白い雪のように

応募作品

瀧上ルーシー

小説

3,104文字

2018年7月合評会、テーマ「明日世界が確実に滅びるとして」参加作。

明日世界が終わる。

だというのに僕は親友と家で格闘ゲームをして遊んでいた。

もう夜のいい時間だった。

「おい、無限コンボやめろ」

「……」

僕が無限コンボをやめないと親友が肩に何度かパンチを浴びせてきた。しかたないのでやめてやった。

世界が終わるということは僕達も死ぬことになるのだが、実感が湧かなかった。僕達二人は童貞のまま生涯を終えるのだ。

先月、国がラジオ、テレビ、インターネット、町内会の放送……他にももっとあるのだろうが、色々な手段を講じ国民に明日の日付を告げて、世界が終わると知らせてきた。

理由はよく分かっていないが、全世界で雪が降って時間をかけて地球上の生き物たち死に絶えるらしい。日本は今真夏だった。北海道でも雪は降っていないだろう。本当にそんなもの降るのだろうか。

「明日の夕方には世界が終わるんだろう?」

昭人が画面上のキャラクターを操作しながら僕に聞いてきた。彼は身長が自称百八十センチ超えで僕よりだいぶ大きい。顔は男前というよりは愛嬌のある顔をしている。

「そうだよ」

「最後に何か大きなことやりてえなあ」

僕と対戦しながら彼が言う。明日世界が終わるとはいえ昭人は高校生なのに煙草を吸っている。それは僕だってストロングゼロダブルグレープフルーツの500ml缶を飲んでいるのだが。

「俺達の人生なんだったのかね? 女の身体も知らないで」

昭人がそんなことを言った。

「女の身体より素晴らしいものってあると思うよ」

僕がそう言うと彼に突っ込まれた。

「たとえば?」

「げ、ゲームとか……」

「だからお前は童貞なんだよ!」

自分も童貞の癖に昭人に言われてしまった。

「……そろそろ寝る?」

「そうだな、明日はやりたいことがあるし」

「やりたいことって何?」

「起きたら教えてやろう」

そして朝起きると、今日世界が終わるというのに親父はおそらくもう会社に出かけていて、母さんは友達とお食事会に行くと書き置きをして家にいなかった。僕達の高校は夏休みの期間中だというのもあって休みだった。

僕と昭人は朝っぱらから大好きなカップラーメンをずるずるとすすった。

朝食が終わると、昭人は携帯で色々な所に電話しているようだった。

また部屋に戻ると昭人は、服装も制服姿のままだし学校指定の鞄から拳銃を取り出して僕に投げて寄越した。床に落ちても重い音はしない。モデルガンだ。

「……どういうこと?」

「今日、ダンス部が高校の体育館でダンスパーティ開くだろ? それを妨害して俺達が本当のパーティを開くんだ」

「そんなことしてどうするの?」

「最後にパーっとやりたいだろ? それだけだよ」

ダンス部のパーティには、男は最低でもスーツ、女はドレスを持っていないと参加できなかった。

「風呂貸せよ。世界が終わる日に汗臭いのは嫌だよ」

「いいけど僕の後だよ」

「わかった」

二人で順番に風呂に入って、僕は昭人に下着以外の服まで貸してやった。正直サイズが合っていなかった。

そして朝食を食べたばかりだが、冷蔵庫の冷や飯を温めて卵と長ネギだけのチャーハンを作って二人で食べた。

ダンス部のダンスパーティは後一時間ほどで始まる。

僕と昭人は家を出た。

高校まではいつもチャリで通学していたので、この日もチャリで移動した。高校に行く前にスーパーに寄って酒と紙コップを買おうとしたのだが、チューハイやビールはもう売り切れていて焼酎すらも売り切れていた。流通が止まっているのかもしれない。それか買い占めだ。僕と昭人は代わりに日本酒の1・8Lパックをいくつか買った。幸い紙コップはまだ売れ残っていた。

