それから

君と僕の共犯的な生活(第7話)

瀧上ルーシー

小説

6,923文字

琴希は精神科医から処方された薬を油断しているとわざと飲み忘れるので、朝昼晩と大樹が管理して飲ませた。入院する前に飲んでいた頓服は好きで飲んでいたが、今の薬は前よりさらに眠くなるから嫌だということらしい。

精神の病気で入院することは編集者に伝えていたらしく、退院してくると琴希はすぐに仕事へ復帰した。丁度その頃、琴希がインタビューで精神科病院に長期入院していたことをカミングアウトして、その体験を元にした小説が出版されて、大量に売れた。このままいけば年間で売上十位以内には入るとまで言われていた。

それから夏になって部屋の配置換えをした。3LDKで大樹が過去に監禁されていた部屋は嫌な思い出があるので物置にして、残る一部屋ずつを大樹と琴希の部屋にして、大樹の部屋のベッドはダブルベッドにして寝るときは一緒に寝るようにした。琴希が仕事をするときに使っていたダイニングは料理を食べるという本来の用途通りの場所になった。今では食事は出来合いの物を買ってくるとき以外は大樹が主に作っていた。最初はへたくそで指もよく切ったが、今は簡単なお菓子も作れるようになっていた。

大樹はちゃんとした職場に正社員として採用されるように就活した。ホワイトカラーで働きたいとは思ってもいないのに、中卒なのが不味いのかどの会社も大樹を採用してくれなかった。

書類選考や面接の結果を待ちながらまた日々紹介のアルバイトへ行く。たまに現場で一緒になる歳が近い男にそれを言うと質問された。

「お前、歳いくつ?」

「二十六」

「正社員の経験は?」

「ない」

「学歴は?」

「中卒」

「それはきついって……」

元々厳しいのはわかっていたが、やはり他人から見ても厳しいものは厳しいらしかった。

 

川上の墓にあんパンとパックのコーヒー牛乳を供えた。

「お前を殺した俺が幸せになってはいけないということなのか……?」

大樹は就職できないだけで墓の中の川上に絡んだ。

「もう十分幸せだよ」と川上が言っているような気がした。

 

「琴希って小説の仕事忙しいよな?」

仕事中の彼女の部屋に入って大樹は言った。

「うん」

「なら俺が外で仕事しない主夫になっても嫌じゃないか? 嫌じゃないなら家事は全部俺がやるようにして、琴希は仕事に集中してくれればいいけど」

そう大樹が言うと琴希は急に泣き出した。

「それわたしが望んでいたこと。ありがとう、本当にそうして」

その日から掃除も料理も洗濯も全部大樹がやるようになった。

ある日、琴希が仕事の休憩をしている時間、一緒にゲームをしていると大樹は思いついた。考えが軽すぎる気もしたが、「結婚しないか」と琴希に言った。

「冗談?」

「今思いついたんだけど本気だ」

「いいよ、でも結婚式はしないよ、恥ずかしいから」

「ふうん変ったヤツ。俺は写真くらいは欲しい」

「じゃあ写真だけは撮ろっか」

彼女がいなかったら琴希が大切だということに気がつかなかったような気がしたので、菜奈子に大樹は電話をした。

「俺達結婚することになったから。写真だけ撮って披露宴もパーティーもやらないけど籍だけ入れる」

「おめでとう。私も写真撮るとき行っていい?」

2019年3月13日公開

作品集『君と僕の共犯的な生活』最終話 (全7話)

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© 2019 瀧上ルーシー

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