手から力を(六

手から力を(第6話)

海老川文香

小説

2,890文字

第二話からの続き。
彼女から手を差し伸べられた雄大と紗香はどうなるのか?

僕らは彼女の後ろについてもう随分歩いていた。初めは彼女が手を貸してくれた安堵感で、ふぅーと胸を撫で下ろしながら歩いた。しかししばらく経ち冷静になると、周りの様子が段々分かってきた。
僕たちが歩いているところは彼女の持つ灯り以外は真っ暗な場所だ。彼女が歩くたび、彼女の周りがうっすら見える。
上も横も下も茶色の土がずっーと続いていた。ここは洞窟なのか?
洞窟だとしても、全く整備されていない洞窟だ。そしてすれ違う人も全くなく、僕たちの足音だけが響いている。

 

僕はずっと気になってることがあった。
それは彼女が僕に聞いたあの言葉だった。
「お前達は人間か?」

普通、人間に人間ですかとは聞かないだろう。
彼女は人間ではないのか?という問いが僕の頭の中でループする。
僕は彼女の後ろ姿をただ見つめていた。すると横からさやが肘で突いてきた。
僕が顔を向けると、さやは人差し指を口に当て「シー。」と言いながら、目で彼女を一目見た。僕は彼女に気づかれない様に喋るな!とさやのジェスチャーを解釈した。
「な、に?」

僕は口パクでさやに言う。
さやは大きな口を開けて、彼女を指差してパクパク言っている。恐らく彼女について行って「だ、い、じょ、う、ぶ?」だと思う。
最後は両手を顔の横まで上げて、クビを傾げて見せた。
僕もわからないと言う為に同じポーズで返す。

すると前の方で彼女が「ふっ」と吹き出して、後ろを向いた。
「お前達何をこそこそしてるんだ?
俺を信用出来ないか?」

彼女は腰に手を当てて、背筋をピシッと伸ばしている。僕たちは考えを見透かされて、どきりとした。その様子を見て彼女は続けた。
「我々はお前達人間の何倍も五感に優れている。お前達が私の後ろで何をしてるかなんてお見通しだ。」
彼女は片眉を上げながら、僕らを交互に見た。僕は彼女に質問するチャンスだと思った。
「あ、あ、あ、あ、あなたは何者ですかー!」
思わず大声になった。
洞窟内に僕の声は響き渡る。
しかし彼女は顔色一つ変えずに答えた。
「俺の正体か?
我々は虫だ!」

 

僕は彼女の答えに耳を疑った。
「むし…!?むしってあの昆虫の虫ですか?」
僕は思わず声にした。

「そうだ。」
彼女は僕の目を見つめてはっきりと答えた。僕は彼女の下から上までを見た。
足、胴体、手、顔。どこをどう見ても人間だった。
「あなたは人間に見えますが‥」
僕は消え入りそうな声で反論した。すると彼女は
「ティファロだ!」
と言った。
「へ?」
僕は間抜けな声を出した。
「私の名前だ。これからはティファと呼べ!」
彼女は言った。そして彼女は僕らの名前も聞いた。
僕らはそれぞれ「ゆうだい、さやか」と答えた。

「では、ゆうだいととさやか!先はまだある。急ごう。」
彼女はそういうと、向きを変えてまた歩き出した。
僕らも遅れを取るまいと付いて行く。

 

再び沈黙が訪れた。
どこかで水がしたたる音がする。
外は暖かかったのに、ここは暗くて肌寒い。
僕らの足音と水の音がこだまする。先に沈黙を破ったのはティファロだった。
「お前達にとって私が虫だとは信じられないだろう。」
彼女は前を向きながら言った。すると横にいたさやが
「はい。」
と答えた。
するとティファロは
「正直で宜しい。」
と笑いながら答えた。

「話せば長いが、我々の歴史はお前達人間より遥かに長い。
人間が生まれるずいぶん前の事だ。
生き物が海から出てきて、初めて地上で生活し始めた頃すぐに、我々の祖先が生まれた。」
ティファロは話始めた。

