南沢修哉

小説

647文字

上河内の山小屋じみたホテルのロビーには薄切りにされた栗の木の丸太が二万枚以上、床に敷き詰められており、木が乾燥してひび割れないようにホテルの人が定期的に如雨露で水をまいて湿らせていた。

「そんなことをして黴が生えたりしないのかい?」Kはホテルの人に訊ねた。

「生えるよ」とホテルマンは答えた。「だからなんだよ。おまえには関係ないだろ。文句あるのか?」

「黴の生えたホテルには泊まりたくないぜ」

「黴が黴を嫌がるなよ」

重く険悪なムードが沈黙というかたちをとって二人のあいだに横たわった。

「おれはただの小説家だ」

「おまえが? 小説家? 笑わせんじゃねーよ。どう見ても黴じゃねーか。ここはおまえみたいな黴のくる場所じゃねーんだよ」

ホテルマンはカビキラーをKの顔にかけた。

なぜ自分が糸状菌の手先として冷遇されているのか知り得ないまま、彼はお尻半分でワニワニパニックと書かれた暖簾をかきわけて出ていった。外はしどろもどろで、臭い女がうろついていた。彼は家に帰るや否や子供向けのアニメを見ることになった。すなわちデクスターズ・ラボの再放送だった。天才少年デクスターが天才的な発明をするたびに、DDという名の姉に扮したロシアのスパイ人形によって彼の発明品が次々に破壊されてゆくという痛快ギャグ・アニメ。哀れな少年デクスターはDDが実の姉だという偽の記憶を脳に植えつけられているのだろう。ともするとKの脳殻も何者かのそれに積み替えられているのかもしれない。まあ、そんなことはどーでもいいのだけれど。

2017年1月10日公開

© 2017 南沢修哉

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

散文

"黴"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る