日夏少年記 第9章 駆馬兄さん〈後編〉

少年記(第18話)

永夜 はまか

小説

755文字

 実の兄のような存在である「駆馬兄さん」の「死」を覚悟できない少年、日夏轟の元へガダルカナル島にいる駆馬兄さんから手紙が届く。
ー駆馬編、完結。

忘れもしない。1942年8月19日のことである。ガダルカナル島にいる駆馬兄さんから手紙が届いたのだ。内容はこうだった。

 “日夏 轟様へ
日夏君、元気にしてますか? 僕は何とか生きています。戦争はどうなるか解りませんが、正直、昔のことが思い出されて時々酷く寂しくなる自分がいます。もし、日本が戦争に勝って、僕が戦争から帰ったら君の小説の前書きと後書きを書きたいです。そうなる日を楽しみに。
                                        駆馬 疾斗より”

戦争の情報については一切書かれていなかった。検閲に備えての事だろう。

 しかし、僕には解ってしまった。戦況は大分まずい状況である事を、そして、こんな約束をしておいて、兄さんは多分もう帰ってこない事を。
 何故かって? 兄さんが書いた手紙の字があまりにも、あまりにも丁寧だったからだ。普段悪筆の兄さんにこんな字が書けるのかと驚くぐらいその手紙の字は綺麗だった。
 僕は手紙の字を見てとてもぞっとした。

そして、1942年9月5日、僕の嫌な予感は当たってしまうことになる。

僕は、母から電報で、兄さんの戦死広報(正式には死亡告知書)が届いたと聞かされた。
 僕は何も考えられなかった。不思議と涙も出なかった。只呆然と立ち尽くした。
 嘘だろ? いつも僕と遊んでくれた兄さんが? 僕に本を貸してくれた兄さんが?あんなにいつも笑っていた兄さんが? 死んだ?もう会えない? はあ? この前僕に手紙をくれたばかりなのに? しかも、あんなにかっこ良かった兄さんの死がたった1枚の薄っぺらい紙切れで知らされるのか? 嘘だろ? 嘘であってくれ……
 僕は、覚悟していたつもりで何一つ覚悟なんてできていなかったのだった。

2017年8月13日公開

作品集『少年記』第18話 (全20話)

© 2017 永夜 はまか

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