ハニュー・ユヅルと消えたビブーティ

リーベンクイズ

小説

15,712文字

エメーリャエンコ・モロゾフがフィギュアスケート選手のメンタルトレーナーをしていた頃に書いたファンタジー小説の翻訳です。

※小説に出てくる架空の人物について問題があれば連絡下さい。私は何のポリシーも持ってないので直ぐに削除します。

 高速スピンをピタリと止めた後、長崎の平和記念像ポーズを決めながら天を仰ぐ。完ぺきな演技だ。スタジアムを埋め尽くす生理用ナプキンに付着した経血に似た日本国旗を持った観客の地鳴りのような歓声と共に、沢山の黄色いぬいぐるみがスケートリンクに投げ込まれた。ハニュー・ユヅルはパンストを引っ張り上げたような切れ長の目でスタジアムを見渡した後、観客に向かって深々と礼をする。そしてリンクサイドに立つエメーリャエンコ・モロゾフに向け滑って行った。モロゾフはリンクサイドの壁に手を突き近づいてくるユズルに向かって声を掛けリンクの中程に向けて顎を突き出した。モロゾフの視線の先に黄色いくまのぬいぐるみが落ちている。ユヅルはモロゾフに頷き回収されずに残ったぬいぐるみに向けて滑って行く。ユヅルがスケートリンクに戻ってきたことで、客席からワアっと黄色い声が飛ぶ。ユヅルは黄色いぬいぐるみの前で立ち止まると、左足の踵を立てて踏ん張り右足で黄色いぬいぐるみの腹を思いっきり蹴り上げた。黄色いぬいぐるみは回転しながら観客席に勢いよく飛んでいく。ユヅルの行動に呆然とする観客に向かってユヅルは声を上げた。
「もう、いい加減にしてくれないか。みんな気付いてるんだろ? 俺がくまのプーさんなんて好きじゃないことを。俺だってくまのプーさんが好きだなんて言わなければ良かったと後悔してるよ。だけど、あのときはそう言った方がウケがいいと思ったんだ。ぬいぐるみが好きな男子フィギュアスケーターってキャラが立つなって思ったんだ。正直に言うと、俺はくまのプーさんのことなんかこれっぽちも知らない。くまのプーさんがディスニーのキャラクターだってことも最近知ったんだ。襟を立てた赤いシャツを着て下半身を露出した姿から、これからセックスしようとしているイタリア人のメタファーだってことは容易に想像出来たけど、それ以上のことは知らない。こんなイタリアンセックスモンスターのどこがかわいいんだよ。もしかするとイタリア人を装ってトレビの泉の前で日本人女子大生六人をナンパして自宅に連れ込んで日本刀で脅したイラン人かもしれないが、どっちだっていい。似たようなもんだから。イタリア人もイラン人もセックスモンスターには変わりないんだから。ああ、そう言えば、ディズニーランドに一人で行く女も大抵モンスターだ。一人でベンチで座っているとキグルミを着た化け物が隣に座って来るだろ? 時には肩を抱いてくれたりもするよな。あれな、中に入っている奴は客と対面させられないような化け物みたいな面の女かチビのおっさんだ。化け物みたいな面の女だった場合、化け物同士傷の舐め合いをしてるだけだからいいけど、中に入っているのがチビのおっさんだった場合、おっさんは大抵勃起してる。肩を抱きながら、性成熟してから閉経するまでの女が放つ特有の体臭を嗅いで、四十過ぎの身長百五十センチ前後のおっさんが勃起してるんだ。一人でディズニーなんかに来る化け物に勃起するはずがないと思うかもしれないが、化け物にすら相手にされないからキグルミを着て化け物でもいいからと一人ディズニー女に近づくんだ。そんな様子を見て、カップルで来ている奴らは笑ってる。化け物が二匹ベンチに座ってるってな。おい、そこのババア、何笑ってんだよ。お前も一緒だよ。俺の演技を見に来ているババアも同じなんだよ。一人ディズニー女と同じ化け物だ。それでだ、何が言いたいかと言うと、二十四にもなってくまのプーさんのぬいぐるみが好きだなんて男がいたらおかしいだろってことだ。俺の友達にそんな奴がいたら、俺はそいつの事を変態だと思う。そんな友達いないけど、いたら思うに決まってる。だからもう許してくれよ。もうくまのプーさんをリンクに投げ込まないでくれ」
 
 
