いていた図鑑を見てみたがやはり似た様な虫に辿りつけなかった。僕の中に一つの考えが浮かんだ。
「もしかしたら、新種かもしれない…」
僕はお母さんから携帯電話を借りて写真を撮ろうとした。すると横にいる紗香が
「なにを撮る気?」と僕に話しかけてきた。もう彼女は怒っていなかった。
怒るのも早いが冷めるのもまた早い。
瞬間湯沸かし器の様な妹だ。今度言って、からかってやろう。
いやいや、今はそんな事を考えている暇ではない。虫が飛ばされる前に
「パシャ」とフラッシュを焚かずに写真を撮った。写真はとても綺麗に撮れていた。
もしかしたらこの虫を見つけた第一号になるかもしれない。
そしたら僕がこの虫の名前を付けることができるかもしれない!そんなワクワクする妄想を膨らませていると、
「なんだ、また虫か…」
とさやが横から携帯の画面を覗いていた。
虫に対する紗香の反応には慣れている。
僕は落ち着いて紗香に説明をした。

「この虫は図鑑に載っていない虫なんだ!もしかしたらしんはっけ…」
「ふーん。」
紗香は僕の話を遮る様に相槌をうった。いいのだ。
僕は紗香にわかってもらわなくても平気だ。あとでタニッチにパソコンでメールしよう。きっと驚くぞー。
ボクは「ぐふふ」と喜びが口からはみ出ていた。

 

それから30分近く車は虫を乗せたまま走った。曲がり道でも速度の出る直進でも虫は飛ばされることはなかった。やがて松のうねった幹が現れ始める。
海浜公園はもう目の前だ。
こいつは仲間の処には一生帰れないだろうな〜
と僕はずっーと虫を見ながら考えていた。すると海浜公園駐車場の手前の信号で車が止まった時、虫はこちらに向けていた顔を反対側へ向けたかと思うと、羽を広げ躊躇なく飛んでいってしまったのだ。あまりに一瞬のことで、僕は声もでなかった。
だが、僕は虫に強い意思の様なものがあった様に感じた。

2020年5月11日公開

作品集『手から力を』第4話 (全6話)

© 2020 海老川文香

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