幸せのオムライス

日常(第7話)

瀧上ルーシー

小説

2,030文字

兄妹達の日常の食事風景。

家は典型的な貧乏子沢山だ。長男は俺で高校生、中学生の妹二人に、小学四年生と小学二年生の弟が二人いる。両親は二人とも中卒で非正規で働いていて土日ともなれば会社からシフトを入れられて滅多に休めない。二人の妹は漫画やグッズなどに金は殆ど使えないのだろうがネットで腐女子と呼ばれるオタク女で家事は洗濯物しかやってくれない。小学四年生の方の弟が六畳と四畳半と残りは風呂とトイレしかない我が家の掃除を毎日のようにやってくれる。こいつは真面目な性格をしているので、妹達のように嫌々ではなく率先して掃除をしてくれる。ゆくゆくは料理も教えて、俺の手伝いをさせたい。小学二年生の弟はまだ小さいので、もっぱら外で遊ばせている。ゲーム機が欲しいといつ言われるかわからないのでそれはそれは冷や冷やしている。

時刻は午前十一時三十分。横幅が一メートルもない小さな台所で、今日の兄妹達の昼食は何にしようか頭を悩ませていた。家には貧乏とは思えないほどの大型冷蔵庫があって、主に安いときの業務スーパーを狙って食料品を買いだめしている。だからある程度ならなんだって作れる。スマートフォンを二人で共有して使っている妹達に聞いてみた。

「メシ何食いたい」

「なんでもいいよ」

「マクドナルドのハンバーガー」

「そんなもの買えるか、ボケ」全員が満足する分を買うと相当な出費だ。

「冗談に決まってるでしょ、そんなこともわからないの、ボケ」

妹達は上の方が常識人で下の方はわざと常識から外れたことを言う面白ガールだった。

「僕カレーライスがいい」なんて下の弟が言うが、カレーライスは週に一回夕食のときと、余った物を翌日食べるだけだと決めている。ちょうど良い分量を作るのが難しいため余ったものを食べるとき家族の誰かしらが文句を言うからだ。

ご飯は残り物と今炊いた物で足りている。これを主食におかずで食べるか、丼のようなものを作るか、この二つのうちどちらかしかない。冷蔵庫を開けると一番上の段に卵が六パックも入っていた。プリンにしてもいいのだが、卵を視界に入れた瞬間とてもオムライスが食べたくなった。

「オムライスでいいか?」

そう聞くと、三男が口を開いた。「オムライス、やったあ!」彼のその一言で本日の昼食のメニューが決まった。

古いご飯を電子レンジで温めている最中に玉葱を微塵切りにして、ハムを短冊状に切り、シメジの石突きの部分を切り離し三角コーナーに捨てて、細かくばらしておく。そうして大きな中華鍋で玉葱の微塵切りを少々長めに炒めて、その後でシメジを投入して、最後にハムも投入する。さっと炒めて、ご飯より先にケチャップを投入する。ケチャップを先に入れればご飯がべたつかないしパラパラになりやすい。そうしてご飯を中華鍋に投入しておもいっきり炒めると味を調えて皿に盛った。これでだいたいケチャップライスの半分が出来た。同じ手順を繰り返してまたケチャップライスを作る。チャーハンや焼きめし類はどう頑張っても三人分以上一緒に作ると美味しく作れない。

そうしてちゃぶ台の前に座っている兄妹達に俺は言った。

「いっぺんに出来ないから出来た順に食べてくれ。ジャンケンで誰が先か決めておけよ」

別に俺は一番最後でいいし、昼食を作るくらい苦にならない。料理は好きだった。

先に五枚の皿に盛ったケチャップライスをアーモンド型にすると、ボウルに卵を二個溶いて、先ほどとは違う平たいフライパンでオムレツを作った。煙が出るくらいよく熱したフライパンに切ったバターを溶かして卵を投入する。手を決して止めずに菜箸で掻き回して、固まってきたらフライパンの奧に卵を集めていく、そうしてポン、ポン、とフライパンの柄を菜箸を持った右手で叩いて卵を引っ繰り返した。もう少しだけ火を入れて、ケチッャプライスの上にオムレツを載せ、ナイフで横に一本切れ込みを入れてライスの上にオムレツを広げる。とろりと半熟の卵があふれ出さないばかりに姿を現わしてケチャップライスを包み込んだ。これでオムライスの完成だった。

「誰が一番最初に食べるんだ?」と言いながら、たったの二、三本歩いて卵にかけるケチャップとオムライスを持って行く。小学二年生の三男が「僕、僕」と言った。きっと他の兄妹が順番を彼に譲ったのだ。

それから同じことを四度繰り返した。作っている最中、うまい、とか、お店で食べてるみたい、とか兄妹達が言っているのが耳に入ってきて、とても遣り甲斐を感じた。

最後に五皿目となる自分が食べるオムライスを持ってちゃぶ台の前に行くと、次男が全員分の食べ終わった皿とスプーンを持って流しまで持っていくところだった。我が家は引く人もいるぐらいみんな早飯だった。他の兄妹達は腹がいっぱいになって眠くなったのか、隣の四畳半の方の部屋で横になって目をつむっていた。

そんな光景を見て俺は心地の良い幸せを感じた。

ずっとこんな日々が続くことを願っている。

 

2016年6月15日公開

作品集『日常』第7話 (全12話)

© 2016 瀧上ルーシー

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


3.5 (2件の評価)

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

純文学

"幸せのオムライス"へのコメント 2

  • 投稿者 | 2016-09-19 01:31

    夜中に読むんではなかった。

    おなかすいた。

  • 投稿者 | 2016-09-19 02:17

    感想ありがとうございます。おなかがすいてしまったところ申し訳ないですが、そう言ってもらえると嬉しいです。書いた甲斐がありました。

    著者
コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る