 サティア・サイババの生誕地プッタパルティにある聖域アシュラムのホテルを出ると、ガネーシャゲートに向かう人々でホテル前の広場はごった返していた。今日はサイババの降誕祭である。ハニュー・ユヅルはインパール作戦の河辺司令官のような面持ちで下位カーストのインド人をかき分けながらガネーシャゲートに向けて進んで行く。ユヅルはフィギュアスケートの世界で手に入れることの出来る全ての栄光を掴んでいた。世界選手権やグランプリファイナルでは絶対王者として君臨し、オリンピックでは二大会連続で金メダルを獲得した。国民的人気も凄まじく、韓国菓子メーカーの虫歯予防に対する十分なエビデンスが認められないチューインガムのクソダサいCMを見て、ほとんど全ての女は股の間から海藻に似た粘液を分泌させ、一部の男も海藻に似た透明の粘液を股間の先の方から滲ませた。そんなユヅルであったが、最近彼を脅かす存在が現れた。名をウノ・ショーマと言う。練習の合間に訪れる仙台市国分町のニューハーフヘルスのナンバーワンヘルス嬢ユキエに「ユヅルンのことは当然大好きだけど、最近ショーマ君もいいなあって思ってるの。ショーマ君って天然でしょ? インタビューで頓珍漢な答えをする彼を見ていると抱きしめたくなっちゃうの」と言われ、ユヅルはエネマグラに似た機器を自分のアナルから抜き取りユキエに投げつけ店を出た。ユヅルは成長著しいウノ・ショーマの存在を疎ましく思っていた。ウノ・ショーマのロッカーからユニホームを盗み、代わりにアンドー・ミキのユニホームを入れたり、スケートシューズの中にソール地が見えなくなるほど沢山の画鋲を入れるなどの嫌がらせをしたが、ウノ・ショーマはアンドー・ミキのユニホームを着て画鋲が入ったスケートシューズを履いて演技をやり切った。そればかりか表彰台に立つウノ・ショーマは満足げに笑っていた。ユヅルはその笑みを見て気が付いた。こいつは俺の仕掛けた嫌がらせに気付いていないと。それ以来ユヅルはウノ・ショーマに対する嫌がらせを止めた。相変わらずタナカ・ケージには嫌がらせを続けているが、ウノ・ショーマに対する嫌がらせは止めた。ユヅルはニューハーフヘルス嬢ユキエにエネマグラに似た機器を投げつけた翌日、国分町の大黒屋でインド行きの格安航空チケットを買うと、コーチらの静止を振り切りプッタパルティまで来た。
 ガネーシャゲートをくぐりクリケットスタジアムに入ると、首から金メダルをぶら下げた男が「ナマステ、ナマステ」と言いながら近づいて来た。ユヅルは手を上げると、その清廉潔白の象徴のであるはずの白いクルタの袖や首元が黄ばんで不潔そうな男に先導され、スタジアムの中心にある直径二十メートル程の円周に添って腰を下ろした。どこの馬の骨とも分からない日本人が通される場所ではないが、昨夜ユヅルは清廉潔白の不潔そうな男に最前列で聖人に会えるようにピョンチャン五輪で獲得した金メダルを渡していた。清廉潔白の象徴を身にまとった不潔なおっさんに首から掛けた金メダルを指さされ人差し指をクイクイされたので何の迷いもなく渡した。ネトウヨのユヅルにとってピョンチャン五輪で取った金メダルは朝鮮人の象徴の様で気持ちが悪かった。金メダルを取った翌日、ピョンチャンの質屋に持っていったところ店員に「裏にK24GPって書いてあるだろ、GPってのは金メッキってことだ」と言われたので仕方なく日本に持ち帰り、練習用スケートリンクの神棚に鹽竈神社で貰った塩土老翁神の依り代と共にお供えした。インドの来るにあたりガンジス川に流してしまおうと思って持ってきたが、賄賂に使えるのならその方が良いに決まってる。因みにソチ五輪の金メダルは神棚にお供えしたままだ。ピョンチャン五輪の金メダルとは価値が全く違う。裏にGPの刻印がないからだ。
 スタジアムが静まった。ユヅルがいる場所からスタジアム前方に向けて伸びる真っ赤な絨毯の先にオレンジ色のクルタを着たサティア・サイババが従者を引連れ現れた。サイババは絨毯脇に跪く信者に向かって語り掛けると、手首をクイクイと動かしながら指先を擦らせる。すると指先から灰色の粉が現れ信者の手のひらに落ちてゆく。それを受け取った信者は灰色の粉を胸元から取り出した布袋に入れサイババに向かって何度もを下げた。ビブーティだ。ユヅルはビブーティを求めプッタパルティまで来た。サイババから直接ビブーティを授かった者はどんな願いでも叶えることが出来ると聞いてここまでやって来たのだ。そのサイババが視線の先にいる。よく見るとサイババはコズカ・タカヒコに似ている。離れた両目から大きく横に広がった鼻の穴までそっくりだ。スタジアム全体を覆うインド人の体臭に耐えながらユヅルはコズカ・タカヒコ似のサイババが近づいてくるのを待った。サイババは下位カーストの乞食みたいな信者にさえ優しく微笑みかけビブーティを授けていく。それを見てユヅルは下位カーストにも平等に接するアピールはもういいから、早く俺のところに来いと思いながら手を合わせ敬虔なヒンドゥー教徒アピールをしてコズカ・タカヒコ似のサイババを待った。サイババは赤絨毯を進みスタジアムの中心まで来ると立ち止まり、円をぐるりと見渡す。そしてユヅルと目が合うと近づいて来た。
「日本の方ですか?」
