街、

途中の人間(第5話)

siina megumi

小説

2,311文字

母 ナデカ
息子 デン

この親子の「シゴト」は、この世に不要で無価値になってしまった人間を、社会的に追い詰め自殺させることだった。

まごうことなく街だった。生活が無目的に蠢いている。
この時間でも、街に人は少なくない。見上げてみると、同じように見下ろしている女性と目が合う。
ナデカが何処に向かっているのか、デンは聞かない。信じているからではなく、興味がないからだった。
デン「何か甘いの欲しいな。クレープ買って行かない?」
ナデカ「急ぐからだめです」
デン「え!! あれ買うぐらいいいでしょ」
ナデカ「本当に急ぐんだって。こっちこっち」
とりあえずデンは眼鏡を外してスーツを脱いだ。こういう格好は屈辱的でさえあるようだ。
ナデカ「にしてもデンちゃん、よくコンサルタントとして近づけたね」
デン「昔自殺させた爺さんいたじゃん?」
ナデカ「生活保護の?」
デン「いやそっちじゃなくて、あの、ほら、画家を称する」
思い出したようで、分かったように笑って、
ナデカ「はいはい」
デン「そうそう。あれの孫がこの会社に居るんだよ。だからそこから入った」
ナデカ「じゃあ、結構私達にゆかりのある会社なんだ」
デン「まぁー、それが果たして名誉なのか何なのか俺には分からんけども。あんなのがいっぱいいるってことでしょ?」
あんなのとはルリエのことだが、
ナデカ「あの子がいなくなれば、社会がより未来に向かうのは間違いないよ」
デン「うん。未来は良いね。未来はとにかく良い」
デンはどこかざっくばらんになっていたが、
ナデカ「未来を創るのは私達じゃないけど」
それは嘆いているのか喜んでいるのか、デンには分からなかった。デンは無視した。何処に向かっているのか、実は不安になっていた。

 

ナデカは軽く背を低くしながら服を選んでいる。やたらに鋭いファッションで、サイズからしてデンが着るのであるらしいことは分かった。にしても軽い奴が着そうなファッションだ。
デン「それで行けばいいのね?」
ナデカは頷いた。
ナデカ「あの子は(あの子、というのはルリエのこと)だいたい仕事終わりにパチンコ屋さんに行ってるから、今日も間違いなく寄ると思う。だからデンちゃんにはそこで登場してもらおうかなって」
デン「またパチンコかよ。どんだけ行きゃいいんだあそこ」
ナデカ「もう聖域だよね。でも今回はホール員じゃないから、ずっとうるさいわけじゃないよ。あの子の彼氏役として出てもらうことになるから」
デン「いきなり? 大丈夫かな? 今日会ってるけど俺」
ナデカ「軽くメイクはしてもらおうかな。でも会うのは外だから、夜だし、大丈夫と思う」
デン「パチンコホールって、あそこのパチンコ?」
ナデカ「そうだよ」
デン「あそこうるせーもんな毎夜毎夜バチバチバチバチ。ここからでもちょっと聞こえるし」
ナデカ「パチンコホールが街の中心っていうのは、なんか哀しさがあるね」
デン「いや、腹が立つな。哀しいじゃなくて。何かしろよって思う」
服は決まったようでアクセサリーを見ている。Olや若い男達が辺りを歩いている。その様子は、ここらを歩き慣れているという感じだった。この複雑で楽しげな街は、あの人たちにとって通勤路でしかないというふうだった。
デン「だってそうじゃない? 銀玉と釘見てボケーっとするのが人類の結論? そんなアホなことがあるか。生きるっていうのは、もっと、何か凄いことだよ。手に負えないくらい凄い」
ナデカ「そうね」
デン「そうでしょう? 意見が合うじゃん」
珍しく、とは言わないでおいた。
着替えて、髪を結んだ。確かにこれなら分からない。

 

あのやたらと広々とした通路をずっと行けば、ゲームセンターとボウリング場がある。そのさらに向こうにはオフィスがあって、もっと行くと、ちょうどあのパチンコ屋の屋上の駐車場のところに繋がる。そこを無視して曲がれば、やたらと細く歩きにくい道に、アクセサリー店、清潔な感じのラーメン屋、やや通向けの本が置いてある店などがある。そしてほとんどの人は知らないが、その横にひっそりとある、何の案内もない階段を一番下まで降りて行けば、なにやらオタク的な人々が集まる有名なBARがあるらしい。一番下まで行かなくてはいけない。途中にもいくつか階があるが、全て閉め切っていて、埃被ったバケツが放置してあるに過ぎない。ほとんどの人は、その階段を見向きもしないだろう。階段を無視してさらに歩けば、建物のキワのところ、飲み屋街が上から筒抜けになっている全面の窓のところを通って、ふと、駅のモノレール乗り場のところに出て来る。空港がとても近いこともあって、やけに国際的で、パブリックな雰囲気が漂っている。スターバックスがある。トイレの隅まで、掃除が行き届いている。それがこの街だった。

 

でもデンはこんなふうなことを思っていた。この楽しそうな国際的な雰囲気も、結局は城下のもの、この街の中心は、あの大きな大きなパチンコホールに過ぎない、と。あらゆる人々があらゆる方向へ動き回っているが、最終的にそれらは全て、もう本当に全て、台の前に、ただじっと座っている瞬間のためだけに過ぎない。人々の意志や、努力や、欲望やらは、銀玉を一つ一つはじくたびにそこに捨てられていく。余りにも多くの人生の計画が、そこで水泡に帰していく。僅か数分で、何の面白みもないまま。何の感慨も引き起こさない神秘の樹。夜、吸い取った命が錯乱し狂い咲くかのように、パチンコホールは燦然としている。周りの施設に隣接したまま、何よりも巨大に。その神秘的なネオンサインが、街の中心でなくて何だろう。街の象徴でなくて何だろう。サイバーパンクの終着点でなくて何だろう。デンとナデカは、今からその下品な城の攻略に向かうのだ。パチンコの信者を自殺させに行く。この街に、生きるという喜びを取り戻しに行く。

2020年2月6日公開

作品集『途中の人間』第5話 (全11話)

© 2020 siina megumi

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