テーブル

南沢修哉

小説

1,152文字

彼は退屈しのぎに影の話を聞いていた。

「テーブルの角に頭がめり込んだ男の話を知っているか?」と影はいつものように語りはじめた。「あるとき、そいつは自分の部屋でひどく酔っぱらっていた。で、何かにつまずいてすっ転んだ。あまりにひどく酔っていたので自分が何につまずいたのかさえわからなかった。運悪くそこにはテーブルの角があってね、転んだ拍子に眉間から後頭部にかけて一気につらぬかれた。どっしゃんがっしゃんてな具合さ。途端にあたりは血の海。それからどうなったと思う? もちろんそいつは死んださ。なにしろテーブルの角に頭がめり込んじまったんだから、生きているほうが不思議さ。それでもそいつは酒の瓶を離さなかったそうだよ。もちろん何の酒かなんて覚えていないし、それが本当に酒かどうかさえも覚えていない。なにしろテーブルが頭に突き刺さっておっ死んじまってんだからよ」

「ちょっと待てよ。おまえの話はおかしいぞ」

「おかしい? おかしけりゃ笑えよ。腹を抱えて転げまわればいいだろ。なにしろ人さまの頭にテーブルが突き刺さっておっ死んじまってんだから、そんな愉快な話を聞かされた日には誰だって大声で笑うぜ。街じゅうに聞こえるような大声でな。笑えて笑えて仕方がないだろ。あんたがおかしがるのも無理はない。おれだって笑いたいのを必死で堪えているんだ。なにしろ酔って転んでテーブルの角に突き刺さるなんて、こりゃもう傑作中の傑作だよ。なあ、そうだろ?」

「不可解な点が多すぎるってことさ。いいか、仮にそいつが酔って転んだにしても、テーブルの角に頭がめり込むことなんてあり得るのか? よく考えてみろよ。テーブルの角はふつう横を向いているものだろ。家具としてふつうに置いていたのならテーブルの角は横を向いているはずだ。そうだろ? つまりテーブルの角に頭をめり込ませるためには水平に転ばなくちゃいけない。いくら酔っていたとしてもそんな転び方をするやつはいないだろ。よしんばその男が水平に転んだとしよう。だからといってテーブルの角に頭がめり込むなんて、テーブルの角がナイフのように鋭いつくりにでもなっていないかぎりあり得ないことだ。そうだろ? もしそうでないなら、全速力で助走をつけて、テーブルの角めがけてダイブしたとしか考えられない。そうでもしなきゃテーブルの角に頭がめり込むなんて考えられないことだ。そもそもテーブルの角に頭がめり込むなんてあり得ないことだし、そんなやつが本当にいるなら是非ともお目通り願いたいね」

「だったら鏡を見ろよ」

影は手鏡を相手に向けた。

彼はよくわからないまま言われたとおりにそれを覗いてみた。よく見えないので手鏡から顔を離した。すると頭からテーブルを生やした男が、眼球の埋もれた顔でこっちをにらんでいた。

2017年1月10日公開

© 2017 南沢修哉

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