「そうです。日本人です。名前はハニュー・ユズルと言います。アウトカーストですが、名誉白人です。私はインド入りしてからプッタパルティに来るまでに様々な差別を受けました。最初はアウトカーストに対する差別だと思っていましたが、次第にそれが黄色人種だけに向けられているものだと理解しました。インド人は旅行者であっても白人様には頭が上がりませんよね? インド人は最上位に白人がいて次にインド人、そして最後に黄色人種というカースト制度の上位概念として人種カーストを敷いています。いえ、意識はしていないのかもしれませんがそう言った差別意識を下位カーストから上位カーストまで不可触民以外全てのインド人が持っています。インド人は私のような黄色人種を虫けらのように扱います。でも待ってください。インド人がアプリオリに黄色人種を差別するのは理解しましたが、私は黄色人種で有って黄色人種ではありません。名誉白人なのです。プッタパルティの不可触民部落より確実に上位の存在なのです。だからサイババさん、私の話を聞いてください」
 サイババは従者に苦い顔を向けてからユヅルに向き直る。
「何が言いたいのですか?」
「私はフィギュアスケートの選手です。フィギュアスケートの世界チャンピオンです。フィギュアと言っても偶像ではないのでご安心ください。図形のフィギュアです。ああ、そういえばヒンドゥー教は偶像崇拝を禁止してなかったですね。イスラム教と勘違いしてました。ヒンドゥー教もイスラム教も興味がありませんから。知っていることといえばヒンドゥー教はカーマスートラというエロ本を教典にしてるセックス教団だと言うことくらいです。私はセックス教団には興味がないので、フィギュアスケートの話に戻ります。サイババさんはフィギュアスケートなんて知らないですよね? 氷の上を滑って得点を競うスポーツです。氷の上を滑ると言っても転ぶわけじゃありません。飛んだり跳ねたり回転したりして難易度を付けて競い合うスポーツです。芸術性を競うスポーツです。ああ、インド人に芸術性なんて言っても理解出来ないですよね。現代インドに芸術なんてものありませんから。私はインド人には理解できないスポーツの世界チャンピオンなのです。世界チャンピオンですが、最近私を脅かす存在が現れました……」
 サイババは陰毛のような髪の毛を掻きむしると、その手をユヅル前に持っていく。
「ちょっと待て、ハニュー。ハニュー、ちょっと待て。私だってフィギュアスケートくらい知っています。確かに今のインド人は芸術を理解出来ないかもしれませんが、私は理解できます。いや、正確にはフィギュアスケートの芸術性は理解できませんが、フィギュアスケートというスポーツ自体は知っています。私の従者の中に元フィギュアスケートのコーチがいます。そうですね、モロゾフ」
 サイババは彼を取り巻く従者の一人に声を掛けた。モロゾフと呼ばれた男は一歩前に出てサイババの隣に立つ。他の従者に比べモロゾフは幾分小さなクルタを着ている。
「ええ、そうです。正確にはメンタルトレーナーです。私は出家するまでアメリカでフィギュアスケーターのメンタルトレーナーをやっていました。ですから、目の前にいる男の事を知っています」
 モロゾフはサイババからユヅルへ目線を移動する。
「ハニュー、貴方はウノ・ショーマに脅威を感じていますね。このままではいずれ追いつかれてしまうと」
「そうです。ですから、ビブーティの御利益で五回転トーループが出来るようになれば、ウノが辿り着けない高みに登れると考えたんです」
 モロゾフはサイババに耳打ちする。サイババはモロゾフの言葉に頷くと口を開いた。
「貴方ががここに来た理由が分かりました。ビブーティを持ち帰ればきっと五回転トーループが出来るようになるでしょう。そればかりか、五回転アクセルさえ可能になります。しかし、貴方がビブーティの力で五回転を飛んでも、ウノが血の滲むような努力で同じく五回転を飛ぶ可能性が有ります。私は貴方に力を授けることは出来ますが、他人の力を変えることは出来ません」
 確かに五回転トーループを飛べるようになったとしても、ウノが五回転を飛べないという保証はない。
「じゃあどうすればいいんですか?」
 サイババはユヅルに向かって微笑んだ後、モロゾフの肩に手を置いた。
「この男はアメリカでトーニャ・ハーディングのメンタルトレーナーをやっていました。当時トーニャ・ハーディングにはナンシー・ケリガンというライバルがいましたが、オリンピックのアメリカ代表を決める大会の前にナンシー・ケリガンは暴漢に襲われ出場を断念しました。その暴漢の正体は未だに分かっていません。ハニューは私の言っている意味が分かりますか?」
 そう言ってサイババは広角を上げる。
「まさか、モロゾフさんがナンシー・ケリガンを襲撃したんですか?」
「私はそこまで言ってません。さて、そこでハニューに提案が有るのですが、ここにいるモロゾフをメンタルトレーナーとして雇ってはどうでしょうか? そうすればウノに悩まされることはなくなるかもしれません」
