アッパー・ダウナー・イリュージョン・ドラッグ

日常(第5話)

瀧上ルーシー

小説

1,867文字

〝僕〟のドラッグ体験

僕はアパートの一室で煙草の先端から一センチ程葉を抜き取って、出来た隙間に御茶っ葉のような草を詰め込んだ。火をつけてゆっくりと吸い込み肺に溜めてから煙を吐き出す。気をつけることはやりすぎないことと、乳製品を摂取しないようにすることだけだ。すぐにハーブは効いてきた。性的に高ぶってきたので僕はパソコンでアダルト動画を流した。AV女優が一回あえぐ度に、ペニスの先っぽをひと舐めされるくらい感じた。僕は我慢できないでペニスを握って上下にしごいた。いつもよりたくさんビクビクと脈打ち僕は幻影のAV女優の口の中に射精した。すっきりして頭の中がとろんとしてくる。僕はさらにハーブを吸った。このハーブは法律上合法なのがおかしいくらいよく効くハーブで、幻覚剤としてもアッパー系としてもダウナー系としても作用するハーブだった。どの作用が出てくるかわからないし同時に効いてくる場合もある上級者用のハーブだった。

腹が空いた。キメてる状態で火を使うのは危ないが、僕はお湯を沸かしてカップ麺を三杯も平らげた。それでも足りないので冷凍チャーハンも食べる。単なるジャンクフードがこの世の物とは思えないほど美味に感じた。味に奥行きを感じるのだ。普通に食べてこの奥行きを感じられることは絶対にない。まだ食べられたが腹五分目ほどで食事は終わらせ、愛飲しているセブンスターとトリスウィスキーを飲んだ。キメながら採るアルコールもニコチンも感動的な旨さだった。さらに僕はハーブを吸った。何かしようと思うのだが、身体が言うことを聞かないで、僕は動けなくなってしまっていた。パソコンが乗っている机の前に座って、身体は動かないが頭の中だけは目まぐるしく活動していた。やばいんじゃないかやばいんじゃないかやばいんじゃないか、下手したら死ぬぞ、どうして動けない、動けよ、首も動かせないし瞬き以外目も閉じられないので見えている物はつけっぱなしのアダルトビデオだが、ビデオに映っている女優の身体がゾンビのようにところどころ溶けているように見えた。僕は口から食べた物を吐き出してしまった。キーボードの上にぼたぼたとゲロが落ちる。それでも身体は動かせないで、目に映る腐肉ばかりの世界と混濁とした思考だけを保っていた。僕はこのまま死ぬんじゃないか? せっかく本当の世界を見つけたのに、この腐肉で出来た汚物色の世界が本物の世界だろ、きっと、口の中が酸っぱい、これは腐肉の味だ、頭の中で鳴っているのか耳から聞こえているのかわからないが、ぴこーんぴこーんと信号音のような音が鳴り響いている。急に視界が真っ暗になった。きっと僕のまぶたが落ちたんだ。真っ暗な中、一本の光の筋が見えた。知らない女の声で、上へ、上へ、と言われた。光の筋を頼りに僕の意識は上昇していく。天上から神が僕を助けるために垂らした糸のように神々しく輝く光の筋だった。何時間光の筋を追っていただろう。もういいよ、と言われ、僕はまぶたを開いた。そこは蛍光灯の白い光に照らされたいつも通りの僕が住んでいるアパートだった。頭の中では依然、ぴこーんぴこーんと信号音が鳴っている。理由もないのに僕はとても可笑しかった。この世のすべてがハッピーで、自分が他の誰よりも掛け替えの無い人間のように思えた。アパートから追い出されるとも思わないで、僕は大声で大好きなロックサウンドの曲を歌った。歌いながら裸になって、ユニットバスで身体と頭を洗った。そうして濡れた身体のまま僕はワンルームアパートから外へ出た。全裸でだ。あひゃひゃひゃひゃひゃ! 笑いながらリズミカルにアパートの階段を下りる。夏の夜に裸足に感じる階段の冷たさが気持ちよかった。僕は裸でバンザイをして町の中を走り回った。擦れ違う他人達は悲鳴を上げたりぎょっとした目で僕を見たり、その反応がまた快感だった。近所の小学校の校門を乗り越え、敷地内に進入する。プールに飛び込んで、裸のまま水泳をした。楽しい、こんなに楽しいこと今までにあっただろうか、今だったら何だってできる気がした。プールから出て校庭に出ると、鉄棒で何回も逆上がりをして、砂場で裸の身体にいっぱい砂が付くのも気にしないでごろごろと転がった。まだ頭の中ではぴこーんぴこーんと警報機のような音が鳴っている。僕は町中を駆け回った。ぴこーんぴこーんと頭の中で鳴っているが、これは遮断機の警報とは違うと思い、踏切の遮断棒を走り高跳びのように飛び越えて、僕は線路の上に出た。

身体に衝撃を感じる。

僕は幸福な頭のまま空を飛んだ。

 

2016年5月19日公開

作品集『日常』第5話 (全12話)

© 2016 瀧上ルーシー

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