非常用階段、

途中の人間(第16話)

siina megumi

小説

1,837文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

音楽がうるさいなか、ナデカがデンに耳打ちして、
ナデカ「大事な話やって」
デンは噛み合わないように大げさに頷いた。もちろん踊っている奈央は気づいていない。

 

デンは満足げに頷きながら、
デン「ちょっとだけ大事な話あるから、ナデカさん席外してもらっていいですか?」
ナデカは奈央と見合わせて、笑顔で出て行く。

 

外の非常用階段のところ、そこからパチンコホールが見えた。臨時休業の続くあのパチンコホールが。真昼の古城のようなパチンコホール。ナデカにはそれは目覚まし時計の音のように衝撃的に感じられた。ナデカの中で、とくとくと何かが脈打っている。もうそこには誰も居ない。そして、そこに居たいと思う者も誰も居ない。むかうところナデカだけが、ナデカとデンだけが、何かをこなし続けている。他の誰にも生きる権利はないと、ナデカは心で断定する。するとやっと眠気が覚めたような気だ。

 

ショウは思う。青空だけは見たくない。その瞬間、生きる意味と実感を垂直方向に失う気がする。青空を蓋として、自分の人生を閉じられる気がする。人生は無際限だと信じたかった。自分の理解を完璧に超えるモノがどこかで待っていると信じたかった。要は無駄な感情を起こすまいと努めることだった。でなければ、青空を突き破りたくなる。
ギター教室に向かっていた。自分が未来に向かって歩いているという感じが全くしなかった。エスカレーターを反対に歩くように、自分はただその場にとどまり続ける腐った水だという疑念。もう五年以上になる、いったいギター教室に通うことによって、何かが進展しているのだろうか? このまま全く関係ない会社に就職するのだとして、自分はこれは何をやっているのだろうか。
非常用階段にいる女性。その女性はただなんとなく居るだけだが、何か完全な感じがした。あの時家の前に居た人だ。あそこにギター教室があるのに、あれが自分を待っているのでなくてなんなのか。
階段を上る。
ナデカ「こんにちは。ここで働いてるの?」
何の驚くこともない平然さでナデカは言った。室内のデンが、窓の向こうでナデカとショウが話しているのを見て取って、
デン「まぁ詳しい話は後日」

 

「いえ・・・」
ナデカ「あ、じゃあバンド練習とか? そこにスタジオあるもんね」
「まぁ、そうですね」
ナデカ「バンド組んでるんだね」
「バンドは組んでないんですけど」
ナデカ「え?」
「バンドは組んでないんです」
ナデカ「え? じゃあ」
「ギター教室ですね(笑)」
ナデカ「へー」
どこか一段下に見ている、と痛烈にショウは感じた。

 

デン「ありがとうございましたー!」
話していたナデカに呼びかける。そこにいるショウに奈央は気づいたようだ。何故か解散せずにそこで話している。ここを歩いていくしかない。
「ねぇ! ショウだよね?」
絶対にありえないのだが聞こえてなかったかのようにわずかに速足で過ぎて行く。ショウと奈央は中学が同じだったというだけで何もないのだが、澄ました顔でショウは歩く。ナデカはまずいと思って、
ナデカ「そこのギター教室に彼通ってるんだって」
ショウにも聞こえているはずだが反応を見せるようすはない。デンとの『大事な話』で、奈央はよほど気分が良いようで、ショウに向かって、
「頑張ってね!」
そのありがたい無神経さにナデカとデンは眼差しを合わせる。

 

奈央はまだ一人で練習するらしいので、ナデカとデンは階段を降りている。
デン「頑張ってねだってよw よく言うわアイツ」
ナデカ「かたやプロでかたやギター教室、って感じがショウに伝わってればいいけど」
デン「いや感じてるだろ流石に。俺こんな身なりなんだから」
ナデカは頷いておいた。
ナデカ「この感じなら二人は付き合わせなくてよさそうね」
デン「あ、付き合わせるつもりだったんだ」
ナデカ「うん。でも元同級生の女、ってままいく方がショウは惨めだと思うんだよね。そんな感じしない?」
デン「うーん。ショウはこのまんま面接に来るの?」
ナデカ「ああ。それが実は、奈央も同じ時に面接にくる」
デン「え!! ああ、それは付き合ってない方が面白いわ」
ナデカ「別に面白くはないけど、そっちの方がいいでしょう?」
デン「そっちの方がいい。要はそれで、奈央だけ入社させて、ショウを落とすとw」
ナデカ「そうしようと思ってる」
デン「かなりいいね」
とその様を想像に浮かべている。やはりデンは、向こうの方にあのパチンコホールがあることに、全く気づいていなかった。

2020年4月11日公開

作品集『途中の人間』第16話 (全21話)

© 2020 siina megumi

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