高校まではチャリで三十分はかかる。

今日世界が終わるというのに、間違いなく太陽は僕たちを照らしていた。額に汗が浮き出てくる。

昭人が酷く感傷的なことを言った。

「世界が終わっても俺達親友だよな!」

「そうだね、きっと親友だよ」

小さな子供の頃から数えたらかれこれ十年以上の付き合いだった。

死ぬ恐怖より、童貞のまま死ぬ不甲斐なさより、もう昭人と遊べなくなるということが寂しくて悲しかった。

そして高校に着き、僕たちは駐輪場にチャリを止めた。

体育館の前には昭人が集めた不良や他にも友達が揃っていた。昭人は鞄からモデルガンを何丁も出して、仲間達に渡していく。

そして僕達は、体育館に全員で入った。

「ダンスを止めろ! はい終わり、やめろやめろ、踊るなバカヤロー、そんなことしたって無駄だ無駄。両手を頭の後ろに回せ!」

昭人はそう言ってダンスをしている男女達にモデルガンを向けた。

悲鳴を上げながら、派手なドレスを着た女達が体育館から外へ出される。男子は抵抗する者もいたが、昭人の友達のヤンキーが一発ツラに入れると、途端に大人しくなった。

それから皆で日本酒を飲んだ。

どうせこれで終わりなのだから、二日酔いになっても関係ないと僕は紙コップに三杯も飲んだ。

ドラム、ギターやベースを持った男、マイクを持った男が体育館の壇上に登っていった。

昭人が叫んだ。

「まずはブルーハーツ頼むぜ! その後でハイロウズ! 最後にクロマニヨンズ!」

「ヒロトとマーシーばかりじゃねえか……」

バンドマン達は文句を言いながらも演奏を始めた。

ボーカルが曲を歌っている途中に、マイクを昭人に投げて渡した。昭人もリズムも音程もへったくれもなく、大声で怒鳴っていた。それから、他の男子生徒達にマイクを奪われ奪い返し、彼はとても楽しそうにしていた。男の曲なのに、ときには女子も歌っていた。

僕も身体を無茶苦茶に動かして、音楽にノった。

酔っ払っているせいか、こんな人生の終わり方も悪くないように思えた。

僕は、昭人に酒臭いキスをした。

「気持ち悪りいな! 止めろホモヤロー!」

「ちょっとしたくなったんだよ」

「お前酔いすぎ……口直しに適当な女子とキスしてくらあ」

童貞だが昭人にはキスをさせてくれる女友達くらいはいるのだろうか。

昭人の言う通り目が回るくらい酔ってしまったので、体育館の隅に僕は座り込んだ。

目を瞑っていると、女子から声がかけられた。知っている声だ。

「さっきのキス見てたよ。本当に昭人くんと仲がいいんだね」

目を開けると前にいたのは思った通り、京子だった。こんな日にも制服を着ている。背中までの長い髪に短くないスカート、足には紺色のハイソックスを穿いている。素材が良ければ地味にしていた方が男受けがいいと彼女は狙ってそういう格好をしているのだろうか。京子は学校でいつも仲良くしていた女子だ。

「最後の日を彼氏と過ごさなくていいの?」

「彼氏なんていないよ。何度言わせる気?」

「なら屋上に行こうか。嫌じゃなかったら僕と世界の終わりを眺めよう」

京子はくすりと笑う。「いいよ」

校舎から行ける屋上のドアは施錠されていなかった。そこへ出ると、先客が何人もいた。僕と京子は転落防止のフェンスに身体をもたれかからせた。

「私達これからどこへいくのかな?」

「わからないよ」

「少しは女の子に安心させて」

僕は無言で京子にキスをした。本日二度目のキスだ。

「あはは。これじゃ昭人くんとも間接キスしたことになるね」

「そうだね」

次の瞬間、僕と京子は身体を抱きしめ合った。

そして夕焼けがくる前に空からはらはらと雪が降ってきた。

僕達の身体に当たった雪は冷たくなくて、だけれど身体を溶かしていく。痛みもなかった。屋上までもゆっくりと溶かしていった。

僕は京子に言う。

「ずっと好きでした」

「私はそうでもないよ」

そう僕の耳元に囁いて彼女は笑った。

2018年7月15日公開

© 2018 瀧上ルーシー

これはの応募作品です。
他の作品ともどもレビューお願いします。

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


3.0 (9件の評価)

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

---

"白い雪のように"へのコメント 10

  • 投稿者 | 2018-07-27 00:51

    終末的な部分(国の発表、品切れのスーパー)と日常的な部分(両親の行動、学校でのダンスパーティー)が混在し、リアルさを欠いた不思議な味わいの作品。決して悪くない。ただ雪の特性に関しては最初のほうでちゃんと説明してほしかった。はじめは「全世界で雪が降って時間をかけて地球上の生き物たち[が]死に絶えるらしい」とあり氷河期の到来を想像させるが、結末では雪に腐食性があることが描写される。設定が一貫していないような印象を受けた。

    京子みたいな都合のいい女の子といつも仲良くしていたのであれば、主人公はとっくの昔に童貞を卒業できていたのではないか? 世界最後の日に制服を着て登校するような彼女がいとも簡単に唇を許したのはあまりピンとこなかった。童貞を扱うのであれば、もう少し悲壮感があってもいいと思う。でも、最後のシーンは視覚的に美しい。