 サイババはモロゾフを使ってウノを襲わせれば良いと言っている。ユヅルはサイババから視線を外しモロゾフに向ける。最初にモロゾフを見たときは他の従者に比べ小さなクルタを着ていると思っていたが、よく見ると上腕二頭筋が張り出しクルタを小さく見せているようだ。
「モロゾフさんが直接ウノに手を下すんですか?」
 モロゾフは小さくため息を吐くとユヅルに言った。
「手を下すとはなんのことですか? 私はハニューのメンタルトレーニングをするだけです。トーニャ・ハーディングにやったように。ですから、ウノがどうなるか私には分かりません」
 まるで殺し屋のような言い方だ。しかしその言い方が逆に信用できる気がする。ハニューはモロゾフに右手を差し出した。
「よろしくお願いします」
 モロゾフはユヅルの手を握り返して言った。
「エメーリャエンコ・モロゾフです。こちらこそ、よろしくお願いします」
 ユヅルはモロゾフから手を離すとサイババに話しかける。
「報酬は金メダルでいいですか? ソチ五輪の金メダルです。インドには持ってきてないので日本に帰ったら郵送します。実はピョンチャン五輪の金メダルを持ってきていたんですが、貴方に会うために乞食のようなインド人に賄賂として渡してしまったんです。それにピョンチャン五輪の金メダルは金メッキの粗悪品でした。おそらく日本人メダリストに渡したメダルは全てメッキだと思います。韓国人はインド人が黄色人種に対して差別感情を持っているように、日本人に対して差別感情、いや、差別感情なんて生易しいものではありません。彼らは日本人に対して明確な敵意を持ってます。韓国人は日本人を困らせることしか考えていません。例えば私がピョンチャンオリンピックの時に泊まったホテルの食事は三食とも辛ラーメンでした。ほかにも……」
 サイババは陰毛のような髪の毛を両手で掻きむしると、その手をユヅルの前に持っていき言葉を遮る。
「ハニュー、ちょっと待て。ちょっと待て、ハニュー。私は金メダルなどいりません。私は対価を求めません。私は聖人ですよ」
 ユヅルは驚いた顔をサイババに向ける。
「え、只ですか? インド人に献身の心なんてないでしょ。無償で誰かのために奉仕することなんてないはずです。だってインド人ですよ」
 サイババの後ろで二人の話を聞いていた従者達がざわつき始めた。サイババは後ろを振り返り従者たちにボソボソと話しかけた後、ユヅルに向き直る。
「ハニューはインド人をバカにしてますか?」
「そんな事ありません。それどころか尊敬すらしてます。だって数字のゼロを発明したと嘯いて既成事実化しましたからね。韓国人の起源論とは大違いです」
 サイババはコホンと軽い咳払いをした。
「まあ、いいでしょう。ではモロゾフをよろしくお願いします」
 そう言ってモロゾフを置いて立ち去ろうとするサイババをユヅルは引き留めた。
「サイババさん、ちょっと待ってください。ちょっと待ってください、サイババさん。ビブーティをくださいよ。ビブーティがなければ五回転ジャンプが出来ないじゃないですか」
 サイババは足を止めユヅルに振り返る。
「ああ、すみません。忘れていました。ビブーティを授けますので両手で受け止めてください」
 ユヅルはサイババの前に両手を突き出し手のひらを上に向け水をすくう形に指を曲げる。サイババはユヅルの手の上に左手を差し出すと手首をクイクイと回転させ、何かをつまむように親指で人差し指と中指の腹をこすった。するとそこから白い粉末が出現しユヅルの手のひらに流れ落ちてくる。
「ありがとうございます。ところで頂いたビブーティはどうやって使えばいいんですか?」
 ビブーティを出し終えたサイババがユヅルに言った。
「ビブーティは持っているだけで御利益があります。より強力な御利益がほしいときは口に含んでください」
 ユヅルは韓国菓子メーカーのCM撮影で習得したパンストを両サイドから同時に引っ張ったような笑み浮かべ、サイババに向かって「ナマステ、ナマステ」と言いながら手を合わせた。
 
 
「あれ、おかしいな……」
 ロッカーの中に入れていたはずのビブーティが消えている。
「ビブーティが無い。ビブーティはどこだ。これじゃあ五回転トーループを飛べないじゃないか」
 昨日のショートプログラムで首位に立ったハニュー・ユヅルは今日のフリースケーティングで初めて五回転トーループを披露しウノ・ショーマを完膚なきまでに叩き潰すつもりだった。練習ではほぼ完璧に飛べるようになっていたが、ビブーティが無い状態で飛べる自信はない。
「モロゾフ、ビブーティを知らないか?」
