マンション廊下、

途中の人間(第13話)

siina megumi

小説

1,421文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

実際しない歌を、ゆるやかに口笛でしながら、陰ったマンションの一室に向かっていた。電気はその部屋にだけあった。
さっきまで居たルリエはどうなったのだろう?
いやそんな人は居なかった。元から居なかったということになったのだ。それでなお何の問題も無いという人物をこそ、ナデカは選んでいる。ルリエのことを覚えている人間は誰一人いない。必要ともされなかったし、愛されもしなかった。ルリエからも、そのことに対して何もなかった。ほとんど同意ずくのような形で、その人は居なくなった。むしろ居なくなることがその人のただ一つの望みでさえあったフシさえある。

 

なのに、こんなことは決して許されないことだという意識がここにあった。それは強烈というわけではないにせよ、明確にここにあった。これは何だ?

 

デンは続ける。会いに来たのはイワデラという『友人』だったが、どの部屋かぜんぜんわからなくなってしまった。そこまで大事なことじゃないし、もう今日はいいか、と思っていたら、ちょうどイワデラが部屋から出てきた。
「あぁ、デン」
デン「ひとり自殺したから。伝えにきたよ」
イワデラは何か悩んでいるようだが、何を悩んでいるのかさっぱりわからない。
「お前に会って欲しい人がいるんだけど」
デン「はぁ?」
急なデンの不機嫌に、イワデラは、
「なんでもない」
デン「なんでもないなら元から何にも言うな」
「・・・」
とは言えイワデラは言うことにした。
「お前は支配されてるんだぞ。あの母親に。お前が辞めない限り、絶対にずっとこのままだぞ?」
デン「上等じゃん」
デンは続けて、
デン「本当にお前は未来がないやつだな。ずっとこのままなのは俺じゃなくてお前だからな? だが生きて居ていい。いつかお前は人類から必要とされる。それまではじっとしてろ。・・・あ! そういや奥浩哉の新作読んだ? ギガントって漫画」
「え? いぬやしきもう終わったの?」
デン「いぬやしき終わったわとっくに。お前の中でガンツで止まってんだろ」
「どんな話?」
デン「AV女優が全裸で巨大化して東京で戦うっていうオモシロ漫画」
「はぁ?」
デン「お前が好きそうなやつだ」
「ガンツより面白い?」
デン「というかいぬやしきも読んでないんだろ? 先にそっち読めよ」
「ガンツは人類の最高傑作だ」
デン「そうかい。前、あの、なんだっけ? ゲームが一位とか言ってなかった?」
「マブラヴか。マブラヴも人類の最高傑作だ」
デン「マブラヴ。それそれ」
「ちゃんとやったか?」
デン「え?」
「まさかやってないなお前」
デン「えー。だってアニメじゃんアレ」
「アニメじゃないよ美少女ゲームだよ」
デン「いや、あの、絵がさ」
「なんだ? お前はそんな下らない理由で御剣冥夜達の世界と誇りを賭けた熱い決意を愚弄するのか?」
デン「わかったよ、やっとくよ」
「適当なこと言って誤魔化す気だろ? やらないんだろ?」
デン「お前がそこまで言うんならやっとくって。いやでも、その実やらなくても何となく分かるじゃん。どーせ進撃の巨人とかエルフェルリートの時みたいな説教臭い話だろ? ぶっちゃけ嫌いなんだよねああゆう説教臭いの」
「そうだよ。だからこそやるんだよ」
デン「性的なやつでしょ?」
「そうだよ」
デン「じゃあお母さんに買ってもらうとするか」
デンは軽い冗談で言ったつもりなのだが、イワデラは急に不機嫌になった。失望したというふうな感じでマンションを去っていく。どこに行くつもりだろう。どうせ近くのコンビニだろうが。

2020年3月11日公開

作品集『途中の人間』第13話 (全21話)

© 2020 siina megumi

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