エースをねらえ!

佐川恭一

小説

1,853文字

この作品は私がブンゲイファイトクラブの予選を通過した場合に差し替えようと考えて用意していたものです。結局敗退してしまったので『坊っちゃん文学賞』に出そうか迷ったのですが、どちらかと言えば破滅派っぽいかな?と言われたのでこちらに掲載します。本戦ファイターの方々はがんばってください!

「おまんまんちゅぱだよぉ」そう呟きながら歩いていると里穂が横から自転車で抜き去っていき、その日の午後にはあだ名がおまんまんになっていた。男子たちなんて「上野、お前なんでおまんまんなの?」とか聞いてくるし、おまんまんが何かさえわかっていない体たらくなのだ。でも男子の中の堀江は顔はイマイチだけど野球部でストレートが155キロ出るので、経緯を教えてあげた。
「私、朝、おまんまんちゅぱだよぉって言って歩いてたのね。そしたら里穂が横から自転車で来てそれ聞いて、笑ってたの。そんでそのまま先に行っちゃって、私が学校に着いた頃にはすでにおまんまんだったってわけ」
「ごめん、そのおまんまんちゅぱって何?」
「だからさあ、おまんまんってのはオマンコのこと。女性器ね。わかる?」
「ハ? お前何言ってんの?」

堀江が顔を真っ赤にする。かわいい……思わず私は堀江の唇を奪ってしまいそうになるが、我慢する。
「だから、おまんまんはそういう意味なの」
「いや……いや待ってくれ、嘘だろ!? 俺んちさあ、昔よく『まんまんちゃんのおばちゃん』ってのが来て、家にある仏壇の前で念仏唱えて帰ってたんだよ。誰かわかんなかったけど母さんと仲良さそうにしててさ、俺に野球の大事な試合があったりテストがあったりすると、そのたびに金色のお守りくれたんだ。まんまんちゃんのおばちゃんって、だから何かそういう祈祷師みたいなもんかって思ってたんだよ。でもあのおばちゃん、実はオマンコちゃんのおばちゃんだったってことかよ!?」
「知らねーわ! まんまんちゃんのおばちゃんってはじめて聞いたわ。堀江家だけに代々伝わる特殊な言い回しなんじゃないの?」
「いや、他にも何人か、『まんまんちゃんのおばちゃん』が来てたってやついたよ。でもみんな、何のおばちゃんかよくわかってなかった。それが、オマンコちゃんのおばちゃんだったなんて知ったらみんなどう思うか……」

堀江は頭を抱え始めた。何だってのよ、まんまんちゃんのおばちゃんなんて、私マジで聞いたことないよ!
「で、『ちゅぱ』ってのはなんなんだよ?」

堀江が顔を上げて聞く。その幼さの残る苦痛に歪んだ顔は延長十五回を投げ抜いた後みたいにも見えてかなり萌える。
「ちゅぱっていうのはさ、あんたAVとか見たことあるでしょ? そしたらさ、男優が前戯の時に身体じゅうにチュッチュッてキスしていくやつも見たことあるでしょ?」
「まあ、あるけど……」
「それでさあ、胸とか背中とかチュッチュした後に、仕上げみたいにオマンコにチュッチュして、さあ、そろそろ挿れますよってとき、最後に『ちゅぱっ』って唇を離すでしょ?」
「そうだったかなあ」
「大体そうだよ。だから『おまんまんちゅぱだよぉ』の『ちゅぱ』はその『ちゅぱ』ね」
「いや……いや、ちょっと待ってくれよ! 俺の地元で『おちゅぱさん』って呼ばれてる、冬でもタンクトップのおもしれーおっさんがいたんだよ。でも誰もなんでおちゅぱさんなのかわかってなかった。あいつは前戯のときに全身チュッチュしたあと、オマンコにちゅぱってしてから挿入するタイプのおっさんだったってのかよ!?」
「まあそうなんじゃないの。おちゅぱさんの由来なんて、それ以外考えられなくない?」

私はめんどくさくなってテキトーにそう言った。すると堀江は「嘘だろ……なんか、おちゅぱさんがそんなことしてるの想像したくねぇよ……」と言って手で顔を覆った。いや誰なんだよおちゅぱさんって。それにしても堀江、なんか女子みたい。かわいい。思わずオチンチンをポロリさせてお口で優しく包み込んでしまいそうになるが、我慢する。
「いや、なんか色々ショックだけど、ありがとな。そういうこともわかっていくのが、大人になるってことだもんな」
堀江がそのままどっか行こうとするもんだから、私は慌てて「待って!」と叫ぶ。
「なんだよ」
「あんたさ、私におまんまんちゅぱの説明させといて、このままってこと?」
「は? どういうこと?」
「もう! あんたレディにそこまで言わせる? 私のおまんまん、ちゅぱしてよ」
「えっ、いいのかよ!?」
「うん、いいよ……」

その後私たちは付き合って堀江は甲子園の地区予選から決勝まで全部一人で投げて優勝したけど肩が爆発して今ではただのサラリーマン。でもいいの。確かに堀江に声をかけたのはプロ野球選手になると思ったからだけど、いま私が堀江のことを好きなのは「えっ、いいのかよ!?」って叫んだ時の顔がほんとにうれしそうだったから。それ以上に欲しいものなんて、いまの私には思いつかない。

2019年9月28日公開

© 2019 佐川恭一

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