ぼくのピストル

応募作品

松下能太郎

小説

2,465文字

合評会2019年11月応募作品。ある青年が初めてデリヘルを利用した時の話です。

20才の頃の話です。その当時、ぼくは童貞でした。

ある日、どうしてもエッチがしたくてたまらなくなり、いてもたってもいられず、人生で初めてデリバリーヘルスを利用することにしました。

何時間もかけてデリヘル情報サイトからたくさんの女の子を吟味しました。そしてある女の子に行き着きました。「夏目はる」という女の子です。その子の顔写真には目線が入れられていましたが、たとえ目が写っていなくても、顔の輪郭線や鼻や口の感じから可愛らしさや若さがあふれ出ています。それにキャッチコピーが「童貞クン大好き!!」という当時のぼくにはピッタリのものだったし、そしてなによりも「夏目という苗字の女性はみんな美人」という自身の持論に後押しされ、ぼくはその子に決めたのでした。

さっそくお店に電話をかけ、近くのラブホテルを指定し、90分コースを予約しました。

そのあと、時間があったので一度シャワーを浴びることにしました。もちろんあっちに行ってからも体は洗いますが、2万2千円払うのです。どうせなら、始まりから終わりまで、じぶんのもっともきれいな状態で挑みたいと思いました。

ボディーソープで入念に洗いながら、これからのことを考えていると、ぼくのピストルは今にも発砲しそうになっていました。これは一回発砲しちゃったほうがうまくいくのかな。どこかでそうした話を聞いたような覚えがありましたが、だれかとエッチをする前に一人でやっちゃうっていうのは、これから会う相手に対してなんとなく後ろめたさを感じたので、ぼくは発砲せずに風呂場から出ました。そしていま持っている中でいちばんよれていないパンツを履きました。それから入念に歯を磨き、舌の上もしっかりと磨きました。

そして満を持して家を出ました。外は夕暮れでした。家からラブホテルまでの道中に、高校生のカップルとすれ違いました。会社帰りの女性ともすれ違いました。「みんな、それぞれすました顔をしているけれど、エッチの最中はその顔を大きく歪ませているんだなあ」と思いました。ぼくもこの30分後にはその仲間入りを果たすのです。みなさん、こんな新人のぼくですが、どうぞよろしくお願いします。その時のぼくは、そんなふうなことをすれ違う人ひとりひとりに言いたい心境でした。

BANANA CHANというラブホテルに着きました。ぼくはそのトロピカルな門をくぐり、空室の部屋に入りました。そしてすぐにお店に電話をかけて部屋番号を伝えました。女の子は10分ほどで到着するとのことでした。

ぼくはそれまでのあいだ、なにをどうすればいいのかを考えました。備え付けのテレビはあらかじめつけておいたほうがいいのかなあ?エアコンは?電灯の明るさはこのくらいでいいかなあ?カーテンは閉めるべき、だよね?そんなふうにそわそわしながら部屋の中を行ったり来たりしました。

20分後、部屋のチャイムが鳴りました。女の子が来たようです。ぼくの心臓は瞬時にバクバクと暴れ出しました。これから「夏目」の名を持つ女の子と、あんなことやこんなことをするのです。忘れられない気持ちのいい未知の体験をするのです。想像しただけで、ぼくのピストルは勝手に煙を吹き上げました。

期待に胸を膨らませながら部屋の扉をあけました。

ところが、部屋に入ってきた女の子は写真の子とは明らかに別人でした。鼻や口まわりがぜんぜんちがうのです。ぼくはボー然としました。その3秒後にはガク然としました。これが風俗かと思いました。

女の子はぼくとの会話もそこそこに、浴室に向かいました。

「あれ、お風呂張ってないの?」と女の子は指摘しました。

「わたし、湯船に浸かってからじゃないとダメなの」

そういわれて、お湯がたまるのを待つことにしました。

その子はテレビをつけ、チャンネルを一とおり回したのち、中村玉緒が主演の時代劇を観始めました。女の子とぼくはベッドに腰かけながら、大した会話もしないまま、中村玉緒の立ち振る舞いを目で追いかけていました。

それから20分ほどが経過し、ようやく湯船にお湯がいっぱいになった頃、ぼくたちは一緒に裸になって体を洗いました。そこでぎこちない会話を交わしたのち、体を洗い終え、二人は浴室から出ました。その子が湯船に浸かることはありませんでした。

バスローブを身につけ、ベッドに入りました。そしてぼくはベッドに横たわった女の子にキスをしました。その子の口から納豆の臭いがしました。

「ごめん。来る前に納豆食べて歯磨きしてきてないんだ」とその子はいいました。

「そうなんだ」

女の子はベッドに横たわった最初の体勢のまま、ほとんど動きませんでした。

ぼくはもっとこう、激しい感じを求めていたけれど、その当時のぼくはそれを女の子に伝えるのがどうも恥ずかしくて、ただひたすらやったことのない愛撫をしました。その子のガンベルトを舐め回したのです。女の子をある程度気持ちよくさせてからじゃないと、このあとの行為はうまくいかないだろうなあと思い、ぼくはいっしょうけんめい彼女のガンベルトを舐めつづけました。

