「なあミハイル、相談があるんだけど」
エメーリャエンコ・モロゾフは丸テーブルに左肘を立て、対面に座るミハイル・ゴルバチョフに言った。二人は同い年であったが、ゴルバチョフの方が背丈も横幅もモロゾフより二回りほど大きい。
「悩みでもあるのか?」
ゴルバチョフは右手で額右斜め上を掻きむしりながら言う。そのせいでゴルバチョフの額はいつも血だらだ。一度「そんなに額右斜め上を掻きむしっていたら跡が残るぞ」と注意したが、カラシニコフを突き付けられたので、それ以上言うのを止めた。
「実は、エカテリーナを見ているとチンチンが大きくなるんだ。エカテリーナの匂いを嗅いでもチンチンが大きくなる。これはいったい何なんだ。ミハイル、知っていたら教えてくれ」
ゴルバチョフは左手に持ったピロシキを口に入れると言った。
「ウゴウゴ……」
そりゃしゃべれないだろう。ゴルバチョフはテーブル上のウォッカの瓶を手に取ると、そのまま口を付け一気にピロシキを飲み下した。
「ははあん、お前はエカテリーナに恋をしてるな」
「恋をするとチンチンが大きくなるのか?」
「当たり前だろ、恋もしてないのにチンチンが大きくなったら病気だ。断種だ」
ミチューリン主義的フローリンスキー優生学が亜社会主義の上位概念として定着しているこの国の社会体制で、恋もしていないのにチンチンが大きくなる病気に掛かってると当局に知られたら断種どころかポアされてしまうだろう。
「そうか、俺はエカテリーナに恋をしてるんだな。うん、そうだ。そうとしか考えられないよ」
「そうか、よかった。エメーリャエンコが恋もしてないのにチンチンが大きくなる病気だったら、通報するところだった」
ゴルバチョフはまたウォッカの瓶に口を付ける。ラベルにはウォッカと書いているが正確にはメチルアルコールだ。
「この大きくなるチンチンはどうすればいいんだ?エカテリーナの匂いを嗅いで大きくなったチンチンは、自然に小さくなるのを待つしかないのか?」
ゴルバチョフは親指と人差し指を、深刻な顔を向けるモロゾフの前に差し出した。
「方法は二つある。一つは全く関係ないことを考えるんだ」
「関係ない事?」
「そうだ、例えばヤパンのツァーリの顔を思い浮かべろ。そうすればチンチンは一気に萎む。声に出すと効果倍増だ。チンチンが大きくなったらヤパンのツァーリと叫びながら顔を思い浮かべるんだ」
モロゾフはヤパンのツァーリの顔を思い浮かべる。丸メガネにチョビ髭を生やしたおっさんが浮かんで消えた。ヤパンのツァーリは奥の手として取っておこう。
「効果はありそうだけど、出来ればあの顔を思い浮かべたくないな。ミハイル、もう一つの方法を教えてくれ」
ゴルバチョフは人差し指をクイクイと動かしながら、いやらしい笑みを浮かべて言った。
「もう一つはセクスだ。エカテリーナとセクスすればいい」
「セクスってなんだ?」
「お前はセクスも知らないのか。セクスってのはな、大きくなったチンチンを女の中に入れる事だ。エカテリーナの中にお前の大きくなったチンチンを入れて動かせば、もの凄い快感が訪れるんだ。そして終わった後チンチンは萎む」
モロゾフはエカテリーナの中にチンチンを入れるのを想像し、チンチンが大きくなってきた。
「ミハイル、なんだかチンチンが大きくなってきたよ。どうしよう」
「ヤパンのツァーリか?エカテリーナか?」
考えるべくもない。
「エカテリーナだ!」
