コインランドリー、

途中の人間(第15話)

siina megumi

小説

1,737文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

そこだけは明るい。デンは先に居て、コーヒーも買わないで座っていた。綺麗な洗濯物がそこらで回り続けている。人は居ない。
ナデカのシナリオを考えていた。母なりの大変な圧迫面接が行われるのだろう。それには期待があるのだが、おそらくその場に居られないだろうことは不満ではあった。あのショウという凡俗な現代青年の自殺に、母はダンスチームを使うらしい。
そこには誰もおらず、ただ服だけが回っていた。ならば、ただ大量の裸だけがあるような場所も、何処かにないとおかしいとデンは思った。自殺した人間がそこに流れつくのだろうか。

 

もはや部屋でYouTubeを見ているショウが、ここへやってくることはまず有り得ない。
軽く返事だけしてナデカは何も喋らない。喋らないで、まだもう一人待っているかのようにして座っている。何のつもりなのかデンは苛立ちを覚えた。デンから言うべきことがあるはずがない。
デン「どうだったの?」
聞き逃されて改めて言うときのようにはっきりとデンが聞くと、ナデカはちょっと驚いたようで、
ナデカ「え? いつも通りやるだけだけど。何の話?」
デン「だから、ショウとかいうやつが」
ナデカ「ショウが?」
デン「アイツがどういうやつだったか聞いてんの」
デンは思わずイラついた口調になっていた。それでさとったようにナデカは微笑を零して、
ナデカ「語る価値もないような人間に決まってんじゃん」
そしたら今度はデンが黙り込んでしまった。納得したからで、キレたのではない。

 

乾燥機の音だけがしている。
ナデカ「いちおう今考えてるのは、面接をきつく落としたあと、つまらないアーティストにさせるってことなんだけど」
デン「つまらないアーティストね(笑)。いいね。しかし、今の生ぬるいアーティストは、それくらいじゃ自殺しないよ?」
ナデカ「まぁ。アーティストっていうのは歌い手なんだけど」
デン「ダンスじゃないの?」
ナデカ「ダンスじゃない。ここが胆なんだけど、いまダンスサークルに奈央ってコがいてね」
デン「うん」
ナデカ「とにかくダンスに賭けてるわけよ」
皮肉たっぷりな感じの喋り方をナデカはした。
デン「へー。母さんと同じだね」
適当に言ったつまらない冗談だったが、それはナデカにはかなり不快だったようで、全く同じトーンでナデカは問いただす。
ナデカ「どういうつもり。何が言いたいの?」
デン「なんでもないよ」
ナデカ「何なの?」
デン「なんでもない。冗談だって」
ナデカ「ダンスとかいうどうでもよく下らないモノに何一つ賭けるわけがないんじゃない?」
デン「分かってるから」
そしたらナデカは呆れるように苦笑で、
ナデカ「何が分かってる?」
デン「・・・ダンスが下らないかどうかは知らないけどね。どうでもいいのは確かだけど」
ナデカ「・・・」
ナデカは自分の全身の体重を感じるようにしている。
ナデカ「奈央のダンスが下らないかどうかデンが決めて。それによって変わるから」
デンはちょっと考えてから、
デン「あ、じゃあショウに才能の差みたいなものを感じてもらうわけだ」
ナデカ「うん。表現の優劣はちっとも私は知らないから。いいんでしょう?」
デン「いいんじゃない」
大変適当にデンは答える。
デン「次はあの無欲な青年を自殺させるのか」
ナデカ「・・・無欲か」
デン「こりゃ良いテーマだ。さっき自殺させた女は傲慢さが仇になった感じだけどね」
ナデカ「自殺する人間に個体差があるの?」
ときおり異様なようなことをナデカは聞く。
デン「そりゃあるでしょ」
ナデカ「この世を去りたいという気持ちは一貫してない?」
デン「まぁ、どうか・・・」
デンは一瞬首をかしげたが、
デン「つか、俺とアンタだからな、自殺させてるのは」
ナデカ「とにかくあのショウっていう男を追い詰めよう。とゆうか、いいよね?」
デン「あれで何のする気もなくてボーっとしてるんでしょ? 面接落とすくらいならオッケーでしょ」
ナデカ「じゃあやろうか」
ナデカはそれで立ち上がるのではなく、もっと深く座り込んだ。ナデカのその声は浮ついていて、美味そうな鰻重のように鮮やかな声だった。
まだ明けきっていない外にも誰も居ない。
デンの頭にはまだ、全裸で集団自殺している人々というイメージが離れなかった。
乾燥機の音は全くうるさくない。

2020年3月11日公開

作品集『途中の人間』第15話 (全21話)

© 2020 siina megumi

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