大阪『デリュージョン』戦争

Z級大阪ストーリーズ「絶望的才能」(第1話)

Masahiro_Narita

小説

5,557文字

「妄想力」。阿呆な戦いの行方や如何に…………..

タイムカプセルのアイデアは、1939年のニューヨーク博が最初であるという。

 

家電メーカーのウエスティングハウス社によって、5000年後に掘り出すことを目的に、

地中深くに埋められた。

 

中には、歯ブラシなどの日用品35品目のほか、23,000ページのマイクロフィルムによるアメリカの音楽や芸術に関する資料、さらには機械装置の図面、子供たちの手紙などが収納されたという。

 

しかし、これは単なる未来へのメッセージではなかった。

 

そこには、恐らく5000年後では、地球規模で文明が崩壊しているだろうから、未来のアメリカ人がこれを引き上げることで、アメリカの文明力が再び復権し、世界に対して、強い支配力を及して欲しいという願いが込められていた。

 

ニューヨーク博が開かれた1939年とは、ドイツがポーランドに侵攻し、第2次世界大戦の火蓋が切られた年である。

 

つまり、タイムカプセルとは、5000年後を見越した世界制覇戦略の重要アイテムであった。

 

そして、日本においても、同じく、5000年後の遠い未来を見通して、1970年に開催されたEXPO’70 大阪万博でタイムカプセルが埋められた。

 

中には、1970年当時の文化をありのままの姿で未来に残そうと、自然科学分野742点、社会分野686点、芸術分野592点、その他78点、計2098点の品が収められている。

 

カプセルにはアルゴンガスが充填されており、大阪城本丸跡の地下13~15mのところに埋設された。

 

そして、西暦2106年。

 

日本では、死亡率が出生率を上回る逆転が2005年に生じて以来、1億2,000万人いた日本人口は、毎年0.95%ずつ減少していた。

2050年には、9,000万人に、2100年には、6,000万人になった。

やがて、3000年には、9454人になってしまい、3300年には、ついに1人になってしまうことが予想された。

 

つまり、5000年後どころか、1300年後には、日本人は逆ねずみ算的に、減少し、ついには絶滅してしまうという結末が待っているのだ。

 

西暦2106年の国勢調査の結果、時の政府は、日本の総人口が100年前の約半分の6700万人になっていることに愕然とした。

 

「なんぼなんでも、これは、さすがにイカンだろう!」

という話になって、政府は、抜本的な改革に乗り出した。

 

まず、本格的な「道州制」の導入である。

 

つまり、人口が逓減するペースに合わせるように、行政単位も全国を10のブロックに分割し、完全自治を認める法案が可決されたのである。

 

その結果、日本は「日本合衆国」となった。

 

1.北海道州

2.東北州

3.関東州

4.甲信越州

5.東海州

6.北陸州

7.関西州

8.中国州

9.四国州

10.九州・沖縄州

 

この地方分権は、外交と軍事を含めたすべての権限を、全て国家から各州に移譲して、州を国と対等な関係に押し上げるという徹底したものであった。

 

各州では、幕藩体制時代の大小300余藩に分かれていた頃以来の精神的支柱を、ちょうど、この10ブロックに日本が分割統治されていたころの戦国時代の大名配置に求めた。

そして、州民一致の結束を図ろうと、郷土愛を育む教育を重点的に実施した。

 

その結果、少子高齢化の社会においては、一人の子供に多くの教育者や指導者が群がり、過剰な地域ナショナリズムに心酔した若者が多く輩出されることとなった。

 

やがて、彼らが長じて、選挙権・被選挙権を持つようになると、各州はさらに独立色を強め、日本は事実上の内乱状態に突入した。

とはいえ、さすがに22世紀にもなると、戦争においても洗練されたものとなり、人々が血を流すことなく、巨大ロボットによるバトルロワイヤルで、どの州が日本の首都になるかを決めることで、各州知事たちは合意した。

 

あの「ロボットコンテスト」を州対向で、都市を舞台に繰り広げようという、とてつもなく、刺激的な一大エンターテイメント戦争で決着をつけることになった。

そうした提案が合意された背景には、折りしも、その当時、発明された新しいエネルギーの存在があった。

 

その名を『デリュージョン・パワー』という。

(日本語訳は『妄想力』である)

 

往年のSF映画『禁断の惑星』に登場する「潜在意識の怪物(イド)」の例を引くまでもなく、人々の意識や常念は、時として、どえらいエネルギーを生み出すことは、従来より知られていた。

