電波中年

日常(第10話)

瀧上ルーシー

小説

1,616文字

組織とは一体……?

俺はレオン。本名はもう忘れた。広さが三畳くらいの部屋で学校みたいなリノリウムの床に一畳の畳が敷かれていて、さらにその上に布団が敷かれている。部屋の隅には和式のトイレがある。この部屋には時計がないし、外に出られないので時刻を確認する術はないが、朝食を食べてからしばらく経ったから、きっと午前九時くらいだと思う。組織からの連絡が来るまで暇で暇で仕方がないので、昔娑婆に居た頃好きだった曲を歌いながら、頭を振っていた。それに飽きるとこれは運動代わりのようなものだが、こちらからは絶対に開けられない鉄の重い扉にイヤッホーと快感を表現しながらドロップキックを食らわせていた。それにも飽きると、俺は布団の上で目を瞑った。もう少しで眠れそうだというときに組織からの連絡は来た。レオン、扉を破壊しろ、組織のオペレーターのニキータは俺にそう命令した。扉を破壊してここを脱出して、お前は正式な組織の工作員になるんだ、なんてニキータは続けた。だったら爆薬でも人質でも俺に寄越せよ、と俺は返答した。レオンがそこから脱出できるかどうかは組織のテストのようなものなんだ、自分の力で脱出しろ、ニキータはそう言った。無理だよ無理無理。もう何年もこの状態じゃん、俺一人の力でここから脱出するのは不可能なんだよ。それがお前の限界かレオン。お袋さんをボコボコにするくらいしかお前には出来ないんだな。ニキータはちくちくと俺を責めた。元々は母親を殴ってしまったから、白衣を着た奴らにここまで連れて来られて、何年も俺は隔離室に入れられているのだ。母親を殴ったのだってニキータを通して組織から命令されたからだ。命令を遵守した俺が何年も世間から隔離されているのだから、組織も大概薄情だ。ニキータは俺が黙っても挑発してきた。やーい、マザコンレオン、やーい、弱虫レオン、自分で出てこれないならせいぜいお母さんのご機嫌を取ってそこを出してもらいな。母親はたとえ殴られても俺のことを見捨てなかった。今でも週に一度や二度は俺に会いにきてくれている。そのときに母親に俺は組織のことを話すのだが、ふうんそうなんだ、と彼女は気のない相槌を打つだけだった。俺にも意地があるので、母親に泣きついてここから出してもらおうとは考えていなかった。第一泣きついたところで母親は俺のことをなかなかここから出してくれないと思う。うるせえクソニキータ、要求ばかりで何も見返りをくれないじゃないか。俺だってここから出たいよ、出たいけど俺一人の力じゃ無理なんだよ、組織のバックアップをつけてくれよ。俺がそう言うとニキータは大きく笑った。あはは! レオンなんかのために動く奴なんて組織の中じゃ私くらいさ。私の声が聞えるだけでも感謝しな。それを聞いて腹が立ったが俺は妙に納得した。ここに入れられる前も俺は万引きと一円パチンコが趣味の高卒無職の三十路男だった。誰も俺のような奴に手を差し伸べてくれない。当たり前だ。友達も女もいない俺の相手をしてくれたのはニキータだけだった。だから俺は舞い上がって言われるままに母親を殴ってしまったのだ。俺はニキータに聞いた。お前には友達も恋人もいるのか。彼女は答えた。いるよ、いるに決まっているだろ。生まれてこの方友達らしい友達が出来たこともないし、恋人なんて一瞬足りともいたことがない男をお前はどう思う? 別にいいんじゃね? そういう奴って意外なほど世の中にいると思うぜ、あはは! ニキータは俺を慰めるようなことを言いながらも最後に笑いやがった。俺は段々とイライラしてきて彼女に、ここを出たら絶対に犯してやるからな! と捨て台詞を吐いて、便所で糞をした。それが終わる頃にはニキータは俺への回線を切ったようだった。俺は少しだけ眠った。

もう昼時なのか白衣を着た男が部屋に食事のトレイを持って入ってきた。俺は素早く立ち上がって助走もつけずに彼にドロップキックを食らわせた。

 

2016年7月8日公開

作品集『日常』第10話 (全12話)

© 2016 瀧上ルーシー

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