手から力を(二)

手から力を(第2話)

海老川文香

小説

1,793文字

暗くて寒い地下深くの穴に落ちた雄大と紗香の兄妹。
そしてそこに現れた一人の女性。
彼女に見捨てられた二人の運命は?

僕は金髪の彼女目がけて走り出した。
何も考えられなかった。
そして彼女の腰に飛びついた。
「お願いです。助けてください。」
僕は必死に彼女にしがみつく。彼女は後ろを振り向いたが、表情を何一つ変える事はなく僕を見ていた。
僕は涙、鼻水、よだれ、を出しながら彼女にしがみつく。
彼女は着ていたコートをひるがえし、僕を払い除けた。僕は失望した。
なぜ彼女はここまで僕らを拒絶するのだろうか?
コツン、コツンと彼女の靴の音だけが響く。僕はもう一度の彼女の後を追いかけ、彼女の腰にしがみつく。
そして同じ言葉を繰り返す。
「僕たちを助けてください!」

彼女は振り返り僕をじっと見ていた。僕の表情も強張る。すると彼女は優しく僕に微笑みかけた。
そして彼女は僕の頭を優しく撫でたのだ。初めて間近に見る彼女は美しかった。
彼女の肌は透き通るくらい白く、
彼女の目は吸い込まれそうなほどのスカイブルーだった。
彼女の笑顔はまるで天使の様で、僕もつられて笑顔になる。しかし次の瞬間、
彼女は僕の髪の毛を鷲掴みし、ポイッと僕を投げた。
「頼めば助けてもらえると思ったか。小僧が!」
僕を睨みつけると彼女はまた歩いて行った。僕は絶望した。
もう駄目だと思った。
僕はここで死ぬんだ。悔しくて、悲しくて涙が床を濡らす。

するとふと紗香を思い出し、彼女を見た。
彼女は涙を止めて、こちらを見ていた。
目に輝きがなく、恐れで何も見えていないようだった。

僕はまた、遠ざかっていく彼女を見た。
彼女は振り向く事なく歩いていく。
本当に彼女は僕らにはつゆ程興味がないのだという事が分かる。僕は恐怖で体が震えた。だが、僕がやらなくては!僕は

「うわー!」

と叫びながら走った。
そして彼女の足に飛びかかった!
彼女の歩みが止まる。しかし彼女は僕を見る事なく、足を振りながら僕を引き離そうとする。
僕は全ての力を込めて彼女の細足にしがみついた。怖くてたまらない。

すると後ろから

「うわー!」
と声が聞こえてきた。
紗香が声を上げて走ってきたのだ。
そして彼女の反対の足にしがみついた。
彼女はバランスを崩し、顔から前に倒れた。

「いたー!」
彼女は顔を両手で押さえて右に左にもがく。
僕と紗香はそれでも彼女の両足を離さなかった。

「お前ら足を離せ!」
彼女は両足を揺らした。紗香は恐怖で目をつぶっている。
僕も震えていた。
しかし二人とも彼女の足を話さなかった。
なぜなら彼女が僕たちのたったひとつの命綱だったから。彼女は両足にくっ付いている僕と妹をしばらく見ていた。

「お前ら兄妹か?」
僕は彼女の意外な質問に直ぐに答えられず
「へ?」
と間抜けな声を出した。するとさやが
「兄妹です。お願いします。私たちにここから出る知恵を貸してください。」
そう言って頭を下げた。じーと僕らを見ていた彼女が
「ぶぅっ。」
と吹き出して笑った。そして僕に顔を向けて
「妹の方が出来が良かったら、立場ないな。」
と笑った。そして
「そうか。兄妹か‥」と言って僕らを見つめて、立ち上がった。
そして下で座ってる僕らを見た。

「お前らは今まで親や周りの助けを借りて生きてきたんだろう?
お分かりの通り、お前たちはお前たちの力ではここから出られない。
なぜならお前らは無力だからな。」
彼女は僕らを見下すように冷たい目をしていた。

「弱い奴らはいるだけで罪だ。
誰かに寄り掛からなくちゃ生きていけない。
そしてお前らが死のうがどうなろうが俺の知った事じゃない。」
彼女の声は段々と大きくなる。

「子供が死ぬなんて、ここでは特別な事じゃない。
死は必ずくる!早いか遅いかだ。」
彼女の声が辺りに響き渡った。
僕は恐ろしさに震えた。すると紗香が
「それでも私は生きたいんです。お母さんとお父さんに会いたいです。お願いします。助けてください。」
と頭を下げた。
僕も紗香にならって頭を下げる。

「ふん!」
彼女は鼻を鳴らした。
そして中腰になり僕らの頭を撫でた。
先程のとはちがい優しく軽く頭を叩く。

「そういうことだ。
生き延びる奴は生に貪欲な奴らだ。
生き残る力がないものは、食われるか、それか誰かの犠牲になるかだ。だがおまえらは自分の弱さを自覚している。
そういう奴らはそこから這い上がれる。自分を変えられる奴らだ。
お前らは生にしがみついた。
その勇気を私が買ってやる!ついて来い。」

彼女はコートを再びひるがえし、ガニ股で歩いて行く。
僕と紗香はお互いを見て、先を行く彼女を見失わない様に後ろを追いかけた。

2020年5月11日公開

作品集『手から力を』第2話 (全6話)

© 2020 海老川文香

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