現実解像度数

応募作品

大和柚希

小説

2,482文字

合評会2017年08月に応募します。
解像は現実への改造を生み出すのか、その試論です。
因みに作品と関連しますが、私は高校中退の過去があります。

「パリでテロがあった」
   自宅のテレビは、映像と共に、ニュースを垂れ流す。その中では爆発が起き、人間が逃げ惑い、何かが叫びを上げている。だから何だ、と思いつつ、私は応接間に向かい、来客を待った。
   座り心地が悪い、背が低く作られた椅子が二対二で向かい合って、合計で四脚。その間に、硝子製のテーブルが一台、置かれている。他は取るに足りず、且つ、名も知れない画家の作品だとか、水も入っていない空瓶に差し込まれた生花だとかが、計画も無く、感覚だけを頼って、応接間に配置されていた。
   既に、出来る限りの破壊工作を、先方へと投げ掛ける用意は私に出来ている。当方の状況は最早、どう言った言論や感情を持って相手に向かっても、笑われて一蹴されるのみだと予期がされていた。ならば可能なまでに、何かを自分で納得が行くまで考え、実行する必要がある。そうしない事には、こちらの憤然がとても収拾を付けられない。

   間延びした呼鈴が鳴り響き、学校の担任教諭と教頭が玄関に現れた。私は応接間から一歩も出ない。代わりに母親が無駄なまでに多くの言葉を並べ、両者を迎え入れる。
「わざわざ、うちまでお越し下さって申し訳がありません、娘も大分に反省はしている様なのですが、何せ、」
   彼女の、切迫して、言い訳めいた挨拶を聞き、私は思う。
   娘、つまり自分は反省などを一切に行った覚えが無かった。人間の価値を判断する上で、結局は成績を見る先方こそが、反省を実践するべきだ、とも。有名だと言われる進学校は、生徒の精神を圧迫する戦場に成り得るとは聞いていたが、ここまで自分の人権を無視された扱いをされると、存在そのものに殺意が生まれて来る。
   消える、失われる、私の表情。対し、二人の来客は揃って笑顔で、自分の眼前へと座った。彼等の表情は、明らかに模造だ。教頭の左手だけが、書面の入った透明のファイルを持ち、担任は何も手にしていない。覚束ない足取りで彼等の後ろから付いて来る母親は、見るからにこれから展開される様子へと、怯え切っていた。
   そう、私の行動が始まるのだ。

「娘さんは、例え、今日からまた登校を始められたとしても、出席日数が足りません」
   担任が現状の説明を行う。続けて、教頭が言った。
「少なくとも、留年は決まっています。私共は、それでもあなたはうちの学校に通われたいのですか、と娘さんへ問いたい」
   母親は、隣に座る私へと、俯きながらも遠慮がちに視線を送った。何か言いなさい、恐らく彼女は、自分にそう言いたいのだろう。
   分かっている、先方は「留年」の文字を武器として、私を「中退」と言う結果へ追い込みたいのだと。それは電話で、近日、お宅へと直接に来訪します、と学校から告げられた時に、家族全員が勘付いていた事だった。
   これ以上に回りくどい行動を取る意向は、自分に無い。
「通いたくなど、ありませんね」
   私は爆撃を開始する。現在、これが学校との最後の対峙となるだろう、と言う分析はもう終えていた。だからこそ心身を呈して、自分は自身で「教育」と言う名の偶像を破壊するのだ。それは僅かでも構わない。
「当たり前でしょう。成績だけで生徒の扱いを変える場所や人間に、付いて行きたいものですか。少なくとも私は、大きな疑問を感じます」
   同じ教室で並び、勉学に励んでいた他の人々が、自分にとって限りも無く奇妙なものに思えた。大学へ合格しろとか、進学を叶えろとか言う前に、もっと施すべき思想が、学校には存在している筈だ。目の前に座る二者と、恐らくは母親も、その現実へと気が付いていない。若しくは、見て見ぬ振りを行っているのだろう。
「偉そうな事をお話しされるのは、大変に結構です。けれども、あなたは登校も出席も、全く出来ていませんよね」
   平然とそう話す教頭は来年、何処かの県立高校へ異動になるだろう。担任も同様の道を辿るかも知れない。この二人は、受け持った不登校生を中退へと追い込む、と言う罪悪を背負うからだ。
   けれども、当方にとってそれは、何事だとも捉えるべきでは無い。
   本当の被害を受けるのは誰なのか。中退と言う処遇によって、最も重責の大きい荷物を背負うのは私だ。教育と言う名の圧力は、慈悲を持たない。中退させたら後はさようなら、それで生徒の扱いを完了してしまう例は、探し出せば実際に、幾らでも発見されるのだから。

