原始、尊師は太陽だったし

リーベンクイズ

小説

1,647文字

エメーリャエンコ・モロゾフ散文集「石井久子とイニシエーション・ラブ!」より

 山梨県西八代郡上九一色村にある第七サティアンでは、化学兵器や覚醒剤、合成麻薬の製造が行われている。今年の春、愛国ポルノで稼いだ金を上納金として、晴れてサマナ(出家信者)となったエメーリャエンコ・モロゾフの仕事は、ベルトコンベアから流れてくるLSDチケットにチェ・ゲバラの肖像を押印する事だ。尊師の尊顔ではない。LSDチケットに描かれる肖像はゲバラと決まっている。ゲバラが印刷されていないLSDチケットはLSDではない。それはLSDが合成され、市場に出回った時からの決まりなのだ。
 便衣兵を日本刀でバッタバッタと切り殺す愛国ポルノを出版するまで、アムウェイの勧誘をしながらアルバイトをしていたヤマザキパンのサンドウィッチ工場のように、舌下摂取を想定したサイズに切り取られたLSDチケットがベルトコンベアから運ばれてくる。モロゾフは額とヘッドギアの隙間から流れ出る汗を拭いながらLSDチケットに一つ一つゲバラ印を押印していく。第七サティアンではこの作業をバラインと呼んでいる。シートに印刷してからLSD溶液を染み込ませれば必要のない工程であったが、サマナを遊ばせるわけにはいかない。要らぬことを考える時間を与えないためだ。
「ここに来てどれくらい経つ?」
 ヘッドギアに埋め込まれた電極から流れる数ボルトの電流と覚醒剤でラリパッパしながら単純作業をこなすモロゾフに、隣りでラリパッパしながら手を動かしているミヤダイ・シンジが話しかけてきた。ミヤダイはモロゾフがバライン班に配属される前から働いているベテランだ。大学で助教をしながら援助交際の取材と称してJSやJCに金を渡し買春していたが、児童の権利に関する条約が批准されると、公には援助交際取材はやり尽くしたとして児童買春から手を引いた。しかし一度踏み入れた児童買春の味を忘れられるはずもなく、ロシアや東南アジアで子供を買いまくっていたら当局に目を付けられここに逃げてきた。尊師は来るものを拒まない。一定額の布施さえ収めれば誰でもサマナになれる。例え犯罪者であっても尊師は寛大な心をもってそれを許す。
「二か月位ですかね」
 モロゾフがそう言うとミヤダイは「そうか」と頷き話を続ける。
「お前は不邪淫の戒律を守っているか?」
 不邪淫とはセックスやオナニーを禁止する戒律だ。在家信者は配偶者とのみセックスすることが許されていたが、サマナは解脱を目指す故、セックスはおろかオナニーすらら禁じられていた。禁じられていたが、それを守っているのはホーリーネームを持つ一部サマナだけだ。
「守れるわけないじゃないですか。サマナになる前日、サマナになると出来ないからと血が出るまでオナニーをしてからサティアンに来ましたが、初日に第二サティアンの近くを歩いていたマハー・ケイマ正大師を見て我慢できなくなり抜きました。それから毎日のように第二サティアン近くをうろうろして尊師の愛人であるダーキニーを見つける度に抜いています。そうすることで尊師に近づける気がするんです。ミヤダイさんは不邪淫を守ってるんですか?」
 ミヤダイは目の前を流れてくる真っ白なLSDチケットを眺めながら言った。
「俺はアーチャリー正大師で抜いてる。毎晩、ベッドの上に貼っている尊師がアーチャリー正大師の頭に手を置いている写真で抜いているんだ」
 アーチャリー正大師は尊師の三女だ。
「それは尊師の分身ともいえる娘で抜くことによって尊師に近づくことが出来るとの考えからですか?」
 ミヤダイは遠くを見つめるとふっと息を吐く。
「まあ、そんなところだな」
「おい、そこの二人、手が止まってるぞ!、マイクロウェーブで焼くぞ!」
 サリンプラント建設の進捗確認に来ていたミラレパ正大師が二人に向かって怒鳴った。モロゾフは「ちっ、キチガイが」と舌打ちすると、足下にあるベルトコンベア停止スイッチを踏む。そしてミヤダイと一緒にゲバラの肖像が捺印されずに流れていったLSDチケットを回収していった。

2018年10月9日公開

© 2018 リーベンクイズ

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