第12話-M 【二代目ノーベル芥川賞継承代理戦争篇 第5話】代表人型決戦兵器 (嘘つきになる方法篇)

交じる異界のオーヴァゼア (正統Mツリー)(第3話)

水山天気

小説

3,728文字

これはフィクションです。関係ありません。

オーシマ・キューコ追討作戦。

 

超存在ゴータマ・ゴーザは、完全中立都市オーヴァゼア自治政府からの協力要請を受け、あっさりと承諾した。たしかに、「逃げない」とは言ったが「攻めない」とは言っていない。人類との共闘によってキューコを後腐れなく潰せるならばそれも良し、とゴータマ・ゴーザは考えているようだった。

アメリカを100万回滅ぼした愛国超存在オーシマ・キューコについてのゴーザの記憶を、関東ヤンキー大学の有する学識と擦り合わせた結果、初期諜報活動は大きく進展した。

そもそも今回の大学刑務所襲撃事件は、ゴータマ・ゴーザの精子が原因だった。

「弱いからだ」

とゴータマ・ゴーザは言った。

「太平洋戦争とやらで修行をしていた頃のアメリカよりは強い。100万回やれば100万回勝つ。しかし、わしの知る限り、ただ1度。1度だけ、キューコきゃつは出現時空を間違えた」

特異点の目押しを失敗しくじり、太平洋戦争終結後の世界に出現してしまったのである。

その世界でオーシマ・キューコが眼にしたものは、すでに自分の力では滅ぼせないほどの成長をとげてしまったアメリカ。無数の核兵器を保有する20世紀最強の超大国を相手に、彼女は絶望的な戦いを挑んでいた。そこへたまたま通りかかったゴータマ・ゴーザは、その姿を哀れに思い、代わりにアメリカを滅ぼしてやったという。

「いや、これで2度目か」

いくつもの世界を渡り歩き、無人の焦土にした100万の北米大陸に巨大な旭日旗を突き立て続けた超存在――オーシマ・キューコはまだ、この世界のアメリカには傷の1つも付けてはいない。

だが――

 

この世界でのオーシマ・キューコの活動について、最も詳しい情報を持っていたのは日本政府だった。

彼女は、日本国民として政府の戸籍に登録されていた。

戸籍名、大嶋極子おおしまきわこ。漫画家・イラストレイター・グラフィッカーとしては「O島Q子」という名前をもち、作曲家・編曲家としては「野良原子炉相手に制御棒は用いぬP(しろいぬP)」という名で活動していた。

愛国的かつ闘争的なメッセージを多彩な手段で拡散し、日本の世論の右傾化を急激に進行させたインフルエンサー、大嶋極子。その名前は、つい先日、米国諜報機関の警戒リストに追加されたばかりであった。「ワンチャンS級戦犯」という主旨の所見が添えられていた。

 

「日本人の手で、アメリカを滅ぼす。彼奴きゃつの頭の中には、それしかない」

溜息まじりにそうつぶやく、もう1体の超存在――ゴータマ・ゴーザが完全中立都市オーヴァゼアに出現したという情報は、京都の自宅で動画を編集していたキューコの元まで異常な速さで伝わったようだ。この件については既に、オーヴァゼア自治政府が日本政府へ詰問状を送りつけている。

日本政府とオーシマ・キューコ。 両者の間にどのような関係があったのかはまだわからないが、キューコは己の戦略目標を、日本国民の啓蒙からゴータマ・ゴーザの精子へと、即座に切り替えたようだった。

「精子は出さぬ」

とゴータマ・ゴーザは断言した。その意志は固いようだった。精子を出せば弱くなる。武道家の多くは、そういう信念を持っている。ヤンキー芸能学研究科に問い合わせるまでもないほどの常識だ。そして、射精を拒む超存在からの搾精が事実上不可能であることもまた常識である。

 

よって、オーシマ・キューコは殲滅。交渉する余地は無い。

 

作戦の基本方針は、その線で確定した。自治政府の精鋭部隊と関東ヤンキー大学の有志、さらに超存在ゴータマ・ゴーザを加えた最大戦力による総攻撃。逃げ場は無い。

しかし、相手もまた超存在だ。逃がれようの無い過酷な運命を突き付けられれば、さらに存在を超えていく恐れがある。作戦計画は慎重に練り上げられていった。

 

 

一方その頃、

 

ノーベル芥川賞選考委員会の下部組織である芥川ジャップ賞選考委員会の本部はテロリストに占拠されようとしていたのだが、そちらのテロリストは超存在ではなかったので全滅した。

後に〈芥川30人殺しジャップ事件〉と呼ばれることになる真昼の大虐殺。

人質の1人が高知県へ帰ろうとしたのが、その始まりだった。

 

