消極的不良

日常(第12話)

瀧上ルーシー

小説

1,466文字

彼は軽度の中二病。

ぼくには友達がいない。まだ高校生なのだから普通にしていれば友達ができると言う人もいるけどいないものはいない。そしてぼくは友達なんていらない。ブックオフで買える古今東西の漫画本さえあれば、学校での隙間時間などどうにでもなった。古本には煙草の臭いが染みついていたり黄ばんでいることもあるけど、たいして気にならなかった。ぼくの憂鬱を吹き飛ばしてくれればいい。

漫画の中の主人公は大抵が何かと戦っていた。近年まったく何とも戦わない漫画も出現してきたが、物語とは大なり小なり戦いの話だ。戦記と言ってもいい。何度も読んだお気に入りの漫画を読みながらぼくはそんなことを考えていた。今は授業中で、漫画なんか読んでいるのだから当然、ぼくの成績は悪い。この高校だって名前さえ書ければ誰だって入れる田舎の不良校だった。ぼくは身体が大きいからなんとか今まで絡まれないで済んでいるけど、身体が小さなクラスメイトがヤンキー達に虐められているところをよく目にする。

漫画を机の中にしまうと、ノートにぼくは落書きした。この学校の制服と同じブレザーを着た男女の首が切れている絵だ。絵心なんてないので逆に狂気じみた拙い絵が描かれていく。

ぼくは死にたいと思ったことはない。だけれど、全員死ねばいいのにと思うことはよくある。もちろん自分以外の人間のことだ。ぼくはこの世の中にある漫画をすべて読み干してしまいたかった。フィクションでもいい、戦いが見たいのだ。有名な漫画で戦いは男の仕事なんて言っている作品があるが、ぼくは傍観者でいい。できることならぼくが死ぬまでずっと両親の庇護のもと生きていきたい。そんなことを考えていると午前中最後の授業が後十五分で終わりそうだったので、ぼくは早弁した。卵焼きも炒めたウィンナーも冷めているけど美味しかった。ごはんにはのり玉がかかっている。昼休みのうるさい教室にはいたくない。そうして授業が終わり、ぼくは開放されている屋上に出た。生暖かい春の風が吹いていた。気持ちの良い風を感じながら転落防止のフェンスを見ると自殺が連想されるぼくの頭は狂っているかもしれない。何気ない物だがそれは優しさの塊のようにも思える。

屋上には先客がいた。ベンチに座ってスマートフォンをいじっている髪がキンキンしている女子だった。ぼくがそんな如何にもな不良になっていないのは高校生になってもスマートフォンを買ってくれない親の教育のたまものなのかもしれない。ぼくはフェンスに近づいていった。

「突き落としてやろうか」

女の子の声を聞いて振り返ると、先ほどのキンキンした頭の女の子がぼくの後ろに立っていた。

「フェンスがあるから無理だろ」

「試してみる?」少女は妖艶に笑う。きっと少女であっても処女ではない。だから人をバカにしたような艶のある笑顔を作れるのだ。

「やってみろよ」わけもわからずぼくはそう言った。

彼女は、ぼくに後ろから抱きつくと持ち上げようとした。それは無理だ、ぼくの身長は百九十センチ近くあって、体重も八十キロ近いのだから。柔道部、バレーボール部、バスケットボール部、数々の部活に勧誘されたことがある。

少女はうんしょ……うんしょ……と言いながらぼくを持ち上げてフェンスの上からぼくの身体を押し出して地上に落下させようとしている。だけどぼくの身体はちびっこい少女の力ではびくともしない。

少女は、はあはあ……と息を荒くさせていた。

君って死にたいんでしょう?

そんなわけあるかチビ。

きっとこの少女がぼくの友達になることはない。

 

2017年4月6日公開

作品集『日常』最新話 (全12話)

© 2017 瀧上ルーシー

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