くずかごから酒場まで(6)

くずかごから酒場まで(第6話)

アサミ・ラムジフスキー

小説

5,218文字

特集*住石彰 ……稀代の天才・住石彰に迫る特集連載。第6回は詩人でシンガーソングライターの本宮美都による回想。

矢印の片端、その落下地点P

本宮美都

 

彰さんと出会った日のことは今も忘れません。

よく晴れた梅雨の日でした。盆と暮れと正月が一緒にお手々を繋いでやってきて、お年玉と督促状と赤紙をまとめて突き付けてくれたのをよく覚えています。その登場はまさしく稲妻。電撃。ビリビリショック。パブロフの犬よろしく、それからは雷鳴が響くたびに彰さんの顔を思い出すようになってしまいました。私だけが夏の夜空に彰さん座を見つけることができます。私にとって夏の大三角とは彰さんのことです。

この人は尊敬に値する人だ、と私が確信するのに時間はいりませんでした。それまで私が仕事を共にしてきた先生方のように、会うなりいきなり「お嬢ちゃん、ええケツしとるやんけ」と臀部を鷲掴みにするようなことは、彰さんにかぎっては絶対にありませんでした。彰さんはそのような無礼で卑猥な方々とは一線を画しています。なぜって、女性性の象徴を尻にではなく乳房に見出す方だったからです。けっして美しい必要はありません。質量こそが愛の本質なんだというのが彰さんのお考えでした。彰さんは、スーパーマーケットの店頭でレタスの重さを確かめるかのように、私の両の乳房にそっと掌をそえると、「ニューヨークの株価が上がったそうだよ」とおっしゃいました。たちまち私の膝に水が溜まりはじめたのを覚えています。イルカがぴちゃんと飛び跳ねました。

私がなにより感激したのは、彰さんの口から出た都市がニューヨークだったからです。パリでもロンドンでもモスクワでもなくニューヨーク。カイロでもリオデジャネイロでもスリジャヤワルダナプラコッテでもなくニューヨーク。尻より乳房に興味を示す男性に、これほど相応しい都市があるでしょうか。私が海ならばまっぷたつに割れてモーセの一行を迎え入れていたところです。十といわず百でも千でも戒めを受け入れましょう。戒めを破った際にはいかなる罰をも受けましょう。

2011年4月29日公開

作品集『くずかごから酒場まで』第6話 (全11話)

くずかごから酒場まで

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© 2011 アサミ・ラムジフスキー

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