混夢

Juan.B

小説

4,371文字

※破滅派オリジナル作品。
※作者の夢などのヴィジョンに基づく。

~1~

 

ケイコは窓の外の隙間から見える黄色く汚くなった街並みの断片を覗きながら、密かに股間をまさぐっていた。先日ぶち込まれた場所がまた痛み出したのだ。この和室も周りはゴミ袋や横倒しになった本、ペットボトルの山で埋まり、ただリビングへ通る細い通り道だけ開いている。ゴトッと物音がして振り向くと、タンスやもはやゴミ置きとなってその用途をなしていない本棚の向うのリビングからだった。しなびた食卓の横にはシミだらけのシーツに包まれた介護ベッドが鎮座し、その上で老人がうわ言を喋っている。

 

「教育勅語が無くなったからだ、ガアアア、我々がアイデーチチをなくし」

「あ?」

「日本人と言う存在があったんだ、あったんだよ、私は嘘を言ってない、我々の精子や卵子は腐っていない……」

「また、また!誰かおじいちゃんに薬を飲ませてあげて!」

 

母の叫びに答え、ケイコは祖父の喉元を掴んでいくつかの錠剤を含ませ要領よく飲ませた。

 

「ああ日本……ングッ」

「いつも臭いのよ、おじいちゃん」

「仕方ないでしょ、オムツの配給もそうそう無いんだから」

 

その時、インターホンが鳴った。母親がビク付き、今までテレビの前の狭い空間に横たわり何の反応も示していなかった父親が団子虫のように丸まる。ねずみ色のジャージを着ているせいで本当に団子虫みたいだ。

 

「どうすんのよ、タケシ……」

「……」

 

母親の求めに、父親は何の反応も示さない。老人はその間も軽く呻いていた。ケイコは今度は時計を確かめた。午後三時だ。魔の時間帯は過ぎているはずだ。

 

「日本……」

「ケイコ、悪いけど出て行きなさい」

 

顔面蒼白となったケイコはブンブン首を振り、介護ベッドの下の空間にもぐりこもうとしたが、その下には既に弟のジュンイチが忍び込んでいた。しかもジュンイチは素っ裸で、よだれを垂らして泣いている。

 

「いやだ、いやだあ、やつらにはホモがいるんだ、ホモが……」

 

泣きはらすジュンイチの顔を見てケイコの顔色が若干戻った。

 

「ジュンイチ、そんなのいつもの事でしょ!そうだ、ジュンイチを出しても良いんじゃない、ママ?」

「いやだあああああ、ボクお尻にワインぶち込まれたくないよおおお!」

「今日はケイコが行きなさい!お姉ちゃんでしょ!学校があればもう中二なんだから!」

 

その時、再びインターホンが鳴らされ、さらにドアが頻繁に叩かれ始めた。外から大声がする。

 

「開けろーッ、オマンコしに来てやったぜー!ケイコーッ!」

「ウワーッヒャッヒャッヒャッヒャ」

「ほら、ケイコ、やっぱりあんたを呼んでるんだよ、あんたが行き……」

 

その時、メキメキッと悲惨な音がした後、ドアが開いてしまい、向うから二人の男が乗り込んできた。リビングの端にいたケイコからは、薄暗い玄関から黒い影が乗り込んでくるのが見え、既に自分の膣に何かを挿入されているように思えて、非常に妙な気分になるのだ。次第に様相が明らかになり、カービン銃を背負い制服化された黒シャツを着る褐色の男二名が、玄関からリビングまでの廊下に積もったゴミ袋や整理されていない衣服を蹴飛ばしながら現れた。

 

「相変わらずくせえ家だな!」

「ヒ、ヒ、ヒ!」

「おい、フアン、少しはその笑い止めろよ……ケイコ、今日は生理じゃないのか?ええッ?」

 

ケイコはブンブン首を振りながら無理に笑みを作った。

 

「いや、その、そう言うわけじゃないんだけど、心情的には生理」

「お前バカか?まあ良いや、よし、今日は肛門にニンジンぶち込むからな、全国の農家に感謝!じゃ、お母さん、ケイコお借りしますんで」

「どうぞどうぞ!ケイコもロベルトさんにお会いできて嬉しがってますよ!ケイコにはロベルトさんが一番!ほら、あなたもお礼して!ね!」

 

母親は夫に促したが、テレビの前で団子虫状態の父親はそのまま硬直している。彼の着ている小汚いねずみ色のジャージがもうそのままセメントになって人間を固めているようにさえ見えた。その時、老人が急に声を上げた。

 

「Teenage walk girls just オラの村には Welcome to 未来はWowWow……」

「おや、このジジイはラジオにでも接続してるのか?」

「アアアアアア!」

 

老人の歌に触発されたのかどうか分らないが、フアンと言う男は、何を思ったのかそのまま父親の方に小走りし、父親を蹴飛ばした。小柄な父親は窓側に撥ね飛んだが、ベランダにもうずたかくゴミ袋や空き缶などが詰まれているため、外に飛び出さず窓にヒビが入っただけで終わった。

 

「ごめんなさいロベルトさん、うちのタケオはちょっと昆虫になっちゃってて」

「いいよいいよ、人間そうなりたい時もあるよな、な、フアン」

「ジュンイチ」

「え?」

「ジュンイチ!」

 

フアンは今度は部屋の隅のテレビを引き倒しその裏を見た。倒されたテレビのケーブルに引っかかり、ラックの上においてあった濁った水しか入っていない水槽や招き猫がガチャガチャと床に落ちた。

