手から力を(三)

手から力を(第3話)

海老川文香

小説

1,439文字

話は遡る。
これは二人の兄妹の現代の話。

僕の名前は立花たちばな 雄大ゆうだい
小学六年生だ。みんなからはゆうぼうと呼ばれている。
坊は坊でもボーとしているので坊だ。これは僕のお父さんが僕をからかって付けたあだ名だけれど、僕はまぁまぁ気に入っている。だってその話をするとみんな笑ってくれるから。それに仲良しのタニッチはゆう坊はボーとしているのではなくて、考え込んで自分の世界に入っちゃってるんだよな?って言ってくれる。彼は虫が大好きで僕と同じだから、彼とは話が尽きない。
僕は今そこそこ自分の人生に満足してる。

 

今日は家族みんなで海の近くにある公園に遊びに行くことになった。
そこは東京ドーム13個分もある広大な海浜公園だ。公園内には遊具のある広場や動物園、球技場があり、広大な海浜公園を一周できるサイクリングなど様々な楽しみ方ができる。
また至るところに草木や花が咲き誇っていて、その植物に群がる生き物も多い。
僕はこの海浜公園が大好きだ。毎日でも通いたい。
でもうちのマンションからは車で45分もかかる。
自分では決して行けない特別な場所だ!今日はお父さんが休みなので、春休みで怠けている僕たちを連れて行ってくれるのだ。この時期は冬の寒さを耐え抜いた虫達が活発に活動をする時期だ。
僕はワクワクが周りから見えてしまうのでないかと気をつけた。肩から虫かごの紐を下げ、右手に虫網を持ち、虫眼鏡の入ったウエストポーチを腰にはめ、左手には虫の図鑑を持って車の後部座席に座った。既に隣には薄ピンクのワンピースを着た妹の紗香が座っていた。
今小学4年生だ。僕が車に乗るなり、
「小学校低学年の子みたーい」
と鼻にかけた声で僕を馬鹿にしてきた。カチンときた僕も負けじと
「そんなふりふりしたワンピースは宮鷹みやたかのガキ大将には似合いませんよー」
と言ってやった。すると紗香は顔をみるみる真っ赤にして
「オタクに言われたくない!」
と大声を張り上げた。
怒りすぎて白目になってしまいそうなくらい目を釣り上げている。妹の紗香は気が強い。
この前は紗香の友達が宮鷹地域のガキ大将ににからかわれた時、その友達を庇ってガキ大将に飛び蹴りをくらわしてしまった。紗香は体が小さいが当たりどころが良かったのか大きなガキ大将は吹っ飛び、ガキ大将はあれよあれよと泣きだしてしまったのだ。そして事件が起こった場所も悪かった。
宮鷹地域で1番大きな公園だったから、砂場にいた幼稚園児も、ボールで遊んでいた小中学生も、デート中の高校生も、井戸端会議中のおばちゃん達もみんなその様子を見ていた。
そして宮鷹のガキ大将は次の日には小6の男の子から紗香に世代交代していたのだ。その日から紗香をガキ大将と呼んだら、すごい剣幕で怒る。
なぜなら彼女はおしゃれが大好きなおしゃれ女子だからだ。そのあだ名は彼女の理想からかけ離れている。すかさず彼女は助手席に座るお母さんに告げ口をした。
「ゆう!それは言わない約束でしょう。お母さんもそのあだ名嫌いよ〜。」
お母さんはため息混じりに言葉をはいた。

「お父さんは好きだよ。名誉ある名前じゃないか!」
お父さんは思った事を直ぐに口に出してしまう。空気を読まない。じゃなくて、読めない。

「さや、今日もお父さんとゴーカート競争しようぜ。今日こそは負けないからな。」
いや、能天気と言うべきか。

「えー、お父さん弱いんだもん。勝ったら何か買ってくれる?」
紗香は後部座席から乗り出して、お父さんにご褒美をおねだりしていた。

(やっぱりガキ大将だな)
僕は心の中で思った。
僕はなぜだか妹には優しく出来ない。

2020年5月11日公開

作品集『手から力を』第3話 (全6話)

© 2020 海老川文香

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