  • 投稿者 | 2018-07-28 11:42

    宇宙的な何かではなくて、雪で世界が滅びるという設定が騒がしくなくて好きです。僕も天文ショー的でない原因(急増殖するウィルスとか)にしたかったのですが難しかったです。流通がストップしているようなのに、親がいつもどおり出かけているというところは違和感がありましたが、夢の中にいるようなふわっとした印象が出ているとも言えます。テレビゲーム、童貞であることの自意識、友達どうしの会話、バンドが演奏する選曲、最後のヒロインとのラストシーンなど、高校生っぽさが出ていてよかったと思いました。

  • 投稿者 | 2018-07-29 00:14

    本当に終末の日が来るとしたら、この作品のように日常生活を繰り返すことしかできないだろうと思います。お父さんは出勤しお母さんはお友達と食事、高校生は学校へ行く。
    ラストのセリフがいいですね。京子ちゃんて名前は今どきの高校生らしくないけど、普通の可愛らしい子なんだろうなと思わされました。最後は一緒にいてもいいなと思っている子に告白されて、「そうでもない」んだけど、ちょっと幸せな気持ちになってるんだろうな。悲愴でない、割と幸せな死に方ができたところに、逆にリアリティを感じます。

    ところでダンスパーティー中の体育館に乱入したのはモデルガンを持った不良たちで、みんなを追い出した後で演奏と酒宴が始まっていますが、追い出された人々がまた戻ってきたのでしょうか? それとも不良たちだけで最後のパーティーを繰り広げたのでしょうか。とすると京子ちゃんも不良グループになってしまいます??

    • 投稿者 | 2018-07-29 10:43

      質問ありがとうございます。
      ダンスパーティをしていたのも、モデルガンを持って乱入した昭人と主人公達一味も、全校生徒の中のごく一部だと思って書きました。
      バンドで演奏していた人達も、京子も(主人公に気を使って)昭人が呼んだ仲間達です。
      作中に書くべきでした。

      著者
  • 投稿者 | 2018-07-29 13:19

    ラストのシーンの情景は美しく、また、最後のやり取りがとても好きでした。世界の滅亡が日常の延長線上にある、そんなことを思わせるのは、ストーリーもそうですが、どこか淡々とした筆致ゆえなのでしょう。ただ、人間関係や主人公の感情をうまく捉えられず、主人公と昭人の関係や京子との関係、および、彼らに対する感情がどういうものなのか、少しもやっとしたままでした。

  • 投稿者 | 2018-07-29 15:04

    高校生の日常の中にある最後にやりたい事。少しの悪ふざけと、好きな子への告白。
    思春期の多感な世代にある最後は、本当にこんな感じではないかなと思います。
    最後のキスと会話は高校生らしくて、ちょっとくすぐったい感じがしました。
     最後を告げるものが、悲惨なものではなくて、雪という美しい情景でなければならない意味がなんとなくですが感じられました。

  • 投稿者 | 2018-07-29 15:44

    最後の2人の会話がジュテーム・モワノンプリュ的な感じで洒落ていると思いました。なんというか高校生たちの等身大の最期、という感じで微笑ましかったです。

  • 投稿者 | 2018-07-31 01:34

    テーマが「明日世界が」であるにもかかわらず堂々と滅亡当日の話をする姿勢がむしろ清々しい。ゲイカップルの物語かと思いきや、普通にヘテロの話に移行し、すれ違う青春の甘酸っぱさを醸し出しているのが素敵。Fujikiさんの作品と同様、ここでも女性はなんの願望も叶えることなく、空虚なまま世界の終わりを迎える、というのが奇遇なのか破滅派作家の根底に流れるなにか共通した性癖によるものなのか、それはちょっとわかりませんな。

  • 編集者 | 2018-07-31 13:25

    最後の日常にライブを行うと言うのが良い。最後くらい好きな事をしたい感覚は多くの人に共通するのかも知れない。雪の描写は設定としては分かりづらい部分があるが、冬眠や絶滅を連想させる良い道具だとも思うのでもう少し掘り下げができるかも知れない。

  • 編集長 | 2018-07-31 15:25

    雪で滅びるという設定からは、世界がちょうど明日終わる切迫感が感じられなかった。
    まさかの「性描写なし」には著者の成長が見られる。
    京子が登場した瞬間から好意的なの点は童貞たちからの怒りを買うマイナスポイント。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る