 ユヅルは後ろを振り向きモロゾフに声を掛けたが、ロッカールームにモロゾフの姿はなかった。そういえばモロゾフはウノを襲撃しに行ったんだった。襲撃しに行くとはっきり言っていた訳ではないが、ウノに用があると言って出ていったので間違いないだろう。計画通りモロゾフがウノ襲撃を成功させ、ウノがフリースケーティングに出られなくなったとしても、ユヅルは五回転を飛ぶつもりだった。暴漢に襲われ脚か腕か肋骨か肩甲骨か恥骨のどこかを骨折してフリースケーティングに出場できなくなった失意のウノに圧倒的実力差を見せ付けることが出来れば、ウノは怪我が治っても復帰しようとは思わないだろう。ユヅルが必死になってロッカーを探っていると「コンコン」とロッカールームの扉を叩く音が聞こえた。モロゾフが戻ってきたと思ったユヅルはノックの主に声を掛ける。
「どうぞ、開いてるよ」
 ロッカールームの扉が開き廊下から中を覗き込むようにヌッと顔を覗かせたのはモロゾフではなくウノだった。ウノはロッカールームに入ってくることはせず、扉に手をかけたままユヅルに向かって「そろそろハニューさんの演技っすよ」と間の抜けた声で言った。
「あ、ウノ君、元気か?」
 ユヅルは動揺を悟られないよう平然を装いウノに声を掛ける。しかしライバルに対して演技の直前に「元気か?」と声を掛けるのは不自然だ。ウノは不振に思ったのか聞き返してきた。
「何を言ってるんすか? 元気ですよ。元気そのものっすよ」
 ウノは演技前のストレッチで発汗したのか幾分顔が上気している。その姿から暴漢に襲われた様子は見受けられなかった。
「いや、それならいいんだ。お互い持てる力を出し切って戦いたいからウノの体調が気になったんだ。万全ならそれでいい」
「なんすかそれ。少年ジャンプ的なアレですか? 正々堂々と戦おうなんて、いつものハニューさんらしくないっすよ。昨日のショートでタナカ・ケージは女子のユニフォームを着て滑っていましたけど、あれやったのハニューさんですよね? 去年僕にやったように。ショートの後泣いてましたよ彼。ムダ毛の処理をしてなかったってね。女子のユニフォームを着ることになるなら処理すべきだったって。そんな悪質な嫌がらせをするハニューさんが正々堂々と戦いたいって言うなんて何か悪いもんでも食べました? そう言えばどことなく顔色が悪いっすよ」
 確かにタナカ・ケージのユニフォームをアンドー・ミキのユニフォームと交換したのはユヅルだ。過去ウノに対してやった同じ嫌がらせをタナカ・ケージにやった。それはそうなのだが、ウノがユヅルの嫌がらせに気付いていたとは知らなかった。ウノはユヅルに受けた嫌がらせに気付きながら演技をやり切り銀メダルを取った。やはりウノをこのままにしておけば、いずれ大きな障害となってユヅルの前に立ちはだかるだろう。
「いや、大丈夫だ。少し緊張してるだけだ」
「ふーん、そうっすか。それじゃあまた後で。ああ、そうそう。俺の演技はハニューさんの後だから、俺の気力を削ぐような完璧な演技はしないでくださいね」
 ウノはそう言って笑うとロッカールームの扉を閉めて出ていった。普段に比べ幾分上機嫌だが体調が悪いようには見えない。モロゾフがどういった方法でウノを襲撃しようとしていたか分からないが、その計画は失敗したようだ。ウノがフリースケーティングに出場するとなると失敗は許されない。ビブーティが無い状態で五回転を飛ぶのはリスクが高すぎる。失敗した場合、ウノに逆転される可能性すらある。だから今回は四回転サルコウに留めておくのがベストかもしれない。ショートのリードがあれば四回転と三回転のコンビネーションジャンプを中心とした構成で十分だろう。五回転を飛ぶよりウノに勝つ事を優先させなければならない。ウノを完膚なきまでに叩き潰すのは次の大会でもいいのだ。ユヅルはビブーティを探すのを諦めスケートリンクへと向かった。
 
 ユヅルが広島の原爆の子像のポーズを決めると、スタジアム全体が歓声に包まれる。ユヅルはパンストを引っ張り上げたような目でスタジアムを見渡す。昨日とは違いリンクへくまのぷーさんのぬいぐるみを投げる客はいない。ユヅルは昨日、応援してくれるファンに向かって「閉経ババアに応援されても嬉しくない」とか「ジャニオタ並みのモンスターに応援される俺の身になってみろ、むしろセクシーゾーンの身になってみろよ」と言って罵った。演技の後にブーイングが起こるのを覚悟していたが杞憂だったようだ。ユヅルは観客があんな事を言われても尚、閉経後に必要なくなった生理用品に付着した経血のような国旗を女だった事の証明のように振って自分を応援する彼女らの心理を考えたが、納得できる答えを見つけられなかった。命の母を服用しても効果の出ない更年期障害をルーティーンをこなす事によって和らげられると考えているのかもしれないと思ったが、そんな事を考えている自分が馬鹿らしくなって考えるのを止めた。