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メラヌーチア探検譚(第4話)

犀川鉄世

小説

1,290文字

密林の中は暗く、何者ともしれないさまざまな鳴き声が断続的に響いていた。生命の宝庫といえば聞こえは良いが、それらの鳴き声は我々に対する警告のように感じられた。 大地は湿った落ち葉で厚く覆われ、まるで毛足の長い絨毯の上を歩いているような錯覚をおぼえた。

 

密林に足を踏み入れて間もなく、我々は倒木に行く手を阻まれた。直径六レーテルはあろうかという巨大な倒木だ。
倒木に沿って迂回するようにしばらく進んでいくと、広大な沼地に突き当たった。倒木の先がスロープのように沼地の中に沈みこんでいるところを見ると、少なくとも六レーテル以上の深さであることが推察できた。

 

悩んだ末に、我々は沼地に浮かぶ大きな浮き葉を利用することを思いついた。傍らの樹木から折り採った枝を蔓で結びつけて一本の長い棒を作り、その棒で浮き葉を手繰り寄せた。
サレン科の一種と思われる円形の浮き葉は三レーテル弱の直径があり、我々全員が乗っても沈まないだけの浮力と耐久力を有しているように思えた。

 

我々はひとりずつ慎重に浮き葉の上に乗りこんだが、全員が乗ってもまだ充分な余裕がありそうだった。
木の棒にカタラの葉を括りつけて作った簡易的な櫓で漕ぐと、浮き葉は沼地の水面をすべるように進んだ。
直後、クルーのひとりが遠く左手に浮かぶ葉の上に、見慣れない生物が蹲っていることに気づいた。カメラをズームアップすると、それは人間の胎児であることがわかった。
我々は夢中で櫓を漕ぎ、胎児の許に急行した。

 

胎児は既に死亡していた。皮膚の質感から死後相当の時間が経過していることは明らかだったが、虫や動物に食い荒らされた痕跡は見られなかった。
正面にまわって胎児の顔を覗きこむと、その両目はくり抜かれ、代わりに眼球ほどの大きさの果実が詰めこまれていることに気づいた。果実は完全に乾燥しきっており、死臭とは似ても似つかない甘く芳醇な香りを放っていた。
さらに見ると、胎児の体の下には多様な種類の花々が敷き詰められていた。これらの処置が何らかの儀式の痕跡であることは明らかだ。

 

気がつくと、あれほど騒がしかった種々の鳴き声は途絶え、沼地は痛いほどの静寂に包まれていた。
我々は静かにその浮き葉を離れ、心中で胎児の冥福を祈った。

 

胎児の遺骸を乗せた浮き葉はひとつだけではなかった。
我々は陸地にたどり着くまでの間に、合わせて四十体を超える胎児の遺骸を発見した。いずれも最初に発見した遺骸と同様の処置が施されていた。

 

沼地を抜けると、落ち葉が堆く積もった地面が現れた。
浮き葉から陸地に上がろうとした際、クルーのひとりがバランスを崩して沼地に転落した。
我々は慌ててクルーの手を掴み、陸地に引き揚げた。ずぶ濡れになって激しく咳きこむ彼の左脚に、黒ずんだ胎児がしがみついていた。
恐るおそる指摘すると、何を考えたのか彼は大きな金切り声をあげて沼地に飛びこんだ。

 

一時間が経っても、彼が浮かんでくることはなかった。

 

彼の死を確信した我々は、事態の全容を把握できないままに沼地をあとにした。

2019年1月2日公開

作品集『メラヌーチア探検譚』第4話 (全8話)

© 2019 犀川鉄世

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