妖精女と人間男子

応募作品

瀧上ルーシー

小説

2,570文字

合評会2017年02月参加作。

東北大震災の際X県で原発事故があったため日本各地から集められた除染作業員達。私の一日は寮全体でスピーカーから流れる電子的な予鈴の音で眠りから目を覚まして始まる。

朝六時頃、除染作業の下請け会社の一つが所持する女子寮で目玉焼きや何枚食べても怒られない食パンの朝食を食べ、ヘルメットにマスク、白のツナギに更衣室で着替えると何台か迎えにくるバスの一台に揺られてだだっぴろい朝礼場所まで移動する。この周辺の区域を担当する除染作業員達全員が出席するから軽く千人のヘルメットにマスクの人達が立っている。もう朝礼が始まる六時五十分になっている。朝礼では偉い人が朝礼台に上って、昨日の除染作業が終わったときの放射線量と今朝の五時頃の放射線量を皆に伝えて、今日もがんばろうといった内容のことを喋ってすぐに終わる。私を含む三十名ほどのチームはまたバスに乗って担当する区域まで移動した。必要な機材は現場に置いてあり、ブルーシートがかけてある。私達が担当している区域は一般の家屋が立ち並ぶ住宅街だ。高圧洗浄機で家の壁や屋根を隅々まで洗い、今は誰も住んでいない家の庭に入り草を刈る。刈った草は放射線量や何かの数値を調べるのか麻袋に入れて持ち帰る。その麻袋が最終的に日本のどこへ運ばれるのか私達は知らない。それはそうとオナベが男のフリをするために胸を専用のシャツで潰すように私も背中に生えた羽を(案外丈夫な物だ)専用のシャツで潰して人間のふりをしている。私が住んでいる女子寮には五百名以上の女性の除染作業員が生活しているが、百名程度は妖精トンネルを通って妖精の国からやってきた本物の妖精達だった。妖精が手のひらサイズだなんて人間達の空想だ。妖精は樹木から生まれるしいろいろと人間とは違うが、背中の羽さえ隠してしまえば見た目の上では人間と見分けがつかない。妖精はそこに存在するだけで空気と水と土を浄化する。日本のピンチということで私達妖精はX県に駆けつけてきたのだ。本当なら被爆した土地を散歩するだけでも十分除染効果があるのだが、我々は人間達のふりをして事に当たっているので、妖精だとばれるわけにはいかない。別に絶対に人間に正体を明かしてはいけないという決まりはないが、虐められたりテレビ局に連れて行かれたら面倒なため、なるべくなら人間として通したい。

一日の食費千五百円を給料から天引きされているおかげで食べられる、わりと豪勢な弁当を食べて、午後も除染作業に当たった。そうして午後四時になってバスに揺られて女子寮に帰ってくる。シャワーを浴びて夕ご飯までの時間携帯ゲーム機で遊んでいた。妖精の国にそんな物はない。私達の故郷は科学技術で言ったら軽く中世なのだ。

夕食が終わり、これも妖精の国にはないのだが談話室で仲間達とテレビのバラエティを見ていると、近くの男子寮から男達がやってきた。レジ袋の中にはどっさりとビールやチューハイの缶が入っている。私もお酒は好きだ。数名の男女と一部妖精達とで酒盛りが始まった。良い感じに酔っ払ってくると、男を自分の部屋へと引っ張っていく女もいた。私も誘われることがあるが、そもそも妖精には性器がついていない。人間達と違ってフィジカルなセックスをするようにできていないのだ。女の妖精なので胸は出ているが、妖精の国の男達はそんな物に興味はない。もっと精神的な物に興味を抱く。

酔っ払ってきたので私は個室の自分の部屋に戻って朝まで眠った。

翌日も住宅街で除染作業をした。家が何千戸もある広い住宅街なので、家を洗っても洗ってもしばらく終わりそうになかった。

そうしてお昼になってブルーシートの上で仲間達と弁当を食べていると、弁当を不良じみた金髪の男に取られているまだ若い男の子の作業員の姿が目に入った。弁当は人数分しかない。不良じみた方には興味がなかったが、弁当を取り上げられている方の男の子には興味津々だった。故郷である妖精の国の男性アイドルユニットで一番人気の妖精にそっくりだったのだ。百六十センチくらいの小さな身長も眉にかかるくらいでカットされた前髪もとても可愛らしく感じた。私は妖精なのでもともとは吝嗇だし、まだ手をつけていない弁当を虐められていた男の子にあげた。「いりませんよ」と言うのだが、無理矢理渡して私はその場を立ち去った。

次の日もその男の子はヤンキーに弁当を取り上げられていた。

「今日は半分こずつ」と言って、私は弁当の半分を箸で蓋の上に載せ、弁当箱の方とまだ口をつけていない箸を男の子に渡した。

「先に食べていいよ。私と間接キスじゃ嫌でしょ」

「なんでそんなにしてくれるんですか? 悪いですよ」

「君のことが気になるからだよ」

「そんな理由で……でもありがとうございます。一食抜くとかなりしんどいんです」

そうして、男の子が弁当の半分を食べ終わって私も食べ終わる。私は彼を誘惑した。

「誰もいないところに行こうか」

「え、なんで」

「いいから」

そうしてぼろぼろの住宅街を歩いて、他の人が誰もいない場所で私は空に手を掲げた。そして妖精トンネルを召喚した。空間に黒い穴が空いて見える。

「なんですか、これは……」

「大丈夫だから」

手をつないで私達は妖精トンネルをくぐった。私にとっては慣れっこだが、気づくと妖精の国の原っぱに私と男の子は立っていた。

「セックスしようか」

「ぼぼぼぼぼ、僕童貞なんですけど」

「あ、大丈夫だよ、妖精のセックスだから」

「妖精? あなたは妖精なんですか」

「そうだよ、今度羽も見せてあげるね」

そうして私は男の子の頭を抱いた。そうして私のすべての人生の記憶を彼に送り、代りに彼のすべての人生の記憶を見せてもらった。すべての記憶を交換するのが妖精達のセックスなのだ。

