半分、入ってる。

童Q正伝(第3話)

佐川恭一

小説

10,517文字

あああああああああああああああああああああああああああああああああああ

父はよくモテて、パリピだった。その証拠に、十一人もじぶんの子供がいて、母親は全員違い、「強化型ビッグダディ」と呼ばれていました。強化型ビッグダディのすごいところは、その十一人の母親のうち、最大七人と同時交際しておきながら、誰にも浮気がばれなかったことである。父はスマホを九台持ち、その指さばきを見た者からは、「世界フリック入力選手権があれば、金メダル確実ジャネーカ?」といわれていました。そのせいか両手の指の指紋がツルツルで、本のページがめくりにくいらしく、父は読書をしなかった。

「ホンゆうんは、ナンボのもんじゃい?」

それが父の口ぐせである。私は正直、ホンゆうんが大好きで、すごい読んでいました。だから、ホンゆうんは、読むと心が豊かになり、浮気などしなくなり、愛なるものの正体もおぼろげながらつかめ、生きる意味を考える糸口を与えてくれ、とにかく、もう最高なんや。と言いました。父は「カーカカカカ!」と笑いました。父はほんとうにカーカカカカと笑い、幼少のころ、カーカカカカと笑う人がマジョリティだと思っていたのですが、いままで生きてきて、そんな笑い方をするのは父だけだった。

「最悪やんけ。ホンゆうんは、人生をしょうむなくする!」

私はとっさに反論することができませんでした。大体、私が言ったホンを読んでえられる効果は、でまかせだったし、たしかに父が浮気をやめ、愛について考え、人生の意味に悩みなどしたら、それはもはや別の生き物であって、父ではない。そういう正しさのようなものから遠く距離を取る、その力強い選択こそが、強化型ビッグダディの強化型ビッグダディたるゆえんなのですから。

強化型ビッグダディは、マッチングアプリを開発した祖父の遺産でお金持ちでした。祖父のマッチングアプリはやばく、大枚をはたいて秘密裏にU・Sアーミーと契約し、サクラ行為をする者を発見次第ライフルで射殺していました。それでサクラ行為は著しく減少し、優良アプリの名声をほしいままにしたのである。ただし、祖父はサクラはもちろん入れていた。そしてU・Sアーミーに連絡し、このサクラはわしの用意したサクラやので、殺さんように、と注意していたのだ。サクラには、祖父がみこんだ色恋営業特化型地下アイドルや、甘いマスクに野心を隠したネオホストなどが選ばれた。酒を飲まず、一般人と変わらぬファッションで接客するネオホストはさいきん聞かないが、祖父は酒を飲む人間を信用しなかった――酒ゆうんは、頭をぼやけさすだけ。ぼやけさして、気ぃ大きくして、好き放題して、ほんで言い訳に使われるのが酒。いつでもクリアな頭でおれる人間しか、わしはイラヘン――ので、特に下戸のネオホストが気に入っていたようです。そうしてマッチングアプリは巨万の富を生み出し、強化型ビッグダディの礎を築いた。強化型ビッグダディは中学時代から月の小遣いが百万円あり、最初は困って、シャンパンタワーにコーラを注いでパーティなどしていたが、全然金が減らず、すぐに酒に手を出した。「ヘネシーリシャール」とか「ルイ13世」とかいっていると、金がまあまあ減ったし、女もたくさん寄ってきたので、ウハウハだった。しかも父は顔がかっこよく、巨根で、それがまたいい具合にツイストしており、話術の巧みさもあいまって、女という女から言い寄られ、「あの時分は、ちんこ擦り切れそうやったねぇ」と回想していた。その話はもう、映画や小説だったら、構想段階でボツ間違いなしの盛りすぎストーリー、ということになろうが、事実、父が肉体関係を結んだ女の数は千を超えており、その中には名だたる女優やアイドルが多数ふくまれていた。

