パチンコホール屋上駐車場

途中の人間(第9話)

siina megumi

小説

1,224文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

ナデカの服は肩を出していた。平気でそこにある、彼女のその全身に自殺させられるのだと思った。
特に傷ついていないというふうに、ルリエは店を出て行った。実際傷ついてはいないのだろう。もはやどうでもいいのだろう。それでナデカはしばらくスマホを触ったあと、
ナデカ「ああ、でもやっぱり心配だな。ちょっと探してくる」
行ってタクシーを探す。
佐茄がぐっと近づいて、
「アレがおかあさんだよね?」
デンは頷くだけ頷いた。

 

ナデカが考えるに、ルリエはなじみの場所で自殺しようとするはずだ。いわばこの世を去るにふさわしい瞬間。当人にとって、社会を象徴するような場所。
すぐに目星がついた。ナデカはタクシーに乗り込むと、
ナデカ「近いんだけど、大丈夫? あそこのパチンコ屋まで」

 

そこから見える景色を、同じようにルリエは辿ったのだろう。

 

ナデカはしばらくパチンコホールを見上げていた。
屋上に来れば、すっと立って平静に街を見渡している人物がいる。ナデカの考えでは、そこに居るのはもう人ではなかった。もう取り返しがつかないように追い込まれている。落ちても落ちなくてもどちらでもいい状況だった。
そちらの方へゆっくりと近づく。
「あぁ」
ナデカの考えでは、そこに居るのはルリエという固有の人物ではなかった。自分自身であることをやめた人。生命全体が、不意に語る言葉を持ってしまったようなものだった。少なくとも人間ではなかった。
いくつも聞きたい言葉があるのだが、ナデカは上手く言葉が出てこない。
「自殺するしかない人間っていると思う?」
ナデカ「そんな人は居るわけがありませんよ」
「そんな人間しか居ないんだよ。生きるとは、自殺することを必死に我慢するということでしかない」
ナデカ「うわぁ。でたよ、またそれだ。みんなそれ言うんですよね。面白くはないなぁ」
眼差しをそらしたところにあったのは、自殺者によってどうでもいいと認定されたその街だった。しかしその『外』で待っているものは何だろうか。
「・・・知らない喜びだ。あなたは残されればいい、このどうでもいい世界に」
星々を、ところどころ雲がさえぎっていた。雲は近い。
落ちるか落ちないかのところで、何の執着もなく立っているその一人の人間。その人間にはもう自分自身というものがなかった。感情移入ということができなかった。その人、この場所、この瞬間に、何かが始まるのだろうか。もしくは全てが終わるのだろうか。知る限りのもの、感じる限りのものを捨て去って、知ることも感じることもできない『遠くの未来』を望んでいるようだった。
しかし何も起きない。
そこに居たのはとある自殺者だった。では『ルリエ』というのは何のことを指したのだろうか。それを考えた途端、ナデカは目眩と涙が同時にした。自殺というのが何なのかわけがわからなくて目眩がして、この身体が生きているということに驚いて、感動が止まらないようだった。

・・・

 

・・・

 

・・・

2020年2月15日公開

作品集『途中の人間』第9話 (全11話)

© 2020 siina megumi

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