ユヅルはビブーティが無かったため急遽フリースケーティングの構成を変更した。直前の変更だったが、練習より難易度を落とした構成だったため失敗する事無く無難に演技を纏めることが出来た。これでウノが完璧な演技を行なったとしても追いつく事は出来ない。ユヅルは胸を撫で下ろし昨日罵った観客に手を振りながらリンク出口に向けて滑っていく。いつもであればモロゾフが待ち構えているのだが、どこにも彼の姿はなかった。ユヅルはリンクの外に出るとツイッターで親日をアピールしないと務まらない演技指導の白人コーチと共に、選手が得点に一喜一憂する姿を撮影するだけの悪趣味な部屋に入りディジタル掲示板に表示される得点を確認する。得点が表示されるとフィギュアスケートの演技指導とメイルペッティングの演技指導を兼任するコーチが獣のような声を出しながら両手を上げる。ユヅルはコーチの脇の下から漂ってくる獣のような匂いを嗅ぎながら掲示板をモニタを眺めた。二百九十八点。三百点には僅かに届かなかったが、それでもウノがこの点数を超えられるとは思えない。ユヅルはアナル資源開発の権威であるコーチと抱き合って視聴者にアピールすると得点部屋を出た。
「ハニュー」
 得点部屋から出てウノを演技を見ようとリンクサイドに向かおうとしたところで声をかけられた。ユヅルが振り向くと、そこにモロゾフがいた。
「ああ、モロゾフ、どこへ言ってたんだ?」
「ウノのところに行ってました。私はハニューにウノのところに行くと言いましたよね?」
「そうだけど、演技の前にウノが俺のロッカールームに来たぞ。元気な様子だった。襲撃に失敗したのか?」
 モロゾフはユヅルに向かってニヤリと笑う。
「私はウノを襲撃するなんて言っていません。ウノに会いに行くと言っただけです」
 モロゾフは全てをやり遂げた殺し屋のような表情をユヅルに向けるが、ウノはリンクの上で演技前のレコノサンスを滑っているし、その表情は自信に満ちている。モロゾフは何のためにウノに会いに行ったのだろうか。
「まあいい、ビブーティがなかったから難易度を落としてフリーを滑ったけど、完璧な演技が出来たから優勝は間違いない。ウノの件は次の大会に取っておく。ビブーティーがあれば五回転を……ああ、そうだ、俺のロッカーからビブーティが消えていたんだ。モロゾフは何か知らないか?」
「ビブーティは私がハニューのロッカーから持ち出しました」
 ユヅルは自分の耳を疑った。モロゾフは自分がビブーティを持ち出したと言った。ビブーティの御利益がなければユヅルは五回転を飛ぶことが出来ない。その事を一番理解しているはずのモロゾフが何故ロッカーからビブーティを持ち出したのか。ユヅルは理解の出来ないモロゾフの行動にふつふつと怒りが湧いてきた。
「おい!モロゾフ。モロゾフ、おい!。お前は今なんて言った? お前がビブーティを持ち出したのか? なんでだよ!なんでお前がビブーティを持ち出すんだよ!実はビブーティはレンタル品でレンタル期限が来たから回収しましたとか言うなよ。俺はビブーティをサイババから貰ったんだ。人差し指と中指の間に僅かな水分で丸く固まらせたビブーティを忍ばせ、さも空中から取り出しました的な動作をしつつ水で固めたビブーティの塊を親指の腹に持っていき人差し指と中指で潰してこすりながら俺の手のひらに落とした後、確かにサイババは俺にビブーティを授けると言ったんだよ!」
 興奮してまくしたてるユヅルに対してモロゾフは「まあまあ」と言ってユヅルの肩に手を置く。
「理由は後で説明します。それよりウノの演技が始まりますよ」
 そう言ってモロゾフはリンクを指さした。ユヅルはモロゾフに促されスケートリンクの中央でメメクラゲに噛まれた腕を押さえるポーズを取って静止しているウノに視線を向ける。同時にウノの演技が始まった。ウノはゲイリー・ムーアのザ・ローナーのエモいギターに合わせてリンクを滑っていく。荘厳なイントロの後、ドラムスが入るのと同時にウノが飛んだ。高速で回転するウノの表情はユヅルのいる場所に向くたび連続写真の様に切り取られユヅルに笑いかけているように見える。着地と同時に一瞬場内が静まりすぐに大きな歓声が湧き上がった。ウノが五回転を飛んだのだ。それも五回転トーループではなく五回転アクセルを飛んだ。ユヅルはパンストを下に引っ張り上げたかのように下顎を下げて呆然とウノの演技を眺めている。ウノはそれだけでは止まらなかった。五回転アクセルから三回転トーループを飛んだ後、直ぐにまた五回転サルコウから四回転トーループのコンビネーションジャンプを決めた。ユヅルはウノが叙情的なギターフレーズに合わせてステップ・シークエンスを滑っている時に我に返った。