一方、ネクラの私は、はっきりいって、モテなかった。思い出すのも苦しいが、保育園のころ、カンナちゃんという超かわいい女の子がいて、集合写真を撮るときに、誰がその隣をゲットするか、男の子のあいだで殴り合いになった。しかし保育園児のパンチ力はまだKO性に乏しかったため、みなが倒れては立ち上がり、倒れては立ち上がり。しびれを切らした園長が「もうカンナちゃん本人に決めてもらいましょう」と提案したが、カンナちゃんは呆れ顔で「どうでもええわいな」といって、ペットボトルのキャップを二、三個貼り合わせたものをプラスティック容器の穴にはめる遊びを始めた。結局全員でジャンケンすることになったとき、ケンカに参加してすらいなかった私――正直にいうが、これはカンナちゃんの魅力にイカれていなかったからではなく、ご多分にもれずイカれていたが、ケンカがこわくて参加しようにも身体が動かず、参加できなかっただけで、そこに私の非暴力主義や、怜悧な知性を読み取ることは端的に誤りである――までもが巻き込まれ、カンナちゃん争奪戦となり、私はなんと、並みいる強豪をなぎ倒して優勝した。私の記憶が正しければ、これが私の最初の優勝であり、今のところ、最後の優勝である。それから、「お前、後出しやろ!」「出すん遅かった! もう一回!」と口々に文句を言う園児どもに、後出ししていないので、さすがに腹が立って「ぼくの勝ちや」といった。「ぼくが勝った。ぼくが隣にいくんや」そうして私はカンナちゃんの隣に行ったのだが、なんと、プラスティック容器の穴にペットボトルのキャップを二、三個貼り合わせたものを突っ込みまくっていたカンナちゃんは、顔を上げるやいなや、「お前かい!」と叫んだのだ。

「誰でもええとはいうたけど、お前かいな」

カンナちゃんは「お前、後出ししたやろ」といった。すると他の園児どもも、「あーとだし! あーとだし!」とコールを始め、私は、もうほんとうに思い出したくないのだが、「後出ししました」といった。こうして冤罪がつくられるのだと、私ははやくも学ぶこととなったわけです。カンナちゃんの隣は、コーヘイが勝ち取った。カンナちゃんは、コーヘイが隣にくると、何の文句もいわず、恐ろしく美しい薔薇のような笑顔で、写真撮影に応じた。私はその集合写真をいまでも一葉、大切に保管している。

 

 

小学校に上がると、強化型ビッグダディは、私に月百万円の小遣いをくれるようになった。

「親にしてもろたことは子供に返さないかん。ちがうか? カーカカカカ!」

私はお金の使い方をよくわからなかったが、父がお金の使い方マニュアルみたいなものを作っていたので、読むと、「ヘネシーリシャール」とか、「ガンジャパーティ」とか「ツイッターでバラマキ」とか書いている。私にはわけがわからず、とりあえずふつうにパーティを開くことにして、まずは豪華な料理やお菓子を用意し、クラスメイトたちにパーティ招待状を渡したが、来てくれたのは腸役九労太だけだった。腸役九労太は身体がでかく、めちゃめちゃに食うが、私が話しかけても、あまり答えなかった。飲み食いに集中しているのだ。二時間ほどたつと、さすがに満腹になったのか、げっぷを連発し始めたので、私は「ゲームでもせえへん?」とコントローラを渡そうとしたが、腸役九労太は頑として受け取らない。

「ホナ、帰るわ」

私は困惑した。腹も立った。しかし、腸役九労太が来なかったら、私のこのパーティは独り舞台になっていたのだから、腸役九労太には感謝しなければならない気持ちもあり、そのアンビバレンスが私を苦しめた。あんなやつしか、私をかまってくれないのだ。それは私じしんのレベルをそのまま反映した結果なのに相違ない。私はすっかり参ってしまい、父に相談するしかないと思いつめ、家でいちばん大きな父の部屋の重厚なドアをノックしようとしたが、部屋の中からは、三、四人の女性が、「私は、豚です!」とか、「あなたの、奴隷です!」とか、「もっと、叩いてください!」とか、「幸せです! 幸せです!」とかいう声がして、私は、ドアを開けてよいものか逡巡したが、父が中から「誰だ? 入れ!」というので、入りました。父は覇王のみが着ることを許されているタイプの豪華ガウンを羽織っていたが、思い切りはだけていて、チンチン丸出しだった。部屋には私の想像した女性はおらず、四台の大型プラズマテレビに、四つのSM系アダルト・ヴィデオが映し出されていた。

「お父さん」と私はいいました。

2018年12月8日公開

作品集『童Q正伝』第3話 (全4話)

童Q正伝

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© 2018 佐川恭一

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