モロゾフはそう叫ぶと椅子から立ち上がった。するとゴルバチョフが「これを持っていけ」と紙袋を手渡してきた。モロゾフはそれを受け取るとエカテリーナを探しに向かった。モロゾフは股間を膨らませながら学校中を走り回りエカテリーナを探すが、なかなか見つからない。もうヤパンのツァーリで収めるかと諦めかけた時、中庭で級友とランチボックスを広げるエカテリーナが目に入った。モロゾフはゴルバチョフからもらった紙袋を左手に持って股間を隠す。そして、マジシャンがタネを仕込んでいる場所とは逆側に視線を向けるかのように、右手を振りながらエカテリーナに近づいていった。それに気付いたエカテリーナは眉を細めてモロゾフを睨む。
「なに、なんか用?」
股間に紙袋をあてがってやってくるモロゾフに向かってエカテリーナが言った。それを見てモロゾフのチンチンはますます反応する。険しい顔すら愛おしく感じる。
「やあ、エカテリーナ。元気かい?」
「は?、元気とか意味わかんないんだけど」
今日はエカテリーナの機嫌が悪いようだ。このままでは誘い出して二人きりになるのは難しい。モロゾフはゴルバチョフからもらった紙袋の中からトカレフを取り出してエカテリーナに向けた。エカテリーナの級友たちが一斉に叫び声を上げる。するとモロゾフはエカテリーナに向けた銃口をゆっくりとずらし、級友一人一人に向けていく。
「静かにしてくれないか、俺はエカテリーナに用があるんだ」
級友たちは震える手で口元を抑え、叫ぶのを止めた。モロゾフはエカテリーナに近づき、紙袋から神経ガスを染み込ませたガーゼを取り出すと、エカテリーナの口元にあてがった。エカテリーナは鼻からなんか変な汁を流して白目を剥き、モロゾフ向かって倒れ掛かってきた。エカテリーナの体から漂う干し草のような匂いが鼻腔をくすぐり、モロゾフのチンチンはさらに角度を上げた。
「モロゾフ、なにをやってるんだ!」
新校舎と旧校舎を繋がぐ二階渡り廊下から体育教師が竹刀を振り上げ叫んでいる。モロゾフが体育教師にトカレフを向けた瞬間「タタタタタタ」と乾いた音がして体育教師が渡り廊下から落ちていった。周りを見渡すと旧校舎の教室にカラシニコフを抱えたゴルバチョフがいた。ゴルバチョフはモロゾフと目が合うとサムアップする。
「早く始めろよ、公開セクスするんだろお。俺たちも暇じゃねえんだよ」
中庭に集まったやじ馬の一人が声を上げた。モロゾフはそいつにカラシニコフを向けるが、一足先にゴルバチョフが射殺する。二人の息はぴったりだ。
「最高のセクスを見せてやるよ」
誰かに向けて放った言葉ではない。モロゾフは自分を奮起するためにそう言ったのだ。モロゾフが労働者ズボンを引き下げると、ツァーリボンバの如きペニスが顔を出す。いや鬼頭は顔を出していない。すると中庭のやじ馬たちがそれを揶揄するような発言をした。「タタタタタタ」と言う音を期待してゴルバチョフを見やると、ゴルバチョフはカラシニコフを抱きながら笑っていた。モロゾフはまずゴルバチョフをトカレフで射殺してから、中庭でツァーリボンバを笑った奴らを射殺していった。もう面倒だら中庭にいる奴ら全員射殺した。エカテリーナの級友も射殺した。そして中庭にいるのはモロゾフと泡を吹いて死にかけているエカテリーナだけになった。モロゾフはエカテリーナのスカートをめくりあげ、パンツに手を掛けたところで、異変に気が付いた。エカテリーナが失禁しているのだ。ビシャビシャに濡れたパンツからはアンモニアの臭いが漂ってくる。おしっこを漏らしているなら汚いから脱がすのはやめておこう。モロゾフはエカテリーナのスカートをパンツが見えないように戻したあと考える。エカテリーナのパンツは下ろせないし、かといって口の中にチンチンを入れるのは汚らしい。どうやってチンチンを収めればいいのか。モロゾフはしばし考えた後、目を閉じた。
「ヤパンのツァーリ!、ヤパンのツァーリ!、ヤパンのツァーリ!」
丸メガネでチョビ髭のおっさんがモロゾフの頭に浮かんだ。
"何をしたって投げた灰皿は死ぬまで海老蔵を苦しめる"へのコメント 0件