 

「お前、あのガキがそんなとこにいる訳ねえだろ!今日はケイコで我慢しろ!」

「……」

 

ケイコはここで介護ベッドの下の幕をめくってジュンイチを見せれば自分は解放されるかも知れないと考えた。だがそうするには遅く既にロベルトに腕を掴まれていた。

 

「14歳の春!それは美しい思春の香り!男子の精通、女子の生理!オエッ!神様、もう少し可愛い性器を創造して下されば良かったのに」

「ハハハ」

「おう、フアン、機嫌が直ったか、嬉しいよ……ああ、奥さん、あとでポテチとサラダ油置いてってやるよ、じゃあな」

「はい、はい、ケイコをお願いします……ウフフ!」

 

~2~

 

フアンがカービン銃を街中で発砲し、辺りからみずぼらしい人々が散りだした。ロベルトはケイコを路地裏に押し倒した後、一度表に出て叫んだ。

 

「俺達今からセックス、あ違う、今日は肛門科学実験するから、お前ら家に帰ってJリーグでも見てろ!今日はゴジラ対モスラだぞ!」

 

その時、もうずっと昔の量販店で売られていたらしきボロ着を来た女性がうわ言を喋りながらフアンの足にすがり付いた。

 

「ねえ、街中でそう言うことして良いと思ってるの、ねえ、フアン君はそんな事する子じゃないでしょ、先生知ってるんだから、良い子だから、はい、着席」

 

某小学校でフアンを小二の時に担任していたマツコ先生だった。フアンはファ行の意味不明な声を出しながらマツコを銃底で殴り倒し、別の物陰に引きずって行ってしまった。

 

「チッ、あいつには見張りしてもらわないといけないんだけどな、まあ良いや」

 

配管と生ゴミと放置自転車だらけの路地裏で、ケイコは大の字になりながら、この間の事を思い出した。“やって見なければ分らない、俺科学実験”と称して、どこかで殺された別の男性から切り取られた陰茎を女性器に無理やり縫合されるところだったのだ。だがそのペニスが包茎だったため、フアンが先に包茎手術を行おうとして電気メスでかえってペニスを吹き飛ばしてしまい、幸い流会となったのだ。そんな事を思い出しているうちにも、ロベルトはケイコの服を剥ぎ、白い下着を放り投げて、隅に追いやった。

 

「この番組はJAの提供でお送りします……まあJAのJはとっくに滅んだがな」

 

ロベルトはそう言いながら懐からニンジンを取り出した。太そうなニンジンだ。自分の肛門にこれが入るだろうか。ケイコはその様子を想像して肛門がヒク付いた。思い返せば、ケイコは家族が嫌いだったし、学校が嫌いだったし、将来行うであろう就職活動とか社会参加も嫌いだったので、むしろ社会がこうなった事に感謝していた。肛門にニンジンがぶち込まれるくらい、何だ。昔の野菜は大体糞尿を基にした肥料で育ってたじゃないか。ちょっと順序が入れ替わるだけだ。そう思っていると、肛門にニンジンが入った。冷たい。夏の気配がした。頭上の空は黄色い。風景そのものが砂っぽい。今頃自宅ではジュンイチは祖父の陰茎をしゃぶらされているだろう。

 

「やってみなければ分らない、俺科学実験、どうだ?」

「夏を感じます」

「何だとテメエッ、俺を夏になると増えるキチガイと混同しやがったな!」

 

ロベルトはニンジンを引き抜くと、カービン銃の筒先を肛門に挿入した。

 

「ヒグッ」

「どこまで入るか、人体の奇跡に挑戦してみよう」

「うぐ、ぐうううううう」

 

その時、整備が悪かったせいでカービン銃が暴発した。下腹部から頭頂部へ向け銃弾が貫通し、ケイコは何が起きたのか分らないまま絶命した。ロベルトは少し悲しそうな顔をしたが、その後、通りに戻って口笛を吹きフアンを呼び戻した。が、そのフアンは元教師の生首をペニスに吸着させてズボンをズリ下げたままピョンピョン飛び跳ねてくる有様だった。

 

「お前なあ」

「ヘヘヘ」

「まあそう言う作業療法もあるとは思うけどな、TPOを弁えようぜ」

「ウン」

「今日は物分りがいいな、それより死体……まあいっか、その内、自然に帰るだろ」

 

フアンは胸で十字を切った。その時、フアンの股間にあった生首がズポッと取れた。

 

「あーあー、あれも死体、これも死体」

「モットモット死体~」

「何だ、お前も喋れるじゃないか」

「ヘヘヘ」

 

ロベルトはフアンの肩をポンポン叩いた。二人の暖かい笑みが、この萎びた日本の片隅の街角でいつまでも照らされていた。その後ろでは海の方から早くも数羽のカモメが飛来してケイコの脳漿を啄ばんでいた。オエッ!一羽のカモメが吐瀉した。脳は美味しくないらしい。このカモメはジョナサンと言って、良く周囲のカモメから某ファミレスの名前と関連して馬鹿にされていた。だが社会が変わってからファミレスなんか全部なくなったので馬鹿にされなくなりカモメのジョナサンもこの状況に感謝していた。ところでジョナサンには夢があった。それは高高度に於けるカモメの瞬間最高速度の更新で……。

 

(終)

 

 

 

2017年4月5日公開

© 2017 Juan.B

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