手から力を(一)

手から力を(第1話)

海老川文香

小説

1,729文字

普通の小学生兄妹に起きた不思議な物語の始まり。

第一章 出会い はじまり

 

僕達は薄暗い洞窟の中にいた。手に持っている灯りを頼りに力一杯走る。
恐らく追手はあの門をくぐれないだろう。
(スケグリーンさんどうかご無事で。)
僕は心の中で祈る。

 

「何をしている早く走れ!」
金色の髪の彼は僕の大分前を走っている。彼の髪は暗闇の中でも、自ら発光している様にキラキラと光っている。僕の携帯電話は予定の時刻の3分前を表示していた。
この一ヶ月、この時の為に色んな事を乗り越えてきた。僕は前を走る彼を見つめた。
彼の華奢な背中に背負わされてるものの大きさは想像以上のものだった。
僕は他人とこんなにも心を通わせたのは彼が初めてだった。
そして幸せを祈るのも。
その為にも僕らは必ず戻ってみせる。

 

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どさっ。
僕は腰に鈍い痛みを感じた。
「いてー。」
僕は風に飛ばされて、尻もちをついていた。
辺りを見渡してもまっ暗らで何も見えない。だが土の上にいることは分かった。
足元には手触りで石ころや砂があったからだ。
ここは、公園のどこかだろうか?
しかし人の声は聞こえず、静まりかえっている。
それになんだか寒い…。

「おにぃ?」
後ろの方で紗香さやかの声がした。


「さや?どこにいるの?」
僕は大きな声を出した。
「ここだよ!」
紗香も大きな声を出した。僕は周りを見渡したが、まだ目が慣れてなく何も見えない。
それもそうだ。
先程は春の日に当たっていたのだから…僕はとても怖くなった。
「さや、どこ!?」
僕は叫ぶ。
僕の声が辺りに響き渡った。その時だった、

「誰だ!」
僕が向いてる反対方向から鋭い声がした。
声の方向に顔を向けると、小さな灯りが見えた。
こちらに近づいてくる。
僕は灯りが見えてほっとした。
人がいるんだ。
助かった。
僕はそう思った。

「すみません、ここがどこかわからないんですけど!」
灯に向けて僕は大きな声で話しかけた。
さやは目が少し慣れたのと、近づいくる灯を手がかりに僕の後ろに来ていた。
意外と近くに居たらしい。
僕の腕をとり、後ろで腰をかがめている。
灯りと足音が近づいてきて、声の主の顔が見えた。

その人は、金髪の女の人だった。
近くで見るとまだ高校生ぐらいだと気づいた。
彼女は僕らを見てとても驚いた顔をしていた。しばらくして彼女は口を開いた。
「お前たちは人間か……?」

僕は想像していなかった問いに驚いた。彼女は無言でそしてとても冷たい視線で僕たちを見ていた。
僕は背中にすーと冷たいものが走ったのを感じ身震いをした。
そして

「はい……。」

と言った。
質問の真意は分からなかったが、僕は質問に答えた。すると彼女は
「ふふふ。ここには色んな物が落ちてくるが、生きた人間は初めてだ。お前たち良く生きていたな?」
言葉とは裏腹に彼女の目は笑っていなかった。

「落ちてきた?」
僕は彼女の言葉を繰り返した。
すると彼女が
「そうさ、お前達はあの穴から落ちてきたのさ。」
そう言って、彼女は組んでいた腕を少しだけずらし、僕の後ろの上の方を指だけで刺した。僕と紗香はその方向を見る。
ほんの少しだけ明るく見える、小さな小さな丸があった。
いや、点というべきか……。
距離さえ測れないほど遠い。僕は絶望を感じた。
そして彼女を見て
「ここから出られる方法を知っていますか?
教えてくれませんか。」
と質問をした。すると彼女は表情一つ変えず
「人間を助ける義理はない!」
そう言って、先程来た方向を向いた。彼女は長いコートの様な物を着ていて、彼女が踵を返すとさざっと音がした。
とても重そうなコートだ。
そして来た方向へゆっくりと歩き出した。僕はあっけにとられていた。
なぜあそこまで拒絶されたのだろうか……?僕は分からなかった。彼女の持つ灯りが少しずつ遠くなっていく。
「待って、待って!」
僕は思わず叫んでいた。後ろでは紗香が今にも泣きそうな声で
「お兄ちゃん、どうしよう。
私達ここから出られないの?」
と僕を揺らした。僕は今まで人生でこんなに不安を感じた事はあっただろうか。
怖くてたまらなかった。
僕たちはここで死ぬのか?
初めて死を意識した。

彼女の足音はどんどん遠のいていく。
そしてさやのすすり泣く声。
僕をどんどん追い込んでいく。

2020年5月11日公開

作品集『手から力を』第1話 (全6話)

© 2020 海老川文香

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