このエネルギーは、人々の妄想や情念、想いや気力が続く限り、無限に供給されるという、まさに夢の永久機関の実現だった。

 

各州は、この『妄想力エネルギー』を元に、それぞれの郷土愛を注ぎ込み易いモチーフによる巨大ロボットやサイボーグの開発に心血を注いだ。

それらを戦略的かつ効率的に移動する巨大移動要塞まで作られた。

 

関西州では、大阪城の天守を統合司令本部を設置し、関が原の敗戦以来の悲願であった「大阪を日本の首都に!」すべく、戦略が練られた。

地政学的にも、日本の中心である関西が、巨大ロボットバトルの主戦場になることは、衆目の一致するところであったため、この地で迎え撃つすべきだという結論に達し、急遽、迎撃用の巨大ロボットを建造することとなった。

そこで関西州は、足元に埋められていた大阪万博のタイムカプセルに目を付け、開いた。

 

「5000年後に開く予定だったものを4900年も前倒しにして開くのは、なんぼなんでも、アカンのとちゃうやろか?」

との良識派の意見もあったが、

 

「日本人が絶滅した後の世界で、誰がカプセルを開けるんや?」

という、至極もっともな意見に押し切られる結果、あっさりと開けられてしまった。

 

関西州が、このタイムカプセルに目を向けたのは、大きな理由があった。

カプセルの中には、1970年当時、日本の明るい未来を信じる人々の熱い想い、つまり、「人類の進歩と調和」への想いが、超ハイパワーなエネルギーとして、保存されていたのだ。

このエネルギーを利用して、関西州では、エキスポ’70にちなんだ巨大ロボットを完成させた。

基本骨格は、こんな日がくるかと思って、そのまま保存してきた「太陽の塔」をベースに、当時の万博パビリオンの特徴的な構造を融合させ、見事が巨大万博ロボットが建造された。

 

「ダイダラザウルス」と命名された。

 

その完成を待ちかねたように、『首都決定バトル』の開戦日がやってきた。

戦いの火蓋は突然に切って落とされた。

突如、北海道州から巨大ミサイルが飛来したのだ。

 

北海道州は、五稜郭を移動ペンタゴン要塞に改良して、冬が到来する前に、一気に勝負をつけるつもりでいた。

そのため、「さっぽろテレビ塔」と「新五稜郭タワー」を長距離弾道ミサイルに改造して、大阪城めがけて射ち込んできたのだ。

 

大阪城司令部では、急遽、迎撃体制を取った。

迎撃ミサイルに改造した「神戸タワー」と「京都タワー」で敵の2基とも打ち落としたのだ。

このすばやい迎撃に、恐れの退いた北海道州は、すぐさま無条件降伏をした。

 

東北州は、青葉城総司令部の「伊達政宗」像を騎馬サイボーグに改造して、奥州街道を南下させ、大阪に向かおうとしていた。

しかし、ちょうど、東京の上野に差し掛かった時に、関東州が改造した「西郷隆盛像」のサイボーグに遭遇し、一騎打ちをして、相打ちとなってしまった。

これにより、意気消沈した東北州も、ただちに無条件降伏を掲げた。

 

一方、南方からの脅威も迫っていた。

九州・沖縄州は、鹿児島県坊津沖に沈む戦艦大和の残骸を改造して、不沈戦艦として関西に向かわせることを当初、目論んでいた。

が、実際の残骸は艦としての原型を留めていないため、諦めた。

そこで、沖縄海洋博の際の設計図をもう一度、引っ張り出して、「アクアポリス」を再建し、移動海上要塞として、大阪湾に侵入させよう

とした。

 

しかし、事前にその動きを察知した関西州では、移動要塞「関西空港」を出動させ、紀淡海峡で待ち伏せ、「アクアポリス」に特攻、これを轟沈させた。

 

切り札を失った九州・沖縄州は、一縷の望みを託して、「福岡タワー」をミサイルに改造して、関西に向かわせた。

が、そこに偶然に飛来した、関東州からの「横浜マリンタワー」ミサイルと鉢合わせになり、その2基は六甲山上空で爆発した。

この失敗で、九州・沖縄州も無条件降伏を受け入れた。

 

九州・沖縄州の失敗を静かに見守っていた四国州は、高知・桂浜の「坂本竜馬」像をサイボーグ改造して、同じく装甲列車に改造した

松山の「坊ちゃん列車」に乗せて、関西へと向かわせた。

 