「それは恐竜よりも前?」
さやが聞いた。
「そうだ!」
彼女が答える。
彼女の言葉はいつも迷いがない。

「今から約3億年前、お前達人間の祖先が陸に上がった時、我々の祖先は既に地上で暮らしていた。
恐竜の誕生はそれからずいぶん経った、2億3千年頃のことだ。

その頃の地上は、植物と小型の爬虫類や両生類、そして我々虫だけの世界だった。
その時代の我々虫はとても大きくどう猛で爬虫類や両生類を襲うものもいた。」

「メガネウラ?」
僕は口を挟んだ。
「そうだ。体長1メートル程のトンボだ。
ゆうだいよく知ってるな。」
彼は驚き後ろを振り向いた。
僕は照れて頭をかいた。

「そう。そのどう猛なメガネウラは我々祖先の天敵だった。
彼らは羽根を持ち、我々は常に奴等らの襲撃におびえる生活だった。
虫は現在でもほとんどが羽根を持っている。
我々祖先は羽根を持たない捕食される弱者だった。しかしある時、我々の祖先は土の中に天敵がいないことに気づいた。そして、さらに幸運な事に土の中は我々には適したところだった。
我々は徐々に土の奥深くへと生活拠点を変えて行った。」
彼が歩くたびに、下の砂利がなる。どこまで行っても同じ一本道が続いていた。彼は話し続ける。
「長年生活していくと、真っ暗な土の中では目はあまり使われなくなっていき、
我々の視覚は徐々に弱くなっていった。
しかしそれに反して耳、鼻、触覚、味覚が研ぎ澄まされていったのだ。それが高まった時、それらが形を変えて色々な能力としてそれぞれの個体に現れる様になった。
ある物は熱を強く感じたり、ある物は電気信号の様な物を感じたり。」

「それは超能力ってこと?」
さやが質問した。
その馴れ馴れしさに僕はどきりとしたが彼女は気にもしなかった様だ。

「超能力と言うか、なんと言えばいいか…第六感とでも言うべきか……。人間が備わっている聴覚、嗅覚、視覚、触覚、味覚以外のものだ。」

「はぁ‥」
さやは分かってるのか分かってないのかよく分からない返事をした。

「つまりその五感を超えた能力が色んな祖先に現れてきたんだ。
しかし不思議な事にそれは女と言う性に多く現れていた。そして、最大の能力を持った個体が現れる。
月読みという能力の個体だ。
彼女はレイテシアという、我々の初代王だ。」

「王国があるの?」
僕は聞いた。

「そうだ!我々は立憲君主の国だ」
ティファロは答える。
まぁ、アリにも女王アリがいるかと僕は納得した。

「そのレイテシアは先程言った通り月読みの能力があった。
月読みは我々が得た直感で行う第六感とは大きく違い、未来が読めた。」

「予言って事ですか?」
僕が質問する。

「そうだ!
彼女は一つの個体の未来、そして我々種族の未来が読めた。
そして彼女は言ったのだ。
『我々は羽根を手に入れる』と。

羽根を手に入れることは、我々の悲願であり得難い夢のような話だった。」

「なぜ、羽根が必要なのは?」
また、さやがどうどうと話の腰を折った。

「我々は土の中で生活していたが、食料だけは地上で獲得していた。
その時が一番敵に狙われやすい。何匹もの者が食料調達から地上に行ったっきり帰ってこなかった。

羽根を手に入れられれば、調達速度は速くなり、なおかつ遠くまで行ける。敵に襲われる確率が減るんだ。」

「なるほど。」

今度は僕が相槌を打った。
「そして皆、レイテシアを崇めた。
そして彼女はある時、5本の指を持って皆の前に現れた。
そして我々は悲願であった羽根を手に入れたんだ!」

「どうやって?」
と聞こうとした時、

「着いたぞ!」
とティファロが前を指差して言った。
洞窟の先の行き止まりに鉄の様な物で出来た小さな扉が見えた。

2020年5月11日公開

作品集『手から力を』最新話 (全6話)

© 2020 海老川文香

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

ファンタジー

"手から力を(六"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る