気がつくと私は涙を流していた。男の子は「僕も妖精になりたいです」と言った。

「なれるよ。妖精の国で人間がしばらく暮らすと羽が生えてくるの。そうなったらもう立派な妖精だよ」

「でも除染作業に戻らないと……」

「そうだね。X県が安全な土地になったら、また君をここへ連れてくるよ。そしたら一緒に暮らそう」

「はい!」

私と彼は熱い抱擁を交わした。いずれ妖精になってもらうが、人間の彼氏ができたのはこれが初めてだった。

 

2017年1月26日公開

© 2017 瀧上ルーシー

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"妖精女と人間男子"へのコメント 7

  • 投稿者 | 2017-02-19 01:34

    除染作業員の日常に関する記述が説明的で面白くない。調べたことを元にそれらしき内容をただ書いただけという印象を受ける。妖精ならではのユニークな視点がほしい。特に第2段落は退屈に感じた。

    さらに、妖精が人間に扮して除染作業をする動機が説得力に欠ける。「日本のピンチということで私達妖精はX県に駆けつけてきた」とあるが、妖精はなぜ人間を助けようとするのだろうか? 例えば、「妖精が過去に人間から恩を受けた」「日本政府と妖精族のあいだで協定が交わされている」などの背景が与えられれば、読者はもっと物語に入り込みやすくなると思う。

    物語の展開については、起承転結の「起」だけで話が強制終了させられてしまったように思った。設定ばかりに字数が費やされ、出オチ感がある。字数が十分余っているのだから、いくらでも面白く話を進められたはずなのに残念だ。

    鋭い暴力描写や性描写が持ち味の著者だと考えていたので、今回の作品はことさらに物足りなく感じた。妖精女の側に「性器がついていない」のは仕方ないにしても、おちんちんくらい出せばいいのに。

  • 投稿者 | 2017-02-19 15:05

     まるで実際に除染作業員として働いていたかのような筆致は素晴らしいのですが、それはまるで人間の生活感であり、妖精という設定を生かしていないように感じました。そして、妖精が除染作業をしている理由が少し弱いかなとも思いました。この物語展開ならば、人間男子に興味があったという理由でも良いのではないでしょうか。
     また、妖精が突然性欲を爆発させたのも違和感を感じました。フィジカルなものではない、という設定は良いものの、その割に男の子がアイドルに似ていると言うことが理由であるのならば、「ただしイケメンに限る」という価値観がジャスティスということでしょうか。
     記憶を交換することが行為であるならば、彼の記憶に惹きつける何かがあり、それを発見していくラブコメのように展開していっても良いのかな、と思いました。セリフ回しがとても魅力的なので、そこを重点化したラブコメが読んでみたいと思いました。
     妖精トンネル、妖精の国、妖精の国の男性アイドルは、どんなものなのかぜひ書いて欲しかったです。

  • 投稿者 | 2017-02-22 03:25

    妖精の性、「記憶を交換する」と言う描写に惹かれるが、そこに至る部分が人間とあまり変わらないようで、ギャップを感じてしまった。「イケメンだから」と言う理由ならその理由なりに、「妖精にとってのイケメン」をもう少し深く書いてもいいのではないか。妖精の国に招かれる描写も、もう少し奥まで見てみたい。

  • 投稿者 | 2017-02-23 01:05

    • 投稿者 | 2017-02-23 15:13

      コメント送信に失敗しているため、再送しております。

      終始明るい雰囲気で語られているのが読後感の良さに繋がっています。

      ストーリー中にも、重苦しい出来事が起こるわけではないですし。

      一点、第一段落の改行が少なく、カタマリ感が押し寄せてくるので、もう少し改行を入れても良いかもしれません。
      あくまで、読み手個々の好みではありますが。

      そして、いの一番に投稿された点に、尊敬の念を禁じ得ません。遅筆なので。

  • 投稿者 | 2017-02-23 15:56

    妖精女と人間男子のお弁当のエピソートは愛しくて好きだった。淡い人間関係が良かった(=v=)ムフフ♪
    でも、妖精は放射能を無効化→最後のシーンで人間が妖精になれる方法が判明! ということは人間が放射能を無効化!
    それができないから、我々の世の中でいろいろな問題が起きているのであって、そこから逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!(エヴァ風に)
    星4.4個

  • 編集者 | 2017-02-23 18:06

    正統派のボーイミーツガール小説として評価したい。「記憶を交換する」という設定もファンタジー色を鮮やかに打ち出すことに成功していて良い。ストーリー展開に無理のある部分もなくはないが、全体的に軽妙な作品であることを思えば許容範囲内。

    難を言えば、設定を冒頭で「説明」(描写ではなく)してしまうパターンに少々変化がほしかった。たまになら気にならないのだが、過去作品を含め作者の小説はこの構成をもつ作品がよく目立つ印象。

    個人的には、ふだんの作者の作風よりもこの手の作品のほうが文体との親和性が高いように感じた。

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