黒雨

応募作品

瀧上ルーシー

小説

4,000文字

※ エログロ注意 2018年2月合評会参加作品。

日本はゾンビに埋め尽くされていた。いや、もしかしたらぼくが住んでいる地域だけかもしれないし、世界中なのかもしれない。

キャンプ用のガスボンベを使って焚いた火でお湯を沸かして、もういくつも残っていないカップ麺を家の中で食べた。汁まで飲み干す。水のストックはまだそれなりにあって、二リットルのペットボトル三本は残っていた。

電気が止まって久しい。蛇口を捻ってももう水は出ない。今のところ住んでいる家は残っている。ライフラインが止まってインターネットもできないので、ひきこもりだったぼくにはそれが一番辛かった。

日本がゾンビだらけになる前から、元々冷蔵庫に入っていた食料ももうすぐ尽きる。日本がこういうふうになって最初の頃、ゾンビではない人間が近所のスーパーに押しかけたので、今からそこへ行っても保存食の一つも確保できない。

ぼくは最初の一日目、まだ両親もゾンビになっていなかったので、いつも通り部屋にひきこもっていた。急いでスーパーに行った人達は、黒い雨に打たれて、みんなゾンビになってしまった。今でも雨が降ればそれは黒いし、浴びればゾンビになってしまう。

ゾンビになった両親はぼくが殺した。工具箱に入っていた金槌で後ろから思いきり殴ると、どういう理屈なのか知らないが、顔や腕の肌が溶けてきていた両親はすぐに沈黙した。別に涙も出てこない。両親だって自分ではないという点については他人だ。自分の方が大切だった。

ぼくが住んでいるのは田舎の住宅街だ。自室で出来るだけ音を立てないようにして生活している。こんな田舎でも外に出るだけで複数体のゾンビがぼくを仲間にしようと襲ってくるのは目に見えていた。勇気を出して他の民家に入れば、人はもう少ないのだろうが、食料は手に入れられるかもしれなかった。でもぼくはたぶんそんなことをしない。最後にやることをやって、ぼくもゾンビになる。それで良かった。

雨に降られたら目的を達成する前にゾンビになってしまう。天気予報などもう見られるはずもないが、めちゃくちゃ晴れている日を狙って、ぼくは外へ出た。武器は金槌の他にお父さんが若い頃登山で使っていたピッケルが物置にあったのでそれを持ってきた。

今は夏だ。突然の雨に降られたらそこでゲームオーバー。それでもぼくは外へ出た。ゾンビ達は共食いもするので、そのせいか外へ出ても、中々奴らは出てこなかった。

住宅街を闊歩していると、男のゾンビが出てきた。腐臭がする。ゾンビになって長いのかもしれない。男には興味がない、ぼくは頭を狙ってピッケルを振った。頭蓋骨が割れる感触がした。別に怖くはなかった。ゾンビは大げさに地面に倒れると、そのまま動かなくなった。

外は暑かった。日差しがじりじりとぼくを焦がす。電気が生きているのなら、真夜中に目当てのゾンビを探すのでも良かったが、日本がこの状態では夜になれば何も見えなくなる。

それから、住宅街で何体ものゾンビを見つけた。どいつもこいつもぼくの好みの見た目をしていなかったので、すぐにピッケルで殴って動かなくしてやった。ひきこもりだって筋力トレーニングはやるしプロテインも飲んでいた。ネットで格闘関係の動画も見ていたので、冷静さを保っている分には一体で襲ってくるゾンビは怖くなかった。それどころかぼくは興奮していた。ゾンビとはいえ何体も殺しているのだ。狩りと言えば聞こえはいいが、ようするに虐殺だった。正当防衛かと聞かれればその通りなのだが。ゾンビ達が歩いているときから漏らす甲高い泣き声はどこか悲しそうだった。ぼくがそうなったら早く殺してほしい。

ぼくが探しているのは女のゾンビなのだが、中々お眼鏡にかなうような美形のゾンビには巡り会えなかった。

一件の民家の二階でぎしぎしとベッドがきしむ音が聞こえてきた。ぼくは開けっ放しの玄関からスニーカーのままで中に入って二階にのぼった。人間なのかなと期待していると、ゾンビが二体セックスをしていた。勃起したゾンビのペニスが同じゾンビの膣に飲み込まれていた。自分も近いうちセックスすることになるので、ぼくはゾンビと同レベルなのか……と少し落ち込みながら二体のゾンビを撲殺した。腐臭の他に精子の臭いもした。

なんだか白けてしまった。その家の台所で食べられそうな食料を持てるだけ持つと、ぼくは自分の家へと帰っていった。

まだ真昼間で暑いが、ぼくは取ってきた分厚いハムを食べたくて仕方がなかった。ちゃんとフライパンで焼いてハムステーキにして食べた。ハムとはいえ久しぶりに肉を食べたのでとても美味しかった。冷蔵庫が止まっていて、もう腐っているだろうから生の肉はどうせ食べられない。

その夜。ゾンビ達が家の窓ガラスをぶち破って、侵入してきた。

ぼくはまたピッケルで彼らの頭を殴って殺した。ゾンビの肉が腐っている臭いにはいつまで経っても慣れなかった。三体で囲むように来たら、ぼくなんてすぐにやられてしまうのに、脳がおかしなことになっているのか、ゾンビは一体ずつぼくへと向かってきた。何体も何体もぼくはゾンビを殺した。彼らは皆断末魔の甲高い悲鳴を上げていた。後から後から新しいゾンビが家の中に入ってくるので、ぼくは意を決して住み慣れた家から外へ飛び出した。そしてゾンビがいなそうな適当な家に入って、ベッドがある一室でうとうとしながら朝になるまで過ごした。目的を達成する前にゾンビにされるのはまっぴらだった。黒い雨の他にもゾンビに噛まれれば、ぼくも彼らの仲間入りだ。

朝、睡魔を抑えて住宅街を闊歩した。

何体かのゾンビを動かなくすると、ついにこいつだと思えるゾンビを発見した。セーラー服を着た女のゾンビだった。やはり腐臭はするがこれから彼女とセックスするのかと思うと気にならなかった。便宜上このゾンビのことをこれからぼくはA子ちゃんと呼ぶことにする。

まずピッケルを何度も振るって歯を全部折った。A子ちゃんの口の中は真っ赤だ。その後でジーンズの後ろポケットに入れていたビニールテープを使って噛まれないように口の周りをぐるぐる巻きにした。A子ちゃんはたまらずぼくを引っ掻こうとしてくる。これでゾンビ菌に感染してぼくもゾンビになってしまうのだったらおしまいだったが、雨の他は噛まれなければゾンビになるということはないようだった。

アスファルトの地面にA子ちゃんを押し倒す。慣れない手つきでセーラー服を脱がし、白いブラジャーも脱がすと、ゾンビには似合わずA子ちゃんの乳首はピンク色だった。それは白い左胸や脇腹の一部が腐り落ちていたが、ぼくは乳首にむしゃぶりついた。すぐ近くから腐臭がするが、思っていたよりあまり柔らかくない胸も、漫画のように勃起しない乳首も、ぼくのペニスを勃起させるに足るものだった。初めて触る肉粘土をぼくは何度もこね回した。どうせもう死んでいるのだし、ぼくはA子ちゃんの胸にかぶりつくと歯を噛みしめて、肉を引きちぎった。大量の血がぼくの顔に当たった。歯と顎に嫌な感触がした。血と腐臭でどうしようもなく臭かった。ぼくももうすぐゾンビになるのだし、咀嚼すると臭い肉を飲み込もうとした。なかなか口の中の肉が小さくならないで、ぼくは力強くそして長い時間ゾンビ肉を噛んだ。A子ちゃんの悲鳴はビニールテープに阻まれて聞こえてこない。彼女は脚をばたばたとばたつかせる。太すぎず細すぎず魅力的な脚だった。

そしてぼくはスカートも脱がさずA子ちゃんのパンティを下ろした。これでやっと童貞を卒業できる……ひきこもりだったとはいえ、極限の状況では生き物は子孫を残そうとするものだ。女性の性器がどうなっているのかいまいちわからないで、入り口にペニスを当てて擦っているだけでぼくは一度達してしまった。彼女の入り口にどろっとした液体がかかった。射精して小さくなったペニスを再び勃起させるまで、ぼくはA子ちゃんの身体の色々な場所に歯形をつけて、靴下を脱がした足の指をちゅぱちゅぱとしゃぶり、それに飽きると足の指を一本ずつ噛み千切ろうとした。だがかたくて噛み千切れなかった。A子ちゃんの左足の指は骨だけ残って、肉は外れてしまった。

そしてぼくは再び勃起した。今度は指での愛撫にチャレンジしてみる。なんとか穴に指を入れることができた。A子ちゃんの膣はどういうわけかびしょびしょだった。ぼくは勃起したペニスを彼女の中に入れた。指でしていたときからわかっていたが、ゾンビとはいえきほん死体なので、A子ちゃんの中は保冷剤のように冷たかった。

ぼくの下腹部がA子ちゃんに当たって、パンパンと音を立てる。A子ちゃんはゾンビだとは思えないほど首を左右に振った。まるでイヤイヤしているようだ。

可愛い……人生で感じたことがない愛情を感じた。ぼくはA子ちゃんを愛している。できることなら結婚してしまいたい。ビニールテープの上からだがぼくは彼女とキスをした。白目しかない目がぼくを睨んでいるようだった。

そのうちに別の体位も試してみたくなって、彼女をぼくの上に乗せたり、AVでしか知らないバックもしてみた。だがこれがいけなかった。A子ちゃんはハイハイするようにぼくから逃れようとする。パンツとズボンを完全には脱いでいなかったので、ぼくはすぐには追いかけられなかった。

A子ちゃんの中で射精したくてたまらなかった。ゾンビでも動物でも人間以外でもいい。ぼくはこの瞬間彼女を愛していた。不格好な姿でA子ちゃんを追いかける。青春を過ごしているみたいにとても楽しかった。

違うゾンビが現われた。しかも男のゾンビだ。ぼくはまだパンツもズボンもはけていない。ピッケルを掴んだと同時にぼくはゾンビに噛まれてしまった。

それとほぼ同時に黒い雨が空から降ってきた。地上を真っ黒に濡らす。

人間としてのぼくの人生はここで終わった。

2018年1月21日公開

© 2018 瀧上ルーシー

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"黒雨"へのコメント 6

  • 投稿者 | 2018-02-16 19:56

    さらさら読めて分かりやすい文章だ。説明しすぎるきらいはあるが、こういうニュートラルな文章が書けることは立派な文才だと思う。ゾンビものは近年あまりに多く出回っているので驚きに欠けるものの、《ゾンビ VS ひきこもり》にはそれなりにオリジナリティが感じられた。

    ただ、主人公以外みんなゾンビなので、本作には他者が存在しない。そのため今一つ盛り上がりに欠け、単調な印象を受けた。例えば、ゾンビだと思ってA子ちゃんに襲いかかったら彼女が実は唯一生き残った人間の少女だと分かり、主人公は彼女を凌辱するべきかどうか悩む、といった感じで葛藤や対立関係を導入することで、話に起伏をつけることができるのではないかと思う。

  • 投稿者 | 2018-02-21 20:45

    プロットをただひたすらなぞっただけ、というようにも受け取れる単調な描写は敢えて狙ったものなのでしょうか。もしこの作品の世界の異常性を際立たせるためにそういう意図があったとしても、個人的にはあまり成功していないのではないか、エロもホラーもあまり感じられなかった、というのが正直な感想です。

  • 投稿者 | 2018-02-21 21:15

    噛まれる&雨という定番のゾンビ感染源に対して、プレイヤー側が一方的にゾン肉を噛んでもそれではゾンビにはならないというご都合主義が清々しく、好感が持てる。ゾンビ同士のファックというものは今まで見たことも想像したこともないが、斬新な発想だと感じた。吾妻ひでおかあさりよしとおにコミカライズして欲しい。

  • 投稿者 | 2018-02-21 23:29

    ゾンビでもなんでもいいからとにかくセックスをしたいというわりには、外見や若さにこだわったり、世界が死滅しつつあるがとりあえずセックスだけはしておかねばというセコさいじましさが可笑しいのですが、細部描写が妙に具体的で実感溢れていて、本当にそうなるのかもしれないと思わされる力がありました。ホラーとエロというテーマに沿っています。腐肉に欲情する変態性がもっと強く出ているとより楽しめたと思います。

  • 編集長 | 2018-02-22 12:37

    ゾンビものの映画には二種類あり、ホラー路線とギャグ路線にわかれる。笑いと恐怖よ境界線は近く、注意深く書かないと「笑い」の方に倒れてしまう。
    本作では文体のこなれなさがどっちつかずの印象に帰結した。「A子ちゃんのゾンビ肉」がホラーなのか、ギャグなのか、作者はどちらだと考えていたのか、聞いてみたい。

  • 編集者 | 2018-02-22 13:40

    ゾンビもセックスするのは面白かった。確かに彼らは生前のことを無意識(?)に繰り返すとか言うそうだから。しかし怖いか怖くないかで言うとあまり怖くないし、エロいかエロくないかでいうと「情けない童貞」みたいな体験談の方に振れているので「お笑い扱い」になってしまっているのではないかと思った。もっとゾンビに取り囲まれている状況を生かせる方法があったかもしれない。

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