しかし、瀬戸大橋を渡る際に、中国州の岡山「桃太郎像」サイボーグの自爆テロの待ち伏せを受け、橋もろとも、瀬戸内海の藻屑と消えた。

「坂本竜馬」サイボーグ亡き後、まともなロボットやサイボーグがなく、戦争継続を断念した。

 

その頃、甲信越州では、川中島の「上杉謙信像」と「武田信玄像」をサイボーグ化して、二大戦国武将による最強軍団の構築を目論んでいた。

しかし、その制御プログラムにバグがあり、突如、その2体のサイボーグが内輪もめを始めて、川中島で私闘の死闘を繰り返し始めた。

もはや、対外戦争どころではなくなった甲信越州も、あっさりと白旗を掲げた。

 

有力なロボットも、サイボーグも開発出来なかった北陸州は、東海州に共闘を持ちかけ、戦費調達に際して、経済援助を申し入れてきた。

 

一方、中国ブロックも岡山の「桃太郎像」亡きあと、これといったロボットの開発が行なえず、しかたなく、鳥取・境港の「ゲゲゲの鬼太郎像」ら妖怪80体を送り込もうとした。

が、地元の貴重な観光資源を失うことを惜しむ声と、子供たちの反対により、戦争よりも和平を道を選ぶことにした。

 

開戦以来、1週間経った時点で、残っているのは、関東州、東海・北陸連合軍、そして関西州の3強となった。

地の利もあり、東海州が東海道から関西に来襲した。

 

東海州の巨大ロボットは、愛知万博の名古屋市パビリオン「大地の塔」を改造した変形ロボが、「リニモ」を足に履いたものだった。

 

「ダイダラザウルス」は、これを関が原で迎え撃った。

岡本太郎譲りの「芸術は、爆発だ!」パワーの前では、存在感に乏しい「大地の塔」はひとたまりもなく、一撃で伊吹山山中まで吹っ飛ばされた。

 

しかし、これは東海州の陽動作戦だった。

 

実は、海上要塞に改造した「セントレア」を紀伊半島沖から回航させ、一気に大阪湾を封鎖する奇策に撃って出た。

すでに、関西州には「関西空港」はなく、易々と制圧出来る筈と踏んでいたのである。

しかし、関西州は、すでにそんなことはお見通しで、こんなこともあろうかと思い、すでに「神戸空港」を移動要塞に改造しており、それを「セントレア」に突撃させた。

 

大阪湾のど真ん中で、「セントレア」と「神戸空港」は、大衝突を起こし、互いに渦を巻き起こしながら、壮絶に轟沈した。

 

この失敗に、東海州の名古屋城総司令部は、震撼した。

 

「関西、おそるべし!」

 

ついに、東海州と北陸州も降伏し、残るは関東州との一騎打ちだけとなった。

 

一撃必殺を期して、関東州が改造した「東京タワー」ミサイルが飛来した。

これに対して、関西州は、「明石大橋」を改造した迎撃システムで迎え撃つ。

 

「東京タワー」は、その4倍ほどの大きさの「明石大橋」のワイヤーに、からめとられるように、明石沖の海に沈んでいった。

 

ついに関東州は、その命運を掛けて、最終兵器の「東京都庁舎」を改造した変形ロボを出動させた。

その足には、のぞみが履かされ、時速300kmで新大阪に来襲した。

 

これに対して、関西州は、大本営の「大阪城」を変形ロボに改造し、迎撃した。

 

「都庁舎」と「大阪城」の2大改造ロボットが、新大阪で激突し、淀川へとなだれ込んだ。

やがて、もつれて転がりながら、梅田へと及び、駅前ビルをなぎ倒し、壮絶な死闘を演じている。

「大阪城」の強烈なけりに、中ノ島まで吹っ飛ばされた「都庁舎」は、たまらず御堂筋を走って逃げようとした。

 

しかし、心斎橋に差し掛かった時に、追いつかれ、ふたたび、背中にドロップキックを見舞われた。

 

その勢いで、「都庁舎」は道頓堀のグリコの看板に激突した。

 

「都庁舎」を引き上げた「大阪城」は、その巨体を抱え上げ、大きく弧を描いて、ジャーマンスープレックスを見舞った。

 

道頓堀に頭を突っ込む形で、「都庁舎」は果てた。

 

それは、大阪が日本の首都になることが決定した瞬間でもあった。

 

 

 

2018年3月10日公開

作品集『Z級大阪ストーリーズ「絶望的才能」』第1話 (全2話)

© 2018 Masahiro_Narita

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