「いまどきマシンガンで人質をとるとか、バカなんじゃないですか? 僕らはやることがあるんですよ? 進化の通貨は時間なんですよ? もう高知に帰っていいですよね」

そう言って芥川贅沢ジャップビルの出口へと歩きだした人質の後ろ姿を、テロリストたちは眼で追った。どう見ても、スティーヴン・セガールや象頭山松尾寺には見えない。首が細い。肩が細い。脚が細い。〈イベント〉以後の高度な美容整形技術をもってしてもなお再現することが難しい稀有なスタイルだった。アイドル志望者垂涎のDNA。その保有者であることは間違いない。しかし、とうてい強そうには見えない。テロリストの意向を無視して高知県に帰れるような人質には見えない。それでもその人質は、脇目もふらずに出口へ向かっていく。自ら進んで見せしめの役目を負うことを選んだとしか思えない、奇特な行動だった。

 

テロリストは激昂した。

「アーユーブッダ?」

「ファッキンジャアアアップ!」

「蜂の巣にしてプーさんに献上してやんよ!」

彼らの銃が一斉に火を噴いた。

しかし、

 

 

「まだ残像で消耗してるの?」

細い人質は、いつのまにかテロリストたちの背後に立っていた。

「僕はもう、〈そこ〉にはいないんですよ。いつものことながら、僕を攻撃するアンチは攻撃の精度が低すぎるんですよねぇ」

 

「アーユーブッダ?」

「ファッキンジャアアアップ!」

「蜂の巣やんよ!」

 

 

あわててそちらに向け直された銃口。その1つを、少女の掌が包んでいた。メガネをかけたこの少女もまた、圧倒的に細かった。

 

「うるさい。あと、熱い」

少女は不機嫌な声でそう言った。

「熱いのはテメーが勝手に……」

「うるさい」

少女の拳が、テロリストの顔面に叩きこまれた。

「熱いのは、いいと思った。でも、あなたの銃は文学じゃないでしょ。銃で撃てば世間の人は死んでくれると思ったの? まずはそこから考えなおしなさい」

倒れたテロリストは、ピクリとも動かなかった。呼吸が止まり、心臓が止まった。1人目の死者である。

 

「どうして勝手に帰ろうとするの?」

少女は、高知に帰ろうとした人質に声をかけた。

「帰れるからですよ」細い人質は答えた。「鮎喰あゆくいさんも、早く荷物を持ってきてくださいよ。今夜はウチに泊まるんですよね?」

「この人たちの文学は、まだ完結していなかったのよ」少女はテロリストの一人一人に眼をやった。「〈最強〉になっていたかもしれないのに……」

「彼らの才能じゃ、最低30億人は圧倒的に殺さないと無理ですよ。そんなの待ってられませんね。万物は無常なんですよ」

 

「アーユーブッダ?」

「ファッキンジャアアアップ!」

 

再び歩きだした人質と、仲間を一撃で殴り倒した人質。テロリストたちは、後者に銃を向けた。

「やめて。私たちは、帰るだけだから。みんな、帰っていくだけだから……」

「アーユーブッダ?」

「ファッキンジャアアアップ!」

「俺が代わりに献上してやんよ!」

「献上?」少女は首をかしげた。「何を? 誰に?」

「プーさんだよ!」

「ああ、ムーミンの」

「意味わかんねえよ!」

「あなたの言ってることもわからない。わかるように言って」

「おまえを殺すっつってんだよ!」

「殺す? ああ――」

 

少女が言葉を続けるのを待たず、テロリストの指が動いた。しかし、彼らが引き金をひくよりも、少女の正当防衛のほうが速かった。

 

鮎喰圓明流あゆくいえんめいりゅう――〈罪と罰〉」

 

罪アックスと罰アックス――異界から出現した2つの巨大な斧が、テロリストたちを粉砕した。合計30人の死者である。

「あなたも、嘘つきだったのね……」

肉片の1つを見下ろしながら少女はつぶやいた。

人質たちが歓声をあげた。

「すごい!」

「天才かよ!」

どう見ても芥川ジャップ確定ですありがとうございました!」

「ハヤい! ハヤすぎる!」

「イケますよこれ! ぜってーイケる!」

人質にされていたプロのカメラマンが、没収された自分のカメラをようやく手にとった時、高知に帰りたかった人質と高知に泊まる予定だった人質の姿は消えていた。それでもカメラマンは、愛機を床の肉片に向けてシャッターを切り続けた。

「イケますよこれ! ぜってーイケる!」

「ハヤい! ハヤすぎる!」

人質にされていた文芸誌の編集者は、とにかくハヤかったしぜってーイケるという主旨の記事を圧倒的に秒速で書き上げ、その記事は『ゴング文學界』の巻頭に載った。

 

以上が、鮎喰響あゆくいひびきと2G代目イケダハヤトによる〈芥川30人殺しジャップ事件〉が世に知られるまでの経緯であり、2G代目イケダハヤトは1人も殺していないというのが事件の真相である。

なお、オーシマ・キューコ追討作戦は失敗した。この世には、計画通りにいくことなど、ほとんど無いのである。〈イベント〉以後の世界であれば尚更だ。試行錯誤し、進化せよ。これを今回の教訓としたい。

2019年2月13日公開

作品集『交じる異界のオーヴァゼア (正統Mツリー)』第3話 (全4話)

© 2019 水山天気

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