「も、モロゾフ。モロゾフ、も……」
「何でしょう」
「う、ウノが五回転を飛んだ」
「ええ、飛びましたね」
 当然であるかの様に言うモロゾフの返答にユヅルは声を荒げる。
「飛びましたね、じゃねーよ!このままじゃ逆転されるだろ。いや、ショートとフリーの構成を考えればウノが俺の得点を超えることは難しいけど、五回転はインパクトが強すぎる。審査員が正常な判断が出来ないくらいのインパクトなんだよ。このままじゃ逆転される。おい、何とかしろよモロゾフ!」
 モロゾフはニヤリと笑いユヅルに言った。
「ここからウノを射殺しますか?」
「出来るのか?」
「冗談ですよ。そんなこと出来るわけないでしょ。私は殺し屋ではありませんし、何より日本に拳銃を持ち込むことは出来ません」
 ユヅルはモロゾフの後頭部を思いっきり叩いた。モロゾフは前方につんのめると同時に右手をジャケットの中に入れてユヅルに振り返る。
「あ、ごめん。思わず手が出てしまった。申し訳ない」
 ユヅルはモロゾフの動きを見てジャケットの中にトカレフを忍ばせていると確信したが、その銃口をウノに向けろとは言えなかった。モロゾフはジャケットに入れた右手をそっと取り出してからユヅルに言った。
「今のはツッコミですか? 私がボケたからハニューはツッコミましたか? 私が関西のツッコミ文化を知らなかったら今頃ハニューの眉間に穴が開いていましたよ。気を付けてください。ハニューは学力レベルの高い宮城県の出身でしょ、関西人の真似をするとバカになりますよ。人の頭を叩くなんてことを日常的にやってるから大阪は全国で下から二位三位を争う学力レベルなんです。関東に比べ関西の学力レベルが低いのはツッコミのせいです。小学校でも中学校でも高校でも大阪府の学力レベルは毎年下から二位三位を争っています。不動の最下位は沖縄県です。二位に圧倒的大差を付けて最下位なのが沖縄県です。県民の平均IQは四十五です。沖縄県は平均初潮年齢が他県に比べて早いくらいしか取り柄の無いバカばかりの県なのです。本土の人間は沖縄県民を未開の土人みたいなものだと思っているから教育なんて必要ないと考えているんでしょうね。本土の人間は沖縄人を見つけると近寄っていき「沖縄の方ですか?」などとへらへら笑いながら確認します。あれは見下せる人間を見つけたときの卑しい笑いです。私からすると沖縄人も本土人も神から見放された黄色い猿で有ることに変わりありませんけど。ああ、全国平均でちょっと下の学力レベルの愛知県出身のウノの演技が終わったようです」
 ウノは満面の笑みを浮かべ、シリツが成功したことをアピールするようにメメクラゲに噛まれた左腕を大きく上げた。同時に場内が沸き上がる。ユヅルの時よりも数段大きな声援だ。ウノは観客に手を振りながらリンクを後にする。リンクから選手が得点に一喜一憂する姿を撮影するためだけの悪趣味な部屋へ続く廊下でユヅルとすれ違ったウノはユヅルに向かってニヤリ口角を上げてから選手が得点に一喜一憂する姿を撮影するだけの悪趣味な部屋へ入っていった。
「おい、モロゾフ!今のを見たか。あいつは沖縄県民を見るような本土人の目で俺を見たぞ。いや、沖縄県民を見下す目じゃない。あいつは日本人を見る韓国人の目をしていたぞ!」
 モロゾフは目を瞑り鼻から小さく息を吐き出す。そしてゆくりと目を開けるとユヅルに言った。
「私から見ると日本人も韓国人も同じに見えます。ハニューはよく韓国人を見下す発言をしますが、真相深読み虎ノ門ニュースの影響ですか? 日本人と韓国人の差は何ですか? 人種だと思っているなら大間違いです。両国民の常染色体遺伝距離はほぼ無いに等しく、この差は本土人と沖縄県民の差よりも遥かに小さいのです。遺伝子解析機関の多くは日本人と韓国人を同じクラスタに入れています。両国をクラスタ分けした研究機関もありましたが、韓国系アメリカ人が遺伝子解析を行ったら韓国人より日本人由来とされる成分が多く検出されるのが問題になり現在ではクラスタ分けをやめました。性染色体だって同じようなものです。女系継承するmt-DNAの各ハプロタイプ比率は日本人と韓国人で差はみられません。男系継承するY-DNAではハプロタイプ比率に若干の違いがありますが、Y-DNAは為政者のハプロタイプが残る傾向にあるので偏っただけです。もっとも形質を司る遺伝情報を持っていないY-DNAのハプロタイプに何の意味もありません。Y-DNAはたった五千百万塩基対の中に擬似常染色体領域も含めて、形質、性格、知能に関係しないジャンクと言っても差し支えないような七十八の遺伝子しか持っていないのですよ。それに対して常染色体の遺伝子数は約二万です。万世一系などと言う幻想を抱いて男系継承に拘る皇室ならいざ知らず、一般人にとって出アフリカをした先祖が辿ったルートを想像してニヤニヤする程度の意味しかありません。