しばらくして、「あっ、もうイったから」と女の子にいわれました。そのことばとともに、攻守交代となりました。ぼくはその子に口でされることはなく、手のみでピストルを発砲しました。ものの1、2分の出来事です。二度目の発砲はありませんでした。

時間が余ったので、ぼくたちはまた中村玉緒を観ることにしました。

 

ラブホテルから家に帰りました。ぼくはパソコンを開き、紗倉まなの最新のAVをダウンロードしました。そして黒い猫耳をつけた紗倉まなをガン見しながら、ぼくは自身のピストルを殺人的にしごきました。つやつやに光るほどしごきました。

「うおっ、うおっ、うおおおおおおおおおおっ、おんどりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――っ!!!」

ピストルが暴発に暴発をかさねました。ぼくの叫びは部屋中に響き渡りました。

 

あれから十年が経ちましたが、いまだにぼくは童貞です。

2019年11月13日公開

© 2019 松下能太郎

これはの応募作品です。
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"ぼくのピストル"へのコメント 12

  • 投稿者 | 2019-11-13 20:47

    よくわかりました。

  • 投稿者 | 2019-11-13 21:05

    「舌の上もしっかりと磨きました」が大好きです。

  • 投稿者 | 2019-11-16 12:46

    参考になりました。
    デリヘルはやめて、嫁で我慢します。

  • 投稿者 | 2019-11-18 02:28

    拝読いたしました!
    多分銃というお題が発表されてから結構多くの方が一度は考えたであろうオシモのネタを敢えて力強く書ききるところに好感が持てました。
    デリヘルでも色々あるのですね。個人的にお湯を溜めるのはソープランドだけかと思っていたので目から鱗でした。納豆の臭いが悲しいです。
    敢えて主観を交えずに、見た物を見たままに書くことにより、寂しい童貞喪失体験に感情移入ができるような作りになっていてとてもよかったです。そういう書き方だからこそ、最後の場面が生きてくる。
    下ネタで面白いのですがどこか切実で、とてもいい作品だなと思いました。

  • 投稿者 | 2019-11-20 18:53

    おつらい体験をされたましたね。同情を禁じえません。もしまたデリヘルを使ってみたかったら波野さんにアドバイスを請うことをお勧めします。百戦錬磨だと聞き及んでいます。
    しかし、嬢を待っているときに一度発砲してますよね? 煙出ちゃってますよ(笑

  • 投稿者 | 2019-11-22 07:31

    夏目という名字の女はみんな美人という省察や、ゴールデンタイムに中村玉緒の時代劇をやっているという部分から判断してバブル期ごろの設定だと思い込んでいたら、家に帰ってきてからのシーンでたかだか10年前の話だと知って驚いた。たしかにデリバリーヘルスが出てきたのは平成に入ってからだな。ということは、二人が観ていたのは時代劇専門チャンネルなのかもしれない。比喩だけでなく、本物の銃を出せば読み手の予想を裏切る方向に持って行けたかも。

  • 投稿者 | 2019-11-22 21:00

    破滅派らしい趣きに頬が緩みます。自分はデリヘル経験ないので、いつも不思議に思うのですが皆さん90分コース選びすぎじゃないですか?そんなものなんですか?60分、いや30分でも持て余しそうだといつも考えてしまうのはボクが早漏だからですか?童貞喪失までシリーズ化して欲しいです。

  • 投稿者 | 2019-11-23 14:15

    銃、ピストル、となるとやはり男性は自分のペニス、ということになってしまうのか…と軽く安易な発想(比喩)に思えたが、「納豆食べて歯磨きしてない」デリヘル嬢など、ちょっとした細部が結構面白かった。

  • 投稿者 | 2019-11-23 15:17

    「一番綺麗な状態」で「舌の上もしっかり磨いて」、「満を持して家を出て」、道行く人々に心の中で挨拶をして、と、いちいちツボにハマって大笑いしました。
    一緒にお風呂に入った時に暴発しなかったのかや、とか。
    お約束のざんねんな結果ではありますが、愛すべき作品です。

    ところで、主人公はまだ「童貞」ですと言っておりますが、一応、女性と裸で性行為に及んでいるので、仲間入りしたことにはならないのでしょうか。女性器に挿入しないとダメなのでしか、射精しないとダメなのでしょうか。ゲイで女性に接しない人たちは「童貞」なのだろうか。「処女」はどうなるんだろう?男性器の前に、別の物を突っ込んだら?
    などなど、疑問が次々に湧き上がって夜寝られそうもありません。一度、議論したいものです。

  • 投稿者 | 2019-11-23 23:18

    破滅派界隈は、実は下ネタ系や風俗系のスペシャルな書き手が何人もいて、それら先人たちの作品と比較すると、よく書かれているものの新しさは感じられませんでした。破滅派で破滅話を書く、というのは実は一番難しいと個人的に思っています。とはいえ今作で大いに笑ってしまったのは事実です。面白かったです。

  • 編集者 | 2019-11-24 09:36

    よく頑張った!感動した!

    しかしただ、これは風俗レビュー以上の何かが…もう少し欲しい

  • 投稿者 | 2019-11-24 12:30

    ソープ行けとしか

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