「私の人生でテロが起こる」
「私の存在がテロを起こす」

   だから自分は、言い放つ。現実を粉砕する為に。
   無力な人間が出来るのは、発言を投げる事のみだ。

「あなた達も、可哀想ですね」

   来客は中退を申請させる書面を残し、帰って行く。彼等に私の言葉が如何なる影響を与えたのかを、私は最後まで分からなかった。
   けれども自分は、本当の意味で、可哀想では無かったのだ。
   自分よりも未満だと確定した存在を、生まれて十七年にして発見してしまったが為に。

   テレビではニュースが、番組ごと切り替わっている。パリでテロがあった。らしいが、それは何処でも起こるものだ。

(完)

2017年8月8日公開

© 2017 大和柚希

これはの応募作品です。
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"現実解像度数"へのコメント 7

  • 投稿者 | 2017-08-13 09:05

    コメントありがとうございます。
    感覚の若いするどい鋭敏な感覚ですね。
    文章も切れのいい、透明な氷のつるぎのようでした。
    ほめてます。

    • 投稿者 | 2017-08-13 23:01

      此方こそコメントをありがとうございます!
      お褒めに与り、恐縮です。
      現実には存じ上げない方に、評価を頂いたのは初めてでした。

      著者
  • 投稿者 | 2017-08-16 21:33

    中高の時の自分のことを読んでいる気がしました。
    私も不登校でしたけど、その時の感情はテロとは重ならないと思いますが、自分の反抗が“テロ”だと言い切る部分から若さが滲み出してる気がします。

    • 投稿者 | 2017-08-18 19:56

      よたかさん、コメントをありがとうございます。
      不登校生にも色々な事情なり、思いがありますよね。

      私は中高ともに不登校(高校は結果的に中退ですが)で、正にテロ真っ只中の状況に居た気がします。
      自分は、いつも、何かに憎しみを抱き、闘っていたのですね。
      今でもよく当時を思い出しては、「破滅しちまえ!」と自棄になります。
      それを思って、書いてみました。

      著者
  • 投稿者 | 2017-08-19 14:50

    リード部分で作者自身のことへの言及があり「あざといな」と感じたが、結果的にその自伝的情報があったからこそ最後まで興味を持って読み進めることができた。なので、そのあざとさを評価したい。しかしテーマの扱い方は斬新さに欠ける。同じような境遇を描いた作品はインターネット上に溢れかえっているので、内容面や文体面をいかに工夫して他の類似作との差別化を図るかが大きな課題であろう。

    「「教育」と言う名の偶像を破壊するのだ」と宣言する割には、「大学へ合格しろとか、進学を叶えろとか言う前に、もっと施すべき思想が、学校には存在している筈だ」「中退と言う処遇によって、最も重責の大きい荷物を背負うのは私だ」などといった部分に、学校に対する期待や学校教育の有無がもたらす社会的影響を心配する様子が垣間見える。さらに「平然とそう話す教頭は来年、何処かの県立高校へ異動になるだろう。担任も同様の道を辿るかも知れない。この二人は、受け持った不登校生を中退へと追い込む、と言う罪悪を背負うからだ」という部分は不可解でしかない。中退を社会的にも倫理的にも悪いことであると捉えている時点で、この主人公は既存の学校教育観から抜け出せていないことが分かる。

    教師たちを「自分よりも未満」と見なす評価にはホールデン・コールフィールドみたいなみずみずしい青臭さを感じるが、教育に対する考え方は『ライ麦畑』よりも常識的だ。私が本作を読んで白けてしまったのは、このような中途半端さのためだと思う。

  • 投稿者 | 2017-08-19 18:04

    終始冷めた態度を取っている主人公が読み終わった後も印象的でした。最後の数行で綺麗に話が落ちているとも思います。攻撃的な手段で要求を通すことがテロと言うのなら、世界中のどこでも常に起きていることだと思いました。高校を中退した後の主人公が心配であると同時に、彼女から強さと危うさを感じました。

  • 投稿者 | 2017-08-19 23:08

    「私の人生でテロが起こる」
    「私の存在がテロを起こす」
    と言うセリフは単純に、良い。
    だが作中時点で描かれていることはあくまで決意や起点であって、主人公の「テロ」的行為そのものは描かれていない、と感じた。(パリで、はあるけれども……)
    個人の経験をどこまで取り入れるか色々意見はあると思うが、この字数ならもう少し濃く書ける部分もあるかもしれない。

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