ですからハニューが韓国人を見下す理由が私には理解できないのです。どちらも同じ黄色い猿です。出アフリカしたヒトが先に出アフリカしたヒト亜種であるネアンデルタール人と交わった後、神が手を差し伸べたのが我々コーカソイドで、ネアンデルタール人と交わった後デノソワ人とアニマルセックスして生まれたのがハニューや韓国人のようなモンゴロイドなのです。しかしネグロイドよりはましです。アフリカから出なかった臆病者のサハラ以南の黒人はヒト亜種と混血していません。彼らこそ純潔なヒトです。しかし純潔主義は停滞と同義です。サハラ以南の黒人はヒト亜種と混血しなかったばかりに知性化後の進化が停滞しました。ヒト亜種との混血がヒトの進化には必要だったのです。出アフリカ組でもヒト亜種と混血しなかったグループがいます。東南アジアのネグリトです。彼らも進化の階梯を登れず今だに石器時代を生きています」
 ユヅルがモロゾフの分子人類学講義を遮ろうとしたとき、場内がどよめいた。ウノの点数が出たようだ。ユヅルが恐る恐る電光掲示板に目を向けると、そこには赤い電飾で三百十二と表示されていた。ユヅルは電光掲示板から視線を外しモロゾフを睨む。
「モロゾフ、どうすんだよこれ……おい、どうすんだよ!こんな風になったのはお前がビブーティを持ち出したからだろ。え、おい、なんとか言えよロ助!どうしてくれんだよ、ウノを叩きのめすどころか負けちまったじゃないか!お前がビブーティを持ち出さなければ余裕で勝てた試合なんだぞ!そう言えばお前はビブーティをどこにやった? まさかビブーティをウノに渡したんじゃないよな? いや、そう考えれば合点がいく。ウノは今まで一度も五回転を飛んだことはない。それどころか四回転アクセルだって満足に決められなかったんだぞ。それがどうだ、いきなり五回転を飛びやがった。それも五回転トーループじゃなくアクセルだ。アクセルだぞモロゾフ!お前ビブーティをウノに渡しただろ!どうなんだよモロゾフ!」
 モロゾフはユヅルの目をジッと見つめる。
「はい。ハニューの言う通りです。私はウノにビブーティを渡しまし……」
 モロゾフが言い終わる前にハニューがモロゾフの後頭部をグーで叩いた。モロゾフは前方につんのめると同時にジャケットからトカレフを取り出しサッとユヅルの後ろに回り込む。そしてユヅルのこめかみに銃口を突き付けた。
「落ち着きなさい、ハニュー。ハニュー、落ち着きなさい。私はウノにビブーティを渡しました。ビブーティの力によってウノが五回転を飛んだのは間違いありません。しかし、ウノが優勝することはありません。ウノは絶対に優勝できません。ですから、私の後頭部を叩くのはやめてください。次また叩いたら射殺します。私は関西人のようにバカにはなりたくありませんから」
 モロゾフにトカレフを突き付けられたユヅルは前を向いたまま口を動かす。
「どう言うことだ? ウノは俺の点数を上回った。だから俺が優勝する事は絶対にない。それともこれから演技するタナカ・ケージが優勝するとでもいうのか?」
 ユヅルの耳に生暖かい息がかかる。モロゾフが笑ったようだ。
「泣きながらアンドー・ミキのレオタードを着て演技する変態が優勝すると思いますか? 優勝するのはハニュー・ユヅル、あなたです」
  
 その後表彰式が行われた。表彰台の中央に立つのはウノ・ショーマだ。ユヅルはモロゾフの言った言葉の意味を考えながら隣に立つウノを見上げる。ウノは額に流れる汗を右手で拭いながら左手で金メダルを握りしめ、右足で君が代のリズムを刻んでいる。五回転アクセルより君が代でリズムを取ることの方が難しいよなと思うユヅルの頬に涙が伝った。
 翌日ユヅルの元に衝撃的なニュースが飛び込んできた。ウノの金メダルが剥奪されたというのだ。ウノは演技後のドーピング検査でありとあらゆる禁止薬物が検出された。禁止薬物とはフィギュアスケートで使用が禁止されているという意味ではない。覚醒剤を始めとしてコカインやMDMAなどのアッパー系を中心に、LSDからマジックマッシュルームまで日本国内で禁止されている薬物が尿から大量に検出されたのだ。ウノは現在警察で事情聴取を受けているという。仙台市国分町のニューハーフヘルスの待合室にあるテレビでその事を知ったユヅルは、ユキエとプレイする事をやめ、練習場に戻ろうと考えたが、ユキエの使うエネマグラに似た機器の魅力には勝てず、ユキエと真剣に向き合ってから、いや、尻を向けてからモロゾフの待つ練習場に向かった。

2018年11月22日公開

© 2018 リーベンクイズ

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