BARイレブン、

途中の人間(第7話)

siina megumi

小説

2,480文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

『デンへ
ひとつこれだけ念頭に置いて欲しいと思ってる。あなたを産んだのは紛れもなく私。同じ身体だった。それがどうってわけじゃないよ? 本当にどうでもいいことなんだけど、このことは私には何よりも驚きだった。『規則』とか、『孤独』とか、『我慢』とか、『努力』とか言う言葉はないことになって、ただ、血が流れ、呼吸する生命があるだけだって気づいた。
いや、何よりもの驚きではないか。もっと驚きなのは、その子供がデンだったということだし』

 

それで書くのも送るのもやめた。わざわざ、あのデンに言わなければならないことも言いたいことも今は特になかった。

 

デンはもう、例の焼き鳥屋に入って準備をしていた。従業員が一人足りない状態にしておいてもらっている。ナデカとしては、なんとかルリエをその店で働かせなければならないのだが、電話をかけるきっかけが難しい。心配の電話ということでは、そこから働かせることに持っていけない。どうもあぐねていて、ルリエの父の系列のショッピングモールをナデカは歩きまわっていた。かなり遠回りではあるものの、ヒントを探していたのだ。
だが全部無駄だった。女子トイレで丁度鏡を眺めているとき、ルリエの方から電話がかかってきたのだった。父親がうるさく、仕事を探さなくてはならないという。その相談を自分にするとはよほどの信頼がまだあるのだと見て、
ナデカ「・・・ルリエさん。申し訳ありませんが、あまりわたしには心当たりが・・・。でも、相談なら乗らしてもらいます。今晩しか空いてないけど、大丈夫ですか?」
二つ返事で頷いたので、
ナデカ「イレブンで会いましょう」
ナデカは自分を見つめながら、
ナデカ「ルリエさん。弱気にならないで。関係ない人の言葉に、惑わされないでね」

 

〈BARイレブン〉

 

ナデカも遅れたのだが、ルリエはもっと遅れていた。
埋立地の上にあるBARイレブンは、このように外でも食事やカクテルを楽しめる。このテラスは、リバーサイドというか、一応は湾全体を見渡すことが出来、熱帯のように妖しい夜の街をそこに居るナデカは感じる。大きな橋を過ぎて行く無数の高級車。そして夜景。哀しくなるほど楽しげな街。都市に用意されているものといったら知れている。何か食べるか買うか、でなければゲームセンター映画館美容室展覧会イベント、あるいはあからさまに性的な何か。そんなものだ。だがそれらは序章。自分から遊ぼうと思ったら遥かにいろんなことが出来る。例えばナデカのように、どうしようもない人間を自殺へ追い込むゲームなんかも出来てしまう。してもいいのかどうかはさておき。

 

ホタテのバター炒め
お任せのカクテル(スイカっぽい味がする)
バーニャカウダ

 

それでナデカは、自殺させようと思ってる人を待っていた。聞いたことはあるが名前の分からない曲を中でピアニストが引いている。余りにも哀しい。
フォークで口に入れている。
寒さも暑さも感じなかった。
やってきたルリエは、しかし料理には手を付けない。
ナデカ「ルリエさん、ちょっと痩せましたね」
心配するような笑顔をナデカは見せる。普通に見て、痩せたのはちょっとではなかったが、ナデカはそれに留めておいた。
ナデカは自分の髪を触ったりして、疲れたような雰囲気を出している。
ナデカ「知り合いがやってる焼き鳥屋さんがあるんですよ。今少し人手が足りないみたいなんです。そこなんかいいんじゃないんですか」
明らかに冷たかった。急に会社を辞めたことも、父のことも、何も聞こうとしない。ただ突き放して焼き鳥屋で働けと言う。
「・・・最近何にも食べてなくて・・・」
ナデカ「あ、じゃあこれどうぞ。食べていいですよ」
バター炒めの皿に手を添えた。
ナデカ「焼き鳥屋さんどうします? 一応待たせているから、連絡を入れたいんですが」
自分が泣きそうな顔をしていることをナデカに必死にアピールしている。わざと荒い呼吸をしている。自分から頼んできたのに、ルリエは仕事について何も言わない。
ナデカ「どうしました?」
ルリエはわざと、聞こえないようにボソッと何か言う。
ナデカ「え?」
あなたの発言には何の価値もないのだからもったいぶった言い方をするなとばかりに、棘のある感じでナデカは聞きなおす。
「死にたいです」
ナデカは、片眉だけをわずかに動かした。ルリエは確かにそれを見ていた。ただルリエのようなタイプでは、今突き放してもなかなか死なないだろうとナデカは考えた。やはり焼き鳥屋でもう一段階追い詰める必要がある。
ナデカ「・・・何にもしてあげられないですけど」
ゆっくり言った。飲み干してあるカクテルを触っていた。
ナデカが何か言うのを、ルリエはじっと待っている。
ナデカ「でもやっぱり、仕事、してみたほうがいいんじゃないでしょうか? いろんな人と会って、話してみたほうが・・・」
「ナデカさんは、わたしがこんなこと言ってるのに何とも思わないんですか?」
ナデカを憎らしい人に仕立て上げようとする言い方だった。
ルリエは鋭く見つめられていた。ルリエに動じてはいない。だが話は聞いてくれている。
ナデカ「あなたが死にたいって言うんじゃ、わたしにはどうすることも出来ない。仕事は紹介した。あとはあなたが、自力で未来を見つけられるかどうか」
ナデカは力が入りすぎたようだった。
ナデカ「・・・ごめんなさい。応援しています。本心です」
「じゃああなたはなんで生きてるんですか?」
それはルリエは自暴自棄で言ったのだが、
ナデカ「人は未来がないと生きていけないけど、私は違うんです。何にもなくても、あるいはどれだけ邪魔されても、生きられるんですね」
「子供がいるからですか?」
ナデカ「それもあるけど・・・。それもちょっとあります。ちょっとだけ。でも我が子って感じじゃないかなデンは。そもそもこの世の人間で居る気が無いらしいし」
「じゃあ何なんですか」
しばらく妙に考えていた。
ナデカ「まぁパートナーって感じかな」
自分のことを見ながら言ったのがルリエは不思議だった。そしてその雰囲気の異様な鋭さ。

2020年2月8日公開

作品集『途中の人間』第7話 (全11話)

© 2020 siina megumi

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