月のいちもつ

村崎羯諦

小説

1,043文字

月を観賞する二人の会話。ショートショート。

十月初旬の夜。縁側に二人の男女が仲睦まし気な様子で座りながら、煌々と輝く満月を観賞している。夜の静寂に混じり、庭から鈴虫の声が聞こえていた。

「知ってるかい?」

男が女に話しかける。

「あの丸く大きな月にも、人間で言うところのお尻があるんだ」
「そうなんだ」

女は男の肩にもたれかかりながら相槌を打った。

「月の表面にはたくさんのクレーターがあるだろ? そのうちの一番小さなクレーターのちょうど中心が穴になっていて、そこは月の体内につながってるんだ」
「全然知らなかった」
「そして、だ。月のお尻のすぐそばには月のいちもつがついている」

女は肩から頭を離し、大きく目を見開き男を見つめた。

「全然知らなかった。月って、女性っていうイメージがあったけど、実は男なのね」
「そうだ。神話とか民話では、月を女神のイメージでとらえることが多い。だけど、そんなものは科学的じゃないね。なんてったって、男性の性器がついているんだから。もしかしたら両性具有って可能性もあるけど、さすがにそれはないだろうし」

女性は男の話に楽しそうに耳を傾ける。

「もちろん、それがあることで不都合なことも起きる」
「不都合なことって何?」
「尿管結石さ。尿管があるせいで、人間と同じように、月も時々尿管結石に苦しめられる運命を背負ったんだ」

女は月へと視線を移し、憐れむような表情でじっと満月を見つめた。

「悲劇的ね」

男は女の言葉にその通りだねとうなづく。

「月の尿管から出てくる石は意外に人間のやつと変わらないんだ。大体、直径数ミリから数センチ程度ってところかな。だけど、食べてるものが違うからなのか、重力が違うからなのか、出てくる石はガラス玉のように透明なんだ」
「ねえ、その石は月から排出されたあとはどうなるの?」
「いい質問だね」

男は満足そうに笑った。

「月のいちもつから出た石はまっすぐ地球に向かうんだ。そして、地球の公転軌道上に浮かんだあと、地球の重力に引っ張られる。だけど、大気圏に突入すると同時に、燃え尽きちゃうんだ。つまり、流れ星になるのさ」
「へぇ、初めて知った」

女は宇宙の神秘に目を輝かせた。

「じゃあ、私が小学生の時に願い事を託した流れ星も、もしかしたら、月のいちもつから出た結石だったのかもしれないってこと?」
「そうかもしれない。でも、本当にそうだったら、逆にものすごく貴重だね。滅多に見られるものじゃないんだから」

男と女は嬉しそうに笑い合い、そして、そのまま口づけを交わした。

2017年12月29日公開

© 2017 村崎羯諦

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