三章

雪国/妹/牧場/ミルク(第3話)

瀧上ルーシー

小説

9,386文字

雪国/妹/牧場/ミルク 三章

何もないゴールデンウィークが終わった。滝沢とのいきものくらぶも活動を休止したので、戸惑った老人たちから何回も家まで電話がかかってきて、しかたなくぼくと親父で歳老いた単身者の家に食べ物や雑誌を運んだ。

滝沢と反乱軍たちは朝教室で教師に出欠だけ取らせると空き教室へと行ってしまった。暇なので有子と保健室でセックスした。

学校が終わると牧場までカブで行って、ガレージで妹の身体をまた洗ってやる。その後で乳首から超濃牛乳を直接飲んでテンションが上がった。元から苦しいことなど何もない。しかしどこか疲れているぼくを妹のミルクは癒やしてくれた。どこか自分がぼやけたような気分を吹き飛ばしてくれた。

「お兄ちゃんは赤ちゃんみたいだね」

「別にそういうわけじゃないよ」

「おっぱいは好きでちゅかー、ばぶばぶ」

どうも昔から世話してやっているのはぼくなのに、妹よりぼくの方から彼女に依存しているような気がした。

「お兄ちゃん疲れてる?」

ぼくの頭よりかなり上の方から千秋が言った。

「疲れてないよ」

「嘘だあ、絶対疲れてるよ」

「疲れてなんかない!」

ぼくが叫ぶと、あっという間に千秋は子供のように泣き出した。ガレージの中ががたがたと揺れる。

「お兄ちゃん怖い……ひっく」しゃくり上げる妹、謝るぼく。

三十分近く謝り続けてやっと千秋は泣き止んでくれた。

 

ゴールデンウィークが終わったばかりなのにまた週末がやってきた。めずらしく牧場ではなく家で過ごしていると電話がかかってきた。

相手は名乗らなかったが、有子が旧校舎で動けなくなっていると言っていた。急いで家を出てぼくはカブを走らせた。

新校舎の方にある駐輪所にカブを駐めて森の中に入ると、少し歩いて旧校舎の中に入った。

「有子お」相変わらず埃くさい。

声をかけながら旧校舎内を進むと、一階の教室に知っている人間たちが集まっていた。

ぼくと、有子と、絹恵と、小笠原先生と、ぼくの家来のような竹原と川田がいた。

「有子、無事なのか」

「うん、呼び出されて来たんだけど、どういうこと?」

校舎の外でがさがさとした物音が聞こえてきた。

皆で事情を説明し合う。それぞれがぼくだったり有子だったりが倒れているから助けてくれと電話がきたらしかった。

「アホらし、帰ろ」絹恵のその声でぼくたちは来たばかりの昇降口から森の中へ出ようとした。だが昇降口の扉はすべて開かなくて、元々窓があったらしい穴も向こうから木の板を打ち付けていて、外に出られないようだった。注意して旧校舎内を見たことなんてないので、元からそうだったのかよく覚えていない。

「何なのこれは!」

絹恵がヒステリーを起こし、その辺に置いてあった、机や椅子を投げつけるのだが、昔の建物なので入口には硝子を使っていなく、人が通れるように穴を空けることはどうしてもできなかった。

皆で一階から三階まで校舎をまわって、入口を壊せそうな斧や何かの道具がないか、また、別に出られそうな場所はないか調べたのだが、どちらも見つからなかった。アリンコやゴキブリが時折視界に入るだけだった。非常事態のせいか、誰も虫を見たくらいでは騒がなかった。

一度元いた一階の教室に戻ってくる。

「折角だし肝試ししようよ」なんて有子が言いだした。

旧校舎内はもうだいたい調べたが、見落としがあるかもしれないので彼女が言う通り、全員でぞろぞろと歩き回った。まだ日が高いからか旧校舎内は真っ暗ではないが、夜になったらどうすればいいのだろう。

どこからどこまでも埃だらけだった。一階から三階まで全ての窓に×印のように木の板が打ち付けられている。その隙間からは身体が通らない。通ったとしても二階や三階だったら飛び降りることになる。無傷ではいられそうにない。

場違いな声で有子が言った。

「楽しいね!」

全員が無言を返した。

最初に皆が集まっていた教室に戻ると、バンドマンが使うような箱形のスピーカーが床に置かれていた。

……他に誰かいるのか?

そのうちに外が暗くなっていく。

「こんなところで寝るの? 嫌だわ!」

小笠原先生が大人なのにヒステリーを起こした。

教室にはスピーカーが置かれていた以外は変化がなかった。

皆で昔は使われていたらしい保健室に行くと、ベッドがあったのだが、埃だらけな上にスプリングが飛び出ていて使うことは諦めた。

また最初の教室に戻ってくると、人数分の毛布が置かれていた。

スピーカーから変声期を使った不自然な声が聞こえてきた。

『初日はここまで。おやすみなさい』

怒ってスピーカーを蹴り飛ばそうとする小笠原先生を慌てて止める。懐中電灯もないので夜のトイレは不安だった。明かりという明かりは男たちが煙草を吸うために持ち歩いているライターくらいだった。

旧校舎ですごす夜は真冬の雪之町の寒さと同じくらい恐ろしかった。毛布はあるものの、誰かが寝返りを売ったり、眠れないで立ち上がる度に古い木の床が軋んだ。リノリウムでさえない。ぼくも人の迷惑も考えないで、眠れずに何度も煙草を吸った。ぼくの他にも吸っている奴はいた。

眠りたいのに眠れない朦朧とした意識のままそれでも朝がきた。

教室に光りが入ってくると、超濃牛乳が人数分教室に置かれていた。区別するために黄みがかった瓶を使っていたためすぐにわかる。

非常時で子供を残すという本能が強くなっているのか、そんなことしても体力を消耗するだけなのに、皆で乱交じみたセックスをした。こうなることがわかっていてぼくたちを閉じ込めた人間は超濃牛乳を置いたのだろうか。せっかく摂れたカロリーを消費してしまう。

小笠原先生は竹原と川田と3Pをしている。この間まで処女だったのが嘘のようだ。事実嘘だったのかもしれない。一人のペニスを踏みつけて「こんなところで働くくらいだったら、教員免許なんて最初からとらなければよかったわ」などと愚痴っていっそう激しく二人のペニスを弄んだ。その後でぼくも彼女の餌食となった。蛋白質蛋白質……などと言いながら精子を飲まれた。

トイレに紙がないせいで皆小便や糞の臭いがしたが、小笠原先生だけはいい匂いがした。香水でも持ち歩いているのだろうか。

普段から二こは必ず持ってくるようにしているが、これからどうなるかわからないので、煙草は我慢して一日一本しか吸わないようにした。同じく煙草を吸う舎弟みたいなクラスメイトの竹原と川田にも真似させた。

明るいうちにどこかから外へ出られないか木造の旧校舎内を歩き回った。蜘蛛ばかり何匹も見た。蜘蛛の巣もあちらこちらに出来ていた。

突然、大きな爆発音がした。

音が聞こえた方に行くと、片脚が吹っ飛ばされた小笠原先生がうめきながらうずくまっていた。よく知らないが廊下に穴が空いているので地雷のような物を踏んだらしい。彼女はもう長くないと思いながらも、教室まで運び、吹っ飛んだ片脚を止血して毛布でくるんだ。

絹恵がわめく。「誰か外との内通者がいるか、隠れて私達を皆殺しにしようとしている敵がいるわ!」

「落ち着けよ……」

それでも絹恵の言うことも一理あるので、最初の教室に皆で籠城することとなった。教室にところどころ錆びているトイレ用のバケツを何個か持ってきた。ぼくにとっては慣れていることだ。自分で歩けない小笠原先生はすでに糞と小便を垂れ流している。

そのときスピーカーから声がした。

『宗治郎。お前の悪事はすべて把握している。自分から隣街の警察署に出頭するか』

「ぼくは何も悪いことはしていない」

『たとえ悪いことをしていないとしても応じないと、小笠原が死ぬぞ』

「かまうもんか」

絹恵に罵倒された。「あなたって本当に自分さえよければそれでいいのね!」

竹原や川田もいろいろ言ってくる。「宗治郎さんにはもうついて行けないっす」

「こうなったらもう敬語なんて使ってる余裕はねえな。宗治郎てめえ、警察行けよ。死ぬよりはいいだろ」

ぼくは胸ぐらを掴まれた。まだそのときではないと静かにしていた。罵倒して怒りが収まったのか、二人はぼくを解放した。

しばらくして暇なせいか有子が絹恵に絡んだ。

「あなた妊娠してるんだってね。わたしが堕してあげる」

「はあ? なにするの」絹恵はこれから起ることを想像して怯えているようだった。

「あなたたちも手伝って」

竹原と川田は有子に言われるまま、絹恵の身体を床に押さえつけた。有子は泣き叫ぶ彼女の声を無視して、性器の入口から無理矢理腕を突っ込む。小さく何かが潰れる音がした。

「中絶完了。よかったねお母さん女子高生とか言われないで。あはははは!」

絹恵の股からは臭い血がどぼどぼと流れるように出ていた。彼女は発狂したようにわけのわからない言葉を吐いて、有子の顔をおもいきり拳で殴った。

有子は気にしないのか、やり返さないでまだあはは、と笑っていた。

翌朝は超濃牛乳が人数の半分しか置かれていなかった。

『二人で戦って勝った方が飲んでください』

スピーカーからそんな声が聞こえてきた。

さすがに残酷すぎて皆が嫌がるので、ぼくは小笠原先生と戦うことになったのだが、彼女は既に出血多量で死んでいた。止血は一時的にしか機能していなかったらしい。有子は昨日のお返しと言わないばかりに絹恵を一方的に何度も殴った。竹原と川田も本気で殴り合う。ぼくも含めた勝者たちは超濃牛乳を飲んで、少しだけ空腹を凌げた。その後で小笠原先生の死体を別の教室に捨ててくる。火葬も線香を上げることもできない。それどころか土にも埋められない。

また暇な昼間がやってきた。板を打ち付けられた窓からも少しは明かりが入ってきて何かするにはもってこいだが、とくに何もやることがなかった。また地雷があったらアウトだ。希望者だけ集めて、校舎内を散歩した。絹恵はこなかった。

夕方スピーカーからまた例の効果音を無理矢理人間の声にしたような音が聞こえてきた。

『隣の教室に飯があります。ただし……宗治郎が見ている前で他の三人は有子を犯して下さい。そうしないで飯を食べた人間は必ず殺します』

大して好きではないとはいえ、ぼくは動揺したのだが彼女は陽気に笑っていた。

「別にいいよ。セックスは好きだし」

竹原と川田が有子の服を脱がし、身体中を舐め回し、ペニスを中に入れる。それが終わると絹恵は復讐ができる……と言って、有子にフィストファックした。手首まで中に入ったときだけ有子は苦痛に顔を歪めた。

大して好きじゃないはずなのに……前から有子も混ぜて乱交だってしてたのに……ぼくはなんだか泣けてきた。

そのうちに有子は朝飲んだ超濃牛乳効いているからか、自分から積極的にセックスに参加し、竹原と川田のペニスを一緒に口に含んだ。顔に射精されても彼女の自尊心はまったく傷ついていないようだった。

そして小笠原先生の死体があるのとは逆の隣の教室に行くと、人数分の菓子パンが置かれていた。一人一個らしい。皆無我夢中で食べた。

ろくに飲んでも食べてもいないし、暇になっても何もできなかった。それどころか緊張に重なって腹が減って体力を温存するために眠ることもできなかった。

翌朝。

『宝探しゲームです。小笠原先生の死体をみつけてください。今度は見つけた一人にしか食事は渡しません』

などとスピーカーから例の声がした。

皆一斉に駆け出して教室を出て行く。もうかっこつけていられなかった。旧校舎内を歩き回った。

考える……

自分だったらどこに死体を隠すだろう? 土を掘って埋めることはできない。理科室の戸棚の中とどちらか迷ったが、音楽室に行って、埃に指の跡があるピアノの蓋を開けると、小笠原先生の死体がバラバラになって入っていた。

宝をみつけた証拠に腕を一本持って教室に帰ってくる。

『それが食事です。調理道具は隣の教室にあります』

今度はスピーカーがそう言った。千秋に何人も人を食わせた天罰だろうか……

隣の教室に超濃牛乳が一本だけ置いてあったらしいが、誰かが横取りしたらしく空になっていた。

しかたがないのでいやいや小笠原先生の肉をナイフで細かくしてカセットコンロとフライパンで焼いて食べた。血を鍋で湧かして水分として飲んだ。死ぬほど不味いが生き抜くためには必要だと思い、ピアノの中に残りの肉を隠したまま、他の教室に調理道具も隠した。

翌朝は普通に人数分の超濃牛乳が教室に置かれていた。それはやはりぼくたちを監禁している犯人と内通している者がこの中にいるということだ。そう考えるのが自然だった。

牛乳と一緒にぼくが中学と高校で撮った写真が封筒に入って置かれていた。

急にスピーカーが声を上げた。

『竹原と川田は有子と、宗治郎は絹恵とセックスしてください。そしたら隣に美味しいご飯を出してあげます』

力を振り絞ってセックスしたが、絹恵は痛がるだけだった。

「これが原因で一生子供ができない身体になったら二人とも訴えるから」

絹恵はぼくと有子を睨んだ。

彼女とは対照的に、有子はまた3Pを楽しんでいるようだった。

隣の教室に用意されていたのはお湯が入ったカップ麺とタイマーだった。皆汁まで飲み干した。

元の教室に戻ると口喧嘩が始まった。

スピーカーを通して話している相手がぼくたちの状態を大まかに把握している件や、飯がいつの間にか運ばれている件で、皆お互いを疑い出す。

有子は本性を出したのか、竹原と川田を連れて、違う教室に行ってしまった。

教室にはぼくと絹恵が残った。

「二人で有子を殺しましょう。あなたの子供を殺されたのよ」

「別にどうだっていいよ」

ぼくは絹恵に強烈なビンタを浴びせられた。未だに股から血が少しずつ垂れている絹恵と教室でふたりきりになった。気まずい無言が続いたのだが、絹恵が、「ずっとあなたが好きでした」などと言い出した。ぼくは無言を返した。こんなやつに好かれても気持ちが悪いだけだ。

死んだ山本が恋しかった。ぼくのまわりにいた女で一番気持ちがいいと感じる女は彼女だった。

 

翌朝になっても有子たちは戻ってこなかった。彼女たちがいる所にも超濃牛乳が運ばれているのだろうか。だいぶ免疫がついたらしく一本飲んだだけではそこまでテンションが上がらなかった。ただ、自分はこのままここで死ぬとは思えなかった。きっとただの薬物的作用だ。

絹恵が電波が出ているから、皆のオーラが汚れてきているなどと言って持ってきた荷物からアルミホイルを出して自分の腕や脚に巻きだした。

ついに狂ったのか……いや、万が一の火でも明かりでもなく、アルミホイルなんて持ち歩いていたということは元からこういう奴だったのだとぼくは思った。絹恵はぼくの腕にもアルミホイルを巻こうとして寄ってきたが、拒絶した。

絹恵が寝ている間に鞄を漁ると日記が出てきた。無断で中を見る。

自分で描いた宇宙人と、仲良くする絹恵の絵と文章が並んでいた。日記の中で有子は何度も宇宙人に殺されていた。たしかに有子は絹恵に期待させるようなことをして、酷いこともしたが、これは完全に頭がおかしい奴の絵と妄想の日記だった。絹恵はここに監禁される前からとうに気が狂っているようだった。

今まで超濃牛乳を飲んで副作用なんて出たことなかったのに、ろくに眠れないし栄養が足りていないのか幻覚が見えた。千秋に似た幻覚の化け物にぼくは頭をばりぼりと食べられた。痛みまで感じてぼくは発狂しそうになった。そんな時間が体感だと何日間も続いた。気づくともう見慣れた旧校舎の教室にいた。

絹恵はこのごに及んで狂った日記を書いているようだった。

尋常じゃないし本当は食べたくないが、死にたくもないので、二階の音楽室で隠れるように小笠原先生の肉に火を通して食べた。ぼくは普段から拳銃に加えてナイフも持ち歩いているので、骨から食べられる肉をそぎ落とすことはできた。

ぼくと絹恵の陣地に戻り休んでいると、大きな音がした。

危険だと思いじっとしていた。

廊下を駆ける音がして有子が教室に入ってきた。

「竹原くんが爆弾? 地雷? ……それで脚を飛ばされたの。もう死んだから肉を調理して一緒に食べよ?」

内通者は初めからそれを知っていたのかフライパンとカセットコンロが有子の陣地にも用意されていた。

「仲直り仲直り」

また最初の教室で過ごすことになった。

皆で気が狂ったように調味料もないのに、焼いただけの竹原の肉を食べた。全員が満腹になるまで食べてもまだ彼の肉は残っていた。

またスピーカーから声が聞こえてくる。きっとトランシーバーか何かからの声を受信しているのだ。

『この人殺しの食人鬼、早いところ自分たちの罪を認めないと最後に待っているのは死だ』

「うるせえ……」

思わずぼくの口からそんな台詞が出た。

翌日、超濃牛乳が四本置いてあった。もうぼくと有子と絹恵、川田の四人しかいなかった。この旧校舎にきてから二人も爆弾で殺された。

それなりに食べるようになったので、便意をもよおした。拭く紙がないのでパンツは糞だらけだし、皆風呂に入っていないので教室中が体臭に満ちていた。

トイレに行った川田が大声で言った。

「トイレの近くの教室の教壇の中にトイレットペーパーが大量に隠してありやがった! たぶん死んだ小笠原の仕業だ!」

ぼくたちはまわりに他の人間がいるのにもかかわらず、尻を出して、トイレットペーパーで糞を拭き取った。

素人に中絶させられたばかりだというのに、絹恵が人目も憚らずオナニーを始めた。有子が「絹恵ちゃんやめなよー」などと言うがその目と口調は完全に笑っていて、人をバカにしているものだった。

 

遠くで旧校舎の外から人の話し声が聞こえてきた。

ぼくたちは急いで声がする方へ向かおうとした。

『プラスティック爆弾が仕掛けてある。お前らが大声をあげたら、すぐにボタンを押す』

スピーカーからそう声が聞こえてきた。

嘘だと思ったが万が一を考えて皆静かにしていた。それでも絹恵が騒ぎそうになっていたので殴って黙らせた。

「誰かいるんですか!?

本当は助けてほしい。だがスピーカーが言っていたことが恐ろしすぎてぼくたちは声を出せなかった。

「なんだ……鳥か」

そう言って、足音は遠ざかっていった。

 

同じ教室にいるものの、有子と川田はずっとやりまくっていた。超濃牛乳の作用だ。絹恵はそれを見てまたオナニーしている。臭い性器の臭いが充満する。雌の臭いで気持ち悪くなったので教室の外で煙草を吸った。

そのうちに、有子がみんなでしようと言うので4Pした。有子はこんな非常時にムダ毛の処理をしているようだった。

朝起きたら身体が軽かった。なんていうことはない。身につけていた拳銃とナイフを誰かに抜き取られたらしい。川田が拳銃をぼくに突きつけていた。

「食料はないのか? ないならお前を殺して食うことになるけど」

「わかった」

音楽室に小笠原先生の死体を取りに行く。そして調味料もないが、わざわざフライパンで焼いてやって川田の前に出した。

拳銃で脅して有子とさらにセックスしようとする川田。

「そんなものなくてもやらせてあげるのにー」などと有子は笑っていた。

旧校舎にくる前、ぼくに教室を支配されて、居心地が悪く感じている人の気持ちを味わっていた。それは反乱軍だって作りたくもなる。

前に死んだ竹原の肉は皆で食べたので何日かですぐになくなったが、小笠原先生の肉は川田が独り占めしたのでなかなかなくならなかった。ぼくは料理人代わりにされていた。煙草も川田に取られ、何かとぼくは積年の恨みとか言われて暴力を振われた。腹は減っているし喉も渇いた。おまけに身体中あざだらけだ。

有子は川田に甘えて、肉を食べさせてもらっていた。川田の変態趣味で人肉を女体盛りにして食べていた。元から細い有子の裸体に焼いた人肉が載っている。なぜだかぼくは気分が悪くなった。

 

明るくなる頃、銃声で目を覚ました。有子が川田を撃ち殺したらしい。

「もう三人しかいないし終わりでいいよね」

有子はぼくに向けて拳銃を構えている。

「お前の犯行だったのか?」

「ううん、違うよー、でも教えない」

「どうせどこかに滝沢が隠れているんだろ」

「あったりー、わたしもう宗治郎より滝沢くんのことの方が好きになってたんだ。元カノの敵討ちってことで宗治郎を殺すためにみんなも閉じ込められたんだ。みんなはとばっちりだったね」

「……殺せよ」

「もっと命乞いしてよつまらないなー」

教室に煙りが入ってくる。その隙に教室から外へ走って出た。

「あ! 待ちなさい!」

どうせ一階からは外へ出られないのだし、最上階を目指した。もしかしたら地雷があるかもしれないがもう構っていられなかった。三階の廊下に広い場所があってそこから天井に向かって梯子があった。なぜ最初に気づかなかったのだろう。ぼくは罠かもしれないと思ったが息を切らせながら梯子を登った。

梯子の先は旧校舎の時計台の裏側に繋がっていた。時計の裏側が見えた。もう昔から時計が動くということはない。

「ゴール、いやあ、おめでとう」

久しぶりに滝沢の派手な金髪を見た気がする。

狭い屋根裏部屋のような場所には超濃牛乳がまだたくさん備蓄してあった。

「彼女の復讐か?」

「それもある」

「どういうことだ」

「彼女が死ななくても、今回のことは俺が起こしたってこと。もう、うんざりなんだよ、こんな集落で生活するのは。あと二年も待っていられないし、親は俺を上京なんてさせてくれないらしいからな」

そのとき有子も梯子を登ってきた。

滝沢は彼女を銃殺した。パアンと軽快な音がした。続けて有子が梯子から落ちる音がした。拳銃を警察官さんから買っていたのはぼくだけじゃなかったらしい。

時計の裏はなんだか熱かった。

下がとくに熱い。旧校舎が燃えているらしかった。焼け死ぬのかもしれないと思うと少しだけ怖かった。

「ここにもじきに火がまわってくる。俺とダンスしないか? ブルーハーツのダンスナンバーって曲が大好きなんだ」

「……いいよ」

「肯定と見なすぞ」

炎が上ってくる中、むちゃくちゃに身体を動かして滝沢とダンスをした。頭の中で鳴るはずがない時計が鳴り響く。

ぼくたちは汗だくになって踊った。

「有子とは何度かふたりきりで寝たのか?」その有子ももう死んだ。

「何度も寝てるよ。つーかあいつだったら全校の男子を制覇してるくらいじゃないか」

「……たしかにな」

そして炎がそこまでくると、滝沢は時計の裏側を蹴り飛ばす。時計台に穴が空いた。

「お前は生きろ」そう言われてぼくは外へ放り投げられた。

 

集落から近い街の総合病院にぼくは入院することになった。旧校舎が派手に燃えたのでさすがに報道機関の人間がきてインタビューがうざかったので、ぼくは失声症のふりをした。正直にすべて話せばぼくだって少年院送りにされてしまう。最後まで残った絹恵と滝沢は焼け死んだらしい。

病院からはとっくに退院したがぼくは学校に通わなくなった。妹もぼくが旧校舎に監禁されている間、誰も面倒を見なかったらしく餓死して、親父とお袋は秘密裏に火葬したらしかった。坊主に言うわけにはいかないが遺骨はちゃんと墓に納めている。

今日は七夕だ。夜の空は美しい輝きに満ちていた。いくらでも復讐できたのに最後に逃がしてしまう優しい親友を想った。ぼくたちが織り姫と彦星だったらどんなに良かっただろうと冗談じみた気持ちわるいことを思って、つい塩もかけていない西瓜をしょっぱくしてしまった。

 

2020年2月11日公開

作品集『雪国/妹/牧場/ミルク』最終話 (全3話)

© 2020 瀧上